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十四話 進化? 連鎖? スライム大フィーバー! 【ローブ野郎】

 そこはスライムたちが生息している洞窟。

 その暗い岩場の壁に、断続的に起こるフラッシュと、悪魔の影が映し出されていた。


「属性付与、火! 属性付与、水! 属性付与、土! 属性付与、風!」


 その度にスライムが電気のように光り、次の瞬間には全く異なる色へと変貌を遂げる。


「クックックッ……まだまだぁ!」


 逃げ惑うスライムたち。だが、一体、また一体と悪魔の手に掴まって謎の魔術を施されていく。気がつけば、回りには『赤、青、茶、緑』の四色のスライムがたくさん出来上がっていた。


「クックックッ……やはりスライムとは、魔石と同様の存在らしいですね」


 悪魔――もといローブ野郎は、そのスライムたちを見ながら満足げに頷く。彼は、既にここへきた理由を忘れ、目の前の実験のみに全精力を注いでいた。


「サンプルも集まったことですし、次の段階に移行しましょうか……クックックッ」


 言いながら、これまで普通のスライムたちを追っていたローブ野郎は向きを変え、今度は『属性付与』を施した色とりどりのスライムたちを見やった。


「さて……今度は『進化』についての検証をしましょう」


 ローブ野郎が何を言っているのかスライムたちには分からなかったが、間違いなく自分たちの身に危険が迫っていることは察知できた。

 だから、今度は色つきスライムたちが逃げ回る番。一斉に身を寄せあって集まるスライムたち。だが、その中の一体だけは勇敢にも、臆することなくローブ野郎の前に躍り出る。


「ほぅ……あなたから実験して欲しいと?」


――プルプル。


 そのスライムは、ローブ野郎が最初に属性付与に成功したスライムだった。


「良いでしょう。しかし、次の実験にはもう一体のスライムが必要です。誰か、名乗り出る者はいませんかですか? ……クックックッ?」


 しかし、他のスライムたちは身を寄せあったまま動こうとしない。仕方ないとばかりに、ローブ野郎は適当な一体を掴み上げた。


「進化とは魔物特有の現象……他の存在を食らい、自らの力と変える秘術。まぁ、ですがスライムが他の魔物を食らうなどということは聞いたことがありません。スライムとはいつも、いつの時代も狩られる側。食らう以前に食らわれるのがオチ」


 ブツブツと呟きながらも狂喜を浮かべるローブ野郎。


「……ですが、スライムが魔物とは少し違う存在ならば、その事にも納得がいきます。つまり、スライムは弱いから他を食らうことが出来ないのではなく、元からその機能を持っていない可能性が考えられるのですよ……クックックッ」


 そうして、自ら出てきたスライムの前に腰を据えるローブ野郎。スライムの色は茶色、つまり【属性土】のスライム。ローブ野郎が掴んだのは緑の【属性風】のスライムだった。


「魔術式で属性付与が出来たということは、スライムは魔物ではなく魔石に近い存在。ならば『食らう』という方法に限らず、他の魔を吸収出来れば、きっと『進化』と似た結果を導き出せるはずです……クックックッ」


 ローブ野郎には確信があった。魔物は他を食らうことで自らを強くでき、『進化』するが、実はこれは魔物に限ったことではない。

 冒険者の間には、こんな噂があった。


 ドラゴンの生き血を飲むと無限の魔力を得られる。そんな噂が。


 そう、手段が違うだけで結局、魔力の本質、構造とは一緒なのだと。それを人が勝手に分類し、区別したが為に全く違うモノであるかのように思われているだけなのだと。

 彼は、過去に魔物の生き血を飲むことにより魔力回復が出来ることを実証してしまっている。まぁ、その実験環境が原因で、タウーレンには取り返しのつかない事件が起こってしまったのだが。


 だが、それらの知識が、経験が、ローブ野郎に正しい手段を導き出させていた。


「魔物は他を食らうことで『進化』できます。ですが、スライムにはそれを行うための口はありません。それに、属性付与から、スライムとは魔石に近い存在だと立証できました。……なら」


 ローブ野郎は茶色のスライムの横に緑のスライムを置いた。そして、その二体を囲むように魔法陣を小石で描き始める。


「魔石は、他の魔石と繋げることが出来ます。それは職人たちが持つスキルでなければ不可能な技ですが、私ならば魔術式によってそれを行うことができるのです……クックックッ」


 魔石と魔石とを繋げることを『加工』と呼ぶ。その目的は、本来属性付与を施す為のモノなのだが、既にスライムたちには属性付与が完了してしまっている。

 では、なぜその『加工』をスライムたちに行おうというのか? それは、それこそがスライムたちにとっての『他を食らうこと』と同等だとローブ野郎は考えたからである。


「だから、これは『加工』というよりは、『合体』に近いのかもしれませんねぇ……クックックッ」


 そうして、描き終えた魔法陣に魔力を流すローブ野郎。ただのラクガキにも見えるそれは、魔力の流れを得たことにより機能を持ち、二体のスライムを繋げ始めた。


 ――バチッ。ポヨンポヨン!!


 だが、ローブ野郎の施した『合体』の魔術は成功することなく、突然二体のスライムは円の外に弾かれてしまう。


「……失敗のようですね」


 しかし、ローブ野郎はまるで失敗すると分かっていたかのように、平然と言いながら立ち上がる。緑のスライムはその勢いのまま他のスライムの元に逃げ、茶色のスライムだけはローブ野郎の元にポヨンポヨンと戻ってきた。


「やはり異なる属性同士は難しいのかもしれませんね……では」


 言って、今度は色つきスライムの群れの中から、茶色のスライムを掴みとる。そうして、今度は茶色のスライム同士での『合体』を魔術式にて行った。


 すると。


今度は弾かれることなく、二体のスライムが融けあい一つのスライムとなる。魔法陣の光が消えた時、そこには少しだけ大きくなった茶色のスライムがいた。


「クッ…………クックックッ!!」


 その事に例え難い喜びを露にするローブ野郎。彼は、自分の考えが立証された事実にうち震えた。


「やはりっ! やはりっ……私は間違ってなど……クックックッ!!」



 口から泡を出しながら、興奮するローブ野郎は、傍から見ればもはや病人のようにも思える。


「……さぁ、実験を続けましょうか」


 興奮したローブ野郎は、再び色つきの中から茶色のスライムだけを取り出す。そして、先程二体を合体させたスライムに、再度合体の魔術を施した。二体は再び滞りなく合体を行い。目の前にはまた少しだけ大きくなったスライムが一体。つまり、三体分のスライムの完成である。


「まだ……まだ、行けるのですかぁ!?」


 そして、茶色のスライムを取り再び実験。そして遂に四体分のスライムが出来上がった。その大きさは、普通スライムの二倍ほど。まさに巨大スライム。


「……おぉ。デカイう○このようです」


――ボヨボヨ。


 そのスライムは、もはや飛び跳ねるのも億劫なようで不気味に揺れるだけ。


 そして、次の瞬間予想外の事が起こった。


 巨大う○こスライムが機敏に揺れていたかと思うと、突然爆発したのである。


「なっ! なにがっ!?」


 いや、爆発に見えたのはスライムからナニカが散発したせい。目も開けていられないほどにそのナニカが周りに炸裂し、洞窟内が大きく揺れ始めたのである。


「地震ですかっ!?」


 パラパラと上から小石が降ってくる。揺れは治まらず、小石は大きな石へと変わった。


「クックックッ……不味いですね。これは」


 立ち上がることも困難な揺れの中で、ローブ野郎はひきつった笑みを浮かべながら洞窟の外へと這いずる。しかし、そんな速度では逃げるのは不可能。

 ローブ野郎は、自分が生き埋めになるのを想像してしまった。


 だが。


――ポポポポポポポッ!


 洞窟の奥から、ローブ野郎がまだ属性付与を行っていない大量のスライムたちが、物凄い勢いで押し寄せてきた。恐らく彼らもこの洞窟の異変に気付き、外へ出ようとしているのだろう。

 その波に飲み込まれたローブ野郎は、為す術もなく勢いのまま洞窟の外へと追いやられていく。


「これはっ……今、私はスライムの波に乗っているっ!!」


 その波に乗っかったままローブ野郎は、洞窟の外へと押しやられた。全てのスライムたちが外に出終わると同時に、洞窟が崩れ穴が埋まったいく。その様子を、ローブ野郎はスライムたちと共に見守った。


「……なんということでしょう」


 あんなにもポッカリと空いていた洞窟の穴が、完全に埋まってしまったではありませんか。まさに匠の為せる技。

 そして、住みかを壊されたスライムたちは呆然としていた。


 しかし、ローブ野郎は、そのことよりも『なぜ地震が起きたのか』ということを考え始めていた。

 見渡すが、先程の巨大う○こスライムはいなくなっている。代わりに、大量にいるスライムたちの中に、一体だけ無色透明のスライムが混じっていた。


「地震は先程のスライムが起こしたのでしょうか……クックックッ」


 顎に手をあてて考えていたローブ野郎だったが、すぐにその考えを実践するため、呆然としている色つきスライムを掴まえて再び『合体』の実験を繰り返す。


 スライムたちは住みかを追われたことにより、絶望に打ちひしがれていた。そんな彼らを容赦なく実験していくローブ野郎。


「クッークックッ!!」


 もはや狂気。いや、最初から彼には狂気しかなかったのだが、ここまでくると別の何かにさえ思えてくる。


 色つきスライムたちは抵抗することもなく実験され、ローブ野郎の道具と化していった。


 洞窟の外では、その度に大きな振動や爆発などが起こり、何が何やら分からない状況に陥っていく。


――そして。


「なるほど……そういうことですか……クックックッ」


 幾多の実験を終えて、ローブ野郎は様々な結果を出すことに成功していた。




一つ。同じ属性同士のスライムは合体できるということ。


二つ。四体まで合体した時、スライムは体内の魔力を抑えることが出来ず放出してしまうこと。


三つ。その放出は周りに『魔法』のような現象を起こすこと。


四つ。その魔法は、スライムの属性によって変わること。


土属性のスライム四体の場合。大地震が起こる。

火属性のスライム四体の場合。爆発が起こる。

風属性のスライム四体の場合。ハリケーンが起こる。

水属性のスライム四体の場合。一定時間巨大な水の球体が出来る。


五つ。その現象を起こした四体スライムは、無色透明スライムになる。


 そして、この無色透明スライムは、いくら合体させても魔法のような現象を起こすことはなく、どこまでも膨れ上がっていく。


 だが、他の色つきスライムの四体と触れている時、その現象を連続して起こすのである。


 つまり、赤のスライム四体と触れている時、爆発が起こるが、透明スライムも爆発を起こし、二回爆発を起こすのだ。


「クックックッ……これはっ……これはっ……!!!」


 たくさんの実験を終えて、ローブ野郎は興奮しきっていた。



 そんな彼らの前に、ドシン! と地響きがした。


 見れば、遠くから三メートルはあろうかという影が現れた。


『ガォォォァォ!!』


 それはローブ野郎が見たこともない四足歩行魔物だった。硬皮によって全身を覆われ、口から吐き出す息は禍々しく黒い。その瞳は赤く爛々と光りを宿し、真っ直ぐにスライムたちとローブ野郎に向けられていた。


 ざわめきだすスライムたち。だが、これまで逃げていた洞窟はもはやない。身を寄せあうものの、目の前に現れた圧倒的強者に、ただ怯えるしかなかった。


 だが。


「クックックッ……これはこれは。善きタイミングで、現れてくれましたねぇ」


 ローブ野郎だけは怯えるかとなく、むしろ嬉々として魔物を見上げる。

 彼は、自分のやりたい実験をやり尽くせたことで頭がハイになってしまっていた。


「では、これまでの実験の復習を始めましょうかっ!!」


 そして、ローブ野郎は身を寄せ会う中から『透明スライム』だけを手に取り、魔物に向かって投げつけていく。


「さぁ! まずはこのスライム! 私はこの透明スライムを【無限スライム】と名付けましょう!」


 ぽいぽいぽいと無限スライムを放っていくローブ野郎。そのスライムたちは魔物の表面にくっついていく。実験によってつくられた無限スライムはまだまだおり、その全てをローブ野郎は放った。


 魔物との距離は十メートルほどしかない。


「次に合体! 今回合体させるのは【赤のスライム】と【緑のスライム】!」


 言いながらその場に魔法陣をを二つ書いて、その中に四体ずつ緑と赤のスライムを放り込んで魔術式に魔力を流す。


「四体合体させることで起こる魔法を、私は【解放(リリース)】と呼ぶ!」


 無限スライムが沢山くっついた魔物が、前足を持ち上げて踏み潰さんとする。その瞬間、ローブ野郎の目の前には、赤と緑の四体スライムが完成した。


「さぁぁぁぁ! ここからは応用編!! 私ぃぃは、スライムの神となるぅぅぅ!!」


 今にも潰されそうなのにも関わらず、唾液をほとばしらせながら、狂気の叫びを響かせた。




「リリィィィィス!!!」




 そして、赤と緑のスライムをローブ野郎は渾身の力で持ち上げて魔物に投げつける。二体のスライムが魔物に当たった瞬間、魔法となり大爆発とハリケーンを起こした。


「ギャァァァ!!」


 それは魔物ではなく衝撃によって吹き飛ばされたローブ野郎のもの。彼はそのまま地面を転がった。だが、ローブ野郎は四回転目ほどで何とか立ち上がり、不敵な笑みを炎のハリケーンへと向ける。


「まだ……まだまだぁぁぁ!! 起これ!! 爆ぜろ! やがて死せよっ!! スライム大連鎖ぁぁ!!」


 無限スライムは他の色つきスライムと接触していることで、同じ現象を連続して起こす。大爆発とハリケーンを起こしたスライムに誘発され、魔物の表面についていた無限スライムが同じように爆発とハリケーンを起こし始めた。


 もはや魔物の姿は炎のハリケーンによって見えなくなり、熱気だけが辺りを満たす。炎に照らされたローブ野郎は、乾いた唇を歪めて尚も笑い続け、その様子を、スライムたちは離れた場所から見守っていた。


 炎のハリケーンは、勢いをなくすことなく、未だに新たな爆発とハリケーンを起こしている。


 それは、上級魔法でさえも起こし得ない災害にも似た魔法だった。


 やがて、長く続いた連鎖は終わり、その場には災害の爪痕しか残らない。

 巨大な魔物など、見る影もなく死に絶え、黒い炭の塊と化していた。


「クックックッ……クックックックッ」


 その光景に、ローブ野郎は堪えきれないとばかりに笑う。そんな彼の周りにスライムたちが集まってきて、ポヨンポヨンと跳び跳ね始めた。


 ちなみにだが、ローブ野郎が投げたスライムたちは、余りにも強大過ぎる自身の魔法によって消滅してしまう。言ってみれば、ローブ野郎はたくさんのスライムを犠牲にすることで魔物を倒したのである。

 だが、スライムたちにとっては、そんなことどうだって良かった。


 なぜなら、ローブ野郎がいなければ全滅していたかもしれないからだった。さらに言えば、スライムたちにとって他の魔物から殺されることは日常茶飯事であり、だからこそ感覚が麻痺していてのかもしれない。


 彼がたくさんの仲間を犠牲にしたことよりも、弱小と唄われる自分たちスライムが、圧倒的な魔物を倒したことの方が大きかったのである。


「クックックッ……私はこの力で魔物たちの頂点に立つっ!!」


――ポヨンポヨンポヨンポヨン!!


「その為にはもっとスライムが必要ですっ!! さぁ、行かん!! スライム探しの旅へっ!!」


――ポヨンポヨンポヨンポヨン!!



 こうして、スライムたちの信頼を勝ち取ったローブ野郎は、ここへきた本来の目的を完全に忘れ、スライム探しの旅に出る。スライムたちにとっては、洞窟を捨てて仲間を見つけにいく新たな旅立ち。



――ポポポポポポポポポポポポポポ!!



そのスライムの軍団は草地を駆ける。その上には、あぐらをかいて座るローブ野郎が肩で風を斬っていた。


 その軍団に近づく魔物は『大爆発』や『ハリケーン』、或いは『大地震』や『溺死』という魔法により呆気なく倒され、屍を積み上げていく。


 ……いつしか、そのスライム軍団に近寄ろうとする圧倒的強者共はいなくなっていった。

魔石の加工については、一応『ギルドは本日も平和なり』第二章四十六話『懐中電灯製作』にて記述。

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