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第43話、セラ VS アスモディア


 白銀のペンダント――それは代々アルゲナム王家に受け継がれてきた。


 人間と魔人の戦争において名をはせた、白銀の勇者が身に付けていたものであり、天上人から授けられたとされる。

 アルゲナムの血と白銀のペンダント、その組み合わせが、白銀の鎧を召喚する鍵となる。ペンダントだけでは鎧は呼べず、またアルゲナムの血だけでも具現化しない。



 時間は少し戻り、宿の自分の部屋に戻るなり、セラの胸中は混沌としていた。


 勘違い、短慮――思い出しただけでも自分に腹が立った。

 恥かしくて、同時にとても悔しくて。

 彼を疑ってしまった。ここまで助けてくれてきた彼を。


 自己嫌悪。


 こんな気持ちになるのも、私が弱いからだ――セラは深い闇に沈む。

 民に、近衛に守られ、助けられ、慧太たち傭兵にも助けられた。自分ひとりではここまでたどり着けなかった。


 弱い自分。

 無力な自分。


 情けない――!


 ぐっと歯を噛み締める。固めた拳が震えた。

 こらえていたものを、抑えきれない。

 私は何様だ。人の事をどうこう言う前に自分を何とかしろ。


 それを思うと、自分が許せなかった。 


 私がもっと強ければ。もっと、強く……強く、なりたい……!


 そんな時だ。……唐突に声が聞こえたきたのは。


(『力』ならくれてやろう)


 女の声。それは白銀のペンダントの声。

 聖アルゲナムの陥落の日。初めて白銀の鎧を召喚し、まとった時に聞こえた声。


(お前が望むなら、白銀の力を解放しよう。強く願え。そして信じるのだ。勇者の血を)


声は告げる。


(だが使い方を誤るな。その力は、人々を守る力――)



 かくて白銀の鎧は一段階、その力を解放した。


 直後、アスモディアの襲撃があり、部屋に戻ったリアナが庇ってくれたくれたおかげで炎の魔法から難を逃れることができた。


 滞空するアスモディアに対し、白銀の鎧はセラに翼を与え、その魔力を跳ね上げた。

 圧倒的に有利を確信していただろうアスモディアの想定を裏切り、セラは進化した白銀の鎧をまとい、空中を舞う。


 銀魔槍アルガ・ソラスが、その穂先に風をまとう。突き出せば、風の渦が放たれ、アスモディアの身体を地面へと叩き落した。


 石畳が砕ける。強かに背中を打ちつけ呻く女魔人。通りにいた人々は空中を飛翔する者たちの戦いに巻き込まれまいと散っていた。


 セラにとっては好都合だ。ヘタに戦場をうろつかれては攻撃に巻き込んでしまう。狡猾な魔人なら、一般人を巻き込むことに何のためらいもないだろうから。


「これが……アルゲナムの白銀の勇者の血か……!」


 アスモディアが立ち上がる。赤槍を両手で構え、その金色の瞳がセラを見つめる。


「忌まわしき血ね。……やはりあなたの存在は消さねばならない!」

「消えるのはあなたのほうよ!」


 セラはアルガ・ソラスを両手で握る。騎兵槍型だった銀魔剣は長剣型へと変わる。武器の形態変化も、新たな力。


 石畳を蹴る。身体が軽い。たったひと加速なのに、セラはアスモディアへの距離を詰める。

 アスモディアは赤槍で反撃に出るも、セラの加速を見誤り、その突きはひどく緩慢に感じられた。セラは攻撃をかわし、懐に飛び込みながら、腰の回転を利用してアルガ・ソラスを叩き込み――


 竜を思わす翼で寸前を叩かれた。セラが態勢を崩したところで、アスモディアは逆に槍を構えなおし、その柄での殴打に切り替える。風を切り振り下ろされる槍――古来より、槍は突くだけに在らず、叩き伏せる武器でもある。


 だが寸でのところでセラは態勢を整えなおし、赤槍の打撃の間に剣を滑り込ませて防いだ。

 にらみ合う二人。青い瞳と、金色の瞳が互いに敵意を飛ばし火花を散らせる。


「この!」


 セラはアスモディアの赤槍を切り落としに掛かるが、魔金属製のスコルピオテイルは斬撃を弾く。器用に槍を操る女魔人に、セラは攻めあぐねる。


 アルガ・ソラスの刀身をいつもと同じ長さにすれば、あるいはアスモディアのスピードを上回っていただろう。だが、いまの彼女にそこまでの余裕はなかった。

 白銀の鎧が進化したとて、それを扱うセラにとってはこの形態は初めてなのだ。


「それなら……!」


 光よ、我が剣に宿り、鋼を立つ刃となれ! 


 アルガ・ソラスが光を放つ。金属をも溶断する光剣に、アスモディアは危機を察し飛び退いた。


「逃がさない!」

「ア・ブルート、サクリフィー――」


 アスモディアは後退しながら、言葉を紡ぐ。


「アン・ヴォ・カシアス……ディ・アーブ・ムート!」


次の瞬間、石畳の上に真紅の魔法陣が具現化。さらに羊頭の人型悪魔が呼び出される。背の高さ二メートル(ミータ)ほど。筋肉が逞しく発達したその体躯は、一見してパワー型であるのが見て取れる。


「くっ!」


 セラは銀魔剣で現れた羊頭の悪魔をひと薙ぎのもとに切り倒す。出血はない。光剣が瞬時に切り口を焼いたのだ。巨木のような身体も一刀両断だ。

 だが、その間にアスモディアはさらに距離を開けていた。


「ディス……ディ・アーブ!」


 走り抜けるように魔法陣が幾つも現れ、羊頭の悪魔を呼び出す。


 数で攻めようというのか――セラは舌打ちしたいのをこらえ、光の銀槍を五本、召喚する。

 一度に呼び出せるのがこの数だ。まず第一射で、羊悪魔の数を減らす!


 セラは怯まない。放たれた槍が羊悪魔の胴を穿うがつ。……三体、光の槍によって霧散消滅する。

 ドスドスとその巨体を揺らし羊頭の悪魔が次々にセラに迫った。巨腕を振り上げ、または振り回し襲いくる。


 風を斬る拳を、セラは素早く切り返して避け、アルガ・ソラスで斬りつける。まばゆい光を放つ銀魔剣は、たちどころに羊の悪魔の腕を落とし、足を裂いて、倒していく。


「速い……けど!」


 セラが羊頭の胴体を両断した瞬間、石畳を滑るような加速で突っ込んできたアスモディアの赤槍。スコルピオテイルがさながら牙を剥く蛇の如く迫った。


「ッ!?」


 首を狙った赤槍をアルガ・ソラスは切断できなかった。魔法同士の衝突時に生じる耳障りな軋み音と、小さなプラズマが爆ぜる。


 アスモディアは槍に魔力の層を付加(エンチャント)したのだ。羊頭は、その隙をつくるための囮……ではなかった。背後に回った羊頭の一体が拳を叩き込んでいたきたのだ。


 ――光の盾……!


 セラの脳裏を、そのイメージがよぎった。セラの十センチ(テグル)まで迫った拳が、光の壁に当たり弾かれる。


 だが、アスモディアが追い討ちとばかりに槍の柄頭を振り回し、セラの頭部を強襲した。戦乙女を連想させる白銀の兜が頭を守るが、衝撃までは殺しきれない。

 一対四。取り囲まれ、しかもセラは態勢を崩された。翼を使って上空へ逃げる? しかしその隙があるかどうか――


「トドメよッ!」


 アスモディアが身体を開いた。その豊かな胸が揺れ――何故、敵の目の前でわざわざ無防備な姿勢をとるのか? セラは戸惑う。


 だが次の瞬間、見上げる姿勢だったために『それ』が見えた。アスモディアの背部からせりあがった尻尾――その先のトゲを!


 頭、いや首に当たる!? ――態勢を崩した影響から、まだ身体が動けない!


 赤槍『スコルピオテイル』と、同じ名前を持つアスモディアの切り札――真のサソリの尻尾が白銀のヴァルキリーの首筋を襲った。

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