63、次なる動き
サロモン王国は飛行船の本格的運用を始めることを決めた。
蒸気機関車は完成し、サロモン王国国内では首都エルとギズを鉄道で結び資材輸送で活躍しているので、当初は、各国を線路で結び鉄道網をと考えていたのだが、グランダノン大陸は広いから整備に時間がかかる鉄道よりも空輸の方が良いだろうということになった。鉄道や海運の方が大量に・・・・・・ざっくりと考えても倍以上は輸送できるが、現状なら空輸で可能な量で十分と判断した。
我が国が運用しようとしている飛空船は、ヘリウムガスを利用した飛空船にグリフォン八頭を繋いで積載量を大きく増やしたもの。要は、グリフォン八頭だけでは輸送が難しい量を飛空船を補助的に利用して輸送量を増やそうという発想。この方法なら、万が一気球部や機関部に問題が生じても、安全に着陸できるので俺は即採用を決めた。
過積載は絶対に認めません。
ここは監視を厳しくする。
ヘリウムガスは天然ガス採掘地で分離精製している。まあ、こんな面倒そうなプラント作らせてるから、五千名以上いるドワーフ達と彼ら一人一人が率いるチームドワーフの面々には暇が無い。
でもね?
製品にしても設備にしても、当初と違って、今ではドワーフ達の方から”これ作ってみてもいいか”と要望が来るようになってるんだ。それで”・・・・・・まあ、いずれ必要になるかもしれないからいいよ”と俺が安直に了承していたので、幾つかの分野では二十一世紀地球並の設備ができあがっちゃってる。
この世界の一般的な科学技術水準を地球の七世紀前後とするなら、サロモン王国はこの世界の千四百年先の水準にある。ヴァイスハイトとバーラムの二人が知識を受け持ち、技術・製造はドワーフと彼らに率いられるチームドワーフが担当し、両者が協力して、俺でも存在は知ってる程度で理屈も理解できない装置でも今では作っちゃう。
俺も恐ろしい奴らだとマジでビビっている。
図書館に科学系の書籍や論文を地球で取得可能な限り置いたことを今ではちょっと後悔している。ヴァイスハイト達だけでなくドワーフ達の学習能力の高さは、俺の予想や期待を越えすぎて本当に怖い。
彼らのモノ作りへの執念とか集中力には本当に舌を巻く。
ガラスの表面洗浄にドライアイス利用した洗浄法使ってるところ見たときなど、そんなもの作ってると知らなかった俺は唖然とした。このまま興味の赴くままに原子力なんかに手を出されては困るから、新しい技術開発はほどほどにしておくようヴァイスハイトとバーラムには伝えている。俺も安直に開発許可をださないようにすると決めてる。
飛空船の話に戻そう。
飛空船の利用を優先した理由には、発着所と倉庫を整備する方が線路を敷設するよりも各国の負担も少なく、必要とする用地も鉄道と比べると少なくて構わないというのがある。また、線路を敷設すると保守にコストがかかる。日常的に線路を巡回して、設備に破損がないかチェックする必要もあるし、人手不足のサロモン王国が鉄道を広範囲で運用するのはまだ早いという意見も我が国では多かった。
実験船を使ってテスト運行す、物流の流れをチェックし、作業上の問題点を洗い出し、修正を繰り返し、今日から本番機で本格的に運用する。コルラード王国が最初の運用になるので俺はコルラード王国の首都ダキアに来ている。
目の前ではグリフォン達に繋がれた飛空船が発着場にゆっくりと降りてくる。飛空船の下部にあるゴンドラ内ではブリッジの航海士の操縦している。その様子も飛空船が地上に近づくに連れて徐々に見えてくる。
ゴンドラが地上の発着台に降り、作業員が飛空船を固定するために動き出す。飛空船の気球部にロープをかけ、ゴンドラとともに地上から離れないよう繋いでいる。飛空船の固定が確認されると、次は作業員が飛空船から貨物コンテナを台車に乗せて運び出す。
うん、訓練通りにキビキビとした動きだ。
貨物移動作業員は、サラから報告があった貧民街に住む求職者を訓練後に働いて貰っている。各地から飛行船で運ばれた荷物は、一旦ダキアに集められ、コルラード王国各地へ輸送されるようにしたから、一日に四便ある飛空船で、ここゼキアに集まる荷物の量は相当な量になる。
倉庫に運ばれた荷物は配送方面別に仕分けされて、今度は陸路で輸送する。陸路の輸送を担当するのも各地の貧民街元住民である。これに今まで馬車で輸送業を営んでいた者達を加えている。コルラード王国の失業者対策として十分に機能しそうだ。
サラの心配もこれである程度は解決するんじゃないかと俺は思っている。
各地の貧民街を撤去できるし、ダキア発着の飛行船を利用する商人達から配送料も徴収できるので、コルラード王国国王ヤジールも喜んでいる。氷系魔法を利用し、冷蔵・冷凍したままの輸送が可能なので生鮮食品の輸送も可能になったし、輸送にかかる日数も大幅に短縮される。飛行船の利用料はちょっとばかし高いのだが、今までは輸送の際には盗難防止の警備を付ける必要もあったから、その経費を考えると多少は安いはずだ。
貨物輸送で実績と経験を積んで、問題なさそうなら人の輸送も考えたい。飛行船建造は今のドワーフ達にはそう難しいものではないらしいので、彼らの作業量と進捗を睨みながら建造していく。
「これで貧民街跡に倉庫を建て、各地方ごとの流通網を整備すれば一応の形ができます。」
飛空船発着所の周囲に回されてる胸の高さほどの分厚い木製フェンス。
コンテナの運び出し口や、鉄門の入場とその横にある荷物の預かり、受け渡し所兼作業員待機所。建ち並ぶ倉庫。全体を見渡せる監視塔も用意してある。
それらをぐるっと眺め終え、ゼギアスはヤジールの顔を見る。
そこには満足そうに笑う表情があった。
「これで胡椒やハーブの輸送も楽になります。」
そう、ライオネルが主導して栽培している胡椒やハーブの生産が順調で、コルラード王国としては主力商品として多く売りたい。調味料として、食材の抗菌・防腐・防虫のためとして需要があり、南部連合所属の各自治体や、サロモン王国友好国へ持っていけばいくらでも売れる。だから早く多く輸送して売りたいが、グランダノン大陸はまだまだ治安の良い場所ばかりではなく、胡椒は高価な商品だから賊が目をつけるので護衛の数も増やさねばならず輸送経費が馬鹿にならない。
空輸で、荷物の安全と輸送速度が格段に向上するので、コルラード王国が投資してきた様々な費用の回収は当然として、これから行う予定のインフラ整備や都市計画用の予算も手に入れられる。コルラード王国は貧しい国ではなかったが、豊かな国でもなかった。胡椒によって豊かな国の仲間入りをコルラード王国は目指している。空輸はその目標実現の早期達成を可能にする。
ゼギアスとヤジールは、飛空船に荷物が運び込まれる様子を見ながら今後を語った。
「・・・・・・コルラード王国直営の香辛料販売所を各地に既に用意したんでしょ?」
「ああ、各国の首都や中核都市には置いた。あと、各国の領主には直接購入してもらってもいる。」
直営店での販売価格より大きく外れた高い価格で売ろうとしても、領主は多少は融通がつけられる。ヤジールはそれは認めたってことね。いいんじゃないかな。コルラード王国との関係を維持していれば旨味があると領主が理解していれば争いは減るからね。
まあ、コルラード王国が暴利を貪ろうとしたらサロモン王国が介入するつもりだけど、ヤジールに限ってはそんなことはしないだろう。胡椒の栽培は害虫や病気との戦いだが、それを我が国が派遣してる者達の駆除魔法で対処している。その辺はライオネルから聞いているだろうから我が国との対立は選ばないだろう。選ぶような馬鹿なら現実を教えてやるだけだが、その心配はしていない。
俺達が話してるところへ、飛空船へ荷物を運び入れる作業をしている作業員の一人が来た。どうやらちょっとしたトラブルが起きているようでヤジールに報告している。話を聞くと、荷物に隠れて飛空船に乗り込もうとした子供がいるという。飛空船に乗ってみたいだけではなくその子には敢えて密航しようとする事情があるようだけど、このまま飛空船から下ろして叱るだけで良いかとヤジールに確認している。
”どれ、その子から事情を聞いてみよう。”ということになり、子供を連れてくるよう作業員にヤジールは指示した。連れられてきた子供は十歳程度の男の子で、フラキアまで連れて行って欲しいとボロボロ涙を流して泣きながらヤジールに頼んでいる。
「どうしてフラキアまで行きたいのだ?」
その子が言うには、期間労働者を集める人買いに攫われてきたという。人買いは奴隷を扱えなくなった商人が行っている商売で、酷い契約する商人の摘発はコルラード王国でもやっているはずだが、全てを取り締まるのは大変で非道な商人も残ってる。適切な契約と待遇が行われる場合も多いので、人買い自体が禁止されてるわけではない。
その子は山で遊んでる所を人買いに攫われ、この国に入ったときに商人の隙を見つけて逃げ出した。だが、フラキアから遠く離れたコルラード王国からフラキアへ帰るのは、子供の自分には難しい。たまたま見かけた飛空船だけど、これに乗ればフラキアに帰れるかもしれないと思い、荷物に隠れて忍び込んだが作業員に見つかったということ。
「その人買いの居る場所は判るか?」
その子は頷き、ヤジールに人買いの居る場所を教えた。といっても地元の子ではないのでここまで通った場所を説明するだけだが、ヤジールにはおおよその場所が判れば良いらしく子供の話に耳を傾けていた。
フラキアに連れ戻すなら俺には簡単な話だから、ヤジールの用さえ済んだら連れて行こうと俺は考えていた。今この場に居ないが、ヤジールの正妻サリーナとミズラはダキアの街を見回っている。急だが、ミズラの里帰りにもなる。
ヤジールが柵のそばに居る、警備員に指示してる様子。
商人の顔を確認させるためだろう、子供も連れて行った。
「用が済んだら、フラキアへは俺が連れて行きますよ。」
俺の横に戻ってきたヤジールにそう伝えると、
「それは有り難いですが、宜しいのですか?」
”ミズラの里帰りのついでですよ。”と答え、”人買いはどれくらいで捕らえられそうですか?”と聞くと、”そう離れていない場所だから二時間もあれば”と返事が返ってきた。
「じゃあ、それまでにこちらの用事も済ませてしまいますか。」
俺とヤジールは、コルラード王国国内の孤児院と学校に関する打ち合わせを始める。子供達は国の財産なのに、この世界では子供への投資が少ない。俺は全員サロモン王国で預かってもいいくらいに思ってるが、できることなら各国が対応した方が良いに決っている。わざわざ孤児を探し歩いて預かるより、両親を失ったと判った時点で地域で保護し助力したほうが、本人もなれた土地、見知った人もいることだし基本的には良いだろうと思う。例外もあるだろうけど、それらは個別に対応すればいい。
サロモン王国や他の地域での状況をヤジールに説明しながら、俺達が蓄積した経験をもとにコルラード王国での政策を構築してもらいたいと思っていた。
・・・・・・
・・・
・
人買いに攫われた子を連れて、ミズラと俺はフラキアへ転移し、領主のファアルドに事情を説明し、その子の両親のところへ子供を連れていって貰った。
今後、フラキアから他の領地へ移動する商人の監視を強化することにし、この件はおしまいとした。人買いはコルラード王国で捕らえられたし、子供の健康にも問題は見つからなかったので、今は特にできることもなかったしね。
フラキアでも、飛空船での輸送準備は整えられていたので、俺とミズラは発着場の様子を確認してから領主宅へ戻る。そこでエドシルド東部の動きについて領主と話す。
「・・・・・・エドシルドはフリナムと組んでカンドラに介入したい様子ですが、今のところは具体的な動きを見せていません。・・・・・・・ですが、レイビスがエドシルド側へ付かなかったので、そちらへの動きは怪しいですね。」
領主からの報告は、うちの諜報部からあがってきた報告と一致する。
レイビスに支援を送らず、一方で海賊へ支援している可能性もあるという。
海賊の動きが例年より活発なようで、その可能性が濃厚らしい。
フェンニーカ大陸側が海賊を支援している可能性も考えられるが、ファアルドが掴んだ情報では、海賊が使用してる武器がフリナム製のようで、やはりエドシルドとフリナムが海賊を支援していると見たほうが自然なのだという。
「・・・・・・困ったな・・・・・・。話を聞くと、レイビスの領主クリストファーはまだ若いのに賢く勇敢で民にも優しい良い領主のように思えるが・・・・・・。」
レイビスが奴隷を使役してる国という点をどうにかしないと、サロモン王国が支援する根拠が無い。まあ、そこは支援しつつ改善する約定を結べば何とかできるが、問題はレイビスへの支援方法だ。
レイビスへ兵を送るには、間にあるエドシルドとフリナムを通過しなくてはならないが、現状では通過許可を得られそうにはない。はっきりと断りはしないだろうが、何かしらの理由をもってきて事実上通過不可となりそうだ。
陸路がダメなら空路か海路・・・・・・飛空船はまだ数が足りないし、大型の船は無い。現場を見てみないと何とも言えないが、海賊だけでなく隣の大陸からの侵攻も防ぐとなると兵の派遣は長期化する可能性がある。すると、我が国と友好国を守るにも不足しがちな兵力をレイビスへ長期間置いておけないから短期でとなるのだが・・・・・・うーん・・・・・・それだと海賊退治や侵攻を防ぐのは何とかなっても・・・・・・その後の体制変更時の支援ができそうにない。
ヴァイスハイトに相談するか・・・・・・。
引き続きレイビス関連情報の収集を領主に頼み、俺とミズラは一旦国に戻り、ヴァイスハイトとアロンにレイビスの状況と対応策を相談するため俺は政務館へ行く。
「・・・・・・軍事面は爆弾持たせた飛竜二頭とシーサーペントを数体も派遣すれば当面レイビスの軍事負担を軽減できるでしょう。ですが、やはり体制変更への支援にはそれなりの数を派遣しなければなりません。」
そうだよな。農業や漁業、そして鉱業でもうちのメンバーによる支援が無いと、国力を早期に回復するのは多分難しいだろう。海賊の裏にエドシルドとフリナムが居るらしいから、のんびりしてると再び他の手段でレイビスの国力を減らそうと画策してくる。早めに治安回復と生産力向上に必要な体制を整備して、手出ししてこようと無駄だと判らせなければならない。
もう少しでいいから・・・・・・うちの人手に余裕があれば、エドシルドに奴隷解放を迫ったりと手を打てるんだがまだできそうにない。サロモン王国は、急激に大きくなり影響力を増した上に、俺がすぐ手を出すものだから人手がいくら有っても足りない。
「なあ?サロモン王国が受け身でいるから、エドシルドとフリナムが裏で好き勝手やれる余裕があるんだろ?こっちも裏で動いちゃどうだい?」
その声に振り返ると、リエンム神聖皇国から独立したアンドレイを最近手伝っているバーミアンが居た。バーミアンの故郷もコムネスの領地内だそうで治安回復に助力している。定期的に状況報告を兼ねて戻ってくるのだが、今日はその報告の日だったようだ。
「詳しく教えてくれ。」
バーミアンは、フリナムに・・・・・・要はゲリラ活動要員を送るべきという意見を出した。攻撃目標を軍事施設に限定し、民間人には被害が及ばないようにする。具体的には、軍事施設に搬入される食料を奪いレイビスへ転送するとか、軍事用の建物を魔法で破壊するとか、飼ってる軍馬を逃がすなど程度でいいという。
別に侵攻するわけではないのだから、嫌がらせをすればいいということらしい。エドシルドには何も行わなければ・・・・・・嫌がらせをしてくるのはエドシルドかもしれないとフリナムに疑心暗鬼を生じさせることもできるかもしれない。
エドシルドには領土拡大の思惑があることはフリナムも知っているから、その可能性が無くはない。そこまで上手く運ばなくても、フリナムが外へ向ける力を削ぐことができればそれでいい。
「・・・・・・なるほどね。」
「ええ、レイビスには飛竜やシーサーペントを回し、こっちもゲリラを行ってフリナムの目を国内に向けさせる・・・・・・それでいいんじゃないですか?体制変更には時間がかかるんだし、その間レイビスに楽をさせておく必要はありませんよ。」
”コムネスの方は一段落ついたので私が担当してもいいですよ”とバーミアンが受け持ってくれると言うので、”民間人への被害は最小限で頼む”と俺は任せた。
・・・・・しかし、嫌がらせが楽しいのか、バーミアンは悪い顔して喜んでいた。気持ちは判るけどね。だって堂々とできる悪いことってちょっとワクワクするじゃない?
時間を稼いでくれれば、その間に各地で支援しているメンバーの手も空くだろう。手が空いたメンバーから順にレイビスへ向かって貰えばいい。
その手はずで進めるということで、俺は先にレイビス国王クリストファーと会うことにした。俺はまずフラキアへ転移した。今回は時間もないし、一人で動いたほうがいいと考えて、誰も同行させなかった。
・・・・・・
・・・
・
転移した俺は、紹介状を書いてもらおうとファアルドに会う。
何せ面識がない相手で、それも国王なのだから”会わせてくれ”と頼んだ所で会わせて貰えるはずがない。エドシルド加盟国のフラキアからの紹介と紹介状を見せれば、多分会えるだろうからお願いした。
ファアルドは快く紹介状を書いてくれた。
そして”先代とは仲が良かったから、現国王も会ってはくれるでしょう”と言い、紹介状を俺に渡した。紹介状の礼を言って、レイビスへ俺は転移する。
レイビスに着き、近くを歩いていた農夫風の住民から城の場所を聞いて、街の様子を観察しながら向かった。
街には活気がある。ただ明るい感じの活気ではなく、余裕がなくただ忙しそうな活気で、レイビスが置かれてる状況が街の様子にも現れてるようだ。気になったのは獣人系の亜人を多く見かけること。見かける住民の半数以上が亜人のようで、奴隷制で動いてる街には珍しい。猫人の商人が八百屋を開いて道行く客に声をかけているし、犬人の大工らしき職人が石壁を修繕していたり買い物客にも獣人が多い。
俺が知ってる奴隷制がある国の様子とはかなり違っていた。
奴隷から種族の制限を無くしたジャムヒドゥンでも、獣人が商人や職人をやっていたがこことは空気が違っていた。ジャムヒドゥンでの獣人は人間の客にはへつらった様子が濃く、そこには種族間に社会的な立場の差があると感じさせる空気があったが、ここはそういう空気が感じられない。
コルラード王国では、人間と亜人は対等だったが、魔族に対しては距離を置く様子があったし、外見が明らかに人間と差異のある魔族に対しては差別があった。
レイビスはコルラード王国タイプの国なのかな?
ここまで魔族を見かけていないから、”もしかすると奴隷は魔族に限定してるのかも”と思いつつ城まで歩いた。
城は深い堀に囲まれ、橋が門まで続いている。
柱や壁は装飾が施されてるが三階程度の石造りの城で、華麗な城という感じではなく、城壁には多くの窓があり、弓を放つための工夫が見られる・・・・・・戦いが意識された造りのようだ。
城の門番役の守備兵に紹介状を見せ、俺は守備兵の案内で城の中に入る。
中は松明で照らされているがそう明るくはなく、俺は少し息苦しさを感じた。
だが、城内の兵の動きはキビキビとしていて、兵の空気はピリピリとしているところが城の中に居ても緊張感を感じ、この国の現状が判る。
やがて謁見の間に入った俺は、正面の立派な椅子に座る男に目を向ける。
確かに若い。若い国王と聞いていたが、多分、二十歳くらいだろう。
銀の鎧を身にまとった姿は、若さに似合わぬ威厳も感じられた。
金髪に青い瞳のイケメンで、いつもなら俺のモテナイ男子メンタリティを刺激して、つい反感を持ってしまうタイプなのだが、・・・・・・何というか・・・・・・そう、俺を圧するようなオーラとでも言うか、迫力が感じられるので感心したのだ。
この男からは強い意思に支えられた信念が感じられる。
それも俺に圧力を感じさせるほどのものだ。
何がこの男にこのようなオーラを纏わせるのだろう?
俺は早く話してみたくてウズウズしていた。
「初めまして、サロモン王国国王ゼギアス・デュランです。お目通りを許していただいて感謝します。」
俺は立礼しながら挨拶する。
「クリストファー・ラウティオラだ。ファアルド領主の紹介状があるのでは断ることもできないが、ゼギアス国王とは以前から会いたかったので断るつもりもなかった。で、今日は突然どのような件でお越しいただいたのか?」
クリストファーの声には威圧する感じはない。
俺の目をしっかりと見ているが、睨むような嫌な感じでもない。
自然な堂々とした態度に俺は好感をもった。
「貴国のお手伝いを。」
そう言うと、俺の目や口調から何かを察したのか
「すまない。別室で話したいのだが宜しいか?」
”構わない”と答えると、クリストファーは近衛兵の一人に俺を案内するよう伝えた。
俺はクリストファーに礼をしたあと近衛兵の後に続く。
小じんまりとした部屋に通され、木製の質素な椅子に座り待っているよう言われた。
俺が椅子に座ったのと同時に、部屋にクリストファー一人が入ってきた。
「こんなところで申し訳ない。あそこでは腹を割って話せそうもないのでな・・・・・・。」
そう言いながら俺の正面にある椅子に机をはさんで座った。
”まったく構わないが、堅苦しい言葉をやめたいがいいか”と言うとクリストファーもそのほうがいいと言うので、いつも通りで話し始める。
レイビスが置かれてる状況は把握してるので、海賊掃討とフェンニーカ大陸からの侵攻への対抗に力を貸すと俺は伝えた。
「・・・・・・ゼギアス殿は、奴隷解放を条件にして他国の支援を行ってきたと聞く。だが我が国はしばらくの間奴隷解放できるような状況にない。それもご存知か?」
サロモン王国の支援は以前から欲しかったが、奴隷解放の条件も飲めるが、実行するまで時間がかかりそうで、それも当分の間難しそうだからサロモン王国と接触することを躊躇っていたとクリストファーは言う。
「その気があり、約定を結ぶならうるさく言うつもりはない。・・・・・・それより、うちと友好関係結ぶ気はないか?もちろん奴隷解放に手をつけられるようになるまでは条約は結べないが、その予定だと宣言することは可能だろ?」
「つまり、エドシルドとフリナムの二国との喧嘩を覚悟しろと?」
ふむ、賢い男だな。俺の言いたいことを察したか。
「そうだ。その代わり俺は貴国を全面的に支援すると約束しよう。」
具体的な支援の中身を説明すると、クリストファーは納得した様子。
「サロモン王国が軍事面だけじゃなく食料支援も体制変更に必要な支援もしてくれるのは有り難いが、そこまでの支援への対価が・・・・・・うちには支払える余裕がないんだが。」
「この十年軍事面の支出が多くて、貴国の財政が楽じゃないことくらいは判ってる。だから、うちのエドシルドといずれ来る戦争ではエドシルドから離れて欲しい。エドシルド加盟はあくまでも対ジャムヒドゥンだろ?貴国には本来影響の少ない話のはずだ。」
エドシルドから抜ける代償として支援の対価は要らないと俺は伝える。
「それは既に覚悟していたことだが、それでいいのか?」
「ああ、貴国がこちら側に居るか居ないかで、戦略が・・・・・・必要なコストが大きく変わるからな。」
そう、エドシルドを攻めている間、フリナムへも圧力をかけられるのは大きい。
レイビスに兵を上陸させられるとフリナム側へ兵を送るのも楽になる。
・・・・・・それに、情報が少ないからはっきりとしたことは判らないけど、フェンニーカ大陸からレイビスに侵攻しかけてる国がもしグランダノン大陸に拠点を築いたら面倒なことになりそうだ。レイビスをサロモン王国側に引き入れ、レイビスを軍事拠点化してこちらから攻めることも視野に入れておくべきと俺は考えてる。今はまだ本格的に乗り出すことはできないが、早めに手を打っておくに越したことはないだろう。
ここまでの話はまとまり、クリストファーに聞きたいことがあったので俺は質問する。
「この国の奴隷制は具体的にどうなってるんだ?」
クリストファーの説明によると、この国の奴隷は受刑者なのだという。ある程度以上の重い罪を犯した者は奴隷として使役される。その際、意思を奪う薬を飲ませ、主人に逆らうことの無いようにするらしい。
「その薬の効果はいつまで続くんだ?」
犯罪者を奴隷として使役する点の是非は置いておいて、意思を奪うのは俺の感覚としてはやり過ぎと感じていた。
「回復薬はあるが、実際に使われる機会はほぼ無い。奴隷に堕ちるほどの犯罪者は死刑相当の罪を犯してるからな。」
奴隷の数は?と聞くと、だいたい二万人くらいだとクリストファーは言う。
奴隷の家族からの苦情は滅多に無いので、昔からこの方法で奴隷を使役してきたとのこと。
うーん、ある意味では理解できる仕組みだが、やはり人道的にどうなんだろう。
改心したとしても減刑や社会復帰の可能性が無いというのは、俺的には抵抗がある。
だが、ヒューマニズムという考え自体この世界にはないのだし、それを理解して貰うには多くの時間と教育が必要だろうし、それが可能かと言えば今のところ絶望的だろう。逆に、反感買う可能性のほうが高い。
サロモン王国でも死刑は必要な刑と考えられているし、死刑か奴隷かという選択は違ってるが結局は同じことなのかもしれない。ただ、奴隷制という仕組みを条件付きであろうと残していてはいけない。それはサロモン王国の存在意義に関わる話で譲ることはできない。
死刑制度を利用している国が、奴隷制に反対するのは・・・・・・うーん・・・・・・俺は初めて自分の方針に疑問を抱いた。
しかし、二十一世紀地球での理想や理念を持ち込んでも通じないところは当面諦めるしかないだろう。言い訳なような気がするが、実際、女性の立場や境遇についての感覚も、俺と他とでは乖離が激しくて王妃達にも十分理解されてるとは言い難い。
時間をかけて、彼らの感覚を変えていくしかないだろうとは思うが、これも今はできないことへの言い訳かもしれない。そう思うとモヤモヤするのだが、悩んでいても仕方ないなと頭を切り替えてクリストファーと今後の動きについて話し合った。




