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第41話、捕縛された女魔人

 

 娼館に入ったことに対する、慧太けいたへの誤解は解けたようだった。ただ、何か思うところがあるのか、セラの表情は硬かった。……なにやら思いつめているようにも見えるのが少し気がかりだった。


 また何か余計なことを考えて、自分を追い詰めていければいいのだが。

 部屋へ戻る階段を登りつつ、セラはペコリと頭を下げた。


「先ほどは疑って本当にごめんなさい」

「気にしなくていいよ。オレは気にしていない」


 また後で――部屋の前でセラと別れ、慧太は自室へ向かう。扉をノックし、返事を待つことなく部屋へと入る。


「ユウラ、いま戻った――」


 部屋に入るなり、慧太は立ち尽くした。

 腕を組んで立つユウラ。入り口脇で短刀を手に威圧するリアナ。そしてシェイプシフターベッドには、その露なふとももを載せて座る赤毛の魔人アスモディアがいたのだ。


「セラ姫は?」


 ユウラが言えば、慧太は我に返る。


「あ、ああ。いま部屋に」

「リアナさん。セラ姫のもとへ。彼女をこちらに近づけないように」

「わかった」


 狐人の少女は頷くと、部屋を出て行った。慧太はわけもわからず肩をすくめた。


「あら、シェイプシフターちゃん、お久しぶり」


 アスモディアは妖艶な笑みを浮かべて、こちらに顔を向けた。

 なお、彼女は後ろ手に拘束されている状態だった。剣を交えた敵が同室にいるというのも驚きだが、この処置自体には特に疑問はわかなかった。

 慧太はユウラへと視線を向ける


「捕まえたのか?」

「ええ。僕を誘惑して、セラ姫の命を狙わせようとしたのでしょうが……このザマですよ」


 つん、とアスモディアはそっぽを向いた。いつぞやの水着アーマー的な露出の強めな衣装だ。肌色が多いが、今の慧太は誘惑されるより、別の感情のほうが強かった。


「お前には聞きたいことがある」


 淡々と、しかし目には殺意が宿る。


「ハイマト傭兵団……獣人の傭兵団は知っているか?」


 アジトを襲撃した魔人軍部隊。慧太たちは戦闘前に離脱したが、あの後どうなったのか、その結果をまるで知らない。


「ええ、知っているわ。あなたたちを追っていたのはわたくしの部隊だから」


 それがなに、と、アスモディアは挑むように見上げてくる。


「あの戦いがどうなったか、知りたい?」

「いや……」


 慧太は無感動に首を横に振った。


「お前がここにいるということは、二つに一つだ。親爺たちが無事に逃げたか、あるいは全滅したかのどちらかだ」

「聞かないの……?」

「お前が正直に話すとは思えない」

「死んだわよ。全員」


 アスモディアは、聞いてもないのに答えた。口もとには嫌味な笑みを浮かぶ。


「でも、わたくしも危うく死ぬところだったわ」


アスモディアは拗ねたようにそっぽを向いた。


「死んだフリしたクマがわたくしを狙っていた時は――」


 熊――ドラウト団長か。すでに沸点近くまで怒りを溜め込んでいた慧太の表情がピクリと動く。このまま拳を固めて、この口の減らない女魔人の顔面をぶん殴ってやりたい衝動に駆られる。


「慧太くん、挑発に乗ってはいけませんよ」


 ユウラは平坦な口調で言う。茶番や煽りをまともに受け取るな、とばかりに。


「そうだな。こいつが嘘をついていても、それを確かめる術は今何もないからな」


 ドラウト団長は死んだかもしれないし、そうでないのかもしれない。少なくともアスモディアの言葉しかない以上、鵜呑みにはできない。こちらを挑発するためなら、どんな嘘でもつく可能性はある。


「わたくしを殺さないのなら、貴方に提案があるのだけれど」

「この期に及んで取り引きか?」


 慧太は腕を組んで、女魔人を見下ろす。


「セラフィナ姫を引き渡してくれないかしら? わたくしの任務は彼女の捕縛か抹殺」

「話にならないな」

「最後まで聞きなさい」


 アスモディアは縛られたまま背筋を伸ばした。


「貴方は、シェイプシフター。魔人、魔物のたぐい……本来なら、こちらの側でしょう?」


 真っ直ぐに慧太を見つめるアスモディア。


「レリエンディールの七大貴族カペル家のアスモディアが告げる。わたくしのもとへ来なさい、シェイプシフター」


 何を言い出すかと思えば、慧太はユウラと顔を見合わせる。

 赤毛の女魔人は続けた。


「はっきり言うけれど、わたくしは、貴方のような有能なシェイプシフターが欲しい」


 アスモディアは背筋を伸ばし、胸を張った。後ろ手に拘束されながらも、その堂々たる姿勢は、どこか気品を感じさせた。その肌色成分の強さが、幾分か邪な感情を抱かせるに十分ではあるが……。


「シェイプシフターは本来、下等種。何故なら、あれは知能が低くて、ただ変身して相手を驚かせる程度しかできないから。せっかくの能力を活かす頭がないのよ」


「それで?」


 今度はスカウトか? 彼女の申し出に、慧太はいささか驚いたが表情には出さなかった。


「レリエンディールでの地位を保証するわ。というよりわたくしの個人副官になって欲しい」


 何とも直球な物言いだった。


「公私ともにわたくしに尽くすの。その代わり、わたくしもあなたに尽くしてあげるわ。欲しいのなら爵位だって用意できる。まずは男爵から……働き如何では伯爵くらいにはしてあげる」


 男爵とか伯爵とか、魔人の貴族にしてやろうとこの女は言っている。先ほどアスモディアは七大貴族とか言ったが、それが魔人の国でどういうものかわからない慧太には、この話もまた真に受けることができなかった。


「あんたが下等種というシェイプシフター風情に、随分と報酬をちらつかせるんだな」

「ただのシェイプシフターとは毛色が違うでしょう、貴方は」


 アスモディアは唇の端を吊り上げる。


「身体を分裂させることができる。スライムにも似た能力だけど、これは取り込んだ際に能力をも自分のものにしているのかしらね」


 慧太は黙っていた。なにぶん自分自身、他のシェイプシフターに出会ったことがないのだ。……最初に慧太を喰らったあいつ以外には。そのシェイプシフターにしても、スライムのような外見をしていたが果たして。


「本来、わたくしは男は嫌いなの」


 アスモディアは、拗ねたような顔になる。


「でもあなたは別よ。……わたくしのこの身体をメチャクチャにする名誉もあげるわ。変幻自在のあなたがどんな快楽を与えてくれるのか、考えただけでもゾクゾクしちゃう……」

「個人的に気に入られているのか、オレは」


 というか個人的な願望垂れ流しにしている気がしないでもない。どこか恍惚とした表情を浮かべてスイッチ入っているような女魔人を尻目に、慧太は慎重だった。


「その話を信じると思うのか?」


 仲間に引き入れるフリしての罠ではないと言い切れるのか。


「なら、今ここでわたくしの身体を貪る?」


 両足を開き――いわゆるM字だ――、ベッドにもたれかかる赤毛の美女魔人。


「こちらについてくれるなら……好きにしていいわよ」


 どこまでも試すつもりか、それとも本心なのか――慧太は首を横に振った。


「なあ、ユウラ。このままこいつとお喋りしていると、ドツボにはまってくような気がしてならないんだが?」

「信じる信じないで判断に迷っているうちは、すでに彼女の術中に嵌っているのかもしれませんね」

「心外ね。わたくしは本心なんだけど」


 アスモディアは脱力したようにその頭をベッドに預けた。


「どこまでしてあげれば、信じてもらえるの?」

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