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プロローグ、シェイプシフター


 空はどこまでも青かった。

 森の木々、その隙間から覗くは遥か上空を緩やかに流れる雲。さわやかに吹き抜ける風が枝葉を揺らし、肌をくすぐる。

どこの世界だろうと、空は空――それは異世界だろうと変わらない。


 羽土(はづち)慧太(けいた)は思った。


元の世界の年齢なら十七……いや、もう十八になったかもしれない。

短めの黒髪の少年は、黒いシャツに黒いズボン。腕を守る小手、腰にはベルトとポーチ――と、辺境の見習い剣士か、あるいは盗賊の類といった服装だ。


 まるでファンタジー世界の住人のような格好だが、これでも元の世界にいた頃は、普通に高校生で、野球部だった。

 この世界に来て、はや一年あまり。慧太の生活は激変した。要約すれば、高校生から『傭兵』にクラスチェンジしました、とさ。


 そして今……鬱蒼うっそうと木々や草が生い茂る森の中。十数もの魔人兵が、慧太けいたの目の前にいる。

 魔人兵――レリエンディールとかいう魔人の国の兵士だ。人間に敵対し、つい先日、聖アルゲナムという国に侵略を開始した。


『――で、何だって?』


 狼顔の魔人が小首をかしげ、魔人語で嫌味たっぷりな調子で言った。がっちりした上半身に反して、下半身はやや小さく見えてアンバランスな体型だ。 


 狼男の他に、豚顔(オークもどき)やリザードマン、猪顔、鳥顔、鬼顔と多彩な種族の魔人たちが控える。ざっと数えたところ、十五人か。いずれも鉄色の軽甲冑に、簡素な兜を被り、剣や槍、斧などで武装していた。


『もう一度言ってくれ。……オマエ、種族は?』

『シェイプシフター』


 慧太は一言。魔人の言葉で返された言葉に、魔人兵の半分以上が首をかしげ、同僚と顔を見合わせた。


『シェイプシフター?』

『おれは知ってるゾ。たしか、姿を変える魔物ダ』


 トカゲ顔の魔人兵が言えば、『魔物?』と豚顔の魔人兵が唸った。


『低能の化け物ダ。相手の姿に化けるだけで、特に強くもない雑魚野郎ダ』


 ゲヘヘッ、と一同が笑い声を上げた。馬鹿にされているのは一目瞭然だ。慧太は肩をすくめる。


 ――まあ、そうだよな。オレの世界でも、マイナーな化け物だった。


『あー、マネするだけのザコに用はねえ。さっさと消えな。見逃してやる』


 だが、と狼男は顔を近づけ、威圧する。


『そのニンゲンの(ツラ)は気にいらねぇ。元の姿に戻るか、別のヤツに顔を変えな。オレらは、その先から臭ってるニンゲンを追ってるんだ』


 人間の臭い――慧太は瞬時に顔をしかめた。狼の顔をしているからというわけではないが嗅覚はいいようだ。慧太が()として前に出たのも、その『人間』から連中の注意を逸らすためだった。


「……つまり、オレの努力は無駄だったということか」


 わざわざ前に出たのに。慧太は、ため息をついた。

 言語を切り替えたせいか、魔人兵たちは慧太の言葉が理解できなかった。狼魔人が牙を剥き出したその瞬間、目の前にいたのは人間ではなく、狼顔の魔人兵。


『え……!?』


 コイツは誰だ? さっきの人間は――目の前の同族、いやそれは自分自身だったが、それに気づく寸前、その狼魔人はニヤリと笑った。



 シェイプチェンジ――



 シェイプシフターとは、姿を変える化け物である。変幻自在。サイズはもちろん、年齢、性別、人間以外の生物でも身体の容量以内なら自由に変身できる。


 次の瞬間、片手斧の刃が、狼男の顔面を叩き割った。

 突然の出来事に魔人兵たちが呆気にとられた。

 狼男だったそれはすぐに、元の慧太の姿に戻る。左手に続き、それまで何もなかった右手にも片手斧を出す。



 チェンジ・ウェポン――


 

 サイズ問わず変身可能なシェイプシフターは、自由に身体の一部を切り離し、変化させることで、その分身をあらゆる武器へと変えることができるのだ。


 慧太は近くの豚顔魔人(オークもどき)に切りかかる。首もとを斜めに裂いた一撃に、魔人は鮮血を撒き散らし、膝をつく。


『ヤロウ!』


 ようやく魔人兵らは、目の前のシェイプシフターを『敵』と認識した。武器を振り上げるが、それ以上の速さで慧太は踏み込み、両手の片手斧をそれぞれ振るう。

 鳥顔魔人の首が飛び、リザードマンの顔面を斧の刃が突き刺さる。

 その突き刺さった瞬間、慧太の動きが止まった。オークもどきが駆け寄ると、斧を横薙ぎに払い、慧太を襲う。

 とっさに庇った右腕に斧の刃が刺さる。オークもどきはニヤリとしたが、刃は腕を半分ほど切ったところで止まってしまう。


「それで精一杯か……?」


 慧太は軽口を叩く。

 シェイプシフターの体は、変幻自在に変化する。内臓もなければ骨もない。あるのは黒くドロドロした塊。故に刺そうが引き裂こうが、致命傷はおろか怪我を負うこともない物理攻撃無効の身体。

 リザードマンの顔面に刺さった片手斧から手を離し、慧太はオークもどきの兜に手を当てる。


 ――パイル、バンカー……!


 その瞬間、手のひらから(もり)のような一撃が飛び出し、その頭に打ち抜いた。

 慧太はさらに次の敵兵を倒していく。魔人兵らは数で押すべく、取り囲もうと距離を詰める。

 だが突然、彼らの足が唐突に止まった。

 まるで地面が粘り気を発したように足がくっついて動かなくなったのだ。


「悪いな、その影はオレの間合いだ……!」



 シャドウボディ――



 影に潜ませた自分の身体の一部、いや影に化けたそれは、相手の足元から忍び寄り、敵を拘束ないし攻撃する。不意を突かれた敵は、実質、回避不可能!

 拘束した足元から漆黒の槍がスパイク罠の如く飛び出した。足を封じられた魔人兵たちは文字どおり串刺しになる。


 戦いは終わった。十五人いた魔人兵は、みな地面に倒れ、息絶えている。


「化けるしか能がないって? そんな雑魚にやられるお前らは何なんだ?」


 慧太はそれらを淡々と見回した後、きびすを返す。斧で切られた腕は傷もなければ、すでに元通りである。

 そばの茂みの奥へと足を踏み入れ、口を開く。


「王子、終わりましたよ」

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