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ロード オブ フロンティア ―― 次元最強の転生者  作者: 湯煙
第一部 グランダノン大陸編 第一章 序章
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6、夫婦の契


 翌日、アルフォンソさんのところで、国を造り、亜人や魔族を奴隷にしているリエンム神聖皇国や騎馬民族国家ジャムヒドゥンと戦うことになると伝え、今後の方針について話し合った。


 国造りには拠点が必要だという点については誰も異論はなかった。

 では具体的にどこに置くかで、アルフォンソさんやサラ達は泉の森を勧めてきたが、俺は最後まで反対した。

 神聖皇国やジャムヒドゥンと戦える体制ができるまでは、泉の森を表に出したくなかった。いざとなったら泉の森と俺は関係ないと言い張れる状況を維持したかった。


 全面的に支援するのだから同じことになるとアルフォンソさんは言ってくれた。

 だが、曲りなりにも国として動くのだから、外交が発生する。

 外交交渉ってのは理屈さえ整えば、交渉する余地を作れる。どんな屁理屈でも強硬に押し通せばその屁理屈が交渉の下地になる。


 泉の森は俺に脅かされて仕方なく手伝ったのだと言い張れる状況がある……これが大事。ベアトリーチェが嫁になってるではないかと言われても、俺が無理やり嫁に貰ったのだと言い張れることが大事。


 ではどこを拠点にするか。

 いろいろな場所が出てきたが、既に誰かしらが大勢住んでる場所は全て拒否した。


 「では、龍の神殿がある森しか残ってない」


 ベアトリーチェの兄ランベルトが難しい顔で候補地を話す。


 「だがあそこは……」


 姉のブリジッタの表情はあそこは無理と言いたげで厳しい。


 「そこはどういう場所なのか教えてください」


 俺はもうそこでいいじゃないかという気分。

 これまでの話で俺が人が住んでるところは全て拒否してきた。


 それを考慮して出てきたのが龍の神殿がある森。

 つまり、そこには誰も、もしくは少数しか人は住んでいないはず。


 「あそこには人は住んでいません。龍が居て住めないのです」


 「んじゃその龍と話をつけられればいいんですね」


 自信過剰と思われるかもしれないが、何とかなる気がしてた。


 「そ、そんな簡単に……」


 「ええ、簡単じゃないかもしれません。でもそこしかないのなら行くしかないでしょう。ここでやるべきことが済んだら俺一人で行ってきますよ」


 「駄目よ。私も行くわ。そして私でも危ない場所だったら、その場所は却下ね。お兄ちゃんしか足を踏み入れられない場所だなんて拠点として相応しくないもの」


 それはもっともだ。


 結局、俺とサラ、そしてマリオンの三名で龍の神殿がある森へ行くこととなった。

 

 ”ここに居ても自分が手伝えることがない。だったら一緒に行く。”と言って、マリオンさんの目でも見てもらったほうがいいとサラも認めたのでそう決まった。


 拠点探しは当面龍の神殿の森を確認してからということになった。


 次に協力者探し。

 これは俺との結婚式を終えた後、ベアトリーチェがマルティナとラニエロを護衛に連れてエルフの他の部族をまわることを最初にやろうということになった。


 働き者の嫁さんである。

 感謝感激である

 

 うん、大事にしなきゃバチが当たる。


 ベアトリーチェは他の部族のところを回りながら、各地の情報収集もしてくると言ってた。


 頼りになる嫁さんである。

 だが身の安全には十分気をつけて欲しい。


 ベアトリーチェ達は冬の間にかなり強くなってる。だからさほどは心配していない。ベアトリーチェの結界破れる奴など滅多にいないだろう。ラニエロの攻撃魔法もけっこうなものだ。オーガやそこらの魔獣じゃ敵にならん。その上、治癒・回復魔法に優れたマルティナもいる。


 当面の方針は決まった。

 あとは結果次第で次の手を考える。


 というか、それしかない。ある程度の情報が集まり、人材が揃うまではどうしても行き当たりばったりの面が強くなる。これは諦めて受け入れるしかない。


それでも俺は皆の顔を見て心強いと感じたし、皆で何かを始められることがとても嬉しかった。


 






◇◇◇◇◇◇





 

 打ち合わせを終えて、テントから出る。

 これからベアトリーチェと共に細工師ビアッジョを訪ねるつもりだ。


 少し涼しいが寒いと言うほどではなく、空は晴れて、いい天気だ。

 深呼吸するといい気持ち。


 「ゼギアス様、お待たせしました」


 背後から声がかかる。振り向くと笑顔のベアトリーチェ。


 「さあ、参りましょう」


 俺の腕に腕をかけてきた。

 ちょっと照れくさそうだし、俺も照れくさい。


 でもいいものだ。

 

 横にいる人の温もりや香りを感じながら歩くのは心が沸き立つ楽しさがある。


 ベアトリーチェを見かけると、誰もが笑顔で挨拶してくる。

 子供達は近寄ってきて、摘んできた花を渡したり、また遊んでと声をかけてくる。微笑んで相手をしてる様子がとても可愛い。


 「その人、ベアトリーチェ様の男なの? 」


 ちょっとマセた男の子がベアトリーチェに質問する。

 その子の顔は、いたずらっ子のような表情ではなく真面目に聞いているという風で、こういう子相手にどう答えるのだろうと俺は興味深々。


 「フフフ、抱っこしてもらったら? 」


 そう言ってその子を抱き上げて俺に渡す。

 俺は預けられた子の両脇を持って、上に思い切りあげる。


 身長百九十センチの俺が頭上に子供を持ち上げたら、その視線の高さは三メートル近くになる。


 「どう?高いでしょう? 」


 「うん、すっごく高い」


 「気持ちいいでしょう? 楽しいでしょう? 」


 うんうんと頷きながら、周囲を見渡しては目を輝かせている。

 

 「これが私の旦那様よ? いいでしょ? 」


 子供に自慢しても仕方ないんじゃないかと思うのだが、ベアトリーチェが嬉しそうだからいいか。


 「うん、すっごくいい。僕も大きくなるかな? 」


 ベアトリーチェから俺に顔を向け聞いてきた。

 

 「ああ、たくさん食べて、たくさん運動して、お父さんやお母さんの言うこと聞いていればでかくなる……と思うぞ。」


 最後はちょっと誤魔化したが、それでも嬉しそうに笑っていた。

 子供を下ろすと、ベアトリーチェは再び俺の腕を抱き込むように掴まる。


 「じゃあね。これからビアッジョさんの所へ行くの。またね」


 空いてる手を子供達に振りながら、俺を引っ張っていく。


 「フフフ、自慢しちゃいました」


 俺を掴む腕にキュッと力を込めて笑ってる。


 おお、すげぇ可愛い。

 

 今このときだけは、この世のイケメンへの恨みが薄れる。

 この世界に転生して良かったと心から思う。


 しっかりと主張している胸が腕に当たってるけど、今の俺はそんなものに惑わされない。ベアトリーチェの可愛さをひたすら堪能してる。


 今は、結婚後数年経て”もっと稼いでこい”と怖い目をして、家から追い立てるような奥さんに変わる可能性など忘れなければならない。加齢臭を嫌がり”臭いから近寄らないで”と、汚いものでも見るような視線を投げかけるような奥さんへ変貌する可能性のことなど忘れなければならない。


 転生経験があるというのはこういうとき邪魔だ。


 とにかく今は楽しまなければならない。

 人生は短い。

 今日この日の感激をしっかりと覚えて、この先数十年生きる糧とするのだ。

 やや涙が滲んだ瞳を閉じながらウンウンとひとり頷く。

 

 「ここですよ」

 

 一軒の家の扉をベアトリーチェが開く。

 中は、家庭内手工業に見られがちな、扉を開けるとすぐ作業場状態。


 「ビアッジョさん、いらっしゃいますかぁ? 」


 ベアトリーチェが奥に声をかけると、人の動く気配があった。


 「おう。ベアトリーチェ嬢ちゃんじゃないか。久しぶりだな」


 うーん、エルフって外見では年齢判りづらい。

 ベアトリーチェへの口ぶりから察すると、四十代とか五十代なんだが、外見だけで言えば、二十代後半から三十代半ば。


 そしてエルフ恒例のイケメン。

 イケメンの細工師とか、◯宿や原◯、渋◯あたりで商売したらモテまくるだろうなぁなどと悔しさいっぱいでビアッジョを見る。


 「えーと、こちらはゼギアスさん。今日はこの方の用事で来たのよ。話を聞いてあげてね」


 「ゼギアスです。宜しくお願いします」

 

 ペコっと頭を下げる。

 頭をあげると化物を見るような視線、身体もやや引き気味だ。


 なんで?

 身体がでかいから?

 それともビアッジョさんにとっては、俺の顔そんなに怖い?


 「これがオーガ達を一人で倒しちまったゼギアス……様かい? 」


 「とても優しい方だからそんなに怖がらないでよ」


 ベアトリーチェが苦笑しながら、ビアッジョの近くへ寄る。


 ベアトリーチェが気楽に俺に接してるのを見て、少し落ち着いたようだ。


 「それで儂にどんなご用ですかな?ゼギアス……様」


 まだ緊張してる。

 まあ、俺の身体はでかいから、オーガのことなくても威圧感あるのかもしれない。


 「ああ、俺のことはゼギアスでもアンちゃんでも、兄ちゃんでもいいです。様なんかつけなくていいですから……」


 「そんなこと言って、急に無礼討ちなんかされるんじゃないのかい? 」


 おお、無礼討ちとか、前世の歴史で習ったなぁ。

 江戸時代には別の国で転生してたから実際に無礼討ちがあったか判らないんだよな。


 「そんなことしませんよ。何ならゼギちゃんでもいいですよ。知り合いにそう呼ぶ人も居ますし」


 ゼギちゃんって……ププププとベアトリーチェが笑ってる。

 その様子を見てビアッジョもだいぶ気楽になったよう。


 「で、ゼギウスさん、注文があるんだろ、そのあたりを聞かせてくんな」


 「ベアトリーチェさんの左手の薬指と俺の左手の薬指のサイズで銀の指輪を二つ、それと……」


 ゼギアスはいくつかの要望を伝えて、どのくらいで出来ますか?と聞いた。

 ビアッジョは注文内容を確認しながら日付を数え始めた。


 「三日後……いや四日後だ。四日後なら朝には渡せるよ」


 「お支払はその時のほうがいいですか? それとも今ここで? 」


 「出来上がりを見てからでいいさ。その方がこっちも緊張して仕事できる」


 「判りました。ではよろしくお願いいたいします」


 さぁ行こうとベアトリーチェに声をかけ工房を出た。


 「たくさん注文されましたね」

 

 「ああ、大事なことだからね」


 これからアルフォンソさんに四日後の昼頃ご挨拶に伺いますと伝え、その後はベアトリーチェを連れて泉へ行こう。今日の天気ならきっと綺麗だ。







◇◇◇◇◇◇




 

 ベアトリーチェの家へ挨拶に行く。挨拶と言っても、リーゼさんの話では結婚式と変わらない。俺はビアッジョさんから注文した品々を受取り、サラとともにベアトリーチェ家へ向かった。


 正直、ちょっと緊張している。

 相手の親に会うというのはいつの時代でも緊張するものだ。

 これも何度経験してもやはり緊張する。


 俺が緊張で顔が強張ってるのに比べて、サラは凄くご機嫌で朝起きた時から今に至るまでずっと満面の笑みだ。


 ベアトリーチェさんの家の前には大勢の人だかりができていて、マルティナさんやラニエロそしてマリオンの姿も見える。ますます緊張してきた。


 扉を叩くと、中からランベルトさんが出てきて”待っていたよ”と微笑んだ。


 俺はランベルトさんの後を居間までついていく。


 居間には多くの家具があったはずなのに、綺麗に片付けられていた。

 奥に、アルフォンソさんとリーゼさんが並んで椅子に腰掛けている。


 俺がランベルトさんの言うがままにアルフォンソさんの前に立つと、後ろからオオオ……という感嘆の声がする。俺は振り向かずに黙って前を見ていた。この状況で感嘆の声があがる出来事なんて決まってる。現れたベアトリーチェの美しさに皆驚いているのだ。


 俺の横にベアトリーチェが止まり前を向いている。

 横目でみながら、”ほらやっぱり”と誇っていた。


 ランベルトさんが俺の目を見て頷いた。

 ”始めて良し! ”の合図だ。


 うん、昨夜サラに話したら”お兄ちゃんにしては上出来だわ。それいい。頑張ってね”と言われたことを実行に移す。


 ベアトリーチェの方に身体を向け、そして跪く。

 ベアトリーチェの左手を恭しく目の前に持ってきて、


 「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、 悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、 ベアトリーチェ、貴女を愛し、貴女を敬い、貴女を慰め、貴女を助け、その命ある限り、 真心を尽くすことを誓います」


 そして彼女の左手に指輪をはめて、指輪に口づけをした。


 部屋の中が静まる。


 ……え? ダメ? これ。


 そう思って立ち上がった次の瞬間、ベアトリーチェも俺の前で跪き、俺がやったことを繰り返した。

 そして立ち上がり、俺の首に両手をかけてきた、俺は彼女の背中に腕を回し優しく引き寄せて軽く口づけをした。


 ベアトリーチェが少し照れて赤くなってる。

 俺もきっと同じだったろう。


 ちなみに、俺もベアトリーチェも平服だ。

 エルフは華美なことを好まないらしく、エルフ同士の結婚式でも平服らしい。

 ベアトリーチェはきちんと化粧していたけどね。

 化粧をきっちりしたベアトリーチェを見るのは初めてで、そりゃあ綺麗だったよ。

 いつもは薄く化粧してる程度で、派手さはまったく感じない。それもいいんだけど、今日のベアトリーチェはまた格別綺麗だった。


 ランベルトが”夫婦の契は果たされた。ここに居るものは証人としてこれからの二人を見守っていただきたい。”と終わりの言葉を告げた。大きな拍手が鳴り響き、歓声もあがってる。


 「それで……その……ちょっと待って下さい」

 

 俺はそう言って、ベアトリーチェに頷く。

 これから何をするか事前に話していたからベアトリーチェも頷いた。


 まずアルフォンソさんとリーゼさんの前へ行き、二人へリボンでデコレーションした小包を渡した。俺はリーゼさん、ベアトリーチェはアルフォンソさんへ。

 次に、ブリジッタさんとランベルトさんにもリボンでデコレーションした小包を渡す。

 これは俺一人で二人へ渡した。


 「その……それは俺達からのささやかなプレゼントです。中は後でご覧になっていただければと……。ベアトリーチェのご家族には、彼女を育てていただいた感謝しかありません。本当にありがとうございます」


 俺とベアトリーチェは深々と頭を下げて礼をした。

 

 俺は後ろを振り返り、


 「今日は皆さんありがとうございます」


 俺達はもう一度礼をした。


 素敵な夫婦の契だったねと客の中から声が聞こえた。


 フウ……どうやらおかしくはなかったようだ。

 

 やっと緊張から開放された……。

 ベアトリーチェが額の汗をハンカチで拭いてくれる。

 俺はありがとうと伝え、彼女の腰に手をあて、俺達のために用意してくれた家へ向かう。


 居間を出る時、サラとマルティナさんが泣いてるのが見えた。

 マルティナさんは判る気がするけど、何でサラが泣いてるのか判らない。

 あれか?俺が無事結婚できて嬉しいとか?


 でも悲しい涙じゃないならいいんだ。

 扉を開き、外へ出て、陽の光を浴びる。


 「お疲れ様。今日はいつも以上に綺麗だね」


 そう言うと


 「私の家族のことまで気にしてくれて……とても嬉しかったわ。ありがとう」


 ベアトリーチェの瞳にも涙が浮かんでいる。

 


 ああ、一つ肩の荷が下りた。

 そんな気分だ。

 






◇◇◇◇◇◇






 初夜を無事に過ごした翌朝、ベアトリーチェはまだ寝ているゼギアスの背中を見ながら困惑していた。


 昨夜初めて男性と肌を合わせた。

 ゼギアスは優しかったし、熱く愛し合えて幸せだった。


 問題は、内容だ。

 意識が飛ぶほどの快感に我を忘れたのだ。

 実際、何度も意識が飛んだし、その時自分が劣情に溺れた顔をしていたような気もする。


 「ゼギアス様にはしたない女だと思われたかしら……」


 そう悩んでいたのだ。


 だが、思い出すと何かおかしいのだ。

 キスをしながら抱き合ってる最中、突然、快感が怒涛のように押し寄せてきて我を忘れたのだ。


 恥ずかしいけれど、あの時ゼギアス様が私に何をしたのか聞かなければ。

 

 あれは危険だ。

 あんなことを毎回されたら、私はゼギアス様中毒になってしまう。

 出会った時のマリオン様のようになってしまう。


 まあ、昨日よりも彼への愛情が強くなっている。

 これはいいことに違いない。


 でも……。


 「ああ、おはよう」


 ゼギアスが起きて、ベアトリーチェの手に口づけする。


 「おはようございます。あの……」


 昨夜の自分ははしたなくはなかったか、口づけの最中に何かされなかったか、ベアトリーチェは心配してることを聞いた。


 「とても素敵だったよ。あと何かしたかと言えばしたよ。説明しようか? 」


 お願いしますと言って、ゼギアスの説明を真剣に聞く。


 ゼギアスはベアトリーチェの緊張を解きほぐそうと、聖属性の龍気をベアトリーチェに送り込んだのだそうだ。聖属性の龍気を利用すると、特定のホルモンの分泌をコントロールできるらしい。その特定のホルモンとは、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンや快感ホルモンと呼ばれるドーパミンなど。


 緊張してる人や痛みに苦しんでる人に使うと、それらのホルモンの作用で緊張緩和されたり麻酔の役割を果たすのだという。


 「えーと、昨夜はどの程度そのホルモンを分泌させたのでしょうか? 」


 「んっと、ベアトリーチェさんの体格を考えると、ちょっとくらいの痛みはまったく感じない程度だったんだけど、まずかった? 」


 ええ、マズイです。マズくないけどマズイです。


 「あの……それは簡単にできるものでしょうか? 」


 「うん、簡単だよ。ほら……」


 ゼギアスがベアトリーチェの肩に手を触れた。


 あ……マズイ、また……ああ……ああああああ……。

 ビクンビクンと身体をくねらせ、体内に広がっていく物凄い快感に支配されていく。


 ハアハアハア……多分しばらく意識を飛ばしていたわ。


 「あ……あの……」


 「ん? 」


 「私が快感で意識飛ばしてる状態はゼギアス様にとって嫌じゃないですか? 」


 「嫌なはずないでしょ? 」


 「だったらいいのですけど、理性が飛んじゃってはしたないと思われたらと……」


 「んーとても魅力的だからはしたないとは思わないなぁ」


 「そうですか、でしたらいいんです。ただ、あの……私にはいいのですけど、というか、肌をあわせた時は毎回していただきたいくらいなのですが、他の女性には滅多なことではやらないでくださいね? 」


 「もちろんやらないけど、そんなに心配すること? 」


 「心配? 当然心配ですよ。これ危険ですよ。ゼギアス様を求める女性でこの辺りが埋まってしまうくらい危険です」


 「やはり男性相手と女性相手では結果が違うんだね」


 男性相手に使ったことがあると?


 「男性だとどんな結果になったんですか? 」


 「その人は怪我してたから、一概に比較できないけど、痛みを感じないで傷口を開いて消毒・治療できたと喜んでたな」


 なるほど。男性相手だとあの素晴らしくも恐ろしい状態にはならないのね。

 

 「と、とにかく、私やこれからできるだろう次の奥さんや側室の他には使っちゃダメです」


 ゼギアスの胸に一糸まとわぬ身体をつけて


 「そうでなくてもゼギアス様と愛し合うのは素敵なのですから……」


 ゼギアスが愛おしそうにベアトリーチェの背中に手を回す。


 「では私は朝食の用意をしてきます。もうしばらくここでお休みになっていてくださいね」


 ゼギアスから体を離し、ベッド脇のガウンを羽織り、もう一度ゼギアスの頬に軽く口づけして寝室を出て行く。





◇◇◇◇◇◇




 


 

 「ここにも風呂小屋作りたいなぁ……」


 朝食を済ませ、夫婦の寛ぎの時間をのんびりと過ごしていたゼギアスは、大好きな風呂に入るためには家に戻らなければならないと残念がっていた。


 「龍の神殿からお帰りになったら、一緒に造りましょうよ」


 ゼギアスの胸に頭を預け、ベアトリーチェも寛いでいる。

 

 「そうだね。明日からは龍の神殿だ。片道半日くらいだったね」


 「ええ、でもあの森は広いので、神殿だけじゃなく周囲も見てくるというのであれば四日や五日はかかるでしょう」


 「そういえば、ベアトリーチェさんも他の部族をまわるんでしょ? 何日くらいで戻ってこれそうなの? 」


 「私は一日一箇所回れますから、三部族回って三日。ですから多少どこかで長引いたとしてやはり五日後には戻れるでしょう」


 のんびりできるのは今日だけなんだなと思うと、横で寛いでいる妻の様子を落ち着いて見ていられる今がとても貴重なことに気づく。

 ゼギアスはベアトリーチェの肩を抱き、髪に口をつける。


 「フフ、ゼギアス様は本当に寂しがりなんですね」


 肩を抱き寄せるゼギアスの大事なものを離しはしないといった様子がベアトリーチェはとても嬉しい。


 「どうやらそうみたいだ。サラもいずれ誰かと結婚して離れていく。でもベアトリーチェさんが居てくれることになった。とても感謝してる」


 結婚してもベアトリーチェさんと呼ぶ夫。

 今までそう呼んでたのだから、すぐ変わるとは思わなかった。

 だけど……


 「そうだ。私のことはベアリーかリーチェと呼んでください。親しき者はそう呼びます。それで……私はゼギアスと呼んで宜しいでしょうか? 」


 遠慮がちに、呼称の変更を伝えてくる。


 「ああ、リーチェか、いいね。これからはリーチェと呼ばせてもらうよ。もちろん俺のことは好きに呼んでくれて構わない。もちろんゼギちゃんでもいいよ」


 片目でウィンクしながら、先日つい笑ってしまった呼称をゼギアスは出してきた。

 プライドの高い人なら、そう呼ばれたら嫌がるだろう。

 でもこの人は笑って済ませてしまう。

 うん、やはりこの人とは楽しくやっていける。



 

 玄関でコンッコンッとノッカーの音がする。


 「誰かしら? 明日からしばらく出かける予定を知ってる人のうちの誰かね。きっと」


 ベアトリーチェはソファから立ち上がり、玄関へ向かった。


 「姉さんが来てくれたわ」


 居間に案内するベアトリーチェの後ろにブリジッタさんが居た。


 俺は立ち上がり、どうぞと席を示す。

 俺の正面にブリジッタさんは座り、ベアトリーチェの”お茶でいいかしら? ”という声に応えてる。


 「新婚さんの家に、事前に連絡もなく来て、ごめんなさいね」


 いえいえ、いつでもいらっしてください、ここは仮屋ですし、気にしないでと伝える。


 「今日は家族を代表して来たの。昨日頂いたプレゼント……何よりも嬉しかったわ。本当にありがとう」


 ブリジッタは笑顔で感謝を伝えてくれた。

 

 「喜んでもらえたらそれでいいんです。それでわざわざお礼を言いに来てくれたんですか? 」


 「もちろんそのことが一番の理由。あともう一つ……ゼギアス様は”呼ばれし者”かもしれないと父が言い出してね。もしそうなら、ベアトリーチェが他の部族をまわる際に、そのことも伝えれば、エルフならすぐに言うことを聞いてくれる。だからベアトリーチェが出発する前に確認したいと思って」


 ”呼ばれし者”ね……聞いたことないな。


 「”呼ばれし者”というのは初めて聞きました。どういう存在なんですか? 」


 この世界の他にも世界があって、そちらに魂を二つ持って生まれ、別の世界で亡くなるとこちらの世界に別人として存在するようになる。それが”呼ばれし者”。


 ”呼ばれし者”は、別の世界の記憶は持っている。ただ固有名称だけは思い出せない。通常は、言葉も通じない。ただ、大昔エルフと接触し、エルフに様々な知識を与えた呼ばれし者が居た。その者は会話も通じて、亡くなるまでエルフと共に過ごしたのだという。


 呼ばれし者がこちらに来ると、性別や年齢が変わることもある。

 但し、誰かの赤子として生まれたことはないとのこと。


 また別世界では使えなかったのに、こちらに来ると使えるようになったり、他にも特殊な力を使える者も居るらしい。


 今もこの世界には呼ばれし者として生まれ変わった者が居る。

 

 「それで俺が”呼ばれし者”なのではと思ったんですね」


 「ええ、違うかしら? 」


 確かに地球での記憶は転生した過去も含めて持っている。

 あちらで死んでからこちらに転生したんだし”呼ばれし者”の一種なのかもしれない。

 でも、俺はこちらに俺を生んてくれた母がいる。とうに亡くなってしまったけれど。

 

 うん、似てるけど違うな。

 

 「いえ、俺はこちらで生まれましたから、残念ながら違うと思いますよ」


 「そう……ごめんなさいね。余計なことを話したかもしれません」


 「いえいえ、とても参考になるお話でした。”呼ばれし者”のことを聞けて良かったです」


 申し訳なさそうなブリジッタさん。

 そんなに気にすることないのにな。


 あ、それとも俺が呼ばれし者とかじゃないからガッカリしてるのかな?

 それはありそうだ。俺が呼ばれし者だったらベアトリーチェの仕事は楽になったらしいし。


 ちょっと気まずい空気。

 何か別の話題は……


 「あ、姉さん。ネックレス早速着けてくれたのね」


 自分でプレゼントした装飾品くらい気づかなきゃダメだろう。

 あとでベアトリーチェに感謝しなきゃ。


 「ええ、今日は家族全員身につけてるわよ。ランベルトなんて打刻された文字を見てボロボロ泣いてたわ。あの子貴女のこととても可愛がってたから仕方ないけれど」


 俺はリーゼさんとブリジッタさんにはブローチ付きの銀のネックレスを、アルフォンソさんとランベルトさんには銀の腕輪を送った。


 ”終生変わらぬ愛情と感謝を込めて ベアトリーチェとゼギアスより”とビアッジョさんに打刻して貰った。


 そうか、喜んでもらえたか。

 良かった。


 「あれはゼギアスの案なの。記念品を残したかったし、思いを伝えたかったんだって」


 ベアトリーチェがちょっと自慢そうな顔をしている。


 いやいやいやいや、そんな大したことじゃないから。


 「お父様も感激してたわよ。良い婿殿をベアリーは貰ったって」


 姉妹は雑談を続けてる。

 俺はその微笑ましい光景を黙って見ていた。


 お姉さんも美人だけど、やっぱりベアトリーチェの方が俺の好みだな……などと失礼なことを考えていたけど……。

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