93、準備
・・・・・・話は一年前に戻り、ナザレスがゼギアスを別れ、ラゼハードの報告を龍王ディグレスにした。
源初の竜ラゼハードが残していた肉体の生命活動が始まり、意識も魂も持たないその肉体がやはり意識も持たない地竜を生み出してる。
そのことを護龍ナザレスから報告された龍王ディグレスは、護龍の派遣はもちろん必要ならばディグレス自身も出て竜による被害を抑えると決めた。
いつ決まったことかはエルザークもディグレスも判らないが、竜には竜の理がある。
竜にはこの世を破壊できる力がある。
他の生物を根絶やしにする力がある。
だが、それは許されない。
許さないために龍王がいる。
意識があろうと無かろうと竜が暴れてるというのなら、それを抑える責任がディグレスにはある。
「ナザレス、ゴフリート、お前達はラゼハードが生み出す竜をゼギアス達に替わり退治せよ。その竜を退治するのは本来我々の役目だ。ゼギアスに任せていてはいかん。必要となったら我も出る。ゴルゴディア、お前はここを離れずに守っておれ。」
「「「ハッ」」」
三頭の護龍がディグレスの前に跪き返事する。
しかし、これは解決できるのだろうか?
エルザーク様の話に拠れば、ラゼハードは不変不滅の存在だというではないか。
もし永遠に続くのであれば、護龍に進化しそうな竜を集め進化を促すよう後押ししなければ先の体制が心許ない。
ゼギアスやカリウスは竜ほど長命ではないのだから、あの者達を当てにした体制は長くは続かない。
あの者達が居る間に体制を整え、竜の理を守れるようにしておかなければならない。
護龍達に後に続きそうな竜を集めさせよう。
龍王ディグレスは将来も竜の理を守れる体制をできるだけ早く整える必要を強く感じていた。
◇◇◇◇◇◇
ダヤンは、エルドラド占領とエルドラドからの住民避難を行っていた。
占領も教会組織の解体も難しい仕事ではなかったが、住民の避難には苦労していた。
ゼギアスの状況はダヤンだけでなくヴァイスハイトへも報告されている。
厳魔を中心とした地竜退治可能な部隊がサロモン王国から送られる予定だ。
退治部隊は輸送船でテンダールへ送られてくる。
そしてテンダールからフェンニーカ大陸の住民をサロモン王国まで避難させることになった。
ダヤンはフェンニーカ大陸の住民をテンダールへ安全に集め、そして輸送船の乗せる役目を負った。
但し、送る予定の住民には教会幹部は入っていない。
彼らには自分で身の振り方を決めて生きて貰う。
フェンニーカ大陸には土地はある。
住民は農具などの器具を置いていく。
住居もそのまま残される。
彼らには生きるために必要な物は自分で手に入れて頂く。
ダヤンは連れて行く者を、送る者を選別しなくてはならない。
ということで、エルドラド占領時から教会関係者と住民の選別を行っている。
この選別を、アーニャとアルステーデとライナールが手伝っている。
これまで占領してきた村では教会関係者は軟禁されている。
サロモン王国軍が住民を連れて去るときに彼らは解放される。
あとは自分で努力して生きれば良い。
「置いていかないでくれ。」
「連れて行ってくれ。」
フェンニーカ大陸の状況を伝えられた教会関係者には、そう言う者が後を絶たない。
「お前達は今まで何人の頼みを無下に扱い、お前達の欲のために何人足蹴にしてきた?住民から懇願される者が居たならその者は連れて行っても良いが、さてそのような者が一人でも居ればいいがな。」
ダヤンは容赦せず、教会関係者からの懇願を切り捨てた。
「メサイア教関係者に渡す食料など無いし、輸送船で送る手間などかけたくない。俺達は非道な輩まで救う慈善家じゃないんだ。」
ゼギアスからはそうキツく言われている。
ダヤン自身も救うつもりなど無かったが・・・・・・。
メサイア教関係者を選別してる間に、旧リエンム神聖皇国でケレブレア教の教皇を務めていたメルティヌスとジャムヒドゥンの豪商イサーク・アクダールをダヤンは見つけた。メルティヌスはメサイア教の司祭になっていて、イサークは教会で麻薬を横流しして商売していた。
ゼギアスに問い合わせるまでもなく、メルティヌスはフェンニーカ大陸へ置いていくとダヤンは決めた。
イサークはセリーナを誘拐した件があるのでゼギアスに相談したところ、”誘拐犯にかける情けなどサロモン王国にはないだろう?”と言われ、ダヤンはフェンニーカ大陸に残すのではなく処刑を決めた。
”ゼギアスめ!最後の最後まで邪魔しやがって”と処刑直前までイサークは喚いていたが、処刑場に引きずられて衆目にさらされると急に命乞いを始めた。だが、今更許されるはずもなく、首を落とされ遺体はその場で焼却された。
メルティヌスとイサークの件は、アーニャ達の力を借りなくても判断は可能だった。
だが、教会関係者を選別しているという噂はエドシルドですぐ広まり、あたかも教会とは無関係を装う教会関係者も多く存在し、アーニャ達が教会関係者は判らないだろうこと・・・・・・一般の庶民が使う隠語などを使って話したり、食事時の動きなどを見て選別していった。
教会関係者でも稀に良心的な・・・・・・とは言っても何も問題がない者ではないが・・・・・・者も居て、エドシルドの住民への聞き取りの結果、まあ、この程度ならお目こぼししてもいいだろうと判断された。そういった者には教会関係者の選別を強制的に手伝わせたため、選別の速度は上がっていった。
地竜はその出現も出現した地竜の力もランダムだった。
二度目の出現は最初の出現の十日後であり、出現数は七頭と最初より多かったが弱かった。
三度目は二度目の三日後で出現数十頭、最初と二度目より竜の力は強かった。
だが地竜退治に到着した護龍達の相手になるほどではなく、速やかに退治された。
三度の地竜退治で、地竜がいつ出現するのかは計算できず、出現する地竜の力も一定ではないから今後も護龍達だけで対処できる保証はないと考えられていた。
それに今のところはラゼハードの近くに出現しているが、それとて今後も同じという根拠はなく、フェンニーカ大陸全土を飛竜やグリフォンで巡回し、地竜の出現に備える体制の早期構築が望まれていた。
「しかし、弱ったな。広範囲を網羅するための人員をフェンニーカ大陸に連れてきたら、グランダノン大陸側で人手が足りなくなる。フェンニーカ大陸から住民を連れ出したら、ヴァレッド村周辺とテンダール周辺の監視に留めるしかないな。」
ダヤンはフェンニーカ大陸の住民移住が終わるまでテンダールを重点的に守備し、住民の移住が全て終わったらフェンニーカ大陸を基本的に放棄するべきとゼギアスとヴァイスハイトへ具申した。
また、龍王の意思に従わない地竜退治は護龍に任せ、護龍の手に余る場合はゼギアスとカリウスが手を貸す。
そしてグランダノン大陸側の防衛体制を強化し、万が一地竜が出現した場合に備えるべきだとダヤンは主張した。
「まあ、そうするしかないな。エルザークがラゼハードへの何らかの対処法を見つけられるまでは俺達にできることは限られているからな。」
ダヤンの意見を受け取ったゼギアスは了承し、ヴァイスハイトと相談の上体制を整えるようダヤンに指示した。
ダヤンは、フェンニーカ大陸住民の移住を進めながら、テンダールの防衛を整備していった。
テンダール周辺地域の巡回はイオニアスの部隊が中心となって行う体制と護龍が駆けつけるまでの防衛をマルクの部隊が主体となって行う体制を整えた。マルクの部隊は入れ替えが行われ厳魔三十人が隊員となっている。戦闘自体は厳魔が担当し、マルクは地竜の動きを見て指示を出す体制に変わった。
意思なき地竜はその身体能力こそ竜に相応しいものであったがブレスを吐くことはない。魔法への防御力こそ不安を抱えるが、竜の物理的攻撃に耐えそして強健な肉体を破壊できる厳魔は地竜を抑える役目にうってつけであった。但し、今までに観測された地竜のレベルであればという前提ではあるけれど。
こうしてエルザークが対策を考えつくまでの体制が徐々に整備されていった。
◇◇◇◇◇◇
エルザークの指示に従って、フェンニーカ大陸とグランダノン大陸にある遺跡の位置を地図にノルスタインは書き加えていった。
遺跡の位置には特に規則らしいものは見えない。
だが、精霊師として精霊の活動に敏感なノルスタインはあることに気づいた。
遺跡があるからその近辺では精霊の活動が活発で、多くの精霊も集まってくる。
今まではそう考えてきたし、精霊師の間ではそう考えるのが普通だったのだが、逆なのではないかと考えた。
精霊が集まる場所に遺跡が作られたのではないかと。
遺跡は全部で十カ所。
フェンニーカ大陸に七カ所、グランダノン大陸フリナム国内に三カ所ある。
そしてフェンニーカ大陸の二カ所を除くと、他は火山が必ず数キロ以内にある。
もっとも近いところだと三キロ程度の距離にある。
火山は火の精霊や土の精霊が集まりやすい。
そして遺跡の近くには湖や地下水が湧き出る泉があり、水の精霊も集まりやすい環境だ。
ノルスタインはフェンニーカ大陸の二カ所、火山から遠く離れた場所にある遺跡も、複数の地脈が近くを走ってるのではないかと考え、地脈を把握できるエルザークに自分の仮定を伝えて調べて貰う。そしてノルスタインの仮定は当たっていた。
やはり精霊の集まりやすい場所、この大地から発せられる力が濃い場所に遺跡が作られてると確信した。
「やはり精霊の石を作りやすい場所に遺跡がある・・・・・・何故精霊の石を作ったのでしょう?」
「まだ詳細は判らんが、遺跡はラゼハードと関係があるのは確かじゃ。石に込められた祈りはラゼハードに向けられているからな。今調べてるのは精霊とラゼハードとの関係。これまでに判ったことは・・・・・・。」
精霊はこの星が生み出した存在で、ラゼハードが生まれてしばらく後に生まれた。
しばらくと言っても千年単位だが。
この時期、人間や亜人や魔族その他の動植物をラゼハードは既に創造していたらしい。
ここまでは、精霊の石の核になった精霊の記憶からはっきりと判った。
問題は、この後だ。
ある時点の精霊の記憶からラゼハードは居なくなり、ラゼハードが生み出したのかどうかは判らないが白の神と黒の神が出てくる。
そして白の神と黒の神も居なくなる。
その後、神竜と龍王が出てきて現在のこの世の理に沿った社会の原型ができあがってる。
・・・・・・
精霊はラゼハードに対して何かをしていた。
これは確実で、この精霊の石はそのために作られた。
何をしたのか?
この精霊の石に集まった精霊の力を用いて、ラゼハードに精霊を送り込んでる。
それは判る。
だが目的がまだ判らない。
また精霊を送り込んで何をしようとしたのかもまだ判らない。
ラゼハードの肉体は生命活動を止めていても今も存在する。
意識や魂はどうした?どこへ行った?
白の神、黒の神はどこから現れ、どこへ消えた?
竜の理はいつ生まれた?
代々の神竜も居なくなったが、その理由にも関係はあるのか?
遺跡を調べ、精霊の石を調べ、精霊の意識や記憶に触れるたび、エルザークには疑問が増える。
”精霊は何を願い祈っていたのだ?”
これがはっきりしたなら疑問のいくつかは解ける。
エルザードはそう感じていた。
精霊の石を作った理由であり、ラゼハードに精霊を送り込んだ理由だろう。
だから、精霊の石に意識を集中し、祈りの正体を掴もうとしている。
十カ所にある精霊の石は同じことを願っているが、核となった精霊の意識はそれぞれ異なる。
一つ一つ丁寧に精霊の意識を拾い上げ、つなげていけがきっともう少し詳細が判るだろう。
だが、あまりにも古く、残された意識は弱い。
エルザードが力を入れて石に集中してしまうと残された意識も消し飛んでしまいそうだ。
じれったい。
時間がいくらあっても足りない。
神竜となって初めて焦っている。
ラゼハードが生み出す竜が現状のままでいてくれればいいが、いくつかの報告からそれは期待できない。
龍王と護龍、そしてゼギアス達が対処できる間に、謎を解明しなければ・・・・・・。
焦りを抑えてエルザークは意識を石のなかに集中する。
◇◇◇◇◇◇
グランダノン大陸にある国や自治領は、サロモン王国からフェンニーカ大陸の状況報告を得ていた。
異常な状況がフェンニーカ大陸だけで終わる可能性は大きくない。
地竜がいつ現れても不思議じゃないから、住民の避難と防衛の準備は怠らないようにと伝えられた。
グランダノン大陸の国々や自治領は、一般的な竜であれば対処可能な状態だ。
だが、対処が難しいところも一部ある。
フリナムとライアナは深刻だ。
フリナムはレイビス侵攻の際に、ライアナはフォモール襲撃の際に兵を多く損なっていていまだに十分な体制を整えられていない。
そこで、フリナムの防衛はレイビスから、ライアナの防衛はジャムヒドゥンからの支援で何とか窮地を乗り切ろうということになった。
レイビスはサラがクリストファーに持ちかけて了承を得た。
ジャムヒドゥンへはサロモン王国からセリーナが来て各士族を説得してまわり話しをまとめた。
ジャムヒドゥン三国のうちブレヒドゥンとガイヒドゥンは分裂の際に兵の損害が少なかったため、セリーナからの依頼に対して派遣する兵の負担をライナスがもつことで簡単に話はついた。ゼギアスから提案されていた他国の安全保障面を担う商売と割り切れば良かったので大きな問題は起きなかった。
戦争が無くなったのは両国にとって国内的にデメリットもあった。
戦場で戦果を出した報償で一族を養っていた士族も多かったので、戦争が無いとそういった士族は生活に窮する。
だからセリーナが持ってきた話は両国にとって渡りに船の面もありスムーズに話は進んだ。
問題は分裂の際に多くの兵を失ったテムル族がまとめる新ジャムヒドゥンであった。
ブレヒドゥンとガイヒドゥンが派兵でその力を示し利益も手に入れる状況で、好戦的な士族を多く抱えるジャムヒドゥンだが、国内の再整備に忙しく他国へ派兵する余裕はまだなかった。だが、ブレヒドゥンとガイヒドゥンがお客を捕まえる機会を手にしてるのを指をくわえて見ているのはテムル族としては面白くない。
セリーナは、ジャムヒドゥンに属する士族等の性格を把握していたから、テムル族とその傘下の士族が感じるストレスを理解していた。
そこで現在の国王ファレズのもとを訪れ、一つの提案をする。
「当面は復興に力を注いでください。ライナスの防衛に今回は加われないかもしれませんが、復興を果たし派兵する力を取り戻したなら別の派兵先がありますので、そちらで力を発揮していただきたいとゼギアスが申しております。」
今回の地竜出現騒ぎでフェンニーカ大陸から住民のほとんどが居なくなる。
だが、騒ぎが収まったあとにはフェンニーカ大陸の再開発が行われ、住民も増えるだろう。
サロモン王国としてはそうするつもりだ。
その際、ジャムヒドゥンには治安維持のために派兵を依頼する。客はサロモン王国だ。
報酬は金銭だけじゃなく、サロモン王国からの支援も考えてる。
新たな利益を生みそうな商品開発に手を貸す。
「我々だけが新たな商品を手にしたら、ブレヒドゥンとガイヒドゥンは面白くないのではないか?」
熱心に説明するセリーナにファレズは疑問を伝える。
現在はジャムヒドゥン三国で担当を決めてブリキ製品や缶詰の原料と製品を販売している。
これにより三国間は友好的関係を維持するメリットが生まれている。
だが、三国のうちでどこかが別の利益を得るとなると不満が出て友好関係にヒビが入るのではとファレズは考えた。
「ですが、これは他の国でも真似できるものではないのです。貴国にはダイヤモンドという物質の大きな鉱床がいくつかあります。地質調査して発見しました。ブレヒドゥンとガイヒドゥンにも鉱床はあるかもしれませんが、ここにある鉱床ほど大きなものはそうそうないだろうとゼギアスも申しております。」
ゼギアスは友好国となった国で必ず資源調査や環境調査をする。
それは新たな特産品を開発する上で必要だからなのだが、国の長所と短所を知ることにもなるから行っている。
テムル族が暴走した時、海と接していないガイヒドゥンでは塩の調達が死活問題となったように、不足している資源は国にとって弱点になる。
つまり敵対した場合には攻略の糸口になる。
地質調査してブレヒドゥンとガイヒドゥンにもダイヤモンドの鉱床はあるが、ジャムヒドゥンと異なり規模は小さいと既に判っている。
投資するコストを考えると、ブレヒドゥンとガイヒドゥンがダイヤモンドの採掘で得られる利益はジャムヒドゥンよりかなり小さいと試算も済んでいる。
平時にしっかりと調査しておくことで、ゼギアスが居なくてもサロモン王国が戦略的優位に居られるようにしておく。
一見、人の良い態度でいるが、ゼギアスは裏では小狡く動いているのだ。
だが、今回のように利益に繋がる提案ができるのも日頃から調査を怠らないからであり、一方的に責められる類いの姿勢じゃないだろとゼギアスは思っている。
セリーナはダイヤモンドという鉱物の特性とその価値をファレズに説明した。
その際、サロモン王国国内で産出したダイヤモンドを使った宝飾品を見せ、貴重で高価なものだと教えた。
実物を見せられ、ファレズにもダイヤモンドの価値は判ったようだった。
またダイヤモンドに関しては、加工に必要な機材はサロモン王国で製造し購入してもらうことになるが、加工技術はサロモン王国で独占せずに教えるという条件も出した。ブレヒドゥンとガイヒドゥンが不満に感じるかもしれないが、そのようなことが起きた場合セリーナが説得するからとも付け加えた。
「ですから今回の件で不満を感じてる士族を納得させていただきたいんです。」
「判った。提案に乗ることにしよう。」
セリーナが出してきた条件は、傘下の士族を抑えるために労力を割くだけの価値はある。
不平を述べてる士族を抑えることを約束して、ファレズとセリーナの公式会談は終わる。
会談終了後昼食をとり、現在は宮殿の一室で二人は雑談を交わしている。
「・・・・・・率直に申し上げますと、地竜の出現の件で功を焦るような姿勢を見せていただきたくありません。私はジャムヒドゥンの出身であることを誇りに思っています。他人の不幸に乗じて力を示せないからと不満を感じている士族はとても気に入りません。ですが、ゼギアスは感情は理屈じゃ無いと言って、今回の提案で我慢して貰えるよう頼んできなさいと私に言いました。それがなければ私はこうして頭を下げにくることなく、不平士族を抑えられないあなたを非難していたでしょう。しっかりしなさいってね。」
気が強く誇り高いセリーナも結婚して落ち着いたと思っていたが、昔通りのセリーナの姿を見てファレズは微笑んでいた。
父が反対したのでセリーナとは結局は結婚しなかったが、一時期は結婚候補にあがっていたこともあり、セリーナとファレズはそのことを知っていた。お互い相手の性格をよく判っていた。
「セリーナの変わらない様子に安心したよ。」
「当然です。ゼギアス様の顔を潰すようなことはいたしませんわ。あなただから言うのです。」
「大事にされてるようだな。」
「ええ、今回の件でも妃だろうと女の私が出るのは本来宜しくないのでしょう。しかしサロモン王国では男女の違いを理由に仕事から外されることはありません。もしもあなたが私が女であることを理由に交渉を不快を感じるようなら提案引っ込めて戻ってこいと言われてます。お判りでしょう?性別に関係なく私の能力を認めて下さり、思わしくない結果になったとしても我が国の姿勢は変えない。私達への信用は揺らがない。妃としてももちろん大事にされていますが、私を私として尊重し大事にして下さってます。」
「とても嬉しそうだ。」
「サロモン王国に行けば判りますわよ。ジャムヒドゥンでの女は、妻になり両家の関係を築くため、子孫を残すためだけの存在です。私もそのことに疑問を抱いていませんでしたわ。そういうものだと教えられ周囲もそうでしたからね。でも、サロモン王国は違いました。女性でも一人一人が楽しいと思えることを探して生活しています。結婚も、親が決めた相手ではなく自分が望む相手とすべきという環境です。いろんなことがジャムヒドゥンとは違いました。そして慣れると毎日が楽しいのです。女だから絵を描いちゃいけないとか、仕事をする女は下賎の者だとか、そんなものはありません。興味を感じたことができる。したいことのために予定を組んで時間を使う。そんな環境を作ったゼギアス様のおそばに居られるのです。女として誇らしく思いますし嬉しくないわけがありませんわ。」
黒い瞳をキラキラと輝かせて夫のことを話すセリーナを見て、
「そうか、俺もそのうちサロモン王国を見学に行くかな。」
「ええ、是非いらっしゃいな。どこでも案内する。あなたが見たことも無い物がたくさんあるわよ?きっと楽しい時間を過ごせると思うわ。何なら奥様とお子様だけでもいいわよ?私が責任をもって預かるわ。」
「ふむ、それもいいな。近いうちに連絡する。その時は宜しくな。」
・・・・・・
二人は国王と妃の立場を忘れ、まだ若かった頃の友人のように話し合った。
地竜の出現をきっかけに、こうした微笑ましい出来事も起きた。
だが、事態は徐々に笑えない方へ移っていく。
地竜がグランダノン大陸でも頻繁に出現するようになる。
・・・・・・それも数多く。




