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ロード オブ フロンティア ―― 次元最強の転生者  作者: 湯煙
第一部 グランダノン大陸編 第一章 序章
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8、幕間 ある呼ばれし者


 目を開くと、最後に見た光景とは違う光景が目に入った。


 私は、病で死に瀕していた。

 自分亡き後の蜀の運命をいちいち遺言し、私を丞相と呼び泣き崩れる者達を慰めていた。多くの幕僚に見守られる中、我が宿星がいまにもその瞬きを止め落ちようとしている。


 私はやがて意識を失った。

 そう、私は確かに死んだはずなのだ。


 手足を見ると、私が知る自分のものではない。

 肌はやや青く、太い手足、関節もいちいち角があってゴツゴツしている。

 

 衣装もどこか異国の・・・・・・蛮族が着るもののようだ。

 腰回りを隠す程度の布しか身に着けていないのだから。


 立ち上がると、病で重かった身体が嘘のようで、力が湧き、動きも軽く、戦場でいくらでも働けそうだ。明らかに自分の身体だが、自分の身体ではない感覚。


 周囲を見渡すと、森の中だとは判るがそれ以外は判らない。

 生えている草や木も見覚えがないものばかり。


 裸足で歩いてるのだが、足の裏に痛みを感じない。

 この身体は以前のものより強靭なのだろう。


 とりあえず誰かに会わなければと山とは反対方向を目指し歩いた。

 常識から言って、山よりも平地のほうが人に出会える可能性がある。

 木の実や果実を見つけては口にした。

 獣にも出会ったが、私の姿を見ると恐れて立ち去る。


 やがて小さな泉を見つけ、両手ですくって水を飲む。

 その際、水に映った顔は、私の常識で言えば化物であった。

 青い肌、金色の髪、朱色の瞳、迷信によくある鬼の姿をしていた。


 私は鬼に堕ちたのか……。

 確かに死に際して執念を残すと鬼になるとは言うが、まさか自分が鬼になるとは思っていなかった。


 先主との約束を果たせず幼君を残して死んだ自分にはお似合いの姿かと自嘲する。



 数時間歩き、自分と同じような姿の鬼の集団を見つけた。

 近づいても敵意を向けられない。

 ここがどこかは判らないが、鬼がこれほどたくさん存在する場所があるのだな。

 少なくとも人が入る土地ではあるまい。


 ここはどこか? と鬼の一人に聞いたのだが、話が通じない。

 目の前の鬼たちは会話しているのだが、言葉は何一つ判らない。


 何とか言葉を理解しようとしたが、単語すら聞き取れない。

 これでは鬼の言葉を覚えることもできない、当然話すことなどできはしない。


 そうこうしているうちに、彼らの一人が離れ、一人また一人とこの場から離れていった。


 話が通じない奴と見捨てられてしまったのだろう。

 これは参ったと近くにある切り株に腰を下ろし、さてこれからどうしようかと途方に暮れていた。


 すると、先程離れていった鬼たちが戻ってきて、私の前に魚や肉を差し出してきた。

 顔を上げると、鬼なりの笑顔なのだろうと判る表情で、私にはウゥゥゥッとしか判らない唸り声のような言葉で語りかけ、手にした魚を何度も渡そうとしてくる。


 ああ、鬼たちは鬼たちなりに、私を助けようとしてくれてるのだと判り、自然と涙が出た。


 彼らから魚や肉を受取り、私なりの笑顔でそれらを食べた。

 生の魚や生肉にも関わらず、とても美味しい。

 味覚もきっと鬼のものに変わったのだろう。


 

 私はこの日から、この鬼たちと暮らすようになった。





◇◇◇◇◇◇







 彼らの生活を見ていると道具をほとんど使わない。

 魚を捕るのも獣を倒すのも肉体のみで行う。


 サメに似た大きな魚でさえ素手で獲って来るのだから、道具の必要性を思いつかなかったのかもしれない。


 そこで私はツタに似た植物を編んで網を作った。

 片側を一人の鬼に持ってもらい、私が海に入って網を沖から陸地まで引っ張ってくると、網の中には大小様々な魚が十数匹入っていた。


 それを見た鬼は、驚きつつ喜んで私の真似をした。


 また獣用の罠も作った。


 森に何箇所か設置して、翌日見にいくと幾つかの罠のうち一頭か二頭かかっていた。わざわざ獣を探し追いかけなくて済むと理解したのだろう、鬼たちは喜んでくれた。


 彼らの知能は低いものではない。

 私がやってみせたことはすぐ上手に真似る。


 これで言葉が通じたらどれほど生活を楽にしてあげられるだろう。

 しかし、一緒に暮らし始めてそろそろ三ヶ月は過ぎたというのに、相変わらず彼らの言葉はまったく聞き取れない。


 地面に魚や獣の絵を書き、私が指差すと彼らは言葉で表してくれるのだが、聞き取れないのだから真似のしようもない。


 それでも身振り手振りなどで意思の伝達が可能なこともあり、とても不自由だがそれでも温和な生活を送っていた。



 そんなある日、人にしては耳が尖っているし、髪の色も銀であったり、私の知る人の姿とは異なる姿の者が数人やってきた。鬼たちのリーダーに何か話しているようだが、私にはまったく判らない。


 だが、言葉の意味は判らないが、聞き取れる言葉を話す者がいた。

 見た目は人間だ。私より大きなその男はそばに居る人間の少女と話している。


 私は聞き取れるなら真似できると、その者のそばへ行き言葉を真似して話した。

 何度か繰り返すと、その男は彼のそばにいる耳の尖った女性に何か伝えている。


 するとその女性は私に指輪を渡し、手にはめるようにと笑顔でジェスチャーする。

 私はその女性の指示通りに指輪を手にはめた。


 すると、何ということだろう、その場の会話が全て判るのだ。

 

 判る、判るぞ!

 今まではさっぱり判らなかった鬼達の言葉も判る。


 判ると呟いたのが聞こえたのか、その男が私のそばまで来て、


 「話してみろ、相手にも伝わるぞ」


 「あの、これはどういうことなんでしょうか? 」


 私の疑問にその男は答えてくれると思ったのだが、

 

 「ああ、そのあたりはゆっくり説明しないと理解できないと思う。今日はこの厳魔族に用事があるんだ。用が済むまで静かにしていてくれると助かる。あとで必ず説明するからな。あ、そうだ、その指輪は壊しても同じモノを作れるが、数日だが時間かかるんだよ。今はそれ一つしか持ってきてないから壊さないよう気をつけてくれ」


 ハハハハと笑い、私から離れて鬼達と友好的に話し始めた。


 厳魔族と言ったな。鬼ではないのか、それとも鬼にもいろいろ種族があってその一つなのか。まあ、後でいろいろと教えてもらおう。この世界のことがさっぱりわからない私が今慌てて口を挟んでも良いことはない。


 とにかく誰かと会話出来る期待で今は胸がいっぱいだ。


・・・・・・

・・・


 「待たせたな。俺はゼギアス。よろしくな」


 彼は右手を出して来た。握手を求めているのだろう。


 私は感謝を込めて両手で彼の手を握った。


 「ありがとうございます。会話できずに過ごしてきたものですから、今、とても嬉しい。その状況を作ってくださった貴方には感謝いたします」


 彼も私の手を握り返してきた。

 

 「それで何から説明すればいいかなんだが、あんたは今の姿で生まれ変わる前の記憶を覚えているかい? 」


 彼の手を離して頷いた。


 「そうか、それじゃああんたはこの世界で”呼ばれし者”という奴だ。多分、俺はあんたの前世のことを理解できる。だから何でもいいから話てみてくれ」


 私は覚えている限り、詳細に話した。

 先主との出会い、戦いの日々、建国と先主との別れ、そして死。


 ゼギアスという男は話の合間に、それは関羽のことかなとか、やはり趙雲凄いなとかつぶやいていた。私の仲間のことを知っているのだ。私は嬉しくなり、どんどん話した。思い出すと悲しく辛いことも多かったが、今は誰かと、それも私の仲間のことを知ってるこの男と会話するのがとにかく楽しかった。


 そして前世のことを終え、その後今に至るまでを話し終えると、


 「あんたは前世で凄い人だったんだよ」


 そう言ってから、私の身に起きたことを詳しく説明してくれた。


 私の前世は諸葛亮、字は孔明、劉備玄徳のもとで軍師・政治家をやっていたこと。

 この世界に転生した際、人ではなく魔族の厳魔族という種族に生まれ変わったこと。

 呼ばれし者ものの特徴などを説明し終わると、


 「俺の所で働く気持ちはないか? いや、是非働いて欲しい」


 ゼギアスが頭を下げている。


 特にここでやるべきことはないのだから、この男と働いても構わない。

 でも、ここの仲間には世話になっている。

 受けた恩はきちんと返したい。


 そのことを伝えると


 「あんたがここでやってたことはあいつらから聞いた。食糧事情の改善だろ? それをそのまま俺のところでもやって貰いたい。いろんな知識も教える。うまく行けば厳魔族も飢える心配はなくなり、結局はあいつらに恩を返すことになる。だから頼む、俺の所に来てくれ」


 と再び頼まれた。


 ゼギアスが何をしようとしているのかを詳しく知りたいと言うと


 「俺はこの辺りに国を造るつもりだ。今のまま自然の恵みをあてにしてるだけなら年によっては食料の奪い合いになる。それを止める。そして亜人や魔族が人間の奴隷にされるような今を変えたい。別に人間を敵視するわけじゃないが、現状を今後も受け入れろと言うなら戦うのも吝かではない。どうか協力してくれ。頼む」


 さっきから頼むと言われるのは何度目になるのか。

 一度たりとも私から目をそらさない。

 信用できるかまだ判らないが、自分にできることがあるならやってみたいとも思う。


 「条件を出せる立場ではない気もしますが、一つ条件があります」


 ゼギアスが身を乗り出して、なんだ、出来ることなら何でもすると熱意のこもった目を向けてきた。


 「私が貴方を信用できないと判断したときは、辞めさせていただきます。その際、私の同族を傷つけることはないと約束していただきたいのです」


 ゼギアスは何だそんなこと当たり前じゃないか、もちろん約束すると、必要なら書面に残しても良いと即答する。


 「では一応書面に残していただけますか? 」


 ゼギアスは約束すると答え、


 「ああ、その指輪を着けている限り、言葉だけじゃなく文字も不自由しないから。あと、もしあんたが俺を信用できないと俺のもとから去ったあとも、その指輪はあんたのモノだし、必要ならいくつでも作るよ。それが無いと不便だろ? 」


 ふむ、辞めるか悩んだ時に、この指輪の重要さが私の判断に影響しないよう気遣ってくれてるわけか。なかなか誠実な男だ。


 その後、私の要望を記した書面が用意され、彼の署名が書かれ拇印が押された。


 

 今後、私はゼギアスのもとで、内政全般を任されることになった。

 前世でやり遂げられなかったことを今度はやり遂げたいものだ。 





◇◇◇◇◇◇ 


 




 おかしい、このゼギアスという男はおかしい。


 私は今、リエンム神聖皇国との戦場に来ている。

 前世では軍師も務めたが、今は戦争に関わっていない。

 いや、兵站の任務には携わる予定なのだが、今回は不要だと言われ、それでもこの世界での戦争を見ておく必要があると、ゼギアスに頼んで従軍させてもらった。



 そして今、戦端が開かれたのだが、既に一方的だ。

 我が方が敗北するなどまったく考えられない。


 ゼギアスが手を振るたびに敵は切り刻まれ戦闘不能になる。

 一振りで百名以上が倒れ、みるみるうちに敵が減っていくのが判る。

 ゼギアスに近寄ることもできないでいる。


 敵もゼギアスへ弓や槍を投げつけ、また炎や氷の魔法をぶつけているが、ゼギアスの身体には傷一つつけられないようだ。


 敵にすると悪夢でしかないだろう。


 およそ三千の歩兵と二千近くの騎馬の混成部隊が、ゼギアスたった一人に蹂躙されている。ゼギアスの後方からマリオンという女性が、ゼギアスから逃げた者に攻撃しているが、勝敗を決めることが重要だとしたらそれも不要だろう。もうじき敵軍は逃走するしかない状況なのだから……。


 この世界では魔法が重要な位置を占めている。

 生活でも戦闘でも。

 魔法は前世にはなかった。

 私が身につけている指輪も魔法が使用されていると聞いた。

 

 魔法を理解しなければ、生活の向上も戦闘での優位も望めない。

 

 それにしても……あのゼギアスの戦闘力は異常だ。

 私には攻略手段が見つけられない。

 

 彼が敵に回ったら、逃げる。

 絶対に逃げる。

 戦えば無駄に命を落とすと判ってる相手からはそれしか方法がない。


 「一応手加減したから、当たりどころさえ悪くなければ死ぬことはないだろう」


 戻ってきたゼギアスは、軽く運動していい汗かいたと言う。


 「戦闘神官クラスも出さずにダーリンの前に立つのがおかしいのよ。今回のことで懲りたでしょ」


 マリオンという女性も、今目の前で起きたことは当然という態度だ。

 この女性の感覚もおかしい。


 いや、この世界では私の感覚がおかしいのか?


 この日、軍事に対しての私の感覚が大きく変わった。

 少数で大軍を相手にする際には策が必ず必要だと思っていたが、策など必要としない力があり、その力の前では数などいくらあっても無意味なのだ。


 もちろん、敵にゼギアスを抑える力を持つ者が居たら策も必要だろう。

 だが、ゼギアス並の化物がそうそう居てたまるかという思いもある。


 まだまだ勉強しなければならない。

今のままでは戦略や戦術を組むこともできない。

 内政担当者からの意見を求められても今のままでは答えようがない。

 

 私に与えられた仕事は内政に関するものだ。

 内政には人口を増やすことや、教育の案件もある。

 人材の育成は軍事計画にも影響する。


 内政担当だから軍事とまったくの無関係とはいかないのだ。


 でも、各個撃破できる状況さえ作れれば、ゼギアス一人居れば今のところ負ける要素はないのではないか。

 つまり各個撃破するための戦略や戦術さえあれば……いや、今はまだ判らない事が多い。魔法の種類さえ把握しきっていない。もちろんその特性も。


 目の前で起きた衝撃的な事実に囚われて視野を狭くするのは危険だ。



 「ヴァイス、何をぼーっとしてるの? さあ帰るわよ」


 私はヴァイスハイトという名を与えられ、皆私をヴァイスと呼ぶ。

 命名したのは、エルザークという人化した龍だ。

 

 「はい、マリオン。ちょっと面食らってしまって……」


 「無理もないわ。ダーリンは私がベタ惚れするほどの方ですもの……」


 マリオンのゼギアスを見る目が妖しい。

 有能だし、魅力的な女性には違いないのだろうが、所構わずゼギアスを求める姿勢はいかがなものか。ゼギアスの妹サラはほっといても大丈夫と言うが、正直、気を許してはいけないと警戒している。


 傾国という言葉があるように、美しく魅力的な女性が国の行方を左右することもある。国主のそばにいる美しい女性は、誰かが注意しておかなければならない存在なのだ。

 

 ぜギアスの奥方ベアトリーチェも透き通った美しさを持つ女性。

 夫婦仲もとても良いと見える。

 だが、あの方は聞かれれば意見は出すけれど、国主との仲を利用して押し付けようとはしてこない。強い力を持つ国主の奥方としては好ましいタイプだ。


 マリオンも情欲を好む性格なだけで、政治に積極的に口出ししてくるような女でなければいいのだが。


 「あら、そんなに熱く見つめてもダメよ。私はダーリン一筋だから諦めてね」


 何を勘違いしてるのか……だが……


 「美しい女性に目を留めないのは男性の罪ですから、でも不快な思いをされたなら謝罪いたします」


 「ウフン、その言葉をダーリンから言われたいわ。男性から見られて不快な思いをするタイプじゃないから心配しないでねん」


 マリオンが機嫌よくゼギアスの方へ歩いて行くのを見守る。

 

 私の考え過ぎなのか……マリオンという女性もいまいち掴めない。


 まあ、戦闘は終わった。

 

 学習すべきことはまだまだ多い。

 ――――早く戻って部屋に籠もらなければ。


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