表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロード オブ フロンティア ―― 次元最強の転生者  作者: 湯煙
第二部 原初の竜編 第一章 攻の章
82/99

82、コーネストの狙い

 ザンフレッディアのすめらぎコーネストの年齢が本当は幾つなのか誰も判らない。

 コーネスト本人ですら判らないのだから、正妻フレデットも知らなくて不思議はない。


 コーネストの年齢が判らない理由は、ある時になると姿形が全くの別人になる上、、種族でさえ別になるからだ。

 外見は別人になるが、記憶や能力はコーネストのままなのだ。


 コーネストと正妻フレデットの他にはこの理由は知られていない。

 コーネストはゼギアス同様に地球からの転生者だった。

 

 ただ、ゼギアスが地球の神から厄介払いされたのと違い、コーネストの場合はあくまで偶然。

 呼ばれし者と異なり、この世界で生まれ成長した。


 だが、呼ばれし者と同じく特殊な能力が発現し、コーネストはその力でザンフレッディアを建国しすめらぎとなった。

 

 異なる世界をまたいで転生すると、特殊な能力を有する理由はエルザークにもまだ判らない。

 ゼギアスやコーネストのような転生者や、ヴァイスハイトやリエラのような呼ばれし者に特殊な能力が発現してる以上、何かしらの理由があるのは確かだろう。だが、世界を分かつ次元の壁がどのような力を有しているのかはこの世界の神であるエルザークにも判らない。一つの世界を統べる神では数知れない異世界間を分かつ次元の性質を知ることは簡単なことではない。そもそも異世界の存在はゼギアスのような転生元を把握する者が居て初めて判るのだから。


 コーネストが転生して手に入れたのは、”幽身”という能力であった。

 実体がありながら、実体はないかのような・・・・・・地球の日本の概念で言えば、幽霊に近い存在になれる能力であった。

 この能力のおかげで、加齢やその他の理由で身体的限界が来た肉体を捨て、別の肉体に憑依しその者の意識や魂を消し去り、自身の意識や記憶そして能力を移すことがコーネストにはできた。実質的な不老不死を可能にする能力であった。


 ある時は病で、ある時は怪我で、ある時は加齢で、ある時は強靱な肉体を欲して、理由の如何いかんを問わずコーネストは幽身を使って生きてきた。

 

 コーネストを恐れて殺そうとした者は過去に何人も居た。

 だが、幽身を防ぐ能力を持つ者以外にはコーネストを殺そうとしても無駄であった。

 幽身には、憑依することの他に傀儡化という能力がある。

 傀儡化された者は意識操作されコーネストの意のままに従ってしまう。

 ケレブレアがゼギアスを倒そうとしてサラに使った能力をコーネストは持っていた。

 これは憑依するより難しく、やはり短時間しか有効ではないが、それでも殺そうとした相手を自殺に追い込む、もしくは他の敵を倒せるため強力な能力であった。


 幽身によって長い時を生き、他者を操ってフェンニーカ大陸に覇権を築いたコーネストだが、彼には不満があった。

 その不満も幽身の弱点に拠るものだった。


 幽身は、”気”の強い者には効かない。

 いわゆるモンクのような気を使って肉体や技を極める者には通用しない。

 モンクじゃなくても、強者の多くは強い気を持っている。

 それなりの強者じゃなければ通用するものの、例えば、過去にコーネストを暗殺しようと狙った者のうち幾人かには効かず、危うく命を落とす羽目になりそうなことがあった。

 

 コーネストは長い時を生き、また死から逃れる術を持っていて死と向き合う必要が無かったため、死を異常に恐れていた。


 通常、人は逃れる術がないから死をいつかは必ず自分にも訪れるモノとして受け入れる。

 もちろん誰でも死は怖い。できれば死にたくはないと思う者は多い。

 だが、コーネストが感じてる恐怖は、逃れられる手段を持つ者ならではの恐怖であった。

 つまり死ななくていいはずなのに死ぬことが恐ろしいという、死を当然の帰結として受け入れなくてはならない者には理解できないほど深く強い恐怖だった。他の者が諦めて受け入れるしかない死を、諦めなくていいからコーネストは受け入れられない。


 だから自身を鍛えるし、危険を及ぼしそうな者は全て殺す。

 そうやってコーネストは自分を守ってきた。

 建国し王座に就いたのも、権力という盾で自分の身を守るためであった。


 どんなに鍛えても才ある者には敵わないことは判っている。

 どれほど精神面を鍛えても、強い気を持つ者には幽身は効かない。

 そこでコーネストは自分より強い者を従わせる手段を探し、前世の知識と経験・・・・・・コーネストは前世で薬師を生業にしていた・・・・・・を利用して麻薬に手を出した。強い者本人もしくはその家族を麻薬患者にしてしまい、コーネストの言うことに従えば麻薬を渡すようにした。

 

 麻黄という植物を栽培しエフェドリンを抽出し、エフェドリンから合成してメタンフェタミン・・・・・・日本で言うヒロポンを製造していた。

 麻黄は痩せた土地でも栽培可能で、雑草や他の植物を除去していれば栽培は難しくない。

 メタンフェタミンは再使用欲求、つまり依存性が強い麻薬で、さらに情動不安を引き起こす。

 医療に詳しくない者が扱うにはとても危険な麻薬である。


 このメタンフェタミンを神の薬として渡すための組織がメサイア教であり、ザンフレッディアで暮らす者は全てメサイア教に入信させ、協会組織の上位階層の者と軍や政治の上層部には褒美として”神の薬”を使用させた。コーネストは自分の命を脅かす者が居なければ良いから、有能な者ほど中毒患者にしていき、使い物にならなくなった時点で何らかの理由を付けて職務から外していった。


 コーネストは注射器を職人に作らせたがその数は少ない。

 麻薬中毒者が一人一つ所有することは無理だった。

 麻薬中毒者達は、手に入れた注射器を使い回し、そして不潔な注射器を使用したため感染症も広まった。


 ザンフレッディアの首都エルドラドは麻薬を求める者の金で潤い、麻薬を求める中毒者が大勢居る都市だった。麻薬で心身を壊しまたは感染症に犯される者が常時多数居る、病んだ繁栄都市がエルドラドであった。





◇◇◇◇◇◇




 「すめらぎ、生け贄はそろそろ・・・・・・。」


 コーネストの正妻フレデットは、毎月行われる祭りで生け贄を捧げることをいさめようとしている。

 多くの者は知らないが、あることのために裏ではさらに多数の命を奪い続けていることもフレデットは止めさせたい。

 寝室で隣で横になっているコーネストに声をかけるフレデットの表情には恐れがあった。

 その恐れは、夫であるコーネストへの恐怖と、コーネストと共に自分が染めてる悪行への恐れがある。


 「もう少しだ。もう少しでアレが目覚める。さすれば我は不死の存在となれるのだ。」


 天井を見ながらつぶやくコーネストはフレデットの言葉に耳を貸そうともしない。


 「しかし・・・・・・アレが目覚めたとして・・・・・・。」


 「大丈夫だ。アレは我自身となるのだ。お前が教えてくれたことは本当だった。アレは不滅の存在だ。」


 コーネストはアレのことを考えると、自然と笑みが浮かんでしまう。

 念願だった不死不滅の存在になれるのだと。

 コーネストにしか為し得ない手段で・・・・・・。


 アレはコーネストのために存在し、太古から残っていたのだと信じている。

 コーネストのために在るモノをコーネストが活用しないのは罪以外の何物でも無い。


 「・・・・・・。」


 フレデットは、自身の夫でもあるすめらぎにアレの存在を教えたことを後悔している。

 一族に伝わる伝承を教えたことがこのような結果を引き起こすとは思いもしなかった。

 

 もう何十年前になるだろうか。

 コーネストが誰かから噂で聞いたと、フレデットの住む村・・・・・・キーラ族というデーモンの村・・・・・・で祀る竜の肉体を求めてやってきた。

 無理矢理にでもその肉体を調べようとしたので、当時の夫は村長としてコーネストを止めようとした。

 コーネストは不思議な術を使い夫は殺されたのだが、その時、竜の肉体のそばで殺された夫の遺体が吸収された。夫の遺体が煙のようになり、竜の身体に吸い込まれていったのだ。

 その時、一瞬だが竜の心臓が動いたのだ。

 ドクンッという心音はフレデリカにもコーネストにも聞こえた。

 遺体を吸収したためなのか、それとも遺体とともに魂を吸収したためなのかは判らないが、ずっと動かなかった竜の身体が動いたのだ。


 生きてる様子も無く、腐りもせずいつから存在していたのか判らない竜の身体。

 それが反応した。


 フレデットは、その竜の肉体が太古からずっとこのまま存在してきたと伝えた。

 腐ることもなく、動くこともなく、ずっとただ在るのだと。

 一族では、神だった竜の肉体であると伝えられてきたと教えた。

 為す術もなく、夫を目の前で殺されたフレデットには、コーネストの問いに沈黙することはできなかった。

 

 コーネストはその時から、竜の肉体に遺体を吸収させ続けてきた。

 竜の肉体は、遺体をいつでも必ず吸収するわけではなかった。

 ほぼ一月に一度、亡くなったばかりの遺体でなければ吸収しなかった。

 だが、吸収を重ねるたびに心音は続くようになった。

 何十年も続け、今では、数週間も心音は続くようになっている。


 コーネストは言う。

 この竜には意識や魂はなく、竜の抜け殻なのだと。

 この肉体が生命活動を取り戻したら、コーネストは憑依するつもりだと。

 そうすれば永遠に死ぬことのない身体を手に入れることになり、念願の不老不死になれるのだと言う。


 人ではなくなるではないかと聞くと、コーネストは既に人に拘っては居ないという。

夫を殺して手に入れたフレデットという妻があり、側室もいて長男と長女も居るというのに、人型を捨てるという。

 

 毎月捧げられる生け贄も、その遺体を竜の抜け殻に吸収させ続けていることも、フレデットにはもう耐えられない。

 だが、フレデットが居なくなったとしたら、今、自分がさせられている竜の巫女の役目を娘のゾーエにさせるだろう。

 生け贄の遺体を竜のそばへもっていき、捧げるというおぞましい行為をゾーエにさせるわけにはいかない。


 国や一族などを守るために行うのならまだ我慢もできよう。

 だが、このおぞましい行為はコーネストを不老不死にするためだけの理由で行われている。

 コーネストが竜に憑依し、竜の身体を手に入れたとして、その後コーネストが思い描いているように上手くいくモノなのか確信はない。

 コーネストは自信があるようだが、フレデットは神のごとき力を持ったこともある竜がコーネストの思い通りになると確信が持てない。


 その日を楽しみにしベッドで愉悦の笑みを浮かべているコーネストの隣でフレデットは、言い知れぬ不安を感じていた。




 

◇◇◇◇◇◇



 フレデットには、コーネストの前の夫との間に娘が居た。

 名をティアーラという。父が亡くなった時はまだ生まれて間もないころだった。

 ティアーラは、母フレデットがコーネストの妻として連れて行かれたあと一族の者達に育てられ、そして成人後村の男と結婚し娘と息子に恵まれた。

 長女はアルステーデ二十歳、長男はライナール十七歳になる。


 キーラ族は、フレデットがコーネストの妻になったので生け贄を差し出すことはほとんど無かった。

 差し出したのは、コーネストが強く望んだので・・・・・・ティアーラの夫となった者だけである。

 ティアーラの夫はティアーラの夫だから生け贄として望まれたのではない。

 彼は一族のなかで最も強い魔法力の持ち主で、その力を恐れたコーネスが彼の抹殺を望んだ。


 母を奪い、父と夫を殺されたティアーラがコーネストを憎み恨んだのは言うまでも無い。

 だが、それ以上に娘と息子がいつ生け贄に望まれるか心配であった。

 竜の肉体がある神殿が村にあるので、コーネストの配下が始終村人の動きを監視している。

 ティアーラは子供達を連れて逃げる機会を伺っているが、まだその機会が訪れていない。


 ・・・・・・その日は突然訪れる。


・・・・・・

・・・



 「母さん。ザンフレッディアに攻め込んだ国があるそうだよ。」


 薪を集めて戻ってきたライナールが、背負った薪を玄関脇に置いている。

 玄関先で洗濯していたティアーラは、口に指を当てて”あとで聞くわ”と小さな声でライナールがそれ以上話すのを止める。

 ティアーラと一緒にしゃがんで洗濯するアルステーデは、手の動きを止めずに二人の様子を伺っている。

 

 母の気持ちを察したライナールは無言で薪を積んでいる。

 

 「アルステーデ、干しておいてちょうだいね。」


 立ち上がって腰に下げた布で手を拭きながら、ティアーラは言う。

 アルステーデは頷き、ティアーラがライナールと家の中に消えていく様子を見ている。


 ”まったく・・・・・・あの子はうっかり屋なのよ・・・・・・。”


 周囲を見渡すと、ザンフレッディアの兵が村を回る様子が見える。

 ザンフレッディアに都合の悪い話をしてると気づかれた、難癖つけられることもあるのだ。

 

 でも、ザンフレッディアに攻め込んできた国がどういう国なのかによっては朗報だ。

 復讐に利用させてもらえるかもしれない。

 アルステーデ達だけでは叶えられそうもないが、ザンフレッディアを脅かすほど力を持った国ならもしかすると・・・・・・。


 表情には出さず、無言で洗濯しながら、ずっと待っていた機会が来たのかもしれないと考えていた。




 その夜、ティアーラは子供達二人を座らせ、決意を伝えた。


 「今日、これからテンダールへ向かいます。二人とも出かける準備をしてちょうだい。ここにはもう戻れないつもりでね。」


 ティアーラの表情は真剣そのもので、疑いを挟む余地はないように見える。

 ライナールからの情報の他にも村長からも聞いたところ、テンダールが占領されたというのは事実だと言う。 

 そして討伐軍も敗北したという情報も手に入ったとのこと。

 コーネストがどう動くかは判らないが、万が一生け贄を増やす可能性を考えると、このままじっとしてるのは危険だとティアーラは判断したという。

 

 「お母様。お母様の決意ですから私もライナールも従います。ですが、テンダールまでは十日以上かかります。そのための準備となると今夜だけでは無理です。」


 食料も用意しないまま十日・・・・・・もっとかかるかもしれない行程を移動するのは無謀ではないかとアルステーデは慎重に言う。


 「普通はそう考えます。ですからいいのです。途中で獣を狩って野草をつんで食料は調達します。今はここに残る危険のほうが大きいのですよ。」


 ティアーラの口調と表情には有無を言わせぬ圧力があった。

 母の子を思う気持ちがそうさせるのか危機感の強さか、多分その両方によるものだろうが、アルステーデとライナールに反駁はんばくを許さない。

 確かに、三名の魔法があればよほどの魔獣に出くわさなければ、獣を狩るのは難しくない。

 野草摘みは日頃からやっているから、食べられる物を見分けることもできる。


 二人は母の気持ちの強さに押し切られ、出立の準備に入る。


 十日も逃避行を続けるとなると、荷物は多くできない。

 二人は持ち物が重ならないよう相談しつつ鞄に詰める。

 

 準備が終わったことを伝えると、玄関で扉の隙間から外の様子を見ていたティアーラは


 「行きますよ。」


 扉から外へ出て、監視兵が居ないかどうか確認し、村の南側にある森へ向けて暗い場所を選びながら進んでいった。

 ライナールとアルステーデは背後を気にしながら母に続いて村の外れまで着いた。

 村の外れから森まで駆けていく母の後ろを二人もついて行った。  


 森の中を物音を立てないよう慎重に進む。

 村から騒ぎは聞こえないから、三名が村から出たことはまだ気づかれていない。

 フレデットの娘達が村から出たと、もし気づかれていたら大騒ぎになってることだろう。

 

 「あなた達、明るくなる前にできるだけ離れるわよ。」


 ティアーラは二人に振り返りそう告げて、再び南を目指して歩く。

 暗くて表情は見えないけれど、村からだいぶ離れたけれど母は全然油断していないと二人は感じていた。


 

◇◇ イオニアス ◇◇


 

 巡回中の部下から、テンダール東の森で明らかに民間人であろうと思われるデーモンの親子三名を発見したと連絡があった。

 その親子は、テンダールへ入りたいと言っているがどうすべきかと俺は問われた。

 

 テンダール占領してから半年経ち、今では村は落ち着いている。 

 サロモン王国から土木・建設チームやインフラ整備チームも入り、様々な設備も徐々に整備されつつある。

 前線基地としての機能も整い始めている。


 今ここでスパイや破壊工作兵の入村は避けたいところだから、民間人でもできることならお帰り願いたいところだ。

 そのことは部下も判っているはずだが、問い合わせしてきたからには何かしら事情があるはず。

 

 イオニアス一人では判断できない事案だ。

 ダヤン司令へ思念で確認すると、会って話したいとのこと。

 何かしら有益な情報が手に入るかもしれないと言う。


 ”判った。ではダヤン司令には伝えたので司令部まで連れてきてくれ。”


 思念連絡を済ませると、俺は宿舎からダヤン司令の待つ司令部まで向かった。

 司令部の前に着くと、飛龍に乗った部下が報告にあった親子を連れて到着したところだった。

 

 飛龍が翼を閉じ、部下が先に降りて、親子を一人ずつ降ろす。

 俺は部下・・・・・・ロックにご苦労様と伝えて、飛龍から降りた三名に挨拶する。


 「私はサロモン王国テンダール占領隊のイオニアスと言います。司令がお話を聞きたいとのことですので、こちらへ。」


 三名に挨拶し司令の待つ司令室へ連れて行った。

 衣装は汚れ、疲労も見えるが、三名は毅然とした態度で俺に付いてきた。


 司令室のソファに三名を座らせ、俺はダヤン司令の後ろに立つ。

 ダヤン司令は三名に挨拶し、気楽にするよう伝えた。


 「私は、ティアーラと言います。この二人は私の子供達です。ここテンダールはザンフレッディアではないと聞きましたが本当でしょうか?」


 「ええ、今はサロモン王国の支配下にあります。サロモン王国とは・・・・・・。」


 ティアーラの質問に、三名の向かい側に座ったダヤン司令が説明を始めた。

 このフェンニーカ大陸とは別のグランダノン大陸南西部にサロモン王国はあり、ザンフレッディアがレイビスという国に侵攻しようとしたり、生け贄として国民を殺すと聞き、サロモン王国国王ゼギアスが怒ってフェンニーカ大陸侵攻を決めたことなどをダヤン司令が話した。


 「・・・・・・つまり、ザンフレッディアを滅ぼす?」


 ダヤン司令の説明を聞き終えたティアーラが再び聞いてきた。

 その表情は真剣そのもので疲労してる様子など見えない。


 「結果としてはそうなるのではないでしょうか?詳しいことは申し上げられませんが。」


 ダヤン司令は三名に丁寧に話している。傲慢なところなど全く見えない。


 「それが本当のことでしたら、協力させていただきたいのです。」


 「まあ、何かご事情があるようですが、そう慌てなくてもいいのではないですか?見たところお疲れのようですし、宿を用意しますので、一度しっかり休んでその後また話し合うとしましょう。」

 

 俺に顔を向けて指示を出した。


 「イオニアス、この方達が休めるよう・・・・・・そうだな、向かいの宿を取ってあげてくれ。」

 

 ”ゼギアス様が明日来る予定だから、一緒に聞いて貰った方がよさそうだからな。”と付け加えた。


 俺は三名を連れて、司令部の向かいにある宿へ向かう。

 宿といっても旅行客向けのモノではない。

 サロモン王国から来る支援チームが、テンダールへ派遣されてる間寝泊まりするために作られた宿だ。

 だから司令部から部屋の鍵を三室分持って行かなければならない。


 「これからお部屋に案内します。部屋の設備で判らないことがあったら、玄関そばに居る兵に聞いてください。」


 俺は三名をそれぞれの部屋へ案内し鍵の使い方を教えてから鍵を渡す。

 鍵付きの部屋など知らない三名は戸惑っていたが、これは仕方ないだろう。

 俺も最初は彼らと同じように戸惑った。


 「夕食の時間にまた来ますので。それまでごゆっくりしてください。」


 俺は軽く礼をして部屋を去る。


 宿を出て飛龍待機所へ向かう間、この半年あれから一度も敵襲がなかった点を考えていた。


 空戦部隊と地上部隊の連携で殲滅されたことに懲りたのか、それとも準備に時間がかかっているのか、とにかくあれからテンダールへの動きが無い点が気になっている。うちとしては時間を稼げるなら有り難い話だが、時間をかけてこちらの体制が整うのをザンフレッディアは嫌がって当然。

 ザンフレッディアにも転移魔法使える者は居るはずだし、それを警戒してゼギアス様はテンダールに転移してきた者が居れば判るように結界を張ってる。

 その結界にも反応が無いのだから、何を企んでるのかと不安になることもある。


 そしてここに来てザンフレッディアから亡命者・・・・・・と言っていいだろう・・・・・・が三名やってきた。

 様子を見なければはっきりしないが、彼らはスパイや破壊工作員ではなさそうだ。

 

 テンダールがどのような状況かも判らない。

 サロモン王国がどのような国かも判らない状況で亡命を決めるのは相当勇気が必要だっただろう。

 俺とイングリット達もサラ様達を最初は警戒していた。


 つまり亡命を決断し、こちらに協力を申し出る相当な何かが彼らにはあったということだ。

 そのことは明日以降判るだろうから、気にはなるが今は考えないようにする。


 まあ、今は飛龍の面倒を見て、明日の巡回に備えるとしよう。



・・・・・・

・・・


 三名を連れて夕食を食堂で食べた後、宿で数時間過ごして不便な点が無いかをその場で聞いた。

 風呂の入り方など判らなかったらしいが、宿の前に常駐している兵に聞き使えるようになったという。

 これがサロモン王国なら水も蛇口から出るし照明も電気だったりトイレも水洗だったりと、いろいろと判らないことは増えるのだろうけど、テンダールはこの大陸の村とほとんど同じだ。これから変わるところだからなあ。


 とにかくゆっくり休んだようだし、風呂に入ってくつろいだようでもある。

 汚れた衣類も洗濯しているらしく、こちらから提供した衣類に着替えていてさっぱりとした身なりになっている。

 ここまで大変だっただろうから、少しでも気を楽にして欲しいものだが、今後のことが決まらないと落ち着かないのは仕方ないだろう。



 「何故、私たちのことを聞かないのですか?」


 ティアーラが俺に不思議そうに聞いてきた。

 

 「明日、私達の国王ゼギアス様がここに来ます。その時いろいろと聞かれるでしょう。私からも聞かれ、ゼギアス様達からも聞かれるとあなた方は面倒ではないですか。」


 俺がそうだからなんだけど、同じことを何度も聞かれるのはあまり気分が良くないだろう。

 ゼギアス様やダヤン司令が知れば良いことだし、俺が知らなければならないことはゼギアス様かダヤン司令が教えてくれる。

 興味はあるけど、わざわざ俺が聞く必要はないと思うんだ。


 「国王直々に尋問するんですか?」


 アルステーデが不安そうな声で聞いてきた。


 「尋問・・・・・・まあ、そうなのでしょうが、そうたいしたことはないですよ。あなた方は敵じゃ無いですからね。ゼギアス様はお優しく気さくな方です。国王自らが会って聞くというと不安に感じるでしょうが、あの方はあなた方が怖がるようなことはなさらないですよ。」


 俺は安心させるように大げさにならない程度に明るく彼女の不安を否定した。

 ゼギアス様は確かに化物のような力を持ってるし、この世界には無い知識や感覚の持ち主だ。

 だけど、俺達が日頃接してるゼギアス様は、ごく普通の子煩悩な父親だし、そこらによく居る女好きだし、奥さん達と妹に弱い夫だ。

 国王と言われても信じない人が居ても不思議には思わない。

 でも、いざというときは頼りになるし面倒見も良い人だから、俺達は国王として敬愛している。

 ゼギアス様の考えに沿って生まれたサロモン王国は住みやすい。

 あの国を作ったというだけで俺達はゼギアス様を尊敬できる。


 「イオニアスさんは小隊長だと聞きました。失礼かもしれませんが、小隊長さんが親しみやすい国王の姿がイメージできないのですが・・・・・・。」


 とても言いにくそうにライナールが言う。

 ザンフレッディアの国王と比べたら全く違うからなあ。

 役人や兵士ならまだしも、街で男漁りしてるラミア族に気軽に声かけられてる国王の様子など想像もできないだろう。


 「アハハハ、ゼギアス様が親しみやすいのは嘘じゃ無いですよ。明日会えば少しは判って貰えると思います。とにかく心配するようなことはないです。お約束しますよ。」


 ライナールの心配はもっともだと思いつつも、ゼギアス様は他の国王とは違うのだと念押しした。

 

 「さあ、明日ゼギアス様に会えば、今、あなた達が抱えてる不安や疑問にも答えが出るでしょう。そろそろお休みになってください。宿から出て村を歩いても構いませんが、村の外には出られません。これはあなた達だけでなく兵士以外は今のところ出られない決まりになってますのでご注意ください。」


 俺は席から立ち上がり、三名を宿まで・・・・・・といっても広場を挟んで向かい側だが・・・・・・送ることにした。

 宿の前で分かれて、俺は宿舎へ戻る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ