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ロード オブ フロンティア ―― 次元最強の転生者  作者: 湯煙
第二部 原初の竜編 第一章 攻の章
86/99

86、本格的侵攻に向けて

 カリネリアが送ってくれた五千名の部隊が到着した。

 最初に完成した補給船でカリネリアからレイビスを経由してテンダールへ運んできた。

 部隊を統率しているのはセリーナの弟で、カリネリア軍事総督ホーディンの副官を務めてるナダールだ。


 カリネリアから送られてきたのは地上部隊四千名とインフラ整備部隊九百名、医療などの生活支援隊が百名。

 これらは予定通りだったが、驚いたのは、その他にレイビス国王クリストファーとサラ、その付き人三名まで来たことだ。

 

 ナダールはダヤンへ部隊の引き継ぎを行い、その後補給船と共にカリネリアに戻る。

 まあ、今日明日くらいはゆっくりしていって貰いたいのでその旨を伝えると喜んでくれた。


 ホーディンはいい奴だし仕事もできる奴だが、俺と一緒で人使いは多少荒いからな。


 自分では判らないことでも他人が見れば判ることがある。

 これもその一つだ。

 ホーディンも自分では人使いが荒いなどと思ってもいないだろう。

 そして俺も俺自身に対しては思っていないのだが、周囲から指摘されるとそんなものかなと思い対応する。


 だから、ここでナダールに休みを二日程度与えたところで、あの巨乳愛好家・・・・・・いや、ホーディンは頭を掻いて”仕方ないですねぇ。”とか言って苦笑する程度だろう。


 ナダールには後でエルザからセリーナの最近の様子でも聞いて安心して休んで貰おう。

 これからも補給船の運用ではナダールに働いて貰わなきゃならないしね。 

 

 今回は人員だが、十日後の補給船では物資が届く。

 フェンニーカ大陸では手に入らない良質の穀物や珍しい果物も大量に運ばれてくるはず。

 テンダールの住民に大盤振る舞いしようと思っている。


 相変わらずイケメン貴公子のクリストファーに近寄り、ここに来た理由を聞く。


 「どうしたんだ?クリストファーが来るなんて聞かされていなかったんだが。」


 肩までの金髪をなびかせてクリストファーは俺に笑顔を向ける。


 「お久しぶりです、ゼギアス様。ヘラルドから状況は逐一聞いていまして、こちらの人手が足りないというので参りました。」


 人手が足りないのはその通りなんだが、国王が自ら出向いてくる必要はないだろう。

 俺はクリストファーの横にいるサラに目を向ける。


 「どうしても自分も協力したいと言って聞かないの。だから私達も来たのよ。」


 「いや、だからと言ってクリストファーが来る必要はないんじゃないのか?」


 「お兄ちゃんも国王だけど来ているでしょ?・・・・・・。」


 ああ、なるほど。

 同じ国王なのにクリストファーが来ちゃいけない理由はあるのかとでも言われたのだろう。

 兄は化物で特別だからとはサラは言いづらかったのか。

 意味ありげな視線をサラは俺に向けてる。


 うーん、どうしたもんかな・・・・・・。


 一緒に戦うのならこちらの指揮に従って貰うことになるが、一国の国王にいちいち指図して良いのか?


 今回の作戦では、戦闘中はダヤンの判断を俺も仰ぐことになってる。

 いくら俺が国王でも、作戦上の都合というものがあり、それを無視して動くのは仲間を危険に晒すことになり問題だ。 

 だからクリストファーだろうとダヤンの指示には従って貰わなければならないんだが、ダヤンは気を遣わねばならずやりづらいだろうな。

 

 「サラ、ダヤンからの指示はお前に伝える。サラからクリストファーへ伝えてくれるか?」


 「ううん、お兄ちゃん。やりづらいかもしれないけどクリストファーへ直接指示してよ。それで問題がちょっとでも起きたら連れて帰るから。」


 あ、これはサラが散々注意したのにそれを押し切ってクリストファーは来たんだろうな。

 サラのクリストファーを見る表情には呆れたような・・・・・・困ったものだというようなそんな感じが見える。


 クリストファーの気持ちは判らないでもない。

 サラを嫁に貰うに足る資格や実力があると示したいだろうし、俺と対等であると示したいんだろう。


 だが、国王と国王の比較なんか意味は無いんだ。

 国と国を比較しても意味は無い。

 どちらも国民が自分の国を大事だと思っているならそれでいいんだ。

 

 サラのことにしても、サラがクリストファーを選んだという点を重視してくれればそれでいい。

 選ばれるだけのモノを持ってることをクリストファーは誇ればいいだけなんだがな。


 「そうか、判った。じゃあ、ダヤンの指揮下に入れよう。特別扱いはできないぞ?」


 「はい。それで構いません。」


 クリストファーも自然な態度で了承した。

 

 俺はダヤンにクリストファーをヘラルドの隊に合流させるよう伝え、サラはどうするのか聞いた。


 「私達もクリストファーと一緒に動くわ。ここにはクリストファーの婚約者として来たんだし。」


 そうか、俺の妹としてだとどうしてもヘラルドの隊とじゃ別行動になりやすい。

 サラとカリウスは、その戦力を個別に利用したくなるしな。


 「判った。じゃあ、そのつもりでこちらも作戦を組むから宜しくな。」


 俺の言葉に、カリウス等サラの付き人達も頷く。

 サラとクリストファーも頷いて、ヘラルドの隊と合流するため去って行った。


 援軍が来たので予定通りテンダールから北上するための作戦の準備を始める。




◇◇◇◇◇◇




 「・・・・・・以上のように、首都エルドラドまでの間にはいくつかの村があります。そこに常駐している兵数はせいぜい数十名です。ですから、占領自体はテンダール同様難しくないでしょう。ですが首都には数千名の軍が複数置かれてるようです。それがいつ出てきてもおかしくないので、空戦部隊には首都の動きを常時偵察して貰います。あと東部と南部への備えでテンダールには五百名程度は残していきます。今までは東部や南部からの動きは全くありませんでしたが、今後も同じと考えるのは危険ですからね。」


 ダヤンが今後の予定を各隊の指揮官へ説明している。


 俺は一応万が一に備えて付いていくけど、基本的には何もせず見守る役割だ。

 年長の子供の遠足について行く親の気分ってこんな感じなのかもしれない。

 特にすべきことは無いと思うのだけど、とりあえず万が一に備えて一緒にいるみたいな感じ。


 ・・・・・・そうだ。

 うちの学校には遠足や運動会などの行事は無いから、今度ブリジッタに話してみよう。

 これ以上仕事増やすなと怒られるかもしれないが、言うだけは言ってみよう。

 成人間近の子供には職業体験とかいいかもしれないし・・・・・・。


 「ゼギアス様、何か付け加えることはありませんか?」


 ダヤンが俺に話しを振ってきたが特に言うことはない。

 だが、一言だけ言っておこう・・・・・・っていつも同じことしか言わないんだけどね。

 俺は立ち上がり皆を見回して言う。


 「生きて帰れなければ負け。これをお前達も部下に伝えるのも忘れないでくれ。占領なんかもし今回失敗しても次に成功させればいい。だが、お前達が死んだら次はないんだ。無理することはない。必ず生きて戻ってこいよな。ダヤンの作戦だから、その辺は十分配慮してると思うが一応念のためにな。」


 ”はい”と頷く皆に俺は笑顔を返す。

 

 「作戦は明後日早朝八時から開始します。各位十分な準備と休息をとるように。では解散。」


 司令部のある建物の一室から皆が出て行く。

 ダヤンに確認したいことがあるので、俺は残る。

 

 「それで・・・・・・アルステーデとライナールもこちらへ向かってるということだが、どうしてあの子達を参加させることになったんだ?」


 皆へ説明する際に使用した書類をまとめているダヤンへ俺は腕組みしながら聞いた。


 ティアーラは首都エルに残ることになったが、その二人の子供達は侵攻占領作戦に参加するという。

 コーネストは祖父と父のかたきだというから気持ちは判る。

 だが、きちんと訓練もしていない者を参加させるのは俺は反対だ。

 

 「コーネストが今の身体を捨てて他の誰かに憑依した時、それを見分けられるのがティアーラ達だからです。」


 コーネストしか知らないであろうこと、誰かに知られているとコーネストが困ること、そういったことをこちらに居る者のうちで知ってるのはティアーラ達くらい。だから、対コーネストで必要になるかもしれないので俺のそばに置くということらしい。


 うーん、多分、二人がどうしても参加したいと要望し、その妥当な理由として挙げたんじゃないかと思うが確かに一理はある。

 

 理詰めで考える者は理屈に弱い。

 ヴァイスハイトとズールも断り切れなかったのかもしれない。


 ただ、あの二人は最終目標を達成する際に、多少の犠牲ならいとわないところがある。

 アルステーデ達にもしものことがあってもそれは仕方ないと割り切ってるかもしれない。

 俺は犠牲ありきの考えは受け入れられないから、ヴァイスハイト等が用意した理屈かもしれない。

 あの二人は俺が嫌うことはしないから、この見方はうがち過ぎだろうけども。


 「言いたいことは判るが、それでも俺は気に入らないな。」


 「ヴァイスハイト様から連絡があったとき、私もゼギアス様ならそう言うだろうと思っていました。ですが、命を失うことになっても目的を果たそうとする者をどうしたら止められるのでしょう?」


 彼らは首都エルから自分たちだけでフェンニーカ大陸へ向かおうとしたらしい。


 ティアーラ達を首都エルへ連れて行ったのは俺だ。

 彼らがどうしても戻りたいというのなら、こちらへ連れてくる責任がある。

 だからヴァイスハイト等は彼らを説得するのを諦め、こちらへ転移させると決めたらしい。


 「それに彼らがこの大陸へ来るというのなら、ゼギアス様のそばに置いておくのが一番安全でしょう。」


 「・・・・・・そうか。」


 彼らの状況を説明したダヤンの表情にも諦めがある。

 ダヤンの瞳も暗いしな。

 これ以上ダヤンやヴァイスハイトを責めることはできない。

 ダヤン達は俺の意を汲んでできるだけ留めようとしたのだ。

 そしてそれならば俺のそばに置いておき、彼らを守るのが一番安全だと判断したのは自然なことだ。

  

 「・・・・・・それで、いつこちらへ送られてくるんだ?」


 「今夜の予定です。到着したらゼギアス様付きにしますので、宜しくお願いいたします。」


 了解したと伝えて、俺は部屋の外へ出る。


 しかし、困ったな。

 俺は後詰めだから二人の要望を叶えられる状況が生じるとしたら、それはコーネストとの直接対決の場だろう。

 コーネストが相手なら、俺は前線で全員の様子を見守り、憑依や操られた者を結界で隔離する。

 そして俺自身がコーネストの相手をすることになる可能性が高い。


 その際、アルステーデ達をしっかりと守ることができるのか?


 いや、こんな弱気ではいけない。

 仲間達と同様に必ず守るのだ。

 決意を固めたからといって守れるわけではないが、必ず守ると決めてそのための方法を考えるべきなんだ。


 宿へ向かう俺は難しい顔をして歩いていたのだろう。 

 

 「どうかされたんですか?ゼギアス様。」


 先ほどダヤンから説明を受けていたマルクとイオニアスが、パンを片手にベンチに座っていた。

 声をかけてきたのはイオニアス。


 「ちょっとな。・・・・・・そうだ、イオニアス。お前、無理して戦ってたりしてないだろうな?」


 アルステーデ達と同様に復讐心を抱えるイオニアスに近づき危惧していることを話すと、ギクッとした動きが一瞬見えた。


 「隠してもゼギアス様にはどうせバレるぞ?」


 マルクが苦笑しながらイオニアスに言う。

 そうだよなとまずいことをしでかした子供のように言いづらそうにイオニアスは言う。

 

 「お前の気持ちは理解してるから多少なら咎めないが・・・・・・。いいか?お前に無理をさせるために鍛えさせたんじゃないぞ。お前達にはいずれこのフェンニーカ大陸で果たして貰わなければならない仕事があるんだ。特にイオニアス。お前の故郷をより良い国に変えるためにお前は生き残らなければならないし、さらに力をつけなきゃならないんだ。・・・・・・説教臭いこと言って済まないが、とにかく無理するな。いいな?」


 ばつの悪そうな顔のままイオニアスは頷いた。


 「・・・・・・ゼギアス様。奴らに復讐したいというこの気持ちをどうしたら抑えられるのでしょう?」


 「綺麗事を言うのは簡単だし、もっともらしい理屈をつけることも可能だ。だがな、お前が欲しいのはそういうモノじゃないだろう。ただな、お前はどうしてテレジアを助けた。アーニャを見てお前はどうしたらいい?その辺りをじっくり考えろ。きっと答えはあると思うぞ。」


 テレジアを助けたのは、ザンフレッディアによって生け贄にされる犠牲を見過ごせなかったからだ。

 権力を持つ者の理不尽な行動で傷ついたアーニャの心をどうしたら慰められる?

 テレジアもアーニャも、あの時のイオニアスと同様に力がないから傷つけられた? 


 力の無い者は大勢いる。   

 全ての力なき者が権力を持つことなど不可能だろう。


 傷ついた全ての者が復讐を願ったとしてそれは叶えられるのか? 

 いや、叶えるべきなのか?


 イオニアスは復讐の道を選んだし復讐できる方法を手に入れたからできるが、テレジアやアーニャ達のような大勢はそうではない。

 ではどうしたらいい?


 ゼギアスはそれを考えろと・・・・・・自分なりの答えを探せとイオニアスに言っている。


 「・・・・・・判りました。考えます。」


 少し苦しそうに答えるイオニアスの表情から、理性と感情がせめぎ合っているイオニアスの様子が俺には感じられた。


 それでいい。

 考えるんだ。

 そしてイオニアスなりの答えを見つけ出せたなら、その時きっと復讐感情のいばらの園から脱することができるだろう。

 それまで悩め。


 イオニアスは復讐を果たす力を持ち、それを使用して多少なりとも憂さを晴らしたのだろう。

 憂さを晴らしたのに収まらない気持ちを持て余してると自覚してる。

 だから俺の言うことにも聞く耳を持てる。


 ではアルステーデ達はどうしたらいい。

 どうしたら理解して貰えるだろう。

 

 俺がコーネストを倒したら、それで彼らの気持ちは安らかになるのだろうか?

 彼ら自身の手で復讐を遂げなければ彼らの気持ちは行き場を無くしてしまうのだろうか?


 ・・・・・・判らない。

 

 俺も考え続けなければならないようだ。

 とりあえずは、アルステーデ達の身の安全を守ってやる。

 俺なりの答えが見つかったらその時は話してみよう。



・・・・・・

・・・



 もうじきアルステーデ達が到着するので、俺とエルザは宿で着替えていた。

 そろそろ暑い季節になっていて、風呂で汗を流してから出迎えようと考えたのだ。

 俺は着替え終え、エルザの着替えを待ちながら聞く。


 「なあ、エルザ。サロモン王国で暮らしてからさ?エルザ達を奴隷として使役していた奴らへの思いをどうした?」


 俺の突然の質問に、え?と驚いた表情をちょっと浮かべて俺の顔をじっと見たあと、再び上着を身体に合わせながら答えてくれた。


 「何故、急にそのようなことをお聞きになるのか判りませんが・・・・・・・。ゼギアス様には大きな恩がありましたが、ゼギアス様が目指す国作りに協力することしか私達にはできることはありませんでした。私達は顔を合わせる度に話し合ったものです。私達と同じような目に遭ってる者達を受け入れられる国を一刻も早く作ることが、ゼギアス様への恩返しでもあり、奴隷の仲間達への助けにもなり、そして私達をこき使っていた連中への仕返しにもなると。そして奴隷解放をゼギアス様が宣言し、解放した奴隷をその時その時可能な限り受け入れて下さいました。あの当時シャピロとしばしば話したものです。私達の選択は間違って居なかったと。生涯変わらぬ忠誠をゼギアス様へ捧げようと。そうして暮らしているうちに、私達を使役していた者達への怒りを忘れたことはありませんが、恨みに囚われて感情的になることはなくなりましたね。」


 私達はゼギアス様と出会えて幸運でしたと、上着のボタンを留めながら昔を懐かしむように遠い目をしてエルザは言う。

 

 「そうか。だったらアルステーデ達にも仕事させたほうがいいのかもな。」


 「そうですね。何か・・・・・・占領作戦に関係することをさせて置いた方が、余計なことを考えずに済むかもしれません。」


 着替えを終えたエルザが椅子に座ってその様子を眺めていた俺に近寄り、お待たせしましたとチュッと口づけして微笑んだ。

 アルステーデ達はレイビス経由する何回かの転移を経てここテンダールまで転移して来る。

 俺達が滞在してる宿や司令部が面してる広場へ転移してくる予定だから、ダヤン達と司令部で待っていればいいだろう。

 俺は腕を出し、その腕に手を組んだエルザと共に司令部へ向かった。




・・・・・・

・・・



 「ヴァイスハイトから言われてると思うが、二人は俺の指示で動いて貰う。さしあたりは二人には体術と魔法を鍛えて貰う。もちろんこれからの作戦ですぐ活かせるわけではないが、先々を考えると今からでも鍛えておく必要があるだろうと思うからだ。本来なら訓練を担当する者が他に居るのだが、ここでは俺が二人を鍛える。今日はゆっくり休んで、明日の朝食後から始めるのでそのつもりでいてくれ。」


 二人を作戦に組み入れることは今はできない。

 だが、復讐という強い気持ちがあるなら多少きつい訓練でも耐えるだろうし、疲れて余計なことを考えることもできなくなれば、それだけでも二人にとってはいいだろう。デーモンである二人は多分体術よりも魔法が得意だろうが、体術もそれなりになって貰わなければならない。魔法の使用時に必要となる基礎体力の底上げはもちろん、魔法を使用できない場面を想定して身体一つで戦えるようになって貰わなければならない。剣や槍は俺が教えられるほどではないから、そこは地上部隊の誰かを借りるつもりだ。


 訓練の他は、ライナールは俺の付き人をアルステーデはエルザの付き人をしながら、サロモン王国の生活に慣れて貰う。

 二人の部屋を宿で用意して貰い、エルザに連れて行って貰う。


 「そうだ。アーニャですが従軍して占領先の住人説得に協力するということです。それ以外では地上部隊の雑務を手伝うことになります。」


 エルザ達を見送ったダヤンが俺に報告する。

 

 「あくまで後方部隊ということだな?」


 「ええ、そうです。戦闘中は最後方で控えて貰うことになります。」


 それならばほぼ危険はないだろう。

 戦争中だから、テンダールに居ても多少のリスクはある。

 サロモン王国へ移住する気になった時は移住させればいい。

 アルステーデ達にも住民の説得には協力して貰うしな。


 「判った。非戦闘員なんだから十分注意してやってくれ。まあ、住民の説得への協力は助かる。」


 そうですねと返事して、ダヤンは俺に明日以降の作戦について再確認する。

 空戦部隊がまだ有効かどうかで方針は変わるが、基本的には問題はないだろうとのこと。

 ただ、クリストファー等レイビスの部隊の扱いについてで、


 「カリウス様やサラ様が出ると・・・・・・戦略も戦術もないのですが・・・・・・。」


 「まあね。だがクリストファーが危険にならなければサラもカリウスも様子見するだろう。サラには一連の作戦でうちのメンバーに経験を積ませる必要があると伝えているからな。」


 俺やサラ達が前に出るとすればコーネストを相手にする時だとサラには言ってある。

 

 「エルドラドまではクリストファーの好きにさせていいんじゃないか。ヘラルドが居るから空戦部隊や他の地上軍との連携も問題ないだろう。」


 サラ達が出ることはないと聞き、ダヤンは一安心している。

 そりゃそうだよな。

 俺が出ないようにしていても、サラ達が出たら意味が無い。

 サラやカリウスの魔法に巻き込まれないよう、部隊には下がって貰わなきゃならなくなる。

 村々の占領で若手を育てるつもりで作戦をたてているから、ダヤンにはコントロールしづらいサラ達の動きは気になるのだろう。


 「それにしても・・・・・・ここ一年ちょっとで貫禄ついたな?」


 ダヤンはもともと少し強面こわもてで、綺麗な青い瞳も冷たく見えてしまう。

 だが話すと気さくな奴で、サロモン王国へ来る前は苦労していたらしく部下への気遣いも細やかにする。

 きちんと揃えた口髭のせいかもしれないが、司令官としての貫禄がついた気がする。 


 「年齢も年齢ですしね。貫禄が無いと言われないようには気をつけてますよ。」


 短めに刈ってある髪に手をやり、照れたようにダヤンは答えた。

 ズールの誘いに乗ってうちの国に来てから十年過ぎるのか、あの時は確か二十八か二十九だったから、そうか四十歳になるのか・・・・・・。


 「フェンニーカ大陸でのサロモン王国の体制がどうなるかはまだ決められない。だが、この国に一定の影響力を持つ領地は必ず残す。その領地をまとめるのは、ダヤン、お前だ。頼むぞ?」

 

 「昔、ジャムヒドゥンで中隊長やってた時、上官が仕事を任せてくれないんでつまらなかったんですよ。それでズールの誘いに乗ったんですが・・・・・・将来領地を任されると当時の私が知ってたら・・・・・・。」


 「ズールの誘いには乗らなかった?」


 「いえ、急いで嫁さん貰ってましたよ。」


 「アハハハハハ、そうかあ、そういや妻帯したのはホーディンだけか・・・・・・ゼアリーも独身だったな。」


 「ええ、ゼアリーと会うと、その話をします。あの巨乳好きはちゃっかり二人目も貰いましたが、私とゼアリーは忙しさにかまけてましたから。」


 「今回の仕事が落ち着いたら是非嫁探ししてくれよ。知ってるだろ?サロモン王国には旦那探しで忙しい女性が大勢居るんだ。種族に拘りが無いなら今すぐにでも嫁見つかるぞ。」


 二十一世紀の日本だったら死亡フラグとなるような話だが、あれは結婚がそれなりに大きなイベントだからフラグになるのだ。

 サロモン王国では、結婚する意思さえあれば可能な程度のイベントだ。

 

 結婚習慣が無い厳魔のヴァイスハイトはまだしも、ダヤンやゼアリーを含む国の中枢に居る仲間で独身男性への結婚は勧めるようにしよう。

 亡命者を大勢受け入れたけれども男女比は四対六程度だし、放置しておくと女性しか産まない種族があるから三対七に戻ってしまう。

 ガンガン結婚させて、ガシガシ男の子を産んで貰わねば・・・・・・って産み分けなんかコントロールできないから運頼みだがな。


 冗談を言い合い俺とダヤンは笑ってソファから立ち上がる。

 

 「じゃあ、いよいよ明日から本格的な侵攻作戦を始める。頼むぞ?ダヤン。」


 「エルドラドまでは簡単に進むでしょう。諜報部からもザンフレッディアに大きな動きは見えないと報告が来てますしね。」


 判ったと返事し、ダヤンを置いて俺はもう一人悩んでいるはずの男のところへ向かう。



・・・・・・

・・・


 飛龍の待機場所がある牧場跡。

 その周囲には兵士用の宿舎が二つと、今回増援で来た兵達のテントが並んでいる。

 空戦部隊のメンバーは飛龍の世話をしている。飛龍の身体を拭き、餌を与えてる。

 その様子を横目で見ながら、宿舎に居るマルクのもとへ歩いた。

 

 宿舎の前に居る兵と挨拶した後、マルクを呼んで貰う。


 マルクが来るまでの間、宿舎前に居る兵達を慰労する。

 家族や友人と遠く離れた地で任務を果たしてくれているのだ。

 感謝と労いの気持ちを伝えるべきだろう。


 兵達と雑談しながら待ってると、マルクがヘラルドと一緒に出てきた。


 「ゼギアス様、何かご用事ですか?」


 こんにちはと俺に礼をするヘラルドに”部隊運用に関してまた教えて下さいね”と挨拶してから俺にマルクは聞く。

 ヘラルドはいつでも聞いて下さいと言って、俺達と別れた。


 「ほう、ヘラルドに教えて貰っていたのか?」


 「ええ、数十人の部隊から数千人の部隊を・・・・・・といってもとりあえずは数百ですけどね・・・・・・それでも規模が大きく違うのでヘラルドさんにいろいろ教えて貰っていたんです。」


 ふむ、その辺を心配してやってきたが、どうやら取り越し苦労になりそうだ。

 

 「ああ、ダヤンの指示に従うのが基本と言っても、いきなり大軍をまとめろと言われて困ってるんじゃないかと思って来たんだが、どうやら心配はなさそうだな。」


 「ありがとうございます。ここに来てからずっとダヤン司令からいろいろと教えられてきましたから、やるべきことは判ってるんですが・・・・・・それでも実践経験ありませんからね。やはり不安ですよ。」


 「そうか。だがいい機会じゃないか。お前が失敗しそうになったらダヤンが後ろから怒鳴ってくれるはずだ。お前は考えた通りに思い切ってやってみろ。万が一の時は俺も居るからな。」


 頑張りますと笑顔で返事してから


 「そうだ。アーニャにはうちのジナイダを付けておくつもりですが宜しいでしょうか?」

 

 ジナイダはマルクの部隊で腹心の部下と言っても良いほどマルクと理解しあってるはず。そのような部下を後方部隊で民間人の護衛に付けるのはもったいないんじゃないかと理由を聞いた。

 すると、アーニャを最初に助けた顔見知りだから話しやすいだろうという理由もあるけれど、フェンニーカ大陸の庶民との付き合い方をジナイダには覚えて欲しいのだという。マルクの部隊はこれまで任務と任務に必要な訓練に明け暮れてきた。テンダールの住民との接触もそう多くない。だが、この先々を考えると住民の感覚を理解できる者がマルクの身近に必要だろうと考えたとのこと。占領作戦では必ず住民理解を求める場面がある。その際、フェンニーカ大陸の庶民感覚を知っている者が居れば対応も少しは楽だろうと。


 なるほどね。

 その役目は誰でもいいんだけど、できればマルクに進言しやすい者の中に居て欲しいということか。


 「そういう考えならいいんじゃないか?俺に反対する理由は無いし、どうせダヤンにも了解は既にとってるんだろ?」


 「はい。ダヤン司令からは思った通りにやってみろと言って貰ってます。」


 「なら、俺に確認をとる必要は無い。マルクなりのやり方を考えて実践してみろ。」


 うん、ダヤンの教育の下で成長しているんだろう。

 俺が余計なことを言わなくても良さそうだ。


 はいと答えるマルクに別れを告げて俺はエルザと合流するために宿へ戻る。 

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