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ロード オブ フロンティア ―― 次元最強の転生者  作者: 湯煙
第二部 原初の竜編 第一章 攻の章
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80、占領後 その二


 翌日、ノルスタインはハズロックとクロットと一緒に昨日発見した巨石群まで向かった。

 ハズロックがテンダールの人達から聞いた情報では、巨石群の存在は知っていたが何なのかを知ってる者は居なかった。

 また、誰かが利用している話も無かった。

 だが、村人達が知らないだけということもあるので、ノルスタインは敵襲への備えも忘れなかった。


 巨石群はフリナムにある遺跡と同じで巨石がサークル状に置いてあり、東西南北にはまるでゲートのように石が無い場所がある。

 サークル状の空間の中央には、これもまたフリナムにある遺跡と同じく箱型の黒い石が置かれている。

 箱型の石は蓋があるわけではなく、材質が判らない直方体型の石。

 だが、サークル状に置かれてる巨石が花崗岩を切り出しただけで整形されてもいないのに、この黒い石だけは箱型に整形されてることからも、精霊を集める秘密はこの石にあることは確実だろうとノルスタインは考えてる。

 だが、材質も判らないし、魔法がかけられてるようにも感じられないこの石が意味するところをノルスタインも誰も判らない。


 巨石群の周辺も調べてみたが、通常の森があるだけで何者かが住んでる痕跡もない。

 一通り調べ終え、ノルスタインはテンダールで精霊の動きが活発な理由がこの巨石群にあると確信してテンダールへ戻る。


 「報告のようにフリナムと同じ遺跡がありました。精霊の動きが活発な理由は判りましたので、天災の心配する必要はないでしょう。ただ・・・・・・」

 

 グランダノン大陸とフェンニーカ大陸の双方に同じ性格の遺跡がある意味についてノルスタインは悩んでいた。


 テンダールの人々には多分精霊師の素質があるに違いない。

 精霊と対話する手段さえ覚えたなら、精霊師が生まれてもおかしくないだろう。

 精霊を利用する力はあっても知識がないから利用していないし、精霊師のような種類の者も居ない。

 素質はフリナムの住民と同じであるにも関わらず、白の種族の末裔などという矜持も持ち合わせているようには見えない。

 フリナム国民が誇っている白の種族の末裔の根拠である精霊師・・・・・・精霊と対話しうる者は、実は白の種族の末裔である根拠にはなりえないのではないかとノルスタインは不安を覚えていた。


 フリナムには精霊が集まる遺跡がたまたまいくつかあるだけなのではないか?

 

 フリナム国民にも母ゼラキアにも伝えられない疑問がノルスタインを憂鬱にさせていた。

 抱えた不安に関する点は別にして、遺跡に関する見解をノルスタインはダヤン司令に伝え終わる。


 「ご苦労。遺跡に関しては他にもあるかもしれないから、この件はノルスタインに今後も担当してもらう。気になることが見つかったらまた報告してくれ。当面はマルクと協力して村の防衛任務に就いて欲しい。ザンフレッディアがテンダール占領を知るのも近いだろう。その後どのように攻めてくるのかまだ判らないのだから気を緩めずに頼む。」


 ノルスタインは執務室を出て、ハズロックとクロットに”今回は有り難う。また捜索任務に就いたときはよろしく”と礼を言い別れた。

 マルクの元へ向かい、テンダール南側の入り口での警戒任務に就くことになる。



  

◇◇ イオニアス ◇◇


 

 

 巡回を隊員と交代した俺は、ダヤン司令の居る建物の隣にある食堂代わりに使用する建物に来ている。

 少し遅い昼食を食べ終えて、テーブルで一息ついている。


 食堂では、軍所属の人達とは違う・・・・・・テンダールの村人だろう人達が食器を洗ったり掃除している。

 この地で使用可能な貨幣は持っていないから、労働協力してくれる村人へは食料やその他の物品で対価を払うとダヤン司令からは聞いている。

 ふと見ると、昨日救出したテレジアも木の壁を拭いている。


 イオニアスが生まれた村もだが、フェンニーカ大陸の地方の村は皆貧しい。 

 金銭でなくても、食料で労働対価をもらえるというなら手が空いている者は働くだろう。 

 サロモン王国からは果物や上質な穀物が届けられる。

 それを食したら感動するだろうし、占領されてると言っても反抗的でなければ食料やその他の生活環境はそれまでよりも良い環境を提供する予定だから馴染んでくれば好意的な人も増えるだろう。


 そもそも貧しい人達にとって重要なことは、国がどこかではない。

 飢えさせず安全に暮らせる環境を用意してくれるかどうかだ。

 サロモン王国がそれらを提供する限りは村人達は反抗的にはならない。


 ただ、ザンフレッディアにはメサイア教があり、テンダールにも司教や司祭、信者が居る。

 司教や司祭は、いずれザンフレッディアに帰す予定だが当面は軟禁しておく。

 一方の信者だが、こちらは問題無いだろう。

 司祭や司教に貢物を吸い取られることがなくなるから良いはずだ。


 イオニアスが見ていることに気づいたテレジアが笑顔で近づいてきた。

 

 「元気そうで良かった。」

 

 俺が声をかけると、頭を下げて礼をしている。


 「昨日は本当に有り難うございました。今日からここでも働かせていただいて助かってます。」

 

 テレジアは俺に”空いてる時間が無いか”と聞いてきたので、”夕方には暇になる”と伝える。

 俺の返事を聞いてから、”夕方に飛龍の待機所へ行きます”と言ってテレジアは再び仕事に戻っていった。


 何か相談でもあるのかと考えたが、そろそろ交代の時間だから俺も仕事に戻る。


・・・・・・

・・・


 夕焼けで辺りが赤みを帯びている。

 元牧場の飛龍待機所もうっすらと夕陽に染まっている。


 俺は飛龍の身体を拭いて、”今日も一日ご苦労さん。明日も宜しくな。”と声をかけ、飛龍が好きな作物を与えている。


 飛龍は肉も食べるが好物は特定の植物だ。

 特定だからといって珍しい植物ではない。

 この世界では年中どこにでもある植物でヒエナ草という野草だ。

 小さな黄色い綺麗な花を咲かせるのだが・・・・・・ヒエナ草は、竜が食べても問題は無いが人や亜人が食べるには毒がある植物。

 食用可能な他の野草と間違えて食する者はそう居ないだろうけど、飛龍は毒草を食べてくれる益獣でもある。

 飛龍と付き合う俺達はヒエナ草を集めるのも仕事のうち。


 ヒエナ草を集めてある場所から、飛龍のために桶一杯に詰めては運んでいる。

  

 「こんばんわ。」


 柵の外からテレジアが手を振って声をかけてきた。


 「ちょっと待っていてくれるかい?飛龍の食事を済ませたいんだ。」


 俺は桶を抱えて飛龍の元へ走り、口の前に桶からヒエナ草を積む。

 飛龍の首を撫でて、”今日はこれから用事があるんだ。ゆっくり休んでくれ。”と声掛けしてからテレジアのところへ歩いて行く。


  「お待たせ。それで何か用かい?ああ、お礼なら十分して貰ったらから、もう要らないからね。」


 柵に手をかけてるテレジアに近づき尋ねる。


 「えーと、貴方達のことを知りたいの。」


 思い切って聞いている風なテレジアの様子を見て俺は納得した。

 なるほど、ザンフレッディアの事しか知らないだろうからなあ。

 それに占領されていて誰にでも聞ける話でもないから、顔見知りになった俺に聞いている。


 「そうか、そういうことなら何でも教えるよ。夕飯を一緒にどうだい?」


 ”ええ、そのつもりで来たの。”と答えるテレジア。

 ”出入り口まで回って”と伝えて俺も歩き出した。


 俺が出てくるのを待つテレジアを見つけ、食堂で食べるか、それとも何かを持って外で食べるか考えた。


 「食堂で食べるかい?それともどこか外で?」


 「食堂がいいわ。」


 テレジアの返事を聞いて、俺は悩んだ。

 サロモン王国でなら、こういう時は腕を貸して女性をエスコートするのだけど、ここはサロモン王国ではない。

 並んで歩くだけでいいのか、それともやはり腕を貸したほうがいいのか・・・・・・。

 ・・・・・・やはり俺には判らないので、並んで歩くだけにしとこう。

 

 テレジアの歩くペースに合わせて、村の中央方面へ歩き出す。

 こういう時何を話したらいいのか・・・・・・。

 イングリットやリリアーナとは何を話していただろう?

 そうだ。今日の出来事を話してたんだ。


 「食堂で働いていたけど、誰かに言われたのかな?」


 「ううん、今朝、広場で募集していたの。食堂の手伝いしたら、食料か他の物をくれるって言うから・・・・・・。うちは男手は父さんしかないから、女でもできる仕事があるならやりたいって。」


 ・・・・・・そうか。俺はサロモン王国の生活に慣れてしまったんだな。

 サロモン王国では男女でできる仕事に違いがあることは滅多にない。

 力仕事は男女関係なく力がある者がする。

 俺なんかよりもアマソナスやラミア族の方が力はあるし、農作業では便利な道具があるから女の力でも十分作業できるし、無理そうなら誰かが手伝ってくれる。

 そもそもサロモン王国では仕事は嫌と言うほどあり、男女関係なく常時人手不足だ。

 イングリットもリリアーナもやりたい仕事に就ける。

 文字の読み書きが必要な仕事なら、事前に教育や訓練を受けさせられるし、他の技能が必要な場合も同じだ。


 だがここはサロモン王国と異なり、仕事を選べる環境はない。

 女手でできる仕事は限られているし少ない。

 生活の負担になるばかりと売られることも日常的にある場所だ。

 この時、テレジアの姉妹きょうだいは女だけということに気づき、俺は嫌な予感がしていた。


 「どうだった?仕事はきつくなかった?」


 「ううん、全然つらくなかったわ。ダヤンさん?司令さん・・・・・・偉い人なんでしょ?でもとても優しかったわ。」


 予想外だったという口調でテレジアは微笑んでいる。

 

 これもそうだ。訓練の時には怖くてどうしようもないほどのヘラも訓練が終わると優しい。

 サロモン王国では皆そうだ。

 ダヤン司令も厳しい人だが、冷たいわけでも怖いわけでもない。

 ましてテンダールの村人との接触では特に気を遣ってるのだろう。

 ゼギアス様だって、街角でラミア族からからかわれても怒るどころか、照れたように頭を掻いて笑っている。

 

 「働いた後は何を貰ってきたんだい?」


 「今日はお肉を貰ったわ。・・・・・・こんなに貰っていいのかしら?って心配になるほど貰ったわ。」


 俺を見るテレジアの目に不安がある。


 「ん?全然問題ないんじゃないかな?ちゃんと働いたんだもの。」


 「でも・・・・・・今日貰ったお肉は牛なんだけど・・・・・・うちだけでは食べられないほど貰ったのよ?」


 「ああ、そうか・・・・・・食堂にうちの担当が居るだろう?彼に言えば魔法で凍らせてくれるよ?必要な分だけ溶かして食べたらいいよ。」


 サロモン王国の肉屋なら当たり前のサービスで、食堂で見かけたデーモンなら氷系魔法で食材を凍らせてくれる。


 「え?そんなことしてくれるの?」


 「ああ、当たり前にやってくれるよ。必要なら小分けにもしてくれるし、今は無理かもしれないがそのうち保管もしてくれるよ。次回からはそうしたらいい。」


 感心したように俺の顔を見ている。


 「さあ、到着した。まだメニューは選べないけど、うちの食堂の味は絶対いいよ。」


 食堂に着いた俺達は中へ入る。




・・・・・・

・・・



 今日の夕食メニューは、肉料理と魚料理の二種類、俺は肉料理をテレジアは魚料理を選んだ。

 食後にはアイスクリームが出た。

 ゼギアス様が少しでも楽しみがあるようにと、テンダールの食事には必ずデザートが出るように指示してくれたのだという。   

 食事中のテレジアは終始無言だった。

 一心不乱に食べる様子を見て、イオニアスは自分もサラ様に助けられた時こうだったなと思い出した。

 フェンニーカ大陸での庶民の食事とはまったく違うのだ。

 パンと多少具が入ったスープがあるのが良い食事で、パンだけの食事など当たり前にある。


 ところが、小皿に盛られた野菜料理や肉か魚料理、パンはお替わり自由だし、スープも具材の有る無しに関係なく様々な料理が日替わりで出てくる。

 その上、食べたことも見たこともないデザートが出てくる。

 味わったこともない美味しい料理を満足いくまで食べられる。  

 想像すらしたこともない、そんな夢のような状況が突然現れるのだ。

 驚かない方がおかしいんだ。


 目の前のテレジアの気持ちが俺には判る。


 ”何これ?”


 これしかないだろう。

 俺がそうだったし、イングリットとリリアーナも同感だと言っていた。


 こういう時はテレジアが落ち着くまで黙っているべきだ。

 

 「・・・・・・貴方達の国って凄いのね。」


 アイスクリームも食べ終わり、食後のジュースをグラスから口に含んでまた驚き、俺の顔をマジマジと見てつぶやいている。


 「ここで働いているなら家族も無料で利用できるよ?予約しておけば大丈夫だから、明日から利用したらいい。」


 「・・・・・・妹達は来ると思うけど、父さん達は来ないわね。」


 「どうしてだい?」


 「貴方達には感謝してると思うけど、父さん達はまだ信用していないもの。」


 まあ、そうかもしれないな。

 昨日の今日で信用するほうが不思議だ。

 

 「じゃあ、妹さん達だけでも連れてくればいい。」


 俺は食堂の端で、食堂内を見渡してるデーモンのところまで行き、テレジアの姉妹二人も明日利用すると伝えた。

 彼は、胸から出したメモ帳に書き込み、”判りました。朝食と昼食はどうしますか?”と聞いてきたので、それも宜しくと頼み、テレジアが待つ席へ戻る。

 明日の朝食から姉妹三名で利用できると伝えるとテレジアは目を大きく開いて”朝から?いいの?”と聞き返してきた。


 「ああ、朝と昼、そして夕食も三名で利用できるよ。毎日予約すればいいさ。」


 「貴方の国って・・・・・・裕福なのね・・・・・・。」


 「俺もサロモン王国に行った時そう思ったよ。俺もフェンニーカ大陸出身なんだ。生まれた村はここから遠く離れてるけどね。さあ、そろそろ他の人のために席を空けよう。」


 テレジアと一緒に食堂を出て、食堂前の広場に置かれてる丸太まで歩いた。

 俺とテレジアは丸太に腰掛ける。

 やや俯きながらテレジアは何事か考えている。

 俺は彼女が口を開くのを黙って待っていた。


 「・・・・・・ねえ、貴方達を手伝ったら・・・・・・今食べたような食事を毎日食べられるの?」


 食堂での驚いた様子ではなく、真剣な瞳と口調でテレジアは聞いてきた。

 

 「ここテンダールはサロモン王国に占領された。つまりテンダールはサロモン王国の一部だ。今すぐは無理でも、俺達と同じ生活がいずれできるようになるよ。」


 「それ本当?」


 「ああ、大丈夫さ。それに希望するならサロモン王国へ行けばいい。皆、歓迎してくれるよ。そしたら確実にもっといい生活を送れる。」


 「妹達とも一緒に行ってもいいの?」


 「もちろんさ。妹さん達は学校へ通うことになるだろうな。そして読み書きや計算を勉強することになる。楽しいこともたくさんある。衣食住に困ることは絶対にない。国が助けてくれる。俺も助けて貰ったんだ。仕事はいっぱいあるし、女だからってやっちゃいけないこともない。サロモン王国はここよりもいいところだ。」


 テレジアに友人のイングリットとリリアーナの話をする。

 女でもやりたい仕事を探せるし、どこも人手が足りないから技能さえあればどんな仕事に就くこともできると。


 「・・・・・・私も妹達も・・・・・・売られなくていいのかしら?」


 嫌な勘が当たった。

 地方では口減らしのために女を売ることもよくあるからな。

 両親も生活が相当苦しいのだろう。


 「一定期間働くために他の土地へ売られることはあっても、期間が終われば戻れるような形じゃないならゼギアス様は絶対にお許しにならない。」


 俺は確信をもってテレジアを見ながら言う。


 「ゼギアス様って?」


 「サロモン王国・・・・・・俺達の国の国王様さ。俺はゼギアス様達に助けられて今生きている。」


 「・・・・・・私達のことも助けてくれるかしら?」


 俺を見ずに足下を見ながら聞くテレジアは涙声になってる。


 「うん、必ず助けてくれる。だって、テレジアはもううちの国民だもの。国民のお願いをできるだけ叶えようとしてくれる国だし、そういうお方だ。」


 「そうなら・・・・・・本当にそうなら・・・・・・いいわね。」


 聞きたいことがあるならいつでも答えると言い、今日はもう遅いからそろそろ帰ろうと言うと、テレジアは瞳に浮かんだ涙をハンカチで拭き頷いた。

 彼女を家の前まで送り、俺も飛龍待機所そばにある空戦部隊専用の宿舎に指定された家まで戻る。




・・・・・・

・・・


 テレジアは毎日、妹達と一緒に食堂で食事していた。

 彼女たちの両親の姿を見かけたことはないから、俺達はまだ信用されてないのだろう。

 そのことは少し気になったが、三姉妹仲良く食事している様子を見かけると、俺は微笑ましい気持ちで仕事にも気合いが入った。

 この村を守るんだ。

 ここまでは巡回中に異変は見つからないが、これからも同じとは考えず気を緩めずに任務を果たそう。

 

 そうした生活が十日くらい過ぎた頃、ゼギアス様が再びテンダールへ訪れた。

 いつものように村の様子を自分の目で確認するためということだった。

 今回は、第九王妃エルザ様もご一緒という。

 ゼギアス様のお妃様達は皆とても美しい方達ばかりだ。

 エルザ様も鷹人と魔族のハーフということらしいが、魔族のやや青みがかった肌と鷹人によく見られる切れ上がった目が特徴の・・・・・・外見だけで言えば冷たく見える美人だ。だが、部下のベーリットも鷹人族でエルザ様と一緒に仕事したこともあるらしく、”外見とは全然違いますよ。とても優しく熱情的な方です。”と言っていた。長距離狙撃任務を重要な戦争で果たしてきた方で、ルミーヌも憧れてると言ってた。


 ゼギアス様が来たからと言って、特別なことは何も起きない。

 ダヤン司令と打ち合わせはしてるようだが、わざわざ付き添いなども付けない。

 以前聞いたら


 「そういう堅苦しいことは一切嫌いな方なんだよ。まあ、あの方を傷つけられる者など居やしないからこちらも心配することないけどね。」


 ダヤン司令は”こっちも気楽でいいよな、ガハハハハハ。”と笑っていた。

 俺達も礼くらいはしとけ、でも特別なことはしないようにと言われてる。


 監視のようなこともされたことないし、そんな話も聞いたことがない。

 うん、確かに気楽でいい。

 

 ゼギアス様が食堂の様子を見るために来て、明らかにサロモン王国の兵じゃないと判るテレジア姉妹を見つけると声をかけた。


 「どうだい?食事は美味しいかな?」


 テレジアではなく妹達に聞く。


 「うん、美味しい。」

 「おいちい!」


 妹達は口周りや頬にソースを付けた顔でニパッと笑った。


 「そうか。いっぱい食べるんだぞ?好き嫌いしないでな。」


 「うん、好き嫌いしない。」

 「ちゅききらいってなあにぃ?」


 次女のニーナははっきり答え、末っ子のセニアはテレジアに判らない言葉を聞いてる。

 テレジアがセニアの口周りをハンカチで拭きながら、”何でも食べなきゃダメってことよ。”と教えている。


 「あのね?お姉ちゃんとサロモン王国ってところに行くの。そしたらもっと美味しい物食べられるんだって。」


 ニーナがゼギアス様に笑顔で話してる。


 「ん?サロモン王国へ行きたいのかな?」


 そう聞き返すゼギアス様に、テレジアが困ったような顔をしてニーナを止めようとする。

 テレジアはゼギアス様に妹達が失礼なことをしないか心配しているようだ。


 「すみません。いつかは行きたいって話なんです。」


 「いつかじゃなくて、いつでもいいんだぞ?行きたいと言うならすぐにでも連れて行くし、あちらで生活できるようにする。うちは歓迎するよ。」


 ”なあ?”と隣で微笑むエルザ様に確認するように問う。


 「そうですね。下の子はまだ幼いですから、ここはまだ衛生的とはいえないですし・・・・・・流行病も心配です。気持ちがあるなら早いうちに移住したほうがいいでしょうね。」


 首をかしげて少し考えた後にエルザ様はゼギアス様に同意した。

 エルザ様の返答を聞いたテレジアは少し黙った後に


 「・・・・・・両親に相談して・・・・・・もし・・・・・・もし・・・・・・行けるのなら・・・・・・行きたいです。」


 テレジアは恐る恐る答えた。


 「そうか?だったら俺から説明してもいいぞ?向こうの状況も説明したほうがいいだろう?」


 「そうですわね。ゼギアス様が説明したほうがいいですわ。」


 ゼギアス様が食事が済んだらテレジアの家へ行こうか?と聞く。

 

 「え?そうしていただけるんですか?」


 「おう!うちの国は大歓迎だって言っただろ?そっちに居るイオニアスだって友達二名と一緒にこの国から移住したんだ。心配があるならイオニアスから聞いてくれていいぞ。うちは何も隠すことはないからな。」


 サロモン王国へ移住したことは既に話したからテレジアは無言で頷いている。

 

 テレジア達の食事が済んだら、ゼギアス様達と一緒に俺もこの国からの移住者ということで同行することになった。

 

・・・・・・

・・・


 「だから、いくら出すんだ?」


 テレジアの父親がゼギアス様に娘達の代金を問うている。


 「・・・・・・俺は娘さん達を買いに来たわけじゃない。ここに居るよりは安全な場所で暮らさせてやろうとは思わないのか?」


 「そんな話信じられるか。連れて行っておまえ達のために働かせるんだろ?タダで渡すわけにはいかない。こっちはこれまで育ててきたんだ。」


 テレジアの父親はゼギアス様に食ってかかっている。 

 

 「・・・・・・説明しても判らないようだな・・・・・・。」


 これまでの間に、テレジア達はサロモン王国で生活する上で不自由はないことや、望むならいつでも戻ってこられることをゼギアス様は丁寧に説明していた。俺もゼギアス様の言葉は本当だと言ったが、元この大陸の生まれでも今はサロモン王国の兵の俺の言葉じゃ信じられないと聞く耳を持たない。 

 

 「お前が女しか生まないから・・・・・・役に立たない女ばかり産みやがって・・・・・・。」


 そう言って父親が母親をなじり、手を振り上げた。

 

 「やめろ!判った。娘達をいくらでなら売るというんだ。」


 「ゼギアス様!それは・・・・・・。」


 エルザ様が金でテレジア達を買おうとするゼギアス様を止めようとする。

 エルザ様の動きを片手をあげてゼギアス様は止め、”こんなところに置いておいちゃいけない”とだけ言ってテレジアの父親を睨んでいる。


 「最初からそう言えばいいんだ。金貨十枚は欲しい。」


 薄ら笑いを浮かべて父親はゼギアス様の前に手を出す。

 

 「この国の金貨は無いが、グランダノン大陸でならどこでも使える金貨なら渡せる。それでいいか?」


 「この村はサロモン王国とやらに占領されたんだろ?だったらそれでいい。」


 ゼギアス様はエルザ様に顔を向け、”三十枚渡してやってくれ。”と言う。


 「金貨三十枚渡してやる。だからこの子達の母親も連れて行く。文句はあるか?」

 

 ゼギアス様の声は冷静だった。

 だが父親に向けられてる瞳には怒りと侮蔑があった。

 俺もゼギアス様のこのような表情を見るのは初めてで、グランダノン大陸では化物と恐れられているゼギアス様に怯えず怒らせる奴がいることに、俺の方が怖くなった。


 「へえ、こんな使い古しが欲しいのか。まあ貰える物貰えるなら好きにしてくれ。」


 エルザ様から金貨三十枚を受け取った父親は下卑た笑顔で部屋の奥に下がっていった。

 ゼギアス様は、テレジアと母親に”この家から出る準備をしてくれ”と伝えた。

 

 テレジアの家から出たゼギアス様は、


 「イオニアス!イングリットとリリアーナにテレジア達が生活に慣れるまで手助けしてくれるよう頼んでくれ。エルザ!彼女達を気にしてやってくれ。」


 「「はい!」」


 エルザ様と俺は即座に返答した。


 「いいか?これはサロモン王国の戦いだ。彼女達には可能な限り幸せになって貰わねばならない。」


 今も冷静な表情だが、ゼギアス様の語気は強い。


 「ありがとうございます。」


 テレジアと母、そして妹達がゼギアス様に頭を下げている。

 

 「礼には及ばない。・・・・・・そうだ、貴女達にも伝えておく。幸せになってくれ!そのために俺も俺の仲間達も努力しよう。そして幸せを感じたなら、その幸せを仲間に分けてやってくれ。」


 ゼギアス様はそう言って、エルザ様とテレジア達を連れてダヤン司令のもとへ向かった。

 

 俺は皆の後ろ姿を見送り、今起きたことを考えながら飛龍の待つ待機所へ歩いた。

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