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二十三話 イチャイチャ

 祭壇を出ると、空はすっかり橙色に染まったいた。ソカは新たな力を手にした。俺と同じ精霊魔法を。


「……今日はうちに泊まっていきますか? 狭いですけど」


 タキからの提案。それにソカと顔を見合わせるが、なんとなく気まずくなり不意に目を逸らしてしまう。


 ソカが得た精霊魔法。その理由は、俺と共に歩む為だった。その事が露呈したことにより俺はソカに対して敏感になっていた。それは彼女も同じなのだろう。


 もちろんそんなことは分かっていた。タウーレンをソカと出た時に彼女の気持ちは知っている。だが、それをあんなにも強く、改めて思い知らされると、なんとなく気恥ずかしくなる。


 そして、今の俺は敏感になっていると共に、ソカを見るたびに自分の中から溢れようとする気持ちを抑えるのに必死だった。


 少し切れ目の瞳。揺れる赤髪。丸みを帯びたその肩には、これまでどれ程の思いがのし掛かっていたことか。それを彼女は誰に見せることもせずに生きていた。


 それを思うと、胸が締め付けられる。


「案内します……」


 何も言わなかったが、タキはそう言って前を歩いた。それに追従する俺と二歩後ろのソカ。



「――ここです」


 ついたのは、一つの家。その扉を開けるタキ。


「中で待っていてください。一応、あなた方を泊める事を報告してきますから」


「……ああ」


 そう答えて中に入る。ソカも入ると、パタンと扉が閉まった。


 残された俺とソカ。彼女とこうして二人きりになるのは、とても久々のことに思えた。いや、状況としてはこれまで幾度となくあったのだが、こんな気持ちのまま二人きりになることはなかったのだ。


 ……いかんいかん。気持ちを切り替えようと息を吐いた。



――だが。



「……テプト」


 不意に後ろから服を掴まれたソカの指が、その湿り気を帯びた声が、切り替えようとした心に歯止めをかける。


 ゆっくり振り返ると、そこには頬を上気させたソカがいた。


 先程、祭壇内ではタキによって『おあずけ』を喰らった。だが、その気持ちがおさまることはなく、おあずけを喰らったが故に、尚それはとめどなく溢れる。


 どうやら……ソカも同じだったらしい。


「……ソカ」


 名前を呼びあっただけなのに、それはあり得ないほどに伝わり合う。その事がとても嬉しかった。


 彼女が、何を望んでいるのか正確に分かってしまう。その望みが、俺にしか叶えられないことを容易に理解してしまう。


 今や邪魔されることはなく、俺はソカが掴んだ指に触れる。その瞬間、静電気が走ったような衝撃に駆られた。


 その電気は脳髄を走り、とある回路を構成させていく。その回路が俺へと命令する。その命令のまま、俺はソカの指を、手を、肩を少し乱暴に掴んだ。しかし、それに彼女が拒否感を示すことはない。


 むしろ、その指は俺の後ろへと回され、何かを(・・・)懇願するように、強く服を掻き抱いた。


 ……限界だった。


 だが、唯一残っている俺の良心が、告げる。


 駄目だ、と。


 そんな心と、ソカを愛しく思う気持ちがない混ざり、結果、俺はソカの両手首を掴んで、勢いのままに彼女を近くの壁に押し付けた。


 ビクリと、その強引さにソカが震えた。


 そうやって、彼女に拒絶させようとしたのだ。強引さに恐怖させようとしたのだ。


――だが。


「……何でそんなに怖がるの」


 彼女が吐息混じりに呟いた言葉に、俺はハッとする。


 そして彼女は見透かしていたのだと気づいた。


「……後戻り……出来ないような気がするんだ」


 正直に告げた。


「後戻り?」

「ああ。……これ以上は……俺が止められない。もしも、これ以上踏み込めば、俺が俺で居られなくなる気がする。それが、怖い」


 その恐怖が何なのか、実は俺にも説明できない。


「止める必要なんてない。私は、テプトと共にいることを欲したの。それはなにも、幸せなことだけじゃない。恐怖も痛みも不幸も……死さえも、あなたと共にあることを欲した。だから、ついてきたのよ」


「だが――」


「テプト」


 俺の名を呼んだソカは、もどかしそうに表情を歪める。


「あなたは臆病者だわ。その手には、何でも出来てしまう力があるくせに、それを使おうとしない。私が望んでいることすら、躊躇してしまう」

「よく考えてから結論は出すべきだ。そうじゃないと、後から後悔をする」

「後悔? 一体どれだけ考え尽くせばその結論は出るの? 私は、その後悔さえも(・・・・・・・)あなたと共にあると言ってるのに」

「……ソカ」

「テプト。あなたは信じるべきよ。今この瞬間の気持ちにだけは、嘘がないことを」


 そして、ソカはうつむいた。そこからポロリと言葉が落ちて床に転がった。


「――不安にさせないでよ」


 それを聞いた瞬間、俺はソカの気持ちを真に理解した。彼女は望んでいたわけではなく、不安になっていたのだと。


 それに今更ながらに気付き、唇を噛み締める。


 そして、うつむいた彼女の顔に、そっと顔を近づけていく。


「悪かった」


 謝罪を告げて、反応を見る。彼女はしばらくうつむいたままだったが、やがて「ばか」とだけ吐き捨て、ゆっくりと顔を上げる。


 その瞳は濡れていた。そして、俺はそっと、祭壇で出来なかった口付けをする。


 それは、あまりにも呆気なく、心にあった壁を決壊させた。その軽いキスは、ただの始まりに過ぎない。


 込み上がる思いの奔流は留まることを知らず、行き場をうしなったそれは、ソカへと流れ出す。ソカがそれに狼狽えることはなく、そのまま受け入れた。


 やがて、彼女の手首を掴んでいた手は溶けてしまいそうな熱に脱力し、それでも何かを求めて彼女の背後へと回される。ソカも自由になった手で、俺の肩を這いずり、やがて背中へと回された。


「んっ……」


 呼吸すら許されないキスにソカが声を漏らす。だが、それには歓びの色が着色されており、そのことが、心を逆撫でにした。


 突然、下の方で何かが落ちる音がする。それは、ソカがエンバーザを備えさせていたベルトを外したからだと気づく。それに、俺もソカのマントを外して応える。パサリと、優しげにそれがずり落ちる。


 俺はソカと口付けを交わしたまま、手探りでお互いを一つ一つ脱がせていく。その仕草はどちらもあどけなく、だが、躊躇いなどなかった。


 やがて、互いの肌が露呈し始め、それが触れあうほどにその行為は加速をしていく。


 そんな時だった。突然、扉が開いてタキが部屋に入ってきた。


「――忘れ物しちゃいま……し……た」


 タキはこちらに気付き固まる。まぁ、部屋の隅で抱き合いながらキスをしていたのだから当然といえば当然のことではある。


「なななっ……」


 それに、俺はソカから顔を離して息を吐いた。またか……。


「私の家で何をやってるんですかぁぁぁ!」


 タキは震え声で叫ぶ。ソカが小さく舌打ちをした。


「――まぁ、いいわ」


 そして、ソカはするりと俺の腕から抜けた。


「また機会はあるでしょう?」


 それに、俺は苦笑いするしかない。


「ゆっ、ゆゆ許しませんよ! 私の目が黒いうちは!」


 そんなことをタキは言うが、正直俺とソカは聞いちゃいない。


 ただ、心のざわつきは収まっていた。すこし不満が残っていたものの、それは抑えられる範囲ではあった。

取り敢えずどこまで書いていいのかは、手探りでやっていきます。


取り敢えずはこんなとこですね。うーん……。

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