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74、メサイア教の排除

 エドシルド国内にメサイア教が広まり、メサイア教を信じない者にとっては理不尽な扱いされる機会が増えた。

 メサイア教信者よりも多くの食料を徴収され、農具を借りる際にも後回しにされる。その上、土地神や精霊を信奉する者達が大事にしてきた社が壊されることもある。商人だと、いつも屋台を開いていた場所の許可が下りなくなったり、店を壊されることもある。領主に訴えても何の対応もしてもらえない。


 エドシルドから他の国に移ることができる者はまだ良い。 

 だが、土地に縛られている奴隷や農民は逃げられない。


 リエンム神聖皇国の地方都市が反乱を起こす直前、精霊を信奉してるために理不尽な扱いを受け耐えられなくなった青年がいた。


 「プリシラ。俺はこの国を捨てようと思う。」

 

 プリシラと呼ばれたブラウンの長髪を持つ少女は、


 「どこへ行こうと言うの?マルク。」


 「レイビスへ行く。行商人から聞いた噂では、レイビスの王様は俺達農民の生活を苦しめるようなことはしないと聞いた。プリシラも一緒に行こう。」


 黒髪を短く刈った青年マルクは、その青い瞳をプリシラに向ける。

 

 「シィー。誰かにそんなことを聞かれたら・・・・・・捕まって鞭で叩かれるわよ?」


 農地の端で周囲を見渡して、誰も居ないかプリシラは確かめる。

 

 「大丈夫だ。誰も居ない。俺は今夜逃げるけど、どうする?」


 プリシラの肩に両手を置いて、マルクは聞いた。


 「あなたが行くというなら私も行くけれど・・・・・・。でも怖いわ・・・・・・。」


 脱走がバレて捕まったら鞭で酷く叩かれるだろう。

 「ここに居たら、メサイア教に入らない限りいずれ殺されるさ。」


 「メサイア教には絶対に入らないの?」


 信者になれば、様々な嫌がらせされることもなくなる。

 プリシラはメサイア教に入るのも仕方ないかもと思っていた。


 「ああ、信者にならなければ嫌がらせをするんだぞ?そんなことをするメサイア教には絶対に入らない。」


 マルクの表情には怒りが浮かんでいる。


 「・・・・・・わかったわ。私達・・・・・・どうせ家族は居ないものね・・・・・・。」


 家族が居れば、マルクとプリシラが逃げた責任を問われる。

 マルクとプリシラの代りに酷い目に遭わされる。

 その心配が無いだけ二人は気も楽だ。


 夕飯が終わった後、森の外れで待ち合わせし、まずフリナムを目指すと決めた。


・・・・・・

・・・


 「マルク?居るの?」


 目立たないように松明に灯りを灯さずに、真っ暗な森の外れにプリシラは来た。


 「ああ、プリシラ。居るよ。」


 プリシラの前にマルクが近寄ってきて、手を繋いだ。


 「さあ、行くよ?朝までに山の麓に着かなきゃ・・・・・・。」


 森の中を進んでいけばエドシルドの人間には見つからないが、代りに魔獣や獣が居る。だから、フリナムまでの道が見える距離を保ちながら、森の端を進んでいった。


 木々の隙間から射す月の光で歩ける場所は松明の火を消し、そうじゃない場所では松明を灯して道から森の奥へ多少入ったところを二人は無言で歩いた。フリナムとの国境にある山の麓には検問がある。明るくなる前にその検問を越えてしまわなければならない。


 森の奥から獣の鳴き声が聞こえるたびに、二人はビクッと身体をこわばらせる。

 梟か蝙蝠かは判らないが、二人の近くで聞こえる羽音に足を止め身体を縮める。

 そして”大丈夫、頑張ろう”とプリシラにマルクは声をかけ再び歩きだす。

 

 肩から下げた皮の鞄には、夕食の残りのパンと水筒が入ってる。

 二人は少しづつ口に入れて、足を止めずに進む。

 低木や草で膝から下には幾つもの傷が、破れたズボンから見えてる。

 だが、治療する暇を惜しんで二人は歩く。


 もうじき日が昇るころ、検問が近づいてきたので、森の奥に入り誰にも見つからないよう山へ向かった。


 検問を越え、獣に襲われずに辿り着いたことを喜んだ。

 やっと一息ついて食事ができると座った時


 「マルクか?」


 検問とは逆側から聞き覚えのある声がする。

 声のする方に顔を向けてマルクが立ち上がり、プリシラの前へ進む。


 「お前達・・・・・・こんなところで何をしてるんだ?」


 マルクの幼馴染ジョーイの姿があった。

 成人後会っていなかったが、ジョーイは兵士になっていたはず。


 ”マズイ、誰かを呼ばれたら・・・・・・”


 「・・・・・・お前達・・・・・・検問抜けする気か・・・・・・。」


 汚れ、傷つき、疲労も見えるマルクとプリシラの格好を見て、ジョーイは二人が何をしようとしているのかを察した。


 「ジョーイ、見逃してくれ・・・・・・。」


 マルクが頼むと、


 「幼馴染のお前の頼みじゃ断れないな。」


 笑顔でジョーイが近づいてくる。

 ジョーイの言葉にホッとした次の瞬間、マルクは顔をジョーイの持つ剣の柄で殴られた。そして朦朧としたマルクは膝をついた。そこへジョーイが蹴りをマルクの顔に入れる。


 「何をするの!」


 プリシラの声を聞きながら、マルクは倒れた。


 「キャアアアア!」


 プリシラの叫び声に、マルクは必死に身体を起こす。

 プリシラのいる方へ顔を向けると、ジョーイがプリシラの上着を破って押し倒そうとしている様子が見えた。


 足に力を入れマルクは立ち上がり、


 「ジョーイ!きさまあ!!!」


 少しづつ近づいていくと、プリシラの顔に張り手を放って倒し、ジョーイも立ち上がった。


 「フンッ。検問抜けした奴が何をされようと仕方ないだろう?どうせ検問に連れていけば首を落とされるんだ。その前にプリシラを女にしてやろうというんだ。感謝して欲しいぜ。」


 「ふざけるな!!」


 「昔からお前のことが嫌いだったんだ。巡回に出て良かったぜ・・・・・・殺してやるから来いよ。」


 剣を片手に舌なめずりして、マルクに近づいてくる。

 狂気のような光が瞳に浮かんでいる。


 「ヘヘヘ・・・・・・俺が殺す初めての奴がお前になるとはついてるぜ。」


 マルクは腰から短剣を持ち、膝を曲げ腰を低くしてジョーイの動きを見ている。

 ジョーイは胸に鉄のプレートをしている。

 殴られ蹴られた痛みのせいか、頭はしっかりしている。

 冷静なマルクは胸を外して狙いを決めた。


 ジョーイは兵士だ。

 マルクと違って剣の扱いは慣れてるだろう。

 マルクを舐めてる間にジョーイにダメージを与えなければマルクが不利になるだろう。ここでジョーイを倒さなければマルクもプリシラも助からない。


 マルクは集中した。以前、獣を相手にした時と同じように、ジョーイの一挙手一投足を見逃さぬよう集中した。


 あと一歩近づくとジョーイの剣が当たるだろうと思われた距離になった。

 ゴクリと喉を鳴らし、冷や汗で湿る手が短剣を落とさぬよう力を込める。


 ズサッと地面を蹴ってジョーイが近づき、上段に振りかぶった剣をマルクに落としてきた。


 ”ここだ!”


 不思議なほどマルクはジョーイの動きが見えていた。

 以前、獣を倒した時も同じことがあったが、その時よりもはっきり見えてる気がする。

 マルクは短剣でジョーイの剣を持つ手の手首をバッと払った。

 グサッという音とともに肉を切った感触がマルクの手に感じる。

 そして短剣をそのままジョーイの太腿に刺し、引き抜くとジョーイが切られた片手を押さえながら倒れた。


 「グワァッ!い・・・・・・いてえぇぇ!」


 足元に転がったジョーイの剣をマルクは持ち、転がりながら叫ぶジョーイに両手で振り下ろす。剣はジョーイの肩を切った。


 「ギャァッ!!ゆ・・・・・・許してくれ・・・・・ほ・・・・・・ほんの出来心だったんだ・・・・・・。幼馴染だろ?・・・・・・た・・・・・・頼む。」


 マルクから少しでも離れようと地面を這いながら許しを乞うジョーイを無言で見つめ、マルクは剣を再び振り下ろす。


 剣から身体をかばおうとあげた両手を切り、頭に剣が埋まる。

 ジョーイは口から血を吐きながら、前のめりに倒れ身体をビクッビクッと痙攣させている。


 「・・・・・・ハァッ・・・・・・ハァッ・・・・・・。」


 ジョーイの頭に刺さった剣をそのままに、マルクはプリシラの方へヨロヨロと歩き出した。


 「・・・・・・ジョーイは・・・・・・死んだ・・・・・・の?」


 はだけた胸を両手で隠しながら、恐怖を浮かべた目でマルクをプリシラは見ている。


 「・・・・・・ああ、殺した。」


 「・・・・・・。」


 「・・・・・・俺が怖いかい?」


 「・・・・・・ううん、マルクは怖くない・・・・・・でも・・・・・・幼いころから知っているジョーイが目の前で死んだ・・・・・・それが怖いの・・・・・・。」


 マルクはしゃがんで上着を脱ぎ、プリシラに着せる。

 プリシラに着せたあと、自分の上着がジョーイの血で汚れてることに気づいた。

 どこかで洗わなければと考えつつ


 「・・・・・・あいつはプリシラに乱暴しようとした・・・・・・俺達を殺そうとした・・・・・・。」


 自分の行為を正当化しようとする言葉がマルクの口から出る。


 「・・・・・・ええ、そうね。」

 

 冷静さを保とうとしているマルクの様子が判ったプリシラは、多くを語らずにマルクの肩を抱きしめた。


 「・・・・・・ここに居たら誰か来るかもしれない。山向うまで急ごう。」


 マルクはプリシラの手を握って起こした。

 もう動かなくなったジョーイと地面に散らばるパンを見ながら、マルクは鞄を肩にかける。



 

・・・・・・

・・・



 あれから丸一日が過ぎ、遠くにフリナム側の検問が見える。

 ほとんど眠らずに、ずっと歩き通し。

 陽の位置は正午を大きく過ぎていると教えている。

 汚れた服を途中で見つけた川で洗い、濡れたまま着た服も今ではほとんど乾いている。


 二人はフラフラと検問に近づいていた。

 あともう少し、もう少しで・・・・・・。

 マルクはプリシラの手を引きながら歩く。


 急に暗くなったと感じた時、目の前に魔獣が現れた。


 ここまで来たのに・・・・・・逃げなきゃ・・・・・・。


 マルクはプリシラの手を強く握って、魔獣から離れようと後ろを向いた。

 だが、逃げ出そうとした二人をその魔獣は咥えて飛び上がった。


 ・・・・・・ちくしょう・・・・・・ここまでか・・・・・・プリシラ・・・・・・ごめん・・・・・・。


 死を覚悟してマルクは意識を失った。


 良い香りがして目を覚ますと、マルクはベッドの上で寝ていた。

 ハッとプリシラを探すと、隣のベッドで寝ている。


 周囲を見回すと、どうやらテントの中だと判った。

 少し離れたところに綺麗な女性とテントの入口に兵士が一人が居た。


 「目が覚めたようね。あなた達、運が良かったわよ。魔獣に追われてたみたいだから・・・・・・。」 

 

 いや、マルクとプリシラは魔獣に捕らえられたはずだ。


 「・・・・・・俺達はどうやって助かったんでしょう?確か魔獣に咥えられたと・・・・・・。」


 「ああ、あなた達を咥えたのはグリフォンね。巡回してたらあなた達を見つけたみたい。」


 つまり、あの魔獣が助けてくれたのか・・・・・・。


 「助けていただいて有難うございます。・・・・・・それで・・・・・・あの・・・・・・俺達はどうなるんでしょうか?」


 不安げな表情で目の前の女性に聞く。

 ここで命が助かっても、エドシルドへ戻されてしまっては命に危険がある。


 「あなた達は、エドシルドから逃げてきたのね?」


 女性は責めるでもなく、単に確認するような口調で聞く。


 「・・・・・・。」


 マルクは俯いて無言のままだった。


 「安心しなさい。あなた達をエドシルドへ戻すようなことはしないし、ここでも捕らえるつもりはないから。・・・・・・あ、ごめんなさい。自己紹介していなかったわね。私はサロモン王国 のカルローナ。フリナムへ監察官として赴任してるの。あなた達に関しては、こちらの事情でフリナムではなく私の預かりになっているから、正直に答えてちょうだい。」


 カルローナはマルクの前に椅子を運び座る。

 マルクはここで黙っていても仕方ないし、エドシルドに戻すことはないというカルローナの言葉を信じてエドシルドの状況とフリナムへ逃げてきた経緯を話すことにした。  

 

 「・・・・・・そう・・・・・・大変だったわね。貴方達はサロモン王国へもレイビスへも、他のサロモン王国の友好国ならどこへでも行けるわ。あと一つ聞きたいのだけど、貴方達は農家になりたいの?それとも他にやりたいことが判らないから農家をやるの?」


 マルクから一通り話を聞いて、奴隷ではないにしろ農家以外の選択が無かった点が気になった。サロモン王国で・・・・・・自分がやりたいことを見つけ、それをやることが本人にとっても国にとっても良いことだと教えられ、その通りの道を歩んできたカルローナには気になる点だった。


 また、多分、マルクとプリシラは読み書きも計算もできないだろうから、教育も必要だと考えた。マルクにもプリシラにも必ず何らかの可能性がある。可能性を実現化するためには、いろいろなことを考えるための知識や経験が必要だ。

 

 それに・・・・・・話を聞くと、マルクには農夫より向いてる仕事があるようにカルローナは感じた。

 何かを選ぶという行為は選べるモノがある状態でなければできない。

 選ぶのはマルクだが、選択肢を用意してあげられるなら用意すべきだとカルローナは考えている。


 「・・・・・・農家しかやったことないから・・・・・・。」


 カルローナに指摘されたように、マルクは農家以外の仕事を選ぶ機会が無かった。だから農家をやるものだとマルクは考えていた。だが、エドシルドを離れたマルクには農家以外の道もある。カルローナに指摘されそのことにマルクは気づいた。


 「じゃあ、サロモン王国で農作業しながら探しなさい。あなた達二人が暮らせるよう、私が許可を貰ってあげる。」


 カルローナの言葉を聞き、まだ目を覚まさずに眠るプリシラを見ながらエドシルドを出た選択は間違っていなかったのではないかとマルクは考えていた。



◇◇◇◇◇◇




 サロモン王国で農作業を手伝いながら、マルクとプリシラは学校へ通い、またいろんな仕事の現場を見学した。陶芸やガラス工芸は面白かったし、鍛冶仕事にも関心を覚えた。様々な仕事に接してるうちに、リエラが教える料理を学んで料理人になりたいとプリシラは考え、アマソナスと共に武術を学び兵士になりたいとマルクは考えるようになった。


 二人が預けられたのは、猫人族の夫婦の家。

 カルローナから二人のことを頼まれたマルティナが紹介した。


 早朝は農作業を手伝い、午前中は学校へ行き、その後マルクは訓練、プリシラは料理を学び、戻ったら猫人夫婦の仕事を手伝う毎日を何不自由なく送っていた。


 ある日、アマソナスの訓練場でマルクが訓練していた時、ゼギアスがやってきた。


 「・・・・・・マルク、ちょっと来てくれ。」


 ゼギアスが自己紹介を終えたあと、マルクを連れて訓練場の端に歩いていった。


 「ちょっといいか?俺の剣の動きを集中して追ってくれ。」


 そう言って、マルクの前で剣を振り出した。

 マルクは言われた通り、ゼギアスの剣を集中して追った。


 ビュッ!・・・・・・ビュッ!・・・・・・ビュッ!・・・・・・ビュッ!・・・・・・

 剣の風切音が鋭い。

   

 じっと見ているとゼギアスが急にマルクに素早く近づき、剣を振り下ろしてきた。

 ハッとしてゼギアスの剣に対して手に持っていた剣を当てて止める。


 「悪い悪い、ちょっと試してみたくてな。」


 ゼギアスは剣を引いて、笑いながらマルクから数歩離れる。


 「俺の剣がしっかり見えていたようだな。・・・・・・しかし、凄いな。マルク・・・・・・今の俺の打ち込みが見えたのなら、アマソナスにも当てられるはずなんだ。いいか?お前は動体視力がかなり優れてる。・・・・・・安定して集中力を維持できたらの話だが、一流の剣士になれる素質がある。これからは集中力をいつも発揮できるように考えて訓練してくれ。」


 ”ヘラ、お前の言う通り面白い奴だからガシガシ鍛えてやってくれ”と言ってゼギアスはどこかへ転移していった。キョトンとしているといつもマルクを訓練してくれるヘラが近づいてきた。


 「先程、お前が止めたゼギアス様の剣は、力こそ入っていなかったが、相当速かったのだ。気をつけていなければ私でも避けられなかっただろう。」


 先程のゼギアスの剣を思い出し、そんなに速かったのだろうかとマルクは首を傾げた。


 「あの剣に反応できたのだ、誇れ。そしていつも先程のように反応できるよう・・・・・・集中できるようになれ。」


 ”しばらくは反応速度重視の訓練にする。今日はこれでおしまいだ”と言ってヘラはアマソナス達が訓練してるところへ歩いていった。


 後に、”瞬風の鋼”の二つ名で呼ばれる剣士にマルクは育つ。




◇◇◇◇◇◇



 ・・・・・・マルクとプリシラがエドシルドから逃げ、カルローナによってサロモン王国へ送られた時に戻る・・・・・・。



 マルクから得られた情報と諜報部が調べた情報をもとに、エドシルドがフェンニーカ大陸のザンフレッディアという国と協力関係にあり、ザンフレッディアの国教メサイア教により支配されつつあることが判った。


 「・・・・・・また宗教か・・・・・・。」


 眉間に皺を寄せて俺はついつぶやいた。


 俺は宗教とその利点を否定しない・・・・・・いや、否定できない。

 信仰による心の安静が必要な人はいると前世での経験で知っているからさ。


 だが、一部の宗教がやっかいなこと起こしたことも知ってる。どのような宗教でも人の欲に利用されることはあるので、できることなら関わりになりたくはなかった。


 ”個人を集団行動に組み込み、個人の行動を支配したり、忠誠心を試す”という宗教とは関係ない動きを、信仰の下に生じさせる者が高い階位に居ると非人道的で悲惨な状況を生むことがある。


 ○○を信じてるなら、△△を為して証明せよとか、○○の信者は◎◎すべき・・・・・・みたいなやつね。

 んで△△や◎◎には碌なことが入らない。

 

 で、そのような行動を信仰の皮で正当化し政治的に利用する輩がいる。


 政治的に利用されてることを自覚しない可哀想な信者が、個々人の内部で信仰完結していればいいのに、他者に信仰を善意で強制するから面倒なことになる。


 ああああああああ、考えるだけで、うぜぇ。

 

 宗教や信仰が悪いのじゃなく、宗教の持つ正しさを政治的に利用する奴らが悪いのだと判ってはいるけどね。でも、俺にとってはうざいことには変わりない。 

 

 「神はここだよ~、信じても信じなくても何もしないよ~。美味しい食事食べさせてあげると、ちょっとだけ褒めてくれるよ~。」


 ・・・・・・もうね、ケレブレア倒してから、フリーダムの度合いが高まったエルザーク連れ回して言って回りたいよ。最近は吹っ切れたように、リエラに好きなメニューをせがんだり・・・・・・うちの子供達に肩を揉ませたり、エルザークを神竜だと知らない人が見たら、俺の祖父にしか見えない。

 ・・・・・・いや、楽しそうだからいいんだけどね?

 ただ、神への信仰とか言われても、亡くなったら仏壇にお供え供える程度でいいんじゃねぇ?と思いたくなるのは確か。


 エルザーク本人には言えないのだけれど、俺の中での神様はその程度。


 ま、こんなこと考えていても仕方ない。

 エドシルドについて考えなければならない。


 俺としてはできるだけ関わらない方向でと言いたいのだが、ヴァイスハイトは違った。


 「今ならば、エドシルド国王ケラヴノスも私達の手を借りようと考える可能性があります。」


 ケラヴノスの長男アンダールにマルファを同行させてケラブノスの説得を試みてはと言う。


 マルファなら転移魔法も日に三~四回程度使えるからいざとなったら逃げてこられるし、宮殿内の様子を探るためにもアンダールを送るのはいいかもしれない。アンダールの仕事・・・・・・都市計画・・・・・・も今では後任を選ぶのに苦労はしないから、アンダールを外してもラニエロも文句は言わないだろう。

 

 「判った。ヴァイスのことだからエドシルド攻略手段は考えてあるんだろ?」


 「力づくでも可能ですが、時間はかかるものの別の手段も考えてはあります。」


 平然と答えが返ってきた。  

 ヴァイスは相変わらず頼りになるよね。

 

 エドシルドについてはヴァイスに任せることにした。




◇◇◇◇◇◇

 


 マルファと共にエドシルドに戻ったアンダールは、早速、父ケラヴノスに会いに行くつもりであった。だが、アンダールは脱獄した身。堂々と会いにいける立場ではない。


 そこで国王の寝室へマルファに転移で連れていってもらうことにした。

 

 ”転移魔法の使用回数は一日三回ということで考えて下さいね”とマルファから注意されている。ケラヴノスがアンダールを捕らえようとするようなら、一旦国外へ転移することと話し合い二人は執務室へ転移した。


 執務室に転移すると、机の上にある書状を呆然と眺める憔悴したケラヴノスの姿があった。アンダールは”父上”と声をかけると、顔をゆっくりとあげ、やはり疲れで弱々しい瞳を向けてきた。


 「アンダールか・・・・・・笑いに来たのか?」


 アンダールとマルファが突然現れたことを疑問にも思わない様子から、ケラヴノスは転移を見慣れてるとアンダールもマルファも感じた。


 書類がいくらか積まれる執務机の前まで近づき、


 「そんな、笑いになど・・・・・・。父上を助けに参りました。」


 「フッ、お前に助けて貰った後はサロモン王国の傘下に入れられ、人間種が見下される国にするのか?」


 ケラヴノスは弱々しいが皮肉げな笑みを浮かべる。


 「サロモン王国と交流を深めても人間が見下されることなどありませぬ。サロモン王国の将軍は幾人も人間が務めていますし、幾つもの重要な政務にも就いています。私も都市計画に携わっております。どうか偏見を捨て、我が国と共にエドシルドを健全な国に・・・・・・。」


 「我が国・・・・・・か・・・・・・お前もすっかりサロモン王国の人間になってしまったな。」


 ケラヴノスはアンダールからマルファに視線を移した。

 

 「そこの魔族・・・・・・アンダールを洗脳でもしたか?・・・・・・我が国民がメサイア教に洗脳されたように、いや、我が家族ですら、今や我を除いて洗脳されてしまったのだったな・・・・・・。」


 ケラヴノスは自嘲気味に笑い、アンダールへ再び視線を戻した。


 「それでお前はどのように助けてくれるというのだ?」


 アンダールはヴァイスハイトが考えた策を説明した。

 一つは、強硬策。

 ケラヴノスには仮病で倒れて貰う。そこへサロモン王国がアンダールを国王とするという名目で攻め入って、アンダールを国王として体制を立て直す。その後アンダールはスオノの状態次第で国王の座を譲る。こちらは短期間でメサイア教の影響力を弱められるが、一時的に混乱が生じる。


 二つ目は、やや持久戦になる。

 エドシルド領内で、メサイア教の嘘を住民に実感させ続け、メサイア教の影響力を削ぐ。最終的には領内からメサイア教を排除する。こちらは時間がかかるし、混乱もまったくないとは言えないが小さい程度で済むだろう。


 「・・・・・・どちらを選んでも構いません。全て終わったあと、エドシルドの自治権は守るとお約束いたします。」


 ケラヴノスは一時的でも王座に混乱が生じるのは嫌い、二つ目の手段でとアンダールに頼んだ。


 「父上、必ずや国内の平穏を取り戻してみせましょう。」


 この数日後、エドシルド領内の一地区に見慣れない集団が移住してきた。

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