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59、敗北するテムル族

 サロモン王国ジラール軍事総督バックスの号令と共に、ジラール駐留軍の新ジャムヒドゥンへの侵攻が始まった。リエンム神聖皇国国境側はガイヒドゥン軍二十万で守りを固め、侵攻軍は全てサロモン王国軍で編成されている。


 目指すは、新ジャムヒドゥン第二の都市サザンドラ。

 人口二百万の・・・・・・この世界では大都市の部類に入る都市である。


 ジラール駐留軍は五万の兵をジラールに残し、十万の兵で侵攻する。

 侵攻軍は地上部隊のみで編成されているが、カリネリア駐在の空戦部隊所属の飛竜とグリフォンで構成された百五十体の部隊が上空からのトウガラシ爆弾と爆撃で攻撃する。


  決行日は、新ジャムヒドゥン主力騎馬兵の足が鈍る雨天を選んだ。ちなみにサロモン王国軍は土属性魔法を得意とするメンバーを主力とした支援部隊が、部隊の進軍に併せて地面を固める。雨がサロモン王国軍の足を止めることはない。


 「バックス総督、敵部隊がサザンドラから出撃したと斥候から報告がありました。その数およそ三十万。サザンドラ駐留のほぼ全軍です。」


 副官のネクサスからの報告を聞き、バックスは一旦、進軍を止める。

 

 「作戦通り中央軍を残し、左翼と右翼は敵との合流予定地点の両側を目指せ。合図があるまでは動くなと徹底しとけよ。いくら我が軍の頑丈な兵等でも、頭から爆弾かぶりたくないだろうからな。」


 侵攻軍は中央に三万を残し、左翼三万超と右翼三万超は指示通りの動きを始める。中央軍は厳魔ラルダの指揮のもと厳魔三千を中核とした突撃部隊。属する獣人も豹人族や虎人族などの屈強な者が集められている。左翼と右翼はそれぞれアマソナス二千を中核とした撹乱部隊。右翼はアマソナス族長のヘラが、左翼はデーモンのジズー族族長ハメスが指揮をとっている。

 

 バックス等司令部は支援部隊と長距離攻撃部隊を指揮することになってる。

 AK-47を持つエルザとクルーグは、バックスの指揮下で敵軍指揮官を狙い撃つ。


 術の影響範囲外から爆撃するので、術師対策は特に必要なしと判断されている。


 遠くに騎馬が起こす水煙が見え、バックスは空戦部隊に敵の戦闘へからトウガラシ爆撃を開始するよう伝えた。


 「始めるぞ!全軍、無理することはない。敵は我々の空戦部隊に対抗することはできん。敵が乱れたところを安全に刈り取るだけの作業だ。こんな楽な戦いで怪我などしたら笑ってやるから覚悟するように!」


 いよいよサザンドラ攻略戦が始まる。


・・・・・・

・・・



 サザンドラは国王となったヨハネスの長男ファレズが守備していた。

 ファレズは、ガイヒドゥン方面からの予想外の侵攻に急遽対応せざるをえなかった。

 また同じ騎馬軍による攻撃を得意とするガイヒドゥンが雨天を選んで侵攻してくるとは考えてもいなかったので、具体的な対応策もなしに軍を展開するしかなかった。


 だが、敵数は十万程度と聞き、三倍の兵力で蹂躙可能と考えた。侵攻軍は中央が薄く、また左右に兵を開いたと聞き、中央突破し、背面で転回してから包囲殲滅できると、自身で十万の兵を連れて中央突破を企てようとした。残り二十万は敵両翼を牽制しつつ敵中央軍に当たるよう指示した。


 ファレズが敵両翼の間に侵入した時、上空左側から近づく百体ほどの物体が見えたと報告があった。だが、その物体は豆粒ほどの大きさで遠く離れてることが判る。敵の斥候か何かで戦いには影響はないとファレズは判断し、そのまま進軍を続けた。


 ファレズが率いる軍の左右敵軍に動きは見えない。自軍の後軍が牽制してるため動けないのだろうと考え、目の前で待つ敵中央軍の姿が見えてきた時、上空から黒く丸い物が次々と降ってきて、地面に落ちると破裂していった。


 破裂した物から赤灰色の煙が勢い良く周囲に広がり、ファレズの部隊は兵も馬も進軍を止める他なくなった。煙自体は薄く、視野を遮るほどのものではないのだが、その煙に巻かれた兵は皆目や鼻を押さえてる、ファレズも刺さるような痛みを感じ、思わず手で目をこする。


 「・・・・・・な・・・・・・なんだ、これは!!」


 目と鼻が痛み、涙と鼻水が止まらない。

 馬も暴れ、多くの兵が振り落とされる。

 兵達も”目が開けられん””馬が言うことをきかない”などと声をあげ、現在の状況が戦線の先頭であることを考えると、危機的状況であることはファレズにも明らかであった。


 ズダァーーンという音とともに、ファレズの肩に痛みが走る。何かに肩を撃たれたのだが矢ではない。だが、撃たれた傷は熱く痛み、押さえた手に血の感触を感じた。

 続いてまたもズダァーーンという音が鳴り、腹部に痛みが走った。

 ファレズは肩の痛みも我慢してなんとか留まっていたが、腹部の痛みに耐えかねて暴れる馬の上に留まることができずついに落馬した。


 ・・・・・・何が起きてるのだ・・・・・・


 腹部を押さえ、身体を地面から起こすと、自軍の後方でもズガァーン・・・・・・ズガァーン・・・・・・と爆音が鳴り、そちらに顔を向けると土煙と一緒に大勢の兵が吹き飛ばされてる様子が見えた。爆音が鳴るたびに自軍の兵が吹き飛び、ファレズ同様に何が起きてるのか判らない兵達からは救いを求める声、神を呪う声、退却を望む声が聞こえる。


 爆音は百回を越え、いつまでも終わらないかと感じていた。

 このままファレズも吹き飛んで死ぬのかもしれないと思っていた。


 自軍が敵と接してもいないうちに陣形を崩し、逃げ惑う自軍の様子をファレズは目を見開いて呆然と見ている。


 ・・・・・・何ということだ、鍛えられた我が軍が何もできずに右往左往しているとは・・・・・・


 その時、敵軍から鬨の声響く。


 今まで全く動きの見えなかった敵軍が全て自軍目がけて動き出した。

 

 ・・・・・・マズイ、このままではマズイ・・・・・・


 ファレズは力が入らぬ身体に鞭を入れ何とか立ち上がり、


 「密集せよ!・・・・・・陣形を・・・・・・陣形を立て直せ!!」


 やっと我に帰ったファレズは、叫び続け、必死に自軍の中まで戻ろうとする。

 ・・・・・俺が戻って再編し撤退しなければ、敵軍に蹂躙されるだけだ。

 その危機感だけで痛みに耐え、走り続けた・・・・・・だが、背後から大勢の駆け寄る足音が大きくなり、ゴンッという頭部への衝撃とともにファレズは意識を失った。


 

・・・・・・

・・・


 「・・・・・・ぅ・・・・・ぅぅうう・・・・・・。」


 ”バックス総督、敵軍司令が目を覚ましたようです。”部下の報告を聞き、バックスは椅子に縛りつけたファレズの前に近づく。


 「どうやら気がついたようだな。治療しておいたから、傷は痛むまい。」


 ファレズがその声に反応し、顔を上げる。

 身体は椅子にロープで縛られ、手足も同様に縛られてるようで動かせない。


 「・・・・・・。」


 まだはっきりとしない目で、目の前に立つバックスを見ようととする。


 「テムル族のファレズだな。敵が今の俺で良かったな。これがリエンム神聖皇国時代の俺なら即座に殺していたところだ。」


 「・・・・・・誰・・・・・・だ?」


 喉が乾いてるのか、それとも自分の血で喉が痛いのか判らないが、ファレズは詰まらせた声を出した。バックスは”水を飲ませてやれ”と部下に指示を出す。


 カップから流れてくる水で喉を潤し、一つ咳払いしてから


 「・・・・・・すまない。・・・・・・お前は誰だ?ルーカンのところの者ではないな。」


 「俺はサロモン王国ジラール駐留軍総督バックスだ。元リエンム神聖皇国戦闘神官のバックスのほうがジャムヒドゥンの方々には知られているかな?」


 戦闘神官バックス、ファレズは面識はないが、父ヨセフスからは何度か煮え湯を飲まされた相手としてその名前は聞いて覚えている。そうか、サロモン王国へ亡命したと聞いていたが、ジラール駐留軍の総督に就いていたのか・・・・・・。


 「俺に何か用か?」


 「ああ、お前をここに残したのには理由がある。サザンドラ周辺の士族に降伏を呼びかけてはくれないか?」


 「何故そんなことをする。お前達なら造作もなく叩き伏せられるだろうに。」


 あんな見たことも対応もできない攻撃の前にはテムル族は手も足も出ない。

 それはバックスもわかっているだろうに。


 「うちの国王は無駄な殺生が嫌いでな。できることなら不必要な戦いはせずに済ませたいと言われてるんだ。俺個人としては蹂躙してやりたい気持ちもあるが、俺は国王が好きでな・・・・・・恩もあるが・・・・・・国王の気持ちは大事にしたいと思ってるのさ。」


 国王の命は配下なら従って当然、好きだから気持ちを大事にしたいなどという軍人にはファレズは初めて会う。


 「ふんっ、甘い国王だな。降伏を説得するのはいいが、条件がある。」


 「聞こう。だが、調子に乗るとお前が困ることになるぞ。」


 「降伏を受け入れた士族は、お前達に攻撃をしないだけであとは自由してやってくれ。」


 バックスはファレズの顔をじっと見て、顎に手を当て考えている。


 「待機してる現在の土地から移動しない・・・・・・それも付け加えてもらおう。それでいいならお前の条件を飲もう。」


 ファレズはバックスの条件を聞き、”それなら説得してもいい”と頷いた。


 「あ、そうそう、お前の部下で生き残った者はサザランドの兵舎に監禁している。まあ、十万も残っていないがな。」


 サザランド駐留軍の三分の二を失ったのかとファレズは愕然とした。

 ・・・・・・何もできずに・・・・・・。


 「じゃあ、今日のところは休め。明日からはうちの配下とともに説得に回って貰うからな。」


 バックスはファレズを連れて行けと部下に指示した。





◇◇◇◇◇◇ 

 

 カリネリア駐在軍総督ホーディンは、副官候補として預けられたナダールを連れ、カリネリア駐在軍十万を率いて、フラキア、カンドラ、ライアナを経由してブレヒドゥンに入った。


 ホーディンの役割はテムル族の本拠地であり、新ジャムヒドゥンの首都ブールドラの攻略。人口四百万のグランダノン大陸中五本の指に入る大都市である。


 カリネリア軍十万にブレヒドゥン軍十万を加えた連合軍でブールドラを攻略するのだが、敵軍は五十万から六十万の兵力を有する。


 カリネリア軍事総督ホーディンは、最大三倍の敵数にも余裕があった。

 思念伝達によりサザランド方面の戦闘結果を聞き、サロモン王国軍が日頃訓練している戦術が十分通用すると判ったからだ。


 あとはカリネリア軍とブレヒドゥン軍の連携さえうまく取れれば負ける要素は無いと確信していた。


 サザランド攻略と異なり、こちらにはほぼ確実にリエンム神聖皇国軍がキュクロプスを先頭に侵攻してくる。リエンム神聖皇国軍にはブレヒドゥン軍二十万が対面し作戦にそって、キュクロプス捕獲予定地点まで撤退戦を行うことになっている。


 そちらは多少苦戦するだろうが、いざとなったらゼギアスが出ることになってるので、大きな被害は被らないだろう。但し、想定通りに戦いが進んだ場合、そちらの方は見ものだ。できれば上手く進みリエンム神聖皇国軍の慌てる様子を見てみたいとホーディンは思っていた。実際の所ホーディンはブールドラ攻略から離れられないのだが、想像するとやはり見てみたいと思ってしまうのだ。あのキュクロプスが為す術もなく倒される様子など、これから先どれだけ戦いを経験しても見られないだろうからだ。


 ブールドラ攻略には空戦部隊が百体参加、対リエンム神聖皇国軍には百五十体参加し、サザランド攻略で行ったことをこちらでも繰り返す。トウガラシ爆弾と通常爆弾、そしてこちらでは新たに開発した魔爆弾も投入される。


 この魔爆弾は、その爆発を投下者の意思でコントロールできる。投下だけして爆発させずにおくことも可能。そして投下者の魔法力や使用可能な魔法に関係なく、爆弾に封じられた魔法が爆発とともに周囲に影響を及ぼす。


 封じられてる魔法の種類は、サロモン王国に存在する魔法の種類である。何故こんな爆弾が開発されたかというと、農作業での害虫駆除や病原菌駆除魔法を様々な地区で使用したいという要望に応えたことによる。農作業で使用する時は上空から落とすなどということはしない。駆除地域の中心に置いて、使用者が爆発を思念伝達魔法で指示するだけである。


 この爆弾を戦闘で利用することで、状態異常魔法などの使用可能な者の少ない魔法も誰もが使用可能になった。爆弾に封じられた魔法次第で攻撃も防御もできてしまう優れものなのだ。


 今回はキュクロプスに状態異常魔法が効くか判らないので、安全な上空から様々な魔爆弾を落とし、キュクロプスの弱点を探る試みが行われる。リエンム神聖皇国軍相手にはトウガラシ爆弾と通常爆弾で十分だろうということで、魔爆弾はキュクロプスにしか使用しない。


 この世界のこの時代、空中を活用した三次元の戦術はサロモン王国以外では利用されていない。この優位を利用して、ブールドラ攻略は行われる。


 ヴァイスハイトもアロンもこの戦場には居ないが、負けることなど考えてもいないし、ホーディンも同様である。勝つか負けるかではなく、自軍と相手の被害をどれだけ抑えて勝利するかしかサロモン王国軍の誰もが考えていないのだ。


   

 「こちらも始めるとするか、サザランドの敗北を知り、どのように負けたか情報が伝わっていれば、軽々しく突っ込んでくることはないだろう。その場合攻城戦になるだろうが、手間をかけるつもりはない。その場合はトウガラシ爆弾だけ落としまくれば、そのうち出てくるさ。城壁内にいればいつまでもガスが留まるからな。それでも出てこないなら通常爆弾で爆撃すれば、この戦いはこちらに損害は一人もなく終わる。」


 ホーディンはナダールのこれからの予定を話し、ブレヒドゥン軍にはブールドラ占領の準備をさせておくよう指示した。ダギ族士族長次男ナダールからの指示ならばホーディンが行うよりも説得力があるだろう。  


 空戦部隊との連携に慣れてるカリネリア軍と異なり、戦闘の様子に慌てたりなど想定外の動きをされるのだけは避けたい。無駄な被害を出すなど、ホーディンの矜持が許さない。


 全軍に指示が行き渡ったと確認したホーディンは進軍開始を指示し、空戦部隊に攻撃開始するよう伝えた。


・・・・・・

・・・


 ブールドラを守るテムル族士族長ヨセフスは、サザンドラが簡単に堕ちたという報告とその敗戦の様子を知り焦っていた。サザンドラが堕ちてもここブールドラとユラジルがあるとは言え、ブールドラから出れば挟撃される恐れが出た。サザンドラ三十万軍が為す術もなく短時間で敗北し、長男ファレズも簡単に捕らえられたとなれば、ヨセフスが思い描いていたジャムヒドゥン最大版図の復活など、夢物語でしかなかったということになる。


 今は、リエンム神聖皇国の援軍が来ることを期待し、ブールドラで籠城戦を行い耐えるしかないだろう。得意の騎馬による包囲殲滅戦術を行えそうもないとなれば、ヨセフスの打つ手は限られている。サザンドラから逃げ延びた兵の報告に拠れば、陣形を整える暇も再編する暇もなくただ敵兵に蹂躙されたという。長男ファレズはヨセフスが自信をもって後継に推せる息子だった。そのファレズが為す術もなく負けたという事実はヨセフスを恐怖させている。


 城壁の兵から、敵軍が弓の届かない距離で停止したと報告があった。

 持久戦でも仕掛けるつもりか?

 こちらには二ヶ月程度なら籠城できるだけの食料と水はある。

 その間にリエンム神聖皇国軍が敵の背後を襲ってくれれば、城から出て挟撃戦をしかけられる。


 ヨセフスは希望が出てきたと感じた。


 その数分後、上空から黒い物体が次々と城内に落とされ、そして煙をあげて爆発する。二階以上の高さに居たものは被害は無いものの、地上に居るものは兵も住民も皆、目や鼻を抑えて苦しんでいる。十数分後には呼吸困難で転げ回る者も出てきた。


 城内の至る所に黒い物体が落ち、被害者は時間の経過とともに増えていった。

 住民からの苦情、ヨセフスを呪う声も大きくそして増えていった。


 その報告を聞いたヨセフスは、”これか、ファレズが手も足もでなかった理由は・・・・・・籠城は失敗だったか・・・・・・”と考えたが、外に出たところで勝機はまだ無い。それに二階部に居て煙にまかれていないからヨセフス等は無事なのだから、地上に降りて外へ出ようとするなどできない。


 そのまま二時間が過ぎ、落下物も終わったかと思った時、再び黒い物体が落ちてきた。今度は凄まじい爆発を起こし、建物も人も何もかもを吹き飛ばし始めた。黒い物体は兵舎とその近辺に重点的に落ち爆破していく。住民にも被害は出てるが、それ以上に兵の損傷率がかなり高い。このままではただ戦力を減らしていくだけだった。


 爆風がそれまで城内に漂っていた煙を飛ばし、辺りが晴れてきたことを確認したヨセフスは城内に居てはただ爆発でやられるだけだと、動ける兵を集めて城外へ出ることを選択した。


 「続け!このまま死にたくない者は我に続いてテムル族の意地と底力を見せてやるのだ!」


 城壁もところどころ爆発で壊れ、乗馬し瓦礫を越えてヨセフスは外へ出る。付いてきた兵に指示して突撃陣形を取り、駆け出そうとした矢先に、ズンッという音と共に胸に傷を負った。

 肺を撃たれたらしく、喉から血が上ってきて口端から漏れ出す。サザンドラから飛竜にのってブールドラ攻略に参軍したエルザとクルーグのAK-47による長距離射撃でヨセフスは撃たれた。


 ヨセフスの後を追ってきた次男ウルカノと三男ノウルに手を伸ばし、血が溢れる口を開き、

 

 「・・・・・・ゴボォ・・・・・・逃げろ・・・・・・ユラジルまで逃げ延びて・・・・・・。」


 そこまで伝えて、力尽きたヨセフスは身体を息子たちの方へ前のめりに倒し、多くの血を吐いて息絶えた。


 ウルカノとノウルは、残っている兵に向かって


 「ユラジルまで逃げろ!とにかく一人で逃げろ!」

 

 ひたすら必死に叫び続ける。


 この状態では父の亡骸を弔うことなどできそうもない。

 軍の統率だの、組織だった動きだの、そんなものももう望めない。

 一兵でも多くユラジルまで逃し、そこで再起を図る。

 ウルカノとノウルもまた馬を飛ばし、後ろを振り返ることもなくユラジルを目指した。

 父の亡骸を残して去る無念で涙を溢れさせながら、ひたすら馬に鞭をあてた。



・・・・・・

・・・


 ホーディンは、慎重にゆっくりとブールドラへ向けて兵を進めた。

 城内からは火があがり幾つかの場所で火事が起きてる様子も城外から伺える。

 この状態で城内から伏兵の出現など考えられはしないが、それでも万が一に備えずに入城することなどホーディンは選ばなかった。


 城内から逃げ出す住民も居たし、その中には兵の姿もあったが、ホーディンは追いかけることはしない。勝負は決したのだ。ユラジルでもどこでも落ち延びればいいと考えていた。どうせいずれ追い込まれるのだ。リエンム神聖皇国へ逃げるならまだしもジャムヒドゥン領内に居てはどこにも逃げられはしない。


 ホーディンはナダールに命じて、ブールドラ占領をブレヒドゥン軍に始めさせた。

 サロモン王国軍同様に、略奪や女性への暴行などを厳重に禁じて。


 


 サロモン王国軍の戦闘を初めて見たナダールは、事前に作戦の内容を聞いていたものの、その結果の凄まじさに驚くしかなかった。数十万・・・・・・推定五十万以上の敵軍を一兵も損なわずに殲滅するなどナダールには想像もできなかった・


 爆弾という武器と戦術はゼギアス様とヴァイスハイト宰相が考えたというが・・・・・・神か悪魔の知恵とでも言うしか無いな。


 ナダールは、キュクロプスとの戦いの場も見た。あの時は恐ろしい敵が出てきたと恐怖したが、それでも何かしら勝つ方法があるはずだと思えた。だが、サロモン王国軍の爆弾相手ではどうしたらいい?キュクロプスにはこちらの攻撃は届いた。飛竜やグリフォンが飛ぶ高度まで届く武器など思いつかない。建物に隠れていようと、建物ごと壊されてしまう。森に逃げても同じだろう。せいぜい馬に乗って逃げるだけがせいぜいだ。


 ジャムヒドゥンがまだまとまっていた時、サロモン王国は仮想敵国だった。

 もし戦争を仕掛けていたら・・・・・・仕掛けられていたら・・・・・・今起きたテムル族への蹂躙が四士族全体に生じていただろう。その際の被害はキュクロプス相手で生じた被害の比ではないだろう。


 父ホルサと国王ガウェインの判断は間違っていなかった。

 サロモン王国と敵対するなど頭がおかしいとしか思えない。

 選択肢としては敵対もあったのだ。

 その選択を選ばなかった父と国王に心から感謝する。


 逃げ延びたテムル族が、この戦いの結果を思い起こし早めに降参することを祈る。

 無駄な抵抗で、今は敵とはいえ同じ士族の屍を増やすことのないよう、ナダールは願っていた。





◇◇◇◇◇◇

 

 「存外だらしがないな、テムル族も。」


 サロモン王国の侵攻でブールドラとサザンドラを失ったという報は、リエンム神聖皇国のブレヒドゥン侵攻軍を指揮する戦闘神官第四位アイアヌスのもとへ届いた。リエンム神聖皇国軍はこれから目の前に展開するブレヒドゥン軍と戦端を開こうとしていた。


 サザンドラを攻略したのは、元戦闘神官第三位のバックスだという。

 ・・・・・・そちらは仕方ない。

 あのバックスが相手ではアイアヌスでさえ負けを覚悟する。今はキュクロプスが居るとは言え、バックスを甘く見ることは、過去一度も勝機を見つけることもできずにいたアイアヌスにはできない。


 だが、ブールドラの方は結局敵軍の指揮官の名すら判らずに敗退した。

 バックス以上の指揮官がサロモン王国に居るとはアイアヌスには考えにくい。

 にも関わらず、サザンドラの倍近くの戦力を持つブールドラは落ちた。

 

 テムル族が敗退し、ブレヒドゥンかガイヒドゥン攻略も難しくなった今、アイアヌスは全軍撤退しようか少し考えた。だが、先を考えると敵軍の数を減らしておくことも重要だ。適当に蹴散らしてから撤退すれば良かろう。


 そう考えてアイアヌスは、キュクロプスに進軍を命じた。

 

 敵軍は騎兵中心の編成二十万。

 キュクロプスが居なければ、アイアヌスが前に出て敵にダメージを与えてから兵を動かすところだが、キュクロプスに任せれば兵は損傷しない。


 前回キュクロプスと当たり敗北した経験を活かしてるのか、ブレヒドゥン軍はキュクロプスへ弓や術を使ってキュクロプスの手が届くところまでは近寄って来ない。キュクロプス相手に一撃離脱を繰り返している。


 まあ、弓や術程度ではキュクロプスは傷一つ負わないだろうから、好きにさせておく。たまには暴れさせないと・・・・・・キュクロプス達も苛々していたからな。


 アイアヌスはキュクロプスの姿さえ視認できるならキュクロプスとの距離が離れても気にしないままその後をゆっくり進軍させていた。





・・・・・・

・・・


 「そうだ!キュクロプスに傷を負わせる必要はない。事前に伝えたように例の地点まで誘き寄せるのだ!決してキュクロプスの攻撃が当たるところまで近づくなよ!ブールドラ攻略に参加した我が軍は誰も怪我一つ負わずに勝利を治めた。我が軍も全員それに倣うぞ!」


 撤退戦を演じながら、指定地点までキュクロプスを誘導するホルサとその長男アドラド、そしてガウェインの長男ストラートは、ブールドラ早期占領の報に気力が充実していた。 


 サロモン王国との間で決めた作戦は順調に進んでいる。

 こちらも作戦通りに戦えば、必ず勝利できる。前回は煮え湯を飲まされたキュクロプスとリエンム神聖皇国に思い知らせてやろう。ウルス族もダギ族も一度やられた相手にはきっちり落とし前をつけさせるのだと。


 戦いを開始してから一時間が過ぎ、そろそろ指定地点までキュクロプスも到着する。あと一息だ。


 ・・・・・・・よし!


 「全軍、指定地点から離れよ!・・・・・・そうだ、逃げ遅れるなよ!次の攻撃に巻き込まれるなよ!」


 ホルサが全軍に指定地点から急ぎ離れ、ジャルディーン側へ逃げるよう叫んだ。


 ・・・・・・よし・・・・・・よし、いい子だ、そのまま・・・・・・そうだ!今だ・・・・・・


 ホルサが手を挙げると、キュクロプスの下の地面に大きな穴が開き、キュクロプス達三名はその穴に落ちる。その穴は、事前にキュクロプスがちょっと跳ねた程度では地上に手が届かないほど・・・・・・二十メートルほどの深さにサロモン王国軍の土属性魔法使い達が掘っておいたのだ。ブレヒドゥン軍がその上にいる間は、カモフラージュした風属性と土属性の混合魔法で偽の地面を置き、キュクロプスが乗った瞬間に混合魔法を解除して落としたのだ。


 キュクロプスが穴に落ちたと同時に、アイアヌスが率いる軍勢にも上空からトウガラシ爆弾を落とし、キュクロプスの様子を確認できないようにする。


 上空から、キュクロプスの穴に多くの魔爆弾が落とされる。

 状態異常の各種、属性魔法、そして聖属性が付与された属性魔法などの魔爆弾が次々とキュクロプスの頭上から落とされ、穴の中で爆発する。


 通常の爆弾ならば、いくら土属性魔法で強化してるとはいえ穴そのものも壊してしまうだろうが、魔爆弾はいくつかの魔法を除くとその心配はない。だが、フォモール族のような弱点は見つからない。さすがに三代前の龍王が封印するだけで滅ぼせなかっただけはある。キュクロプス丈夫!


 ・・・・・・・ついに、サロモン王国、人型決戦兵器ゼギアスの出番が来た。


 ちなみにシンクロ率など関係ないし、アンビリカルケーブルも付いてないのであしからず。まあ、敢えて言えば、電気ではなくエロい奥様達とのイチャつきと可愛い子供達の笑顔と抱っこをエネルギーにしてるかもしれないし・・・・・・今まで暴走したことはないし・・・・・・今後は判らないが、今日のところは大丈夫だろう。


 「そうかあ~しょうがないなあ~。」


 ちょっとゼギアスは嬉しそうだ。

 ”いやぁ~美味しいところ貰っちゃって悪いなぁ~”などと頭をカキカキしながらキュクロプス舐めたことを言っている。


 このまままったく出番がないのは寂しいと感じていたので出番を貰えて嬉しいのだ。

 

 ゼギアスは穴の縁に立ち、キュクロプスに目を向けたあと、両手に強い光を帯びさせていった。どうやらキュクロプスのサイズを目算したらしい。

 小さい光にも関わらず、遠目から眺めているホルサも眩しく感じるほどの強い光がその輝きを増し続けている。やがて、穴にその光を投げ込み、少し確認したあとゼギアスは笑顔でホルサのもとへ戻ってくる。


 「え?」


 何が起きてるのか判らないホルサは、ゼギアスの顔を見ながら疑問を口にした。


 「覗いてみ?」


 そう促されたホルサは、キュクロプスが落ちた穴を恐る恐る覗き込んだ。

 そこには光に包まれたキュクロプスが・・・・・・その巨大な身体を光に圧し潰されている姿があった。そして光とキュクロプスの間に隙間が無くなると、キュクロプスはその光に喰われているように見えた。声を出しているようだが、光の外には聞こえない。


 口から泡を出し、血走った目で暴れているがどうにも出来ない様子。


 ゼギアスは、聖属性龍気でキュクロプスを包むほどの結界を作り、、その内部に闇属性を纏わせた風系魔法を満たした。そして聖属性の龍気の空間を徐々に小さくし、聖属性の影響で弱ったキュクロプスを闇属性を纏った風に喰わせているのだ。


 「上手くいった。聖と闇属性が相克を起こさないよう調整が面倒だったけど、何とかできた。・・・・・・それじゃ、撤退戦演じてストレス溜まったろ?残るリエンム神聖皇国軍を蹴散らしてきたらどうだ?あ、上空から爆弾落ちてくるからそれには気をつけてな。そろそろ止まるけど一応ね。」


 笑顔のゼギアスの言葉に従って、部下達に掃討戦をホルサは命じた。

 リエンム神聖皇国軍は、トウガラシ爆弾と通常爆弾のせいで統率の取れていない・・・・・・既に烏合の衆四十万の兵が目の前に居る。


 ブレヒドゥン軍は、溜まった鬱憤を晴らすかのように、リエンム神聖皇国軍を蹂躙した。同じ一撃離脱でも敵を誘導するためのモノではなく、敵軍を切り裂くように突っ込んでいき、そして反撃を許さずに離れ、体制を整えては再び敵軍を切り裂いていく。


 サロモン王国でもダヤンが得意とする一撃離脱戦法だが、ブレヒドゥン軍もダヤンが指揮する軍と変わらず見事な動きだった。十万の騎兵が統率され、敵が体制を立て直す暇を全く与えず、一方的に倒していく。さすがに一大帝国を築いたジャムヒドゥンの精鋭だなぁとゼギアスは感心していた。

 

 アイアヌスは目と鼻をやられて、満足に指揮もできず魔法で対抗することも出来ずにいた。後方に下がり自身に何とか治癒魔法をかけ、指揮を再開しようとしたが時既に遅く、バラバラに砕かれたリエンム神聖皇国をまとめ直すことを諦め、全軍に撤退を命令した。アイアヌスはこの戦いで二十万の兵とキュクロプス三名を失った。

 侵攻した際には四十万居た兵が半分となって撤退していった。


 リエンム神聖皇国軍が撤退する様子を見て、ホルサもまた戦闘停止を全軍に命じた。追撃を望む声もあったが、ホルサはその必要を感じなかった。リエンム神聖皇国はキュクロプスを失い、更に二十万以上の兵を失った。ブレヒドゥン軍としてはこれ以上望むのは欲が深いというものだ。


 「俺達は前回の屈辱を晴らした。その上、テムル族の奴らにもきついお仕置きをした。今日のところはこれで良いだろう。皆、よく指示にしたがってくれた。では、帰るぞ!」


 ホルサの号令に兵たちは沸いた。

 ある者は手にした槍を突き上げ、ある者は鞍を叩いて叫んだ。


 最後のリエンム神聖皇国掃討で怪我を負った者が数十人出たが、その程度は戦いの規模から言って無傷も同然。大勝利であり、大いに祝うべき出来事だった。


 この戦闘に参加した者達は指揮官から兵卒まで皆誇らしい顔をしている。

 その様子を見てホルサは、これからの体制変更を説得する際、意外と早く片付くかもしれないと感じていた。


 戦いは、戦闘の場だけではないのだ。

 ホルサは気持ちを引き締めていた。


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