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66、サラの婚約

 レイビス国王クリストファー・ラウティオラはサラ・デュランが帰国する日が近づき焦っていた。フリナム女王の長男ヴィットリオへの治療がほぼ終わり帰国する日が明後日と決まった。サラがレイビスに滞在してるのはヴィットリオの治療のためだから、治療が終わればサロモン王国へ戻ってしまう。

 

 「サラさんを妃に迎えたい。その許可をいただきたいのだが。」


 およそ一月前、クリストファーはゼギアスにサラを妻に迎えたいと願った。


 「んー、サラの気持ちを大事にしたいし、あんたのことは気に入ってるから、サラがあんたの妃になりたいと言うなら俺は反対しない。だが、この件で俺にできることはないよ。」


 この世界の常識で生きているクリストファーには理解できない返事がゼギアスから返ってきた。


 娘の嫁ぎ先は親が決めるもの。

 親が居なければ保護者か親類一族が決める。

 保護者等も居なければ本人の意思で。


 つまり、本人の意思で決めるのは、身寄りが誰もいない時のはず。


 サラにはゼギアスという国王である兄が居るのだから、ゼギアスの考え次第でサラの嫁ぎ先が決まるはずではないのか?


 ゼギアスにはサラの嫁ぎ先を決める責任があるのではないのか?


 クリストファーは困惑したが、サラを妃に迎えられるかを決めるのはサラの気持ち次第ということだけは判った。


 サラは、どうすればクリストファーのもとへ妃に来たいと思ってくれるだろう?

 

 物品などの贈り物?


 いや、サロモン王国には、レイビスでは手に入らない物がたくさんある。

 女性が好む装飾品一つとっても、サロモン王国製の方が美しさも上だ。

 サロモン王国製の装飾品で身を飾ってるサラに贈れるようなものはクリストファーにはない。

 

 クリストファーの力?


 ・・・・・・それこそ馬鹿らしい。

 クリストファーが今頼ってるのはゼギアスだ。

 ゼギアスには、クリストファーには及ばないほどの武力も魔法力も権力もある。

 そのゼギアスの妹サラにどんな力を見せたらクリストファーに関心を持って貰えるというのか?


 身近に居る者ならサラが気に入りそうなものを知ってるかもしれないと、サラと一緒にヴィットリオの治療しているエルフや、カリネリア軍事総督ホーディンにクリストファーは聞いてみる。


 「サラ様がお好きなものですか?・・・・・・あ、そういえばグリフォンに乗るのは好きだと仰ってたことがありました。あと・・・・・・学校で子供達と頻繁に遊んでらっしゃいますから子供は好きだと思いますよ。」


 ・・・・・・ふむ、子供好きなのか・・・・・・いや、そういうのじゃなくてだな・・・・・・


 「サラ様かい?・・・・・・あんたも凄いのを気にいっちゃったなあ・・・・・・俺の知る限り十数人は玉砕してるぞ?・・・・・・好きなものかあ・・・・・・そんなもの知ってたら俺が突撃してるな、アッハッハッハッハ・・・・・・。」


 ・・・・・・笑い事じゃないんだが。


 うむ、周囲もあてにならないことが判った。

 

 ・・・・・・仕方ない・・・・・・自分で調べるしかないようだ。


 クリストファーは時間が許す限り、サラのところへ通った。

 食事時にはサラの居るところへ現れ、用意させた食事を一緒に食べようと誘い、政務の合間にはちょっと休憩と言ってはサラの顔を覗きに行く。


 そんなことが三日続いた時、ゼギアスから”それじゃストーカーみたいなもんだ。サラと会いたいなら事前に約束してから会えよ。じゃないと嫌われるぞ?”と注意される始末。ストーカーとは何か知らないが、ゼギアスの口調からすると悪いことらしいのは判った。


 クリストファーは、これまでの行動を謝罪し、できるだけ会いたい旨をサラに伝え、認められた時間・・・・・・午後の休憩時間一時間と夕食時・・・・・・サラと会えるよう約束を取りつけた。クリストファーとしてはもっと時間が欲しかったのだが、それ以上は困ると言われてしまっては強気に出られない。


 知人の奥さんから”女性は美しいものが好き”と聞いたので、サラと会う時にクリストファーは花を持っていった。すると


 「有難うございます。これは陛下がご自分でお選びになったのですか?」


 「いえ、部下に用意させました。」


 正直に答えると、”そうですか”とだけ答えて、サラは近くの花瓶に花を活けてそれ以上関心を持たない様子。


 何か不手際でもやらかし、サラの機嫌を損ねたのかと心配したクリストファーは、再び、知人の奥さんにそのことを伝える。すると、”サラ様は、陛下ご自身で選び、自らの手で摘んだ花をお望みなのでは”と教えられたので、自分で選んだ花を摘んで持っていった。


 「・・・・・・今日は私が選んで自分で詰んできました・・・・・・。」


 恐る恐るサラに花を手渡すと


 「どなたかにお聞きになったのですか?」


 「・・・・・・ええ、知人の奥さんから教えていただきました・・・・・・。」


 「・・・・・・クスッ、陛下、お気持ちは判りました。わざわざ摘んでらっしゃらなくても宜しいですわ。これからは、何も持たずにいらっしゃって下さい。」


 国王でありながらも自分を飾らずに正直に話すクリストファーに好感を抱いたのか、その日からサラはクリストファーといろんなことを話すようになった。


 ゼギアスのこと、家族や友人のこと、サロモン王国のこと、呼ばれし者のこと、過去に感じた様々なこと・・・・・・そのどれもがクリストファーには興味深く、それらの話を通して判るサラの人柄や考え方に・・・・・・ますますクリストファーはサラのことが好きになっていった。


 レイビスの街を案内し、街近くの野原で草むらに座り、時には二人で馬で駆け、クリストファーはサラとの貴重な時間に幸せを感じていた。


 片思い中のクリストファーにとって、サラと会える時間はいくら有っても足りず、一月などすぐ過ぎてしまう。


 そして、サラの帰国が明後日に迫った今日、クリストファーは意を決して気持ちを伝えるべく夕食の時を待っている。

 

 サラと二人の夕食が終わり、クリストファーは今しか無いと話を切り出した。


 「・・・・・・サラさん。私の妃になっていただけないでしょうか?」


 サラはそのいつも通りの率直なクリストファーの申し込みを黙って聞いて考えている。


 「・・・・・・陛下。お気持ちは十分有難く思いますし、私も陛下となら良き夫婦になれるのではないかと思ってもおります。」


 サラの言葉に、オオオオォォォォ・・・・・・とクリストファーの気持ちが盛り上がる。


 「・・・・・・・ですが、失礼な話かもしれませんが、条件がございます。」


 そう言って、サラは条件を話し始めた。


 ゼギアスには、今回の治療の件のようにサラの力を必要とする時がある。その時はゼギアスの力になりたいし、それが叶わないなら嫁ぐことはできない。

 サロモン王国は亜人や魔族が虐げられる環境を無くすためにゼギアスとサラが少ない仲間と建国した。サロモン王国がその目的を達成したとは言えない中、サラだけがそこから離れるわけにはいかない。だからゼギアスからの要請があったら、どんな時でも協力する責任があるし、サラも協力したいのだと伝える。


 「陛下は、私を妻に迎える条件は国を捨てることと言われて捨てられますか?」


 「・・・・・・いや、できない・・・・・・。」


 「私も一緒なのです。レイビスの妃としてよりゼギアスの妹としての私が今はまだ優先されるのです。ですから・・・・・・。」


 自分の気持より優先しなければならないモノを持つ者としてサラが言いたいことは理解できる・・・・・・理解はできるが・・・・・・。


 ・・・・・・マズイ、このままでは断られてしまう。

 サラの話をこのまま最後まで聞いてはダメだ。

 聞いてしまったら何も言葉にできなくなってしまう。


 「でしたら!!・・・・・・でしたら・・・・・・婚約ではダメでしょうか?」


 サラがゼギアスからの要請のたびにレイビスを離れることはクリストファー自身は気にならない。その程度のことでサラが妻になってくれるなら喜んで受け入れよう。


 ・・・・・・だが、貴族や国民はそれでは納得しないだろう。

 レイビスよりもサロモン王国を大事にする妃とサラは非難されるだろう。

 クリストファーが非難される分には耐えられるが、サラが非難される状況はレイビスのためにもサラのためにも良いこととは思えない。


 ・・・・・・でも、サラを失うこともクリストファーには耐えられない。


 何かを伝えようと開いていた口を閉じ、柔らかな表情を目に浮かべ、ほんの少し微笑みながらサラはクリストファーを見ている。


 「今すぐとか・・・・・・いつまでとか・・・・・・そんなことはどうでも良いのです。・・・・・・私は・・・・・・私は貴女の他の妻などいりません!」


 「・・・・・・。」


 サラは少し視線を下に向け、微笑みを崩さずに沈黙している。


 「・・・・・・。」


 自分の気持は伝えきったし、これ以上の言葉を重ねるのは、既に伝えた気持ちを壊してしまうような気がしてクリストファーも沈黙するしかなかった。


 「・・・・・・宜しいのですか?本当にいつとお約束することはできないのですよ?」


 静かに開かれたサラの口から穏やかな声がクリストファーに伝わる。


 「はい。構いません。」


 即答し自分を見つめるクリストファーにサラは照れた表情で


 「・・・・・・では、陛下のお申込みを有難く・・・・・・。」


 「婚約を?」


 「・・・・・・はい・・・・・・。」


 サラの返事に、クリストファーが飛び上がるほど喜んだのは言うまでもない。

 衝動的に反応したがる気持ちを抑えて、クリストファーは立ち上がりサラの目の前で跪き、騎士のごとくその手にキスをして


 「一生貴女のそばにいられる名誉と幸福を与えていただき、私の誇りと命にかけて貴女を守り、貴女を大切にすると誓います。」


 その堅苦しい態度をくすぐったく感じたサラは、その気持ちを誤魔化すように、手を預けたままクリストファーの額に唇を当て、そして離す。


 「陛下の力を貸していただけるなら、一緒に暮らせる日はきっと・・・・・・そう遠い日ではありませんわ。」


 ”兄も私達の婚約を喜んでくれるでしょう。”と伝えたあと


 「でも結婚じゃなく婚約になった理由は兄には内緒にしてくださいね?兄は私にとても気を使うのですよ。」


 照れた表情のままサラはクリストファーにお願いをする。

 ”判りました”と返事し、サラを愛おしそうに抱きしめクリストファーは幸せを感じていた。


 ここにマリオンかドリスが居たなら、”そのまま押し倒しちゃえ”とでも言って煽るのだろうが、紳士のクリストファーはサラを離し、今後ことを話し合うだけであった。




◇◇◇◇◇◇




 クリストファーとサラの婚約は、ゼギアスにとって自分の結婚以上に大事に思えることだった。離れていくことへの少しの寂しさと、妹の幸せを願う祈りと、サラのお眼鏡に叶う相手が見つかったという安心感と、そして盛大に祝ってやらねばならないという兄の余計な熱情が混じった義務感にゼギアスは複雑な心境だった。


 クリストファーは人間、デュラン族よりも脆い命を持つ種族。

 共に過ごす時間は貴重と言っていたサラが、結婚ではなく何故婚約なのかをゼギアスはサラに聞いたのだけど、サラは笑って”今はこれでいいの”としか答えてくれない。


 サラの性格やサロモン王国の状況を思うと、婚約となった理由が何となく判る。

 だが、婚約じゃなく結婚にと言ったところでサラは言うことを聞いてはくれないだろうということもゼギアスには判っている。


 ゼギアスにサラは厳しい・・・・・・優しくも厳しい。

 サラの厳しさはゼギアスへの愛情に溢れている。


 サラはサラ自身にも厳しい。

 自分自身を大切にするからこそ、自分にも厳しい。

 サラが望むサラでありたいから厳しい。


 ”もっと甘えてくれていいのに・・・・・・”とゼギアスはサラのそのサラ自身への厳しさを感じるたびに思う。だが、そんなことを言うと”私は大丈夫。お兄ちゃんはお兄ちゃんのすべきことだけを考えて”と言われるだけだろう。


 この手のことは、ゼギアスからじゃなくベアトリーチェやマリオン等から話して貰う方がいい。サラもその方が素直になれる。結果は変わらないだろうけど、思いは伝えておきたい。ゼギアスはサラへの気持ちを王妃達に伝え、機会があったら話しておいてとお願いした。


 世間では恐れられていても、サラの目からはまだまだなんだなとゼギアスは自分を省みる。


 「・・・・・・頑張らなきゃな。」


 

・・・・・・

・・・


 


 「サラの婚約式をする!」


 俺はヴァイスハイトと王妃達全員の前で宣言した。

 この件は誰が反対しても、サラが反対しようとも聞く耳を持つつもりはない。


 俺にできることはどんなことでもやる!


 「ええ、そうするつもりでしたが?」


 拳を握り、どんな抵抗も跳ね除ける気持ちで宣言したつもりなのだが、あっさりと了承される・・・・・・というか、ヴァイスハイトと王妃達は”何を今更?”といった表情を俺に向けている。


 ・・・・・・ま・・・・・・まあ、皆も良しとしてくれるなら問題はない。サラの婚約式を盛大に開こう。”準備は私どもにおまかせ下さい”と言ってくれたのでヴァイスに任せる。

 俺がやると手落ちがありそうだが、ヴァイスなら任せて安心だ。


 サラの婚約が決まって気づいたことがある。


 王妃をどんどん貰えというサラの姿勢は、サラにとても依存している俺のことを心配していたからではないかということ。俺の勝手な思い違いかもしれないが、そんな気がする。


 サラの婚約はとても喜ばしいし嬉しいのだが、やはり寂しい気持ちが残る。

 

 俺と同じく妹が居るズールは”これでゼギアス様も妹離れできますね”と言っていた。


 そう面と向かって言われてしまうと反論したくなるが、俺もそう思う。

 でも俺の場合は、妹依存から王妃依存に変わるだけのような気もするから、この依存体質をどうにかしなくてはいけないのだろう。


 ・・・・・・どうにかなるんだろうか?

 いや、どうにかしなくてはいけないのだろうか?

 ・・・・・・。


 ・・・・・・まあ、いいや、今は判らん。

 どうにかしなくちゃいけないと感じたときにまた考えよう。


 とにかくサラの婚約を喜ぶ俺の気持ちを大々的に現したいんだ。


 ということで、式の方はヴァイス達に任せることができたから、次はドワーフ妻達の了解を得て、レイビスのインフラ整備・・・・・・・特に上下水道整備を早めに進めたい。もう驚くことは無くなったが、レイビスも他国と同じように衛生管理なんてモノとはこれまでまったく縁が無い国だ。今から整備して、サラがレイビスに住むまでには綺麗で清潔な国にしておかねばならない。


 工場が密集してる地域の近くにドワーフの家が集まっている。ドワーフの居住地と決まってるわけではないが、仕事の合間に帰宅できるようにと考えたのか集まっている。これは俺の我儘のせいだと反省はしてるのだが、今回だけは何とか無理を聞いて貰いたい。


 皆を広場に集めてもらうよう族長に伝え、俺は広場で先に待っている。

 広場を囲むように建てられた家から、ドワーフ達がゾロゾロと集まってくる様子が見え、俺は既にプレッシャーを感じていた。俺が呼び出すとほぼ必ず仕事のお願いだから、ドワーフ妻達からの視線はきつい。


 「・・・・・・えー・・・・・・皆さん既に感じていらっしゃるように、今日もお仕事のお願いで参りました。」


 俺はサラの婚約とレイビスの状況を説明し、またも無理をさせるのだけれどもどうかお願いしたいと頭を下げる。罵声の嵐に包まれることは既に覚悟している。土下座してでも許可を貰うつもりでいる。


 ・・・・・・だが・・・・・・


 「サラ様のためなら仕方ないわね。」

 「とうちゃん、きっちり仕事してきなよ。」

 ・・・・・・・。


 いつもは”ドーワフ旦那が許しても私達の目が黒い間は許さん!”と、俺のお願いは高確率で却下されるか反対されるのだが、今回はスムーズに話が通りそう。


 ・・・・・・・サラのご利益すげぇな。


 「ゼギアス様の顔を潰すわけにもいかないしね。」

 「半年休み貰ったばかりだし、その上サラ様のためじゃ断れないね。」


 お?いい感じだ。

 

 「でもレイビスの仕事が終わったらまた休み増やして貰いますよ?」


 ”約束する、絶対に!”


 当てにならない俺の絶対に!がまた発動した・・・・・・。


 ドワーフ妻に許しを貰いたい時は、”サラの名前出せばチョロイんじゃね?”と思ったが、この考えは捨てなければ危険だ。誘惑に負けて簡単にサラを利用してしまいそうだ。


 ・・・・・・脳内のチョロイ物データベースから速攻で削除した。





◇◇◇◇◇◇


 

 結婚式はレイビスでやらねばならないから婚約式はサロモン王国でとクリストファーが言ってくれたので、そんじゃ大々的にやろうと主張したがサラに却下された。


 この熱い・・・・・・マリオンからは”熱いどころか暑苦しいわよ?ダーリン”と言われたが・・・・・・妹を祝福したい兄の愛情と義務感の全てをつぎ込んでド派手に式を行いたいと必死に主張したが、”そんなのは嫌”と一言で却下された。


 まあ、嫌と言われちゃどうしようもないよね。

 本人が嫌がることやるのは本末転倒だし。


 ということで、クリストファーとサラの身内だけでやることになった。


 花火も隅田川花火大会並に二万発くらい打ち上げて、首都のメインストリートにズラァ~っと料理と酒が並んだテーブルを用意して・・・・・・と派手にやりたかったんだけど、最近建てた迎賓館の小ホールで総勢五十名程度での式になった。

 

 それならそれでと、アロマキャンドルを並べて・・・・・・とか言いだしたら、”お兄ちゃんは黙ってて、当日もね”とサラから怒られてしまった。


 婚約式の準備に忙しい奥様達から、”子供達の相手をお願いします”と言われる。これはサラか、ヴァイスから俺を隔離するよう言われたなと判ったが、出産間近で身重のラウィーアと子供達の相手をしながら大人しく過ごすことにした。除け者扱いにされて気に入らなかったが、ここで拗ねたりしないで済んだのは、子供達の俺と嬉しそうに遊ぶ様子で癒されたから。


 ”父上の真似”と言って、身体を丸め毛布を被ってダンゴムシをするのには苦笑したし、その格好のまま移動するときに尺取り虫のような動きをする次男ルドルフには笑わされた。息子達とはいつものように戦隊ごっこで遊び、娘達とはままごとや散歩する穏やかな日々のおかげで、暴走していた気持ちを落ち着かせることができた。


 質素な式もいいかと思えるようになっていた。


 だが、サラが結婚する時には贈ろうと決めていた物だけは手に入れている。

 これはまだサロモン王国でも製作途中で完成品はまだないから地球まで行って複製してきたのだ。

 

 俺とサラ、そして王妃達八名とクリストファーの分、計十一個用意した。

 これを式の前日にサラとクリストファーには渡す。


 ・・・・・・このくらいはいいだろう。

 

・・・・・・

・・・



 婚約式前日には、飛空船を使ってレイビスからクリストファーとその親戚十数名が到着した。俺は出迎えユニコーン馬車で迎賓館へ案内した。


 夕食前にクリストファーとサラを我が家へ”明日は忙しいだろうから今日の内に済ませて置きたいことがある”と呼んで、居間で待ってもらってる。

 

 俺は部屋から持ってきた小さな木箱を二人に手渡す。

 木箱の蓋にはエルフの細工職人ビアッジョに頼んで装飾を施して貰っている。

 植物の葉のデザインだから、派手ではないだろう。


 「それは二人への俺からの贈り物だ。」


 木箱の中身は時計。

 クリストファーには金の懐中時計、サラには金のナースウォッチを渡した。

 サラは時間や時刻、そして時計のことは知っている。クリストファーには後でサラから説明して貰って欲しいと伝える。時刻は、首都エルの太陽時に合わせてあるが、近いうちにレイビスの太陽時を計ってそれに合わせる。飛空船の運行でも必要になるだろうから、いずれは標準時も導入するつもりだが、今は太陽時でいいだろう。


 「・・・・・・種族によって寿命が違うから、同じ一年でも種族によって価値が違うかもしれないと俺は思った。でも、時計が刻む時間は一緒だ。それを持ち、眺め、毎朝ゼンマイを巻くことで同じ時間を生きてる感覚を共有できるんじゃないか?同じ時間を共有する夫婦としてお互いを大切に思えたら素敵なんじゃないか?俺はそう思った。だから二人には時計を贈る。」


 二人に渡した時計の裏には、今日の日付の刻印が掘ってある。

 

 何か名言のようなものを刻もうかとも考えたが、俺が知る夫婦に関する名言や格言の多くは後悔しないためのものばかりで、これから夫婦になろうとする二人にそんなものを刻んだものを渡すのはどうかと思い日付だけにした。

 

 ちなみに奥様達にも時計は用意してあるが、それは後で渡そうと思う。


 「明日の準備で忙しい二人にわざわざ来てもらって申し訳ない。だが、二人は明日は今日より忙しいだろ?だから今日中に渡しておきたかったんだ。俺の用事はこれだけだ。二人共今夜はゆっくり休んでくれ。」


 俺が話している間中、クリストファーは神妙な面持ちで渡された時計を手に俺を見ていたし、サラは普段通りの表情で俺の話しを聞いていた。


 「・・・・・・お兄ちゃんはロマンチストよね。時計有難う。大事にするわ。」


 そう言ってクリストファーと共に、席を立った。

 これからクリストファーの親類と夕食をともにするので、のんびりとしていられないのだ。


 二人が去ったあと、俺はフウッと息を吐き、あとは結婚式だな・・・・・・とつぶやいた。

 ソファに深く座ってる俺の横にベアトリーチェが来て、俺の膝の上に手をおいて


 「寂しいのは判りますけど、私達が居ますからね。」


 肩に頭を乗せてきた。

 

 「・・・・・・ああ、大丈夫。」


 ベアトリーチェとは逆側にサエラが座り


 「義弟おとうとが増えたと思えばいいんですよ。私はそう思うと気持ちが楽になりましたよ。」


 ああ、そうか、セイランのところへライラが嫁に行った時、ライラは元気だった。

 ・・・・・・やはり俺はシスコンなんだろうな。


 

 数多い転生経験の中には、サラほど優秀な妹は居なかったが、妹がいたことは何度もあったし、妹の結婚も何度も経験したけど、こんな風に気落ちしたことは無かったからなあ。


 夕食を終えた辺りから、ズール夫婦やシモーナ、ラニエロ夫婦、シャピロやエルザなどが我が家に酒を片手にやってきた。


 サラの婚約でどれだけ俺が落ち込むと思ってるのか知らないが、みんな揃って


 「あれ?想像していたより、落ち込んでないんですね?」


 と言って、残念に感じたのか安心してるのか判らない口調で俺に声をかけてくる。


 家族が居なかったら相当落ち込んでいたかもしれないけど、奥様達と子供達が居るからそんなに酷く落ち込みはしないのだけど、皆もそれは判っていて尚俺は落ち込むだろうと睨んでいたようだ。皆も俺のことを相当なシスコンだと思っていたらしい。・・・・・・困った人達だ。


 だが、ほろ酔いで騒いでくれる仲間達のおかげで随分気持ちが慰められたのも事実で、こうした時間を積み重ねていくうちに今感じてる寂しさも薄れるだろうと思うと仲間達の心遣いに感謝する。


 子供達も寝る時間だしと奥さん達には先に休んで貰い、裏庭に出て地べたに腰を下ろして男同士で深夜遅くまで騒いだ。


 形の上では配下の人達が国王の家で飲んで騒ぐ様子は他の国じゃ考えられないだろう。でも俺はこういった堅苦しくないところが大好きだ。肩書は国王だけど、実態は皆の代表という感じが好きだ。この方が風通しのいい組織になる気がする。


 「皆、心配してくれてありがとう。おかげで気持ちも明るくなったよ。」


 ・・・・・・翌日、婚約式が終わったあと、また皆で飲んで騒いだ。

 二日連続で騒いでる俺を少し呆れた様子で奥様達が見ていたが、俺は気にせず思い切り仲間達との時間を楽しんだ。

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