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92、旧リエンム神聖皇国の変化

 フェンニーカ大陸で一つの問題が解決しそして新たな問題が生じていた頃、グランダノン大陸でも動きがあった。

 

 旧リエンム神聖皇国で中核都市だったスタフェッテ、ケアリズ、ノーダンで問題が生じていた。

 この三都市は旧リエンム神聖皇国の政治に耐えられずに独立を宣言した都市だ。

 旧リエンム神聖皇国の時代、都市の防衛は皇都ハリエンスから派遣された戦闘神官が指揮する軍が担っていた。

 だが、独立を宣言した後は、グランダノン大陸中から傭兵を集めて都市防衛を担わせた。


 傭兵は報酬を貰って戦闘を請け負う。

 その報酬は、金か土地だ。


 サロモン王国が建国してからは、奴隷として使っていた亜人や魔物が移住していき人間も相当数が亡命した。

 労働力が不足した旧リエンム神聖皇国の各都市は、土地はあっても土地を活用する者が居ないので傭兵への報酬は必然土地になった。

 傭兵にも家族があり、その家族を呼んで報酬として貰った土地で生活を営みはじめる。

 防衛能力を持つこともでき空いた土地を有効に活用しているようにも見え、当初は各領地の領主や貴族達も一安心した。


 だが武力を持ち生活能力を持つ者達は、武力を持たない領主達支配階級に対して不満を抱える様になる。


 ”領地を守っているのは俺達だ。”

 ”領主や貴族達は戦う手段も持たないくせに偉そうにして俺達から食料や財を奪っていく。”


 傭兵達は傭兵団を組織し支配階級に牙をむいた。

 領主や貴族を追い出し、傭兵団がその座を奪った。

 

 このような状況がスタフェッテ、ケアリズ、ノーダンで同じような時期に生じた。


 だが、彼らも旧領主や貴族達と同じ問題に突き当たる。

 部下へ渡す報酬を土地で支払うしかなかったのだ。

 結果どうなったかというと、現在の領地では足りずに領地の拡大を各傭兵団は始める。


 スタフェッテ、ケアリズ、ノーダンは争いを始めた。


 北側の新リエンム神聖皇国には戦闘神官が率いる軍があり傭兵達には勝てそうもなく、南西のコムネスも元戦闘神官第二位のアンドレイが居るし、コムネスはサロモン王国と友好関係にありサロモン王国軍がコムネス防衛を支援している。この二カ所には傭兵団もさすがに手出しはしなかった。

 残る南東のニカウアは狩場と見なされ、ニカウアと隣接していたケアリズとノーダンはニカウア領内の村々を襲い、村人を殺し、女は犯し、土地と財を奪っていった。ケアリズとノーダンが南下して領地拡大を目論むとスタフェッテは隣のノーダンへ侵攻し、やはりノーダン領内の村々を襲った。


 ・・・・・・旧リエンム神聖皇国の中央部は乱れ、ちょっとした戦国時代の様相を描いていた。


 

◇◇◇◇◇◇



 「ニカウアが乱れて難民がジラールに流れてきてる。ジラールまでたどり着けた者はいいのだが、問題は相当な数が逃亡途中で傭兵団に襲われたり、たどり着くまでに倒れ亡くなってることだ。」


 難民はアンドレイのコムネス、ジラール、ジャムヒドゥン、ガイヒドゥンに分かれて流れていた。

 ニカウアや旧リエンム神聖皇国中央部から旧ジャムヒドゥン側に行くには山脈を越えなければならない。

 だから、コムネスとジラールへ向かう者が比較的多くなっていた。


 「こちらは受け入れ準備を整えてる間のコムネスに入れない期間中に襲われる者が多く、その被害は見過ごせない程度に増えてる。かといって、現在の環境が崩れるような数を即受け入れるわけにはいかんからなぁ。」


 避難民にとって最も近くにあるコムネスが全ての難民を受け入れられるのであれば良い。

 だがそうは簡単にはいかない。

 食料の提供は良い。

 サロモン王国から支援して貰えるようにとアンドレイはヴァイスハイトと話をつけている。


 だが住居や、コムネスの治安を守るための体制はそうはいかない。

 コムネスは土地が余ってるわけではないし、守備兵の数も十分とは言えない。

 騒乱に対してはアンドレイの力に頼るところがまだまだ多い。


 サロモン王国はもともと人手が足りない上に、現在はフェンニーカ大陸へ派兵していて必要最低限の兵を残しているだけだ。

 派兵に必要な数もまだ明確ではなく、これからのことを考えると他国の防衛に回せる数は無い。


 サロモン王国国内へ移住させられるならばそれが良い。

 土地は膨大に余っているし、難民を受け入れた後の支援体制も整っている。

 だが、移住させるための人手が足りない。

 移住させる前に傭兵団に襲われて被害が生じている。


 バックスとアンドレイは頭を痛めていた。

 二人とも旧リエンム神聖皇国で戦闘神官を務めていた。

 国民を守るために力を手に入れ、戦ってきた二人だ。

 旧リエンム神聖皇国の住民に大きな被害が出てるとなると、今はリエンム神聖皇国に属していないけれども気になるのは不思議では無い。


 バックスは苦しんでいた旧リエンム神聖皇国の住民を連れてサロモン王国へ亡命した。

 アンドレイは故郷コムネスの窮地を放置できずに領主となり独立した。


 だから現状は二人とも他人事とは考えていられなかった。


 「今、もっとも楽をしてる奴等が居る。そいつらにやらせるか?」


 アンドレイが悪い顔をして笑い、バックスに提案する。

 ジラールの総督室は、魔法で快適な室温に保たれている。

 だが、アンドレイの身体からの熱気が室温を高めたようにバックスは感じていた。


 アンドレイのブラウンの瞳を覗きながらバックスは聞く。


 「そんなとんでもない奴らは誰だ?」


 バックスの青い瞳にもいたずらっ子のような笑みが浮かんでいる。

 アンドレイの言葉を聞いて”楽をしてる奴”の察しがついている。


 「判るだろ?新リエンム神聖皇国で遊んでるアイアヌスを含めた旧戦闘神官達だ。」


 「ああ、本当に困った奴らだ。じゃあ、奴らがこの状況の改善に手を貸すなら俺達は奴らがハリエンスから出てきても容認すると伝えればいいな。」


 「そうだ。真面目な話。奴らだって現状は良いと思っていないはずだ。だが俺達の動きを警戒してハリエンスから出てこないだけだ。」


 「判った。俺は賛成だ。ヴァイスハイト宰相の許可さえ貰えれば、アイアヌス達には俺が接触しよう。コムネスよりはまだ余力があるからな。」


 「ああ頼む。」


 二人はニヤリと笑って、手元のカップをほぼ同時に口に運び、濃いオレンジの飲み物を口に含んだ。

 フラキア産の紅茶の香りを楽しんでのことか、それともこれから元同僚の苦労する様子を思い浮かべてか、二人の表情はとても楽しげであった。




◇◇◇◇◇◇





 「急に呼び出してどうした。お前には協力しないと言ったはずだが?」

 

 軍本部に呼び出されたヤハヌスは不機嫌さを隠そうともせずに、アイアヌスを睨んでいる。

 会議室にはアイアヌスの他にアイアヌスを手伝ってるライガルトとヤハヌス同様に野に下ったライノスも居た。

 ヤハヌスは空いた席の一つに座る。


 「別に俺に協力して欲しいという話じゃない。」


 「じゃあ、何だ?」


 以前同様に淡々とした態度のアイアヌスがヤハヌスはどうも気に入らず、ついけんか腰ようにな口ぶりになる。


 「まあ、とりあえず話をきちんと聞こうよ。」


 先に来ていたライノスが、このままだと話が進まないと感じてヤハヌスを抑える。

 ライノスにたしなめられたヤハヌスは不満げながらも黙った。


 「今日呼び出したのは、サロモン王国中央方面軍総督バックスの名で提案が来たからだ。」


 アイアヌスが三名を見回し表情を確認する。

 今のところ特別目立つ変化は三名にないと話を続ける。


 「スタフェッテ、ケアリズ、ノーダンの各地域が荒れてるのは多分知ってることと思う。バックスの提案は、この三カ所を我ら旧戦闘神官がそれぞれ治めてはどうかということだ。新リエンム神聖皇国と統合するのも良し、それぞれ独立するのも自由。この件に関する限り、サロモン王国とコムネス、ジャムヒドゥンは手出しはしないし事後の食料支援くらいなら協力する。そういうことだ。」


 「それは公式の話か?」


 ライノスがアイアヌスに冷静に確認する。


 「いや、非公式だ。それは当然だろう。戦乱地域を切り取る自由を他国が保証するなんておかしなことだからな。」


 「信用していいのか?」


 ヤハヌスは疑わしそうに聞く。


 「バックスはこの手のことで騙す男じゃ無い。アンドレイもだな。気になるのはジャムヒドゥンの三国だが、今はあそこもサロモン王国の友好国だ。サロモン王国と話はついてるのだろうよ。それにその気さえあれば、ニカウアを簡単に手に入れられるのにその様子もサロモン王国にはない。サロモン王国の姿勢には領土拡大はないと考えて良いだろう。だから領土周囲が五月蠅いことを嫌った提案だろう。」


 「兵はどうする?ヤハヌスと俺には兵は無い。アイアヌスとライガルトが動けばいい話ではないのか?」

 

 ライノスは実際に動かす兵を持つアイアヌス達がやるべきではないかと言う。


 「それは考えた。だが鎮圧はできてもその後を考えると、やはりお前達二人の力が必要だ。こちらとしてもサロモン王国同様に周辺が騒がしいのは困るのだ。やっとハリエンス領内が落ち着き始めている中、難民が突然押し寄せてきたり、計算外の時期に領地防衛に人手を取られるのは困る。だから鎮圧には手を貸す。だからその後を治めてくれ。」


 「国家統合する考えは?」


 ライノスは気になっている点を話す。

 ヤハヌスとライノスには新リエンム神聖皇国の傘下に入る気持ちは無い。

 

 「協調できるなら、統合するつもりはない。新たな支配体制はできつつあるがまだ問題もたくさんある。そういった問題解決の目処がつかないうちに国を大きくしても良いことはないのは既に判ってるからな。・・・・・・将来のことは今は何も言えない。」


 「まあ、お前の正直なところは嫌いじゃ無い。いいぜ?力を貸すさ。乱れてる地域は俺達が守ろうとした地域だしな。傭兵どもに好き勝手にされてるのは気に入らない。」


 ヤハヌスは率直に本音を見せたアイアヌスの姿勢が気に入ったのか協力を約束する。

 

 「面倒なことですが、そうですね、ヤハヌス同様に傭兵達に私達が守ってきた土地を自由にされるのは確かに気に入りません。」


 ライノスもヤハヌスに同調した。


 「しかし・・・・・・この提案は誰が考えたと思う?」


 「バックスだな。」

 「アンドレイかもしれん。」

 「二人一緒にという線も・・・・・・。」


 アイアヌスの疑問に他の三名が各自の感想を述べる。


 「そいつらの策に乗るのは癪だが、周辺地域を落ち着かせる良い機会というのは間違いない。」


 ヤハヌスが苦々しげに言う。


 「ああ、そうだな。」


 ライガルトも同意見のようだが、ヤハヌスと違い表情に変化は無い。


 「では兵の準備が整い次第、周辺地域の制圧に乗り出す。宜しく頼む。」


 アイアヌスの言葉に三名が頷く。


 

 スタフェッテ、ケアリズ、ノーダンが新リエンム神聖皇国軍に一カ所ずつ制圧され、追い出された傭兵団はニカウアへ逃げていった。

 そしてニカウアでも争いを起こし、ジラールとコムネスからの討伐軍によって掃討されてしまう。

 バックスとアンドレイが悪い顔して策を計画してからおよそ一年後、旧リエンム神聖皇国領は一応の平和を取り戻した。


 ちなみに、中央東部のスタフェッテは新リエンム神聖皇国と統合されたが、西部のケアリズはヤハヌスが、中央のノーダンはライノスが独立自治領として治めることとなる。


 ニカウアはというと、傭兵団無きあとの治安維持はサロモン王国から派遣されたガーゴイルとケルベロスが担当し、自治はヒルハイド・アムゼンが領主として依然行っている。ニカウアは、荒れ果て住民も少なくなっている。ヒルハイドは領主のままで居ても何の旨味もないし、苦労ばかりで辞めたいと考えている。だが、ヒルハイドを受け入れてくれる自治領も国もなく、領主を辞めても食べていけないのでカリネリアで教師をしているエーリカに頻繁に泣きついているが、エーリカが受け入れることは無かった。


 エーリカがヒルハイドを認めない理由はいくつかあったが、決定的な理由はこの自己保身のための他者への依存心の強さにあった。

 これが領民のためであったりしたならば、エーリカもニカウアへの支援を厚くして貰える様ゼギアスに頼むことも考えたかもしれない。

 ヒルハイドの変わらない自己中的な姿勢はエーリカを悲しませているのだが、ヒルハイドには理解されることはなかった。




◇◇◇◇◇◇



 旧リエンム神聖皇国末期に生じた各中核都市の独立は、既得権を自主的に手放そうとしなかった領主等特権階級層を傭兵団が追い出し、その後の不安定な環境を戦闘神官が是正したので収まった。


 だが、戦闘神官という、この地域では高い戦闘力を有する個人に依存した支配体制は短期的には機能するだろうが長期的にはリスクの高い支配体制だ。個人能力に依存する体制は、その個人が不在になったとき機能しなくなりがちだからだ。


 そのことをアイアヌスも他の戦闘神官も理解していたので、新リエンム神聖皇国と他の自治領との間できちんと不戦条約等を結び相互協力体制を作るとともに、各自が個人に依存しない体制の構築について努力していくと確認し合った。


 旧リエンム神聖皇国は当面これでいいとして、問題はコラムス、ジャムヒドゥン三国、そしてサロモン王国との関係であった。

 まあ、実際の脅威はサロモン王国だけと言っていいのだが、各国、各自治領の体面もあるからそうは言えない。

 

 アイアヌス達各領主はサロモン王国との関係をどうするか?

 どういった姿勢で付き合うべきか?

 

 これらを整理しまとめて、ゼギアスと会談するべきという意見で一致した。少なくとも敵対するのは愚策である点は共有していた。


・・・・・・

・・・


 「俺達は・・・・・・いや、俺は気が進まん。」


 新リエンム神聖皇国のアイアヌスはサロモン王国と手を結ぶことに否定的だ。

 ライガルトはアイアヌスと異なり、サロモン王国と手を結んでも良いと考えていたが、現在の国王はアイアヌスなのでこの件については黙って従っていた。アイアヌスと並んで座り、ヤハヌスとライノスの反応を黙って見ていた。


 「正気か?現在、サロモン王国と対立する可能性など残すべきじゃないだろう?」


 ヤハヌスにはアイアヌスが拒む理由が判らない。


 サロモン王国は奴隷を使役しなければ侵攻してこない。

 グランダノン大陸最強の軍事力を持ち、最大の影響力を持っているが覇権を狙うような動きはしない。

 友好的な関係を結べば、経済や技術で支援もしてくれる。


 現在のグランダノン大陸でサロモン王国と取引できないのは、国を運営していく上でデメリットばかりだ。


 サロモン王国と手を組んだ国々の食糧事情や生活環境は改善され、特産品の原材料栽培などで技術支援し、国の経済を盛り立てている。

 逆に手を結ばないとしたら、周囲の国から新たな技術で製造された商品が入ってくるし、住民はそれらを好んで購入するだろう。

 それらの商品が魅力的で皆が欲しがるのは、旧リエンム神聖皇国時代から判っている。


 それは富の流出を意味している。

 経済的に収奪されるようになってしまう。

 取引禁止などしたら、移住希望者が出るかもしれないし、出なくても現状に強い不満を抱えるのは確実だ。

 だから、他国とは異なる商品を生み出して、外に流れる富を取り返さなければならない。

 それをサロモン王国と関わらずにできる算段があるのか?


 旧ジャムヒドゥンから分かれた三国も、サロモン王国の支援を得て内乱で生じた被害状況から立ち直り、三国の力は内乱前よりも高まっている。新リエンム神聖皇国とケアリズ、ノーダンが共同でジャムヒドゥンと争うことになれば敗北は必至の状況だ。


 ジャムヒドゥン三国はサロモン王国の影響下にある。

 自分達もサロモン王国と関係を結び、問題が生じたときとは間に入って貰えるようにすべきだろう。


 ヤハヌスとライノスも旧リエンム神聖皇国の滅亡させるきっかけを作ったサロモン王国に対して思うところがないわけじゃない。

 だが、数十万の住民を抱える立場になった以上は、個人的感情は抑えなければならない。


 「お前達とアンドレイのコムネスとは手を組むし、ジャムヒドゥン三国とも組んでも良い。いや、サロモン王国以外の国とだったらどことでも同盟でも不戦条約でも結んでいい。だがサロモン王国とだけは組めない。」


 「何故そこまでサロモン王国を拒絶する?」


 ライノスが怪訝そうな口調でアイアヌスに聞く。


 「リエンム神聖皇国がこうなった責任が俺にはあるからだ。」


 「ジャムヒドゥンへ攻めて、ゼギアス等にやられたことに責任を感じてるのか?」


 「あの戦いで俺が負けなかったらこんなことにはなっていないはずだ。ゼギアスは俺の敵だ。」


 「だとしても、力を蓄えるまではサロモン王国を利用すればいいではないか?」


 「お前達はゼギアスを判っていない。俺達が騙そうとしても通用などしないぞ。将来あいつと戦うためにあいつを利用しようという腹づもりがあるなら最初から手を組もうなどと考えるな。拒絶されて恥を掻くか、それともこちらの弱みを握られて反抗できないようにさせられるだけだ。・・・・・・俺にはあいつの力が判るんだ。」


 「俺にはお前の気持ちが判らない。ゼギアスがそこまでの奴なら、なおさら敵対するのは愚かではないか。それにリエンム神聖皇国に拘る必要もないだろう?」


 アイアヌスの固い決意は表情や口調から伝わってくる。

 ヤハヌスもライノスもそれは判る。

 ゼギアスに負けたことがそう思わせるのかもしれない。

 だが、戦いでは勝敗は時の運だから、大敗したとしてもそれに拘るのは愚かしいではないか。


 「・・・・・・愚か・・・・・・そうかもしれん。俺が死んだ後にサロモン王国と手を組むことまで許さんとまでは言わないが、俺が生きてるうちはダメだ。耐えられん。」


 「勝てる見込みはあるのか?」


 「今はない。将来もないだろう。」


 「国が弱体化するだけだぞ?」


 「ああ、そうかもしれん。」


 「お前の意地に国の存亡をかけるのか?」


 「滅ぶ前に、誰かが俺を倒しに来るだろうよ。」


 「アイアヌス、お前は間違ってる。今すぐライガルトに王座を譲れ。お前の破滅願望に国や国民を付き合わせようとしてる。」

 

 王としては明らかにおかしい言動を続けるアイアヌスにライノスが言い切る。


 「・・・・・・殺してくれ・・・・・・。」


 「は?そんなことできるわけはないだろう。」


 「あの時失った二十万の兵を思い出すと恨みや憎しみが後悔と共に膨れ上がってどうにもならないんだ。あの豊かで賑やかだったハリエンスが今の様に落ちぶれてるのを見ると苦しいんだ。」


 「・・・・・・ライガルト、こいつどうしたんだ。壊れてしまったのか?」


 ヤハヌスはアイアヌスの言動を気味が悪いと感じてる。


 「いや、壊れちゃいない。まだ壊れてはいないが・・・・・・アイアヌスは真面目過ぎるんだ。だからもうじき・・・・・・。」


 ライガルトがライノス達に話しを続けようとしたところへ、ここに居る全員がよく知っている男達が会議室の扉を開けて入ってきた。


 「よう、みんな元気そうだな。」


 明るい声で挨拶しながら入ってきたのはバックスとアンドレイだった。

 二人の姿が目に入ったアイアヌスは、ライガルトを睨む。


 「お前が呼んだのか?」


 「ああ、俺じゃあアイアヌスの相手には不足だからな。」


 アイアヌスの強い視線を受け止めてライガルトは答えた。


 「アイアヌス。うちの国王と戦いたいらしいな。それは簡単だが、その前に俺を苦しめることくらいできなきゃ話を通してやるわけにはいかん。俺にも配下としてのメンツがあるんでな。」


 バックスは部屋に入ってきた時の明るい表情を引きしめて話す。


 「望むところだ。」


 アイアヌスは席を立ち、”神殿の裏でやろう”と言って、バックス達の横を通り過ぎて部屋を出て行った。


 「俺が立ち会い人をやる。いいか?」


 アンドレイが部屋に残ったバックスを含めた四名に言う。

 全員が頷いて、席に座っていた三名は立ち上がり、バックスの後ろをついていく。

 最後にアンドレイが懐かしむように見渡したあとに部屋を出た。




・・・・・・

・・・


 腕を組んで立ち、バックスとアイアヌスの勝負をアンドレイは見ている。

 四大属性魔法を全て駆使してバックスを攻め続けているが、アイアヌスの攻撃はバックスを苦戦させることはできないでいる。

 

 もともと自力の差は大きく、ヤハヌス達もアイアヌスがバックスに勝てるとは思っていない。

 だがそれでも多少はバックスを慌てさせることくらいできるかもしれないと期待していたが、その期待は外れている。

 バックスは風属性魔法を得意としているのだが、アイアヌスが火属性魔法を使えば、火属性魔法で攻撃を食い止め、水属性を使えば水属性でとアイアヌスの使う魔法の属性に合わせて相殺し、風属性魔法でアイアヌスを攻撃しないでいる。


 ”バックスは手を抜いている”


 アンドレイを含め全員がそのことを判ってる。

 手合わせしているアイアヌスもそのことは感じていた。

 バックスの力は十分に判っていた。

 だから苦戦させることも難しいとは判ってたのだが、バックスを少しも本気にさせられないでいる自分に苛立っていた。

 

 「馬鹿にしてるのか?」


 攻撃を止めてアイアヌスはバックスに近づきながら睨む。


 「そうじゃない。俺がゼギアス様にされたことをお前に体験させているんだ。」


 「・・・・・・バックスでも、手加減されるのか・・・・・・。」


 ヤハヌスが驚いたようにつぶやいた。


 「言っとくけどな?俺とバックスの二人がかりでも、ゼギアス様を一歩も動かすこともできずに遊ばれるんだ。」


 アンドレイは”化物にしてもほどがあるだろう。”と苦笑していた。

 

 「魔法使用しながら近接戦闘しても同じだぞ。俺達の魔法も剣もあの人を傷つけることはできなかった。」


 背後にアイアヌスを置いたままバックスはアンドレイの方へ近づいて言う。

 そしてアイアヌスの方へ振り向き。


 「俺に遊ばれたと感じたならゼギアス様と戦っても同じことを感じるだろう。どうする?それでもうちの国王と戦いたいか?」


 「今ではあのカリウスだってゼギアス様に汗をかかせることもできないからなあ。」

 

 アイアヌスに声をかけたあとバックスとアンドレイは顔を見合わせている。

 ”うちの国王とまともに戦える奴を逆に見てみたいぜ。”と言うバックスにアンドレイも頷いている。


 「アイアヌスがバックスに手が届かないのは判っていた。だがここまで力の差があるとは・・・・・・。」


 ライノスは驚きを隠さずにつぶやいた。

 そのつぶやきを聞いたバックスが答える。


 「俺もアンドレイも・・・・・・ゼギアス様に鍛えられてるからなあ。魔法力は限界に達していたから、魔法の使い方をだがな。」


 「おかげで以前と同じことを魔法の消費を抑えてやれるようになったし、新しい魔法を教えて貰ったんで戦い方も増えたな。」


 ”あの人、どこまで強くなるんだ?”とアンドレイがバックスに笑う。


 「楽しそうだな。」


 悔しげなアイアヌスにバックスが答える。


 「ああ、楽しいぞ。国が豊かになり住民も明るい。国王だろうと誰とでも気さくに話せる。戦いとなっても俺達の後ろには化物が心配そうに見てくれてる。毎日新しい発見があるしな。楽しくないわけがない。」

 

 「戦闘神官としての誇りはもう無いのか?」


 「「ない!」」


 アイアヌスの問いにバックスとアンドレイが揃って即座に答えた。

 

 「そんなもんに何の価値がある?戦闘神官の誇りなんかより、楽しく暮らせる方が大事だな。」


 「ああ、そうだな。領民の顔が明るくなっていく様子は見てるだけで楽しい。そのためなら戦闘神官の誇りなんかどうでもいいさ。」


 「ゼギアス様なんか、早く国王を辞めてお妃様達とイチャついてばかりの生活送りたいと言ってるぞ。」

 

 ”ハーレムライフと言ってたな。”とアンドレイはバックスに言う。


 「二人とも変わったな。」


 ヤハヌスが、明るくなり話しやすくなった二人を見て言う。


 「変わるしかないさ。責任を果たして難しい顔をするタイプはサロモン王国には居ないしな。難しい顔していたら仕事から外されるかもしれん。国王からとにかく楽しめと言われるんだ。楽しめないなら別の仕事をしろとも言われるしな。」


 「俺も感化されたな。しかし・・・・・・ゼギアス様が一番楽しんでないかもしれんな。特に最近は早く辞めたいって言葉を頻繁に聞くぞ?」


 「ああ、任せられる人材が揃ってきたんでそろそろ引きこもりたいとも言ってたな。・・・・・・まあ、俺達の話はどうでもいい。アイアヌス、どうする?」


 「堅く考えすぎだ。アイアヌス、肩から力を抜けよ。遊びたくなったら俺もバックスも相手してやるからさ。今は立場は違ってるけどお前を心配しているんだ。」


 「・・・・・・。ライガルト、国はお前に任せていいか?」


 「どうするつもりだ?」


 「・・・・・・ゼギアスに・・・・・・俺の気が済むまで遊ばれてくる。」


 「物好きだな。だが喜ぶと思うぞ。最近は遊び相手が居なくなってつまらんと言ってたからな。」


 バックスは両手を開きヤレヤレと首を横に振って呆れたように”好き好んでゼギアス様の相手をしたがる奴が居るとはな”と言う。

 

 「いつか戻ってこいよ。」


 ライガルトはアイアヌスを見て”それまで預かっておく”と了承した。


 「ということは、俺達はサロモン王国と組んでも文句はないな?」


 ヤハヌスがアイアヌスに確認する。


 「好きにしろ。」


 ぶっきらぼうな口調の返事を聞いたライノスは”アイアヌスらしいな”と笑っている。


 「あ、うちの国王は今、別の大陸で竜退治してるからいつ会えるか判らんが必ず会わせてやる。」


 「は?竜退治?」


 バックスの返事を聞いたヤハヌスが確認する。


 「うむ、竜が生まれ続けて暴れてるらしくてな。ゼギアス様とカリウスが交代で退治してるらしい。」


 「それは・・・・・・こっちの大陸は大丈夫なのか?」


 ライノスが深刻そうな表情で聞く。


 「判らん。だからお前達も備えておけよ。」


 眉間に皺を寄せてバックスは答える。


 「俺はいつまでも待つさ。とにかくゼギアスに俺の気持ちをぶつけないと俺は先に進めない。」


 竜の話を聞いてもアイアヌスは無表情のままだ。


 「判った。じゃあ、そういうことなんで俺達はそろそろ戻る。また会おう。」


 アンドレイとバックスは挨拶を済ませて転移していった。


 「竜か・・・・・・こっちに出てきたら・・・・・・。」


 「ああ、協力し合わなければマズいな。」


 ヤハヌスとライノス、ライガルトは顔を見合わせて頷いた。



 この時点で情報を手に入れたことは幸いだった。

 やがてグランダノン大陸にもラゼハードが生み出す竜が出現する。

 その際、準備を整えておいたおかげで被害を最小に抑えることになる。

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