58、ブレヒドゥン
ウルス族とダギ族の二つの士族が中心となってブレヒドゥンを建国した。
ブレヒドゥンは、北は海、西はリエンム神聖皇国、東はライアナ、そして南は新ジャムヒドゥンと接している。人口は新ジャムヒドゥンとほぼ同じ程度で千万名程度。
百万近い兵数を持ち、リエンム神聖皇国といえど簡単には侵略できない。
だが、リエンム神聖皇国と新ジャムヒドゥンとが手を組み、協力して攻めて来られたら甚大な被害を被ることは明らかで、ブレヒドゥン国王ガウェインはダギ族士族長ホルサと今後の対策を相談している。
「ルーカンがサロモン王国と手を組んだそうだ。」
ガウェインは額に垂れるやや長い黒い髪を手でずらし、ルーカンからの手紙をホルサに見せた。
「まあ、そうせざるをえないでしょうね。ヨセフスがリエンム神聖皇国と手を組んだ以上、ルーカンが単独で対応するのは無理でしょうから。」
ホルサは手紙に黒い瞳を落としながら返事する。
「我らとしてもサロモン王国の協力は必要だからな。リエンム神聖皇国のキュクロプスに対抗するにはあの国の魔法が必要だろう。聞いただろう?ライアナへ侵攻したフォモール族をサロモン王国は苦もなく殲滅したそうだ。」
「ああ、巨人族の弱点を突いた攻撃で、サロモン王国には被害はなかったというからな。キュクロプスへの対抗手段に困ってる我らにはサロモン王国の力が必要だろう。」
ホルサから手紙を受け取り、ガウェインが危惧してることを話しだす。
「だが、ルーカンが書いてきたサロモン王国からの条件・・・・・・元奴隷を土地に縛り付ける政策は変更するというやつだが、これはちと骨が折れそうだな。」
「そうだな。ルーカンのところは属する士族の数は少ないし、そもそもあそこは交易で成り立ってるから反抗する士族も少ないだろうが、我らのところは士族の数も多いし、農耕や牧畜で成り立ってるからな。」
安い労働力が必要な産業を主要産業とする領地とそうではない領地の性格の違いは、サロモン王国の要求へ対応するにもかかる労力が違う。ガウェイン等が治める領地はルーカンの領地よりも多くの労力を必要としそうで、サロモン王国と協力関係を結ぶにも苦労しそうだ。
「だが、農業国のカンドラは、奴隷制も擬似的な奴隷制もなしでうまく国を運営できてるらしい。要は、やればできるということなのだが、問題はこちらの領地内が落ち着くまで攻めてこないかという点だ。」
「ああ、体制が落ち着かないと、兵を集めるのも苦労するからな。」
「せめてヨセフスさえ抑えておけるなら何とでもやり様はあるのだがな。二方向から攻めてこられては国内の再整備どころではない。」
ホルサの意見にガウェインも賛成する。
サロモン王国の要求を飲んで手を組みたいが、それをし難い理由がある。
「その通りだ。ルーカンもそれが判ってるから、多少無理をしてでもサロモン王国と手を組むことを急いだのだろう。塩も足りなかったようだしな。」
「ここは人質を送って、落ち着いたら必ず要求を飲むと約束しサロモン王国の力を借りようかと考えてる。」
「だが、お前には息子一人しか居ないではないか?」
ガウェインには長男のストラートしか子供が居ない。
他は成人前に亡くなったのだ。
これから子供は生まれるかもしれないが、少なくとも今は一人だけ。
「うむ、だが他に手段が無い。いくら息子が居ても国を失って引き継ぐモノが無いではな。」
「ならば、サロモン王国にはセリーナを送ろう、それでも不満ならナダールも送ろう。長男のアドラドさえ残ればうちは何とかなる。この苦境を乗り越えられるならそのくらいする覚悟は俺にもあるぞ。」
ダギ族ホルサには長男アドラドの他に長女セリーナと次男ナダールが居る。だが、戦乱続く状況下、長男だけでは跡継ぎに心もとないはず。それだけヨセフスがリエンム神聖皇国と手を組んだ現状に危機感を感じてる証拠。
「だが、サロモン王国はそれで納得するだろうか?」
「ルーカンに間に入って貰うしかあるまいよ。国王の子供ではないが、こちらの事情と気持ちがどれほどかはルーカンならば伝えられるだろう。」
ホルサは、セリーナとナダールと共にルーカンのもとへ向かう。
サロモン王国との交渉を成功させるために必死であった。
国王ガウェインが同席できない事情も理解して貰うためにホルサ自身も向かう。
ブレヒドゥンに属する士族の半数を抱えるホルサが行けば理解して貰えるのではないかと考えた。本来ならガウェインの次にヨセフスから狙われる立場のホルサであったが、自身も危険を犯さないとサロモン王国を動かせないと考えていた。
◇◇◇◇◇◇
ホルサがガイヒドゥンへ入ったのは、ルーカンとサロモン王国が協定を結んだ四ヶ月後であり、この頃はリエンム神聖皇国とヨセフスが今まさにブレヒドゥンへ攻め込もうとする気配が濃くなっていた。ホルサ達の入国に先立って、サロモン王国との交渉の場を用意して貰えるよう使者を送っていたが、到着するまでは交渉の場があるか判らない。依頼に関するやり取りできる時間も無かったのだ。
「久しぶりだな、ルーカン。今回は無理を頼んですまない。だが・・・・・・。」
「判ってるよ。俺の方はサロモン王国と近く、交渉もやりやすい状況だったからな。」
ルーカンは、ジャムヒドゥン四士族のうちヨセフスとは仲が悪かったが、他の士族とは良い関係を維持していた。グランドルダであったガウェインの力量も認めていたし、ホルサの視野の広さも認めていた。
今、ホルサがガイヒドゥンまでわざわざ危険を冒してやってきた意味もよく理解していたので、ホルサの弁明を事細かく聞く必要も認めなかったし、恥をかかせるつもりもなかった。
「・・・・・・感謝する。」
短い礼の言葉だったが、ルーカンの気遣いへの気持ちをホルサは込めていた。
「早速、話を始めよう。サロモン王国のゼギアス殿とヴァイスハイト宰相は既に待っておられる。」
ルーカンは、ホルサ達三名をゼギアス達が待つ部屋へ案内した。
ルーカンはゼギアス達にホルサを紹介し、ゼギアス達とホルサ達は挨拶を交わした。ブレヒドゥンが置かれている状況はゼギアス達に事前にルーカンが説明していたが、ここで再びホルサの口から説明し、そして国王のガウェイン自らが来られないことを詫びた。
「ルーカン殿からその辺りのことは十分に説明していただいたので、こちらもガウェイン殿が来られない点は何とも思っておりません。貴国には時間もさほど無いようですし、早速話しを進めましょう。」
事情を理解してるゼギアスはホルサの覚悟を見たかった。
それ次第ではヨセフスをこちらから叩いて、しばらくはブレヒドゥンとガイヒドゥンへ兵を動かす気も失せるほどの結果を残すつもりであった。
「ルーカンから、貴国が我が国に要求するであろう、我が国の体制変更については十分に理解しております。我が国も貴国の要求を飲み、貴国と友好関係を結ぶ気持ちは十分にあります。ですが、ガイヒドゥンとブレヒドゥンでは事情が異なります。貴国の要求に従った場合、国内の安定に時間が相当かかるでしょう。それ自体は覚悟しておりますが、国内が落ち着かない間に、リエンム神聖皇国とヨセフスに攻め入られると国の崩壊に繋がる危険性が高く、今すぐ手をつけるのはとても難しいことを是非ご理解いただきたい。ですが、我らを信じてくれと言っても担保は必要でしょう。ですから、息子のナダールと娘のセリーナを貴国に預けます。それをもって我らの覚悟の証と認め、我が国とも協定を結んでくださりませんでしょうか?」
さすがにブレヒドゥンのナンバーツーだな。
一瞬も俺から目を離さず、真摯に気持ちを伝えようとする、このホルサという男の気迫がいい。こういう男は大好きだ。
下手に策を弄さず、率直にこちらにぶつかってくる。国王に有りがちな自分を有利にするための交渉術など使わずに向かってくる相手は気持ちがいい。
また、言い分も理解できる内容で、俺としては受け入れて構わない。
ただ、一つだけ確認したいことを聞いて、それで納得できたら話を進めよう。
「息子さんと娘さんを私どもに預けると仰りましたが、息子さん達は人質としてですか?それとも別の理由で?」
俺の質問にホルサは少し考えてその後口を開く。
「・・・・・・親としては貴国で大事に使って貰えたらと、国の代理としては人質でもどうとでも貴国の都合に合わせて抱えていただけたらと・・・・・・。」
うん、やはりこの男好きだわ。
本音を隠さないところが気に入った。
ルーカンから俺の性格を聞いたのかもしれないが、それでもこういう交渉の場で本音を言えるものではない。そこをネチネチと突かれることなど、この手の交渉ではよくあることだからな。
「了解した。貴国とは協定を結ぼう。事務的なこともあるだろうから、これから貴国へ俺とヴァイスの二人が行っても宜しいか?国王ガウェイン殿とも会いたいしな。」
俺の返事を聞いて、ホルサは安堵したようだ。そして頷いた。
「では、ホルサ殿のご子息とご息女はルーカン殿の所でお待ちいただくことで宜しいか?」
ルーカンの”お預かりします”という返事を聞き、俺はホルサとヴァイスを連れて、ブレヒドゥンの首都ジャルディーンまで早速転移した。
◇◇◇◇◇◇
ジャルディーンに転移後、ホルサの案内に従ってガウェインのところまで行く。
さすがに大国ジャムヒドゥンの元首都、街も宮殿もでかい。
宮殿にはいってから、かなり歩いた気がする・・・・・・建物に入って二~三分あればどこでも行ける・・・・・・うちの政務館とは大違いだ。
でも、宮殿なんかに金をかけるのは好きじゃないからいいんだけどね。
ガウェインが待つ部屋へ俺達は到着し、ホルサの説明を聞いたガウェインは事務方を呼んでヴァイスと協定の原案作りを指示した。まあ、ヴァイスが納得して出してきた原案なら俺の方はそのまま通すだろう。あとはガウェインが納得するかだけだ。
俺とガウェインそしてホルサは別室で雑談を交わしながら原案ができるのを待つ。
「ガウェイン殿は撤退戦は得意ですか?」
ヴァイスとアロン達と話し合って考えた、リエンム神聖皇国と新ジャムヒドゥン連合との戦いで必要な対応について聞いてみた。
「撤退戦は得意と言っていいか判りません。ただ防御戦は得意ですので、事前に策を練っておくなら苦手とは感じませんが。」
対リエンム神聖皇国連合のプランをガウェインとホルサへ大雑把に俺は説明する。
目的はキュクロプスの打倒とヨセフスの新ジャムヒドゥンを徹底的に叩くこと。
できるなら、ヨセフスの新ジャムヒドゥンは滅ぼしてしまう。そうすればブレヒドゥンとガイヒドゥンが恐れる二正面作戦を恐れることもなくなるし、俺達が求める対応に必要な時間も稼げる。
「つまり、リエンム神聖皇国のキュクロプスは死地に連れ出し、一方でヨセフス等を挟み撃ちにするということでしょうか?」
「その通りです。率直な話、キュクロプスがフォモール族と同じような弱点を持っていたら、この戦いは既に勝利していると言えるでしょう。ですが、キュクロプスがフォモール族と違った場合でも、ヨセフスの軍だけは殲滅の憂い目に遭うことだけは約束できます。キュクロプスも撤退せざるをえない案も用意しています。」
本音で言えば、キュクロプスを俺が相手してしまえば楽勝なのだが、この戦いのあとブレヒドゥンが体制変更に必要とする時間を短縮するために、ブレヒドゥンには少し苦戦してもらおうと考えているのだ。苦戦しても被害を減らすためには、ガウェインの率いる軍には撤退しつつ戦って貰う必要がある。被害を抑える案は既に用意しているから、ガウェイン等が案に従ってくれればそれでいい。
キュクロプスを撤退させるのは、キュクロプスではなく、その背後のリエンム神聖皇国軍を叩けばいい。うちには空戦部隊があり、上空からピンポイントでリエンム神聖皇国軍を叩くことが可能だ。キュクロプスは戦闘神官第四位のアイアヌスが指揮しているとバックスとネクサスから聞いている。ならばアイアヌスが前線に留まっていられなくすればいい。俺達の対キュクロプス対応方針はアイアヌスへの対処ということで決まっている。
石化魔法が通じるなら、この際キュクロプスも叩いておくんだけどね。
ガウェインに全て教えることはないが、ブレヒドゥンの被害を抑える方策だけは打っておきたい。
「もしヨセフスを叩いて新ジャムヒドゥンを滅ぼしたなら、彼の地をどうするおつもりですか?」
ブレヒドゥンとガイヒドゥンが土地の奪い合いする可能性もある。ここはきちんと確認しておきたい。
「逆に、貴国は彼の地を欲しないのですか?豊かな土地ですよ。」
「要りません。ルーカン殿にも説明しましたが、国というのは大きくなりすぎると内部から争いが生まれます。それは避けたいのです。」
「なるほど、耳が痛い話ですな。ではゼギアス殿ならばどうしたら良いと考えます?」
「他国の勝手な意見ですので、そのつもりでお聞き下さい。ホルサ殿が今の領地を捨てて、テムル族の領地を治め、ブレヒドゥンとは別の国を作り、その上で三国で連合・・・・・・相互不可侵協定を結ぶ。もしどこか一国が他国へ戦争をしかけるようなときは、残りの二国とサロモン王国がその国を攻める・・・・・・というのはどうでしょうか?」
”内乱の鎮圧も三国で協調すればどこかだけが負担が大きくなることも防げます”と付け加えた。テムル族の領地をホルサが治めるとなれば当初は荒れるだろうから、その対応も三国ですべきと伝えた。
「つまり、テムル族ヨセフスには息子が三名居ますが、その子等には引き継がせないと?」
「いえ、三国が四国になっても構いませんが、私の見たところ、テムル族はあまりに戦闘的で息子の代になっても性格が変わるとは思えませんでしたので三国でとしました。ですが、そこはガウェイン殿等がお決めになればいいと思います。」
中途半端に領地を奪われるよりは、完全に併合して領主そのものを変えたほうが良いと思うが、俺が決めるのではなく士族間で決めるべき話だと思うから、そこは任せたい。
ヴァイス達が協定の原案を持ってきたので、俺とガウェインは確認した。
俺はそのままで問題なしと通し、ガウェインも同様に了承した。
これでブレヒドゥンとも協定を結ぶことになり、まず、ヨセフスの新ジャムヒドゥンを叩くところから始めることになる。俺とヴァイスは準備のために、ルーカンのところからホルサの息子たちを連れて一旦サロモン王国へ戻る。
◇◇◇◇◇◇
「ヴァイス、手配はできてるか?」
「はい、これからしばらくはジラールに司令部を置きます。ジラールの軍二十万は、ガイヒドゥンを通過して南からテムル族を攻めます。カリネリアのホーディンは常駐軍十万を率いてフラキアライアナ経由でブレヒドゥンへ入り、リエンム神聖皇国軍の相手をすることになります。リエンム神聖皇国の動き次第では、ブレヒドゥン軍がテムル族の領地へ北からも侵攻するつもりです。・・・・・・。」
大まかな方針を俺に報告し、ヴァイスはアロンと共にジラールへ向かう。
俺は戦線の状況次第で、ヴァイスの指示に従ってどこへでも行けるよう待機する。
新ジャムヒドゥンを監視している巡回兵からの連絡で、今から動けば先手を打てるだろうと伝えられてる。もし間に合わない場合は、空戦部隊の先行投入も視野に入れているから、まあ、大丈夫だろう。
各地への兵の移動は、ルーカンからブレヒドゥンの動きを聞いた時点から始めてるので多分間に合う。
・・・・・・それに・・・・・・。
どうせもうじきリエンム神聖皇国との休戦協定も破られることになるだろう。
バックス等戦闘神官を返せと言ってきてるが無視し続けてるからな。
しびれを切らして動いてくる気配が強いと、うちのエージェントからの報告も来ている。
数日後にはジャムヒドゥンの領地内でサロモン王国軍はリエンム神聖皇国軍とぶつかるだろう。その結果次第では、すぐにでも侵攻してくるのではないか?
まあ、キュクロプスを撃退してしまえば、その気も無くなるだろうが、こればかりは戦ってみなければ判らない。
俺はうちの軍の強さを信じている。
今回も一方的にやっつけてやろうぜと仲間の勝利を疑っていない。
きっと俺の予想通りになってくれるだろう。
さて、戦いの前にホルサの子供達をどうするか考えなければ・・・・・・。
・・・・・・
・・・
・
「・・・・・・えーと、まず・・・・・・ナダールだったな。ホルサ殿から預かったからには、危険な目には遭わせられない。今回の戦いに参加できないことは納得してくれてるか?」
ナダールとセリーナの二人をいつものように俺の家へ連れてきた。
居間のソファに座らせ、これからのことは心配はないと伝え、そして今後のことを話し合っている。俺の他にはマリオンとミズラが居る。ちなみに、ミズラの姉妹のうち養女のアドリアナと同じく養女のエヴァがホルサと親しい士族の家に嫁いでいる。
「はい、ゼギアス様のご指示に従うよう父から言われております。姉のセリーナも同様です。」
簡潔に報告するところはやはり武門の家の子息だなと俺は感じていた。
「そうか、ではナダール。この戦いが終わったら、うちの軍の戦い方を学び、その後指揮官を目指してもらいたい。カリネリアのホーディン・・・・・・軍事総督なんだが、そいつの下で副官に就いて貰うからな。」
ルーカンからの情報で、ホルサの息子ナダールのことはある程度知っている。兄のアドラドは次期士族長だけあって戦いの実力はナダールよりも高いらしい。だが、ナダールも兄を支え、集団をまとめる力は十分にあると聞いていたので、ホーディンの下で経験を積んで貰えば、いずれは一軍を任せられるのではないかと考えてる。
「判りました。ご命令に従います。」
真摯な態度でナダールは答えた。
「さてセリーナ。お前はどうしたい?」
「どうしたいとはどういうことでしょうか?士族長の娘が同盟国に行くというのは、同盟国の国王の妃や側室になりに行くことでしょう。私はそのつもりで来たのですが。」
・・・・・・やはりか。
予想通り過ぎて、気が抜けるよなあ。
しかし、気の強い娘だ。
地球で言えば、中東のアラブ系美人なのだが、鋭い視線を俺に向けてくる。
意思が強いのか、それとも気性が激しいのかはまだ判らないが・・・・・・。
「うーん、サロモン王国では・・・・・・というか俺はなんだが、セリーナを妃に迎えるつもりで預かったわけじゃないんだ。できるだけセリーナの生きたい生き方を選んで貰いたいと考えてるんだが・・・・・・どうだい?」
「私はダギ族士族長ホルサの娘です。サロモン王国との関係を・・・・・・繋がりを作るためにゼギアス様の子を産まねばなりません。父もそれを望んでゼギアス様のもとへ私を送ったのだと思います。父の気持ちを無駄にはできません。」
「ダーリン。しばらく過ごして貰ったら?ダーリンの考えをすぐ理解して貰おうとしても無理よ。」
なるほど。サラもよく言うことだが、俺の考えや感覚はこの世界では異質だというからな。
「私もそう思いますわ。セリーナさんにはこの国に慣れていただいて、それでも考えを変えない時は貴方のそばに置けば宜しいかと。」
どうやらミズラもマリオンと同意見のようだ。
いつも思うことだけど、こういう時うちの奥様達はこの世界の人なんだなと感じる。俺は必ず違和感を感じるし、身近に置く女性が簡単に増えるのは抵抗感を感じるんだが、奥様達はその辺りを理解してくれているはずなのにと・・・・・・ちょっと寂しく思う。
だが、この世界で生まれ、この世界の常識の下で成長してきたのだから当たり前のことなのだろう。それは判る、判るんだが・・・・・・。前世の常識や感覚が俺から抜けることはないので、毎回同じことで悩む。
「判ったよ。じゃあ、セリーナは暫くの間我が家で暮らしてよ。我が国の空気や習慣、俺の感覚や人となりを見てよ。その上で、俺の妃を望むならその時はそうしよう。それでいいかい?」
俺はマリオンにセリーナの世話を頼んだ。
”侍女が必要なら置いてもいいし、他に必要なものがあれば極力用意してあげてくれ”とお願いした。マリオンは笑顔で”任せておいて”と頷いた。
さてと、ナダールとセリーナの件の当面はこれでよし。
とにかくテムル族を叩いておかなければな。
奴隷制を維持していこうという奴らだし、俺としてはここで思い知らせてやらんと気がすまない。
リエンム神聖皇国も同じだ。
このところ相手していなかったが、ケレブレア教の教皇とやらも気に入らん。教義維持のためなら国民の命を軽く扱っても良いという姿勢は異教徒大虐殺した当時と変わっていない。ケレブレアという龍が何を考えてるのか知らないが、自分の名がついてる宗教くらいコントロールしろよと腹が立つ。
エルザークは前々から、俺とケレブレアはぶつかるようなことを匂わせていたが、ここに来て必ずぶつかると俺も思うようになった。
ケレブレアは無責任。ケレブレアの名を利用した教団の連中に振り回されてる国民のことも考えろと苛々してくる。立派な龍なのだろうから、そろそろいい加減にしろと言いたい。




