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十九話 隠された一族

 タキという女性は、見かけによらず流れるような俊敏さで森を駆けていく。俺は大丈夫だが、森に不馴れなソカは林や木々が邪魔で移動しづらそう――。


「邪魔くさいっ!」


 ドガン! バキバキバキバキ――ズドーン!


 邪魔な木々なんかは【オーガのガントレット】で粉砕しながら突き進んでいた。その威力があまりにもデタラメなせいか、太い幹が木っ端になり、足払いの如く折られた大木は、時折前を進む俺にまでその凶器的断片を向けてくる。


「ちょっ! ちょっと! 何してるんですか!?」


 それに慌てたのはもう少し前を進んでいるタキだった。彼女は土煙の上がる後方の空を呆然と眺めながら、ようやく追い付いた俺とソカに怒鳴る。


 やはり不味かったらしい。


「なんで木々を倒して……というか、何ですかその魔法! ……魔法? ……魔力の流れは感じないし……えっ、ソカさん化物ですか!?」


 怒鳴った後に混乱するタキ。


「失礼ね。これは彼が造った魔道具。装着するだけでを怪力を得られるのよ」

「はっ!? 何ですかその反則的道具はっ! 怪力ってレベルじゃないですよ! ……じゃなくて、そんなことしたら敵に位置を教えてるようなものじゃないですか!」

「敵って、私たちが森に入った時に攻撃してきた奴等のこと?」

「あー……そこまでは分からないです。私が駆けつけたのは、大きな爆炎を見てからですから」


 大きな爆炎。それは俺が使った聖霊魔法に違いない。


「とにかくっ! 木を破壊するのは止めて下さい! 思わず敵襲かと思ったじゃないですか」

「分かったわ。じゃあ、もう少しゆっくり進んでくれないかしら?」

「それで木々を……なんというか、ソカさんは困難をぶち壊して行くタイプみたいですね」

「タキは『ついてこい』と言いながら、自分だけ突っ走るタイプのようね?」


「あ"ぁ"?」

「なに?」


「やめやめい!」


 まったく……ソカはさっきまで重症だったとは思えないし、タキはタキで最初の礼儀正しさは何処へ行った?


 これ以上面倒ごとが増えないよう、俺だけはしっかりせねばなるまい。


「……先が思いやられるな」


 そんなこんなで、俺たちは森を進んだ。その後、タキはより鬱蒼とした木々の近くで立ち止まる。そこは他の木々よりも魔素を多く吸った大木のひしめく森。葉っぱに覆い隠されたように光は遮られ、湿った地面は禍々しい冷却を宿しているかに思えた。


 見ただけで『ヤバい』と思える場所。


 だが、【聖霊魔法】を修得している俺にはわかった。


「結界か……」

「テプトさんには分かるのですね? 我が一族の集落は、この結界で守られているのです」

「なるほど」


 古い、俺ではなくエノールの記憶。彼が生まれた村もこんな結界によって守られていた。つまり、これも【聖霊魔法】。


 ということは。


「集落には、【聖霊魔法】を扱う者がいるんですね?」


 だが、それにタキは首を振った。


「もう居ません。これは、昔に創られた結界をそのまま使っているだけに過ぎません。今や、この結界に司る聖霊の声を聞ける者もいない……私たちは、いつ効力を失うかも分からない結界の中で、身を隠して生きていくしか――」


 それから、タキはハッとしたように俺を見た。


「……あれ? テプトさんは何故ここに結界が張られていると分かったのですか?」

「いや、俺も【聖霊魔法】使えるしな」

「えっ……聖霊魔法を使える? あれ……【聖霊魔法】って失われたはずじゃないんですか?」


 うーむ。彼女にはどこまで話して良いものだろうか? というか、彼女はどこまで知っているのだろうか?


 王国は、濃すぎる魔素をダンジョンが請け負うことによって人々の住める地域としていること。ダンジョンマスターとは、この地に宿る古き聖霊たちであること。その秘密を隠匿するため【聖霊魔法】は封印されたこと。そして、その魔法を修得するための場所は、王族によって立ち入りを禁じられていること。


 頭の中で整理しても、話すには長い時間を要する。だから、取り敢えずは今ある事実だけを述べた。


「俺は使えるんだ」

「なん……だと」

「結界の入りかたも知ってるぞ? 【我を受けよ(シー・ウォンス)】」


 そうやってヌルリと結界を通った。途端、今まで見ていた光景はがらりと変わり、眩しい程の光のカーテンが射し込む美しい森へと視界は移り変わる。


「ちょ! そんなアッサリと店に入るような感覚で通らないで下さいっ!」


 後ろからタキとソカが続いてくる。タキは驚きに怒りを混ぜたような、自分でもどうして良いのか分からないという表情をしている。


「へぇ……結界って凄いのね」

「【聖霊魔法】は誰かを守るためにある魔法だからな。守る者が増える程にその効力は大きくなる。ただ、術者はそこを動くことが出来ないんだ。……これだけ大きな結界ということは、おそらく術者は生涯この地を離れられなかったことだろう。そして、その者が居なくなった今でも魔法が機能しているということは……」


「ストップストーップ! 何をしたり顔で説明しているのですか! それは私の役目ではないのですか!」


 もはや泣きそうになりながらタキはすがってくる。


「……いや、タキが【聖霊魔法】を使えるか聞いてきたから」

「だからって、勝手に結界を突破する人がいますか! テプトさんがあまりにも簡単に入ったので、今私はこの結界に対して不安しかないですよっ!」

「それは……悪かった。だが、安心していい。この結界は正常に機能してい――」


 その時だった。


 ヒュンーーバキッ。


 遠くから俺に向かって矢じりが飛んで来た。それをソカが咄嗟に立ちはだかり掴んで握りつぶす。


「ご挨拶ね」


 どうやら、彼女は完全復活したらしい。その勢いのまま、ソカは矢の飛んできた方向に向け、寸分違わずナイフを投げ変えそうとした。


 が、それを俺は止める。


「これ以上、ややこしくしないでくれ……」


 ここは結界の中。なら、矢を放ってきた奴等は敵じゃない。


「何者だっ!」

「まさか結界を抜けてくるとは……いや、待て! ……お前はタキ!」


 遅れて駆けつけてきた男たち。彼らはタキと同じ服装をしていた。そして、タキを見つけ少し戸惑っている様子。


「タキ……説明してきてくれ」

「わっ、分かりました」


 言われたタキは、思い出したように飛び上がり男たちの元へ駆けていく。


 これで誤解は解けるだろう。



 ホッと息を吐いて、タキの説明が終わるのを待った。そして、それが終わったのか男たちが静かに歩いてくる。もう、弓は背中へとしまわれていた。


「先刻、離れた場所で爆発があったのはお前の仕業らしいな?」


 その男は屈強な体躯をしており、毛むくじゃらの顔で問いかけてくる。


「あぁ。森に入った途端襲われてな」

「【聖霊魔法】が使えると聞いたが?」

「間違いない」

「……そうか。タキから聞いたお前たちの素性は意味不明なものだが、聖霊魔法が使えるとなれば話は別だ」

「意味不明?」


 それに、男は苦い顔をする。


「……なんだ、その、お前は優柔不断な二股男で、運命の恋人を救うために怪力女を連れている……とかなんとか」


 ……えぇ。いや……えぇぇえぇ。


「まぁ、気にするな。タキは少し向こう見ずなところがあってな? 爆発を確認した時も、周囲の反対を押しきって勝手に飛び出して行ったんだ」

「まぁ、察してくれるなら感謝しかないです」

「お前が【聖霊魔法】を使える以上こちらに敵意はない。……というより、【聖霊魔法】の偉大さを知っているが故に逆らうことはないだろう」


 頭の固そうな顔だが、どうやら話は分かるらしい。


「ここは何なんですか?」


 問いかけた言葉に、今度は難しい顔を見せた。


「ここには……王国から追放された者たちが隠れ住んでいる」


 なるほど。俺にはそれだけ(・・・・)で十分だった。そうか……ここに。


「俺は王国の真の歴史を知っています。だから、変に取り繕う必要もありません」

「知っている? まさか王族の者か」

「いえ。ただ……王族をつくった者も、彼らをこの地に導いた者のことも……全てを知っています」


 その瞬間、男の視線は鋭くなる。


「……では、我々のことも」

「えぇ。タキには先ほど回復魔法で助けてもらいました。あの魔法を使える者は王国にはいません。そして、何故王国にいないのかも知っています」

「そうか……ならば、察しはついているだろう」


「なんとなく、は」


「ならば、こちらからは何も言うまい。取り敢えずは歓迎しよう。お前が我らに敵意を持つ者ではなくて良かった」

「こちらこそ……一応、俺たちの目的は魔大陸についての情報を得ることにあります」

「魔大陸に……」

「それを教えてくだされば、俺たちはここを出ていきます。もちろん、王国に知らせることもありません」


 男の眼光はより鋭くなったが、そこに悪意は感じない。


「案内しよう」


 男は背を向けて歩き出す。それに俺たちは続いた。


特殊魔法の使い手は、アスカレア王国内で二百年ほど前、魔物である疑いをかけられ、大規模な殺戮にあっています。


前作、二章 二十五話「特殊魔法の過去」参照

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