55、亡命受け入れの影響
リエンム神聖皇国からの亡命者と移動を始めた日から一月が過ぎた。サロモン王国へ亡命者達が到着してからほぼ十日。
一次避難所には八十万の亡命者が生活しているが、これらの人にはギズムルが土地神に祀られている街”グローリー オブ ギズムル”・・・・・・通称ギズへ移住して貰う予定である。街の名称は、エルザークに対抗意識を燃やしてるギズムル自身が命名した。名前一つとっても対抗意識を燃やすのだから、土地神と言っても子供みたいなところがある。神殿があるのに社を欲しがる神竜も神竜だけど・・・・・・。
一気に八十万の住民が増えたので、ラニエロの泣き顔が目に浮かぶが、以前と異なりアンダールも居るのだから楽だろうと俺は信じてる。・・・・・・・・・・・・実情は知らない方がいいかもしれんので、顔を合わせないようにしている。
バックスが”手合わせをお願いしたい”というので、俺はここ数日バックス相手に戦っている。エルザークがケレブレアに知られると面倒といって、俺達が戦っても外には判らないよう結界を張り、その中で戦ってる。
バーミアンとネクサスは毎日見物に来ている。
ネクサスから”バーミアンはもう戦わないのか?”と聞かれ”戦うのは妻相手でもう十分だ”という謎の返事をしたらしいが、バーミアンの戦いの内容は知る必要はないだろう。まあ、頑張れバーミアン。
バックスは見たこともない攻撃してくるから面白いのだが、正直、負ける相手ではない。護龍のナザレス相手に訓練を重ね、その後もエルザークと訓練してきた俺の体力や魔法力、そして龍気は相手が戦闘神官第三位とは言えど抑えられるものではなく、幼い頃からサロモンに鍛えられた体術もその後の訓練で磨かれ、バックスには手も足も出ないレベルに至ってる。
・・・・・・まあ、しょうがないよね。
バックス達戦闘神官はケレブレアには勝てないようだし、俺は既にケレブレアにも勝てるところまできた”化物”らしいから、バックスが勝てなくても仕方ない。
ここ数日毎日俺に挑んでくるその気持があるだけでも凄いよ。
武闘派の魔族、厳魔の族長ラルダですら、俺の訓練相手は嫌がるからねえ。
「第二位のアンドレイがゼギアス様と戦いたいと言っていましたが、彼が戦ったらつまらなそうに”第一位のカリウスと喧嘩したほうがマシだ”と言うでしょうね。」
「ほう、それはどうしてだ?」
「ゼギアス様は動かずに私程度の相手ができる。私とさほど力量に差がないアンドレイ相手でも同じでしょうから。・・・・・・今のカリウスがどの程度なのかは私には判りませんが、昔見たカリウスは動いて倒すタイプでした、ゼギアス様は動かずに相手の動きを抑えてしまわれる。」
俺は動く必要があれば動くけど、動く必要もないのに力を消費するのは馬鹿らしいと考える怠惰な男だ。ナザレスとの訓練で体力消費をいつでも抑える癖がついたのかもしれない。ちょっとした無駄な動きで消費した体力が強敵相手だと後々影響してくることを嫌というほど学んだからなあ。
「じゃあ、バックスとネクサス、これからはうちの軍で働くということでいいのか?」
戦闘神官という個人の能力も優れている上に、十万~三十万の軍を指揮していた経験者には是非うちの軍も率いて欲しいのでスカウトしていた。それを決める前に俺と戦ってみたいというのでここ数日相手していたんだ。俺には勝てないとしても、バックスの力は本物だったし、ネクサスの実力もうちの部隊長クラスで文句はないというか・・・・・・是非協力していただきたい。
バーミアンは捕虜だったから、おいそれとスカウトできなかったが、こちらへ希望して亡命してきたのだからいいだろう。まあ、できるだけ元の身内・・・・・・リエンム神聖皇国との戦いには参加させないようにする。アロンがジャムヒドゥンとは戦いづらいのだから、うちとしては都合がいいのもスカウトした理由の一つにはある。
「ええ、ゼギアス様のもとで働かせていただきます。ですが・・・・・・、我々を簡単に信用なさって宜しいのですか?」
フフフフフフフ・・・・・・実は・・・・・・そこは既にクリアしている。
リエンム神聖皇国からの移動中、”戻るつもりはないのか?”とか”敵に戦闘神官が居たら戦えるのか?”などと質問し、彼らが応える際には森羅万象使って彼らが嘘をついていないかだけは確認してあるのだ。
エルザークのように記憶を詳しく読むことはできないけれど、相手が嘘をついてるかどうかくらいは俺には判る。
そういう本当のところは隠して、
「俺は信用すると決めたら信用するんだ。裏切られたら俺の人を見る目がなかったということで諦めるさ。」
と格好つけて答えてみる・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・ちょっとくらい格好つけてもいいじゃないか・・・・・・。
実際、森羅万象の力については基本的に秘密なんだしさ。
イケメンではない俺は、こういう”懐深いぜ俺!”みたいなところで格好つけないと、他に格好つけるところもないしねぇ・・・・・・・。許してお願い。
ということで、バックスにはジラールでジャムヒドゥン方面軍の軍事総督を任せることにした。ただ、うちの軍は他国の軍とかなり中身が違うので、暫くの間はヴァイスとアロンの指導を受けてもらう。これはネクサスも一緒。
ネクサスはバックスの下で働いてもらうことにしたのだが、ネクサスにも異論はなかった。ちなみに、二人の家族・・・・・・二人とも独身・・・・・・は親兄弟揃って亡命者の中に居たらしく、リエンム神聖皇国に人質に取られる心配はないようで良かった。
前々からジラールの軍を誰に任せるか悩んでいたのだがここで解決した。運がいいと本当に思うよ。バックスレベルはそう簡単には得られないからね。俺が思うに、グランダノン大陸で十本の指には入る軍事関係の人材だ。ヴァイスやアロン、リアトスと並ぶ、我が軍の要になってくれそうで嬉しい限りだ。
これで、リエンム神聖皇国方面はアロンが、ジャムヒドゥン方面はバックスとリアトスが受け持ってくれるので我が国と友好国の防衛はかなり安心だ。我が国の安全保障面は着々と充実していると言えるだろう。今回兵士も三十万ほど増えたしね。
兵士諸君もうちの地上部隊は他国の地上軍よりは安全だと訓練の中で理解してくれるだろう。地上部隊が戦う時には空戦部隊によって敵は既に混乱しているか、撤退考えてるような状態だからなあ。
元リエンム神聖皇国戦闘神官第三位のバックスのジラール赴任は、後に、分裂し混乱しているジャムヒドゥンへ小さくない影響を与えることになる。
亡命者の受け入れで、もう一つ喜ばしいことがあった。
我が国で四人目になる”呼ばれし者”が見つかったのだ。
サロモン王国国内はもちろん友好国でも呼ばれし者らしき者が見つかったら必ず俺のところへ報告が来るようにしてあるのだが、さすがに異世界へ渡ってくる者はそうそう居ない。だから見つかってとても嬉しいんだ。だって時代は色々違うけど、地球での話ができるじゃない?
今回見つかった呼ばれし者に思念回析の指輪を渡していろいろと話を聞いてみると、ヴァイスやリエラのような歴史上の著名な人物ではなく、バーラムのような無名だけど一芸に秀でた方だった。
彼の得意分野は化学、特に薬学で、前世では二十一世紀の某超大国の大学で教鞭をとっていたらしい。
とても助かる人材だ・・・・・・といっても、人間じゃなく兎人族の獣人だが。
機械設備関係ではバーラムが特異な能力を獲得したこともあって、地球から持ってきた書籍や設計図を見せると機械はほぼ作れる。ドワーフも化学関係の知識を旺盛に蓄えて様々な薬品を作ってくれる。
だけど、作れない薬もある。
製造が複雑な工程のモノだと、さすがのドワーフにも作れないモノはあるんだ。この時代で様々な化学物質作れるだけでとんでもないって話なんだけども。
それにドワーフ達にはインフラ整備に必要な機械や機材を優先して製作してもらってるから、薬関係は最小限の手伝いしか期待できない。
抗生物質が必要な病気も、様々な魔法で治療可能にしているが、魔法を使える者は今の我が国と友好国の人口を合わせると全然足りない。やはり薬で対応可能なら薬で対応したいのが実情。
彼はオリヴェルとゼギアスに名付けられ、既にある化学プラントに隣接した場所に建設予定の薬物開発所で力を発揮してもらうことになっている。
亡命者受け入れで軍事の他でも、我が国の大きな力になる人材を手に入れられた。想定外の補強にゼギアスは大喜びしたのであった。
◇◇◇◇◇◇
男性だからといって、誰もがゼギアスのようにハーレム願望があるわけではない。
だが、男女比三対七のサロモン王国で子孫を求める女性にとっては、ハーレム願望を持つ男性は好ましい男性であった・・・・・・というより熱烈に必要とされていた。
特に、妊娠率が低い種族が多い魔族では、頻繁に交尾する相手は男女ともに常時望まれている。
亡命して新たにサロモン王国国民となった者は・・・・・・男女比六対四くらい・・・・・・男性が多く、サロモン王国の女性陣が喜んだのは言うまでもない。また、新たに国民となった男性の中には、これまでは経済的理由で独身だったり、相手に恵まれずに独身だったパートナーを欲する男性も多かった。
新たな夫婦や愛人関係が増えたのも当然であった。
長い目で見れば、人口増加はある程度のところで抑えないと食糧事情の悪化など、安定した生活維持の不安に繋がる。医療技術が向上し、既に食糧事情も良いサロモン王国では多産多死ではなく多産少死の環境になりつつある。
もっとも、子供を生んでも五割以上の確率で失うからこそ多産が望まれ習慣化していたのだから、生まれた子供のほとんどが成長する環境になれば、女性にとって大きなリスクが有る出産をそう何度も経験しなくても良いと皆が理解してくれるかもしれない。
それにサロモン王国では慢性的な人手不足のため、また女性のみの種族も幾つかあったため、女性の社会参加は既に当たり前だから、女性もそうそう出産や育児に人生の時間を多く割くことはないと考えてくれるのではないかと期待している点もある。
まあ難しいことを考えなくても、多分これから千年以上は人口増加したところで何の問題も無い。イチャつくカップルが目立つ街の様子を見てゼギアスは微笑んでいる。まあ、子供十一人居るお前が人口増加心配してるようなこと言うなって話でもあるのだが。
何にせよ、これも人生や生活を楽しむ一つの選択だから、夫婦や愛人関係が増えようと、少なくともサロモン王国では何の問題もないのだ。
・・・・・・・・・・・・ただ、肉食獣達のはしゃぎようを見てると、ちょっと不安にはなるのだが。
新たに大勢の仲間達が加わったことで、十数年後のサロモン王国は更に賑やかになりそうだ。
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教育に力を入れてきた成果が出始め、十五歳未満の子供なら読み書きは殆どの者ができるようになり、大人でも大勢・・・・・・こちらはまだ六割程度だが・・・・・・が読み書き出来るようになった。
郵便や個別の家への配達の需要が生まれた。
郵便や荷物の個別配送は、小人族とハーピィ族が一手に引き受けていた。
小人族は賢いのだが肉体的に力がなく、ハーピィ族は素早くて空も飛べると言っても長時間長距離の移動はやはり体力的に無理があった。まあ、彼らの体力がないというより、他が人間に比べるとあり過ぎるのだが。
郵便や荷物の個別配送では彼らの弱点はまったく問題にならず、彼らは好んで我が国の郵便配送業を担ってくれている。街から街へは転送魔法使える者が一括転送し、街に転送された郵便や荷物を彼らが個別宅へ配送する。
我が国の全ての街は碁盤目状に整備されてるので、住所は”北○番目、東○番目”といった情報で確認できる。
新たな住民が増えても、彼らの多くは読み書きができないので、すぐには郵便配送の仕事が大幅に増えるわけではない。だが、時間の経過とともに増加するのは確実なので、作業の効率化と人員の補充は必要だ。
ところが小人族は千人、ハーピィは二千人程度でどちらかと言えば少数種族。
では他種族からも増やせばいいではないかと考えたいところなのだが、彼らには同種族間では言葉を使わなくても意思の疎通が可能という特徴がある。小人族は相手が離れていても思念で、ハーピィは遠くまで届く鳴き声で意思の伝達が可能だ。
テレビやラジオに携帯電話やインターネットがある二十一世紀の日本の感覚と違い、情報は人と人の直接会話による伝達が主流のため、担当の配送地域に居て、何かあれば担当地域の住民へ情報を伝え、担当地域で起きた異変を中央へ伝える役割が郵便配送を担ってる者達にはあった。
だから、配送作業がなくても通常は担当地域に居て、郵便や荷物が転送されて担当地域のモノがあれば郵便や荷物が転送されてくる集積所に戻り、荷物を持って再び担当地区に戻り配送する。この連絡も種族の特性を活かして行っていたのだ。
だから首都エルの郵便配送はハーピィだけで、中央都市ギズは小人族だけで作業を行うように街ごとに担当種族が決められている。
一人の担当地域を増やせば配送自体は難しくなくても、いざという時の情報伝達に遅れや支障が出る。グランダノン大陸南部は広大で未開の土地もまだまだあり・・・・・・というか圧倒的に未開の土地の方が多い、万が一が無いとは言えない地域だ。魔獣のテリトリーは決まってるので、魔獣を恐れる必要はないのだが、伝染病の発見などは発見してからの早期対応が必須なので、情報の伝達速度は重要なのだ。
そこで、ゼギアスが居なければ作れない思念伝達アイテムではなく、無線機を開発しようとゼギアスが言い出した。とりあえずは据え置き型でいいから無線機を作り、各地各配送担当地域に設置できるようにということになった。
またもドワーフさん大忙しになり、ゼギアスのところへドワーフ妻達からの非難が集まったのは言うまでもない。
「お金がいくらあっても、家族で過ごせないんじゃ困るんですよ!!」
「子供たちが父親の顔を覚えていないんです!!」
「うちはまだ子供が居ないんですよ?どうしてくれるんです!」
仕事をしているドワーフ達は”給与の割増や年代物の酒を差し入れしてくれる程度じゃ割に合わん”などとブツブツと文句を言いながらもとても楽しそうでワーカホリック状態なのだが奥さんや家族は違う。
いや、本当に申し訳ない。
作業しているドワーフ達の体調管理も厳重にチェックして、彼らには専任の治癒回復役も付け、給与は他の三倍、食事も彼らの希望を必ず取り入れて、可能な範囲で待遇には気をつけてはいるが、仕事量だけは減らせないでいる。
サロモン王国建国してからもうすぐ十年になるが、ラニエロとドワーフの仕事が減ったことはないからねぇ。減る以上に増えてるかもしれない。確かにブラックな環境だった。
労使交渉というかドワーフ妻達との交渉結果、現在の仕事が済んだら必ず工場を半年閉めて休暇させ、半年後も仕事量をもう少し減らすと約束し許して貰った。
「判ればいいんですよ、判れば・・・・・・。」
ドワーフ妻達の言葉が胸に刺さりましたよ。
ヴァイスにも話して、ドワーフの仕事が必要になる案件は一年は我慢しようということになった。
「やっぱね、現場の事情を無視しちゃいかんですよ。」
・・・・・・アロンが他人事のように言いやがった。
・・・・・・ちくしょう・・・・・・。
無視していたわけじゃないけど、やりたいこと優先してきたのは認める。
でも私利私欲で動いたことはないぞ~と心の中で言い訳して、サエラに慰められながら自室のベッドでダンゴムシになる。
「主様、これで小人族とハーピィの悩みが解消されるならいいじゃないですか。」
・・・・・・そうなんだけどね。
・・・・・・確かにそうなんだけどさ・・・・・・。
サエラに優しくされると泣きたくなる。
ちなみに、”子供達が真似するので、子供達に見えるところでのダンゴムシは止めて下さい”と、マネージャーストップというかPTAからのクレームというか・・・・・・が入り、最近はダンゴムシにも自由になれない状態。
今も扉に鍵をかけてからのダンゴムシ。
俺に許された閉鎖的ダンゴムシワールド。
世間では化物だの神だのと言われていても、家に帰ればごく普通のお父さん。
まあ、仕方ないよね。
国民が増えてとても嬉しいのだが、それは本当に喜んでるのだが、それに伴う別件のせいで陰で泣いてる国王が居ることも是非忘れないで欲しい。
・・・・・・俺は丸まりながらも強く願った。
◇◇◇◇◇◇
国民が大勢増えたこの機会を祝って、以前から計画していたことを実行に移した。
花火大会である。
サロモン王国国内で四ヶ所、ジラールとカリネリアで一ヵ所ずつの計六ケ所で花火大会を開く。一カ所一万五千発以上の花火を打ち上げて、国民が増えたことを祝うイベントを行うのだ。
これは新たに国民となった者達に、俺達が喜んでると伝えたいというのが主な目的で、あとはそろそろお祭りを増やしたいという俺の個人的な希望もある。
種族や宗教ごとの小さなお祭りは今までもあったが、国のイベントとしては無かった。これが俺には寂しかったので、いずれ必ずやると決め、以前から花火を用意して貰っていたのだ。そして今回いい機会だから企画した。
後から入ってくる者ってどうしても引け目を感じることあると思うんだ。
まして、兵士じゃなくても敵国の国民だったのだし、”さあ、今日から仲間だ!気遣い無用!”と言われても打ち解けるのは簡単じゃない。
お祭りって、同じイベントを一緒に楽しんでる仲間を感じる空気を作れると思うんだ。誰であろうと近くにいて同じモノを楽しんでる相手と一緒に酒を飲み、何かしらを食べ、そして騒げば多少なりとも近づけると思うんだよね。
だから、猥雑な雰囲気が生まれることも、喧嘩が起きることもあるけど、俺はお祭りが大好きだ。
各地の湖や海岸、ジラールだと砂漠で開催した。
前日から屋台が並び、事前に面白いイベントやるからと宣伝したせいか、当日はオルダーンやザールート、コルラード王国からも大勢が見物にきた。カリネリアの花火大会には、フラキアはもちろんカンドラやライアナからも客が大勢来て賑わった。
ジラールではスカイウォークの上に座って眺める人も多かった。
この世界に花火はまだ無いから初めて見る者がほとんどで、最初の一発が打ち上げられ、その音と光にはビックリしていたが、二発目以降は歓声をあげて楽しんでいた。
俺の子供達も大騒ぎして喜んでいたし、奥様達も楽しんでくれたようで、ちょっとした家族サービスにもなったようだ。
「今日は楽しんで貰えただろうか?今回の花火大会は、新たに大勢の仲間が国に加わってくれたことを祝って開催した。来年もまた祝うから、これから一年、同じ花火を見て楽しんだ仲間として共に頑張って欲しい。元から居たものは新たに加わった者にいろいろ教えてあげて欲しい。新たに加わってくれた者も遠慮せずに暮らしを楽しんで欲しい。今日は我が国以外からも大勢のお客さんが来てくれた。皆さんありがとう。来年もまた是非見にきてくれ。」
俺の挨拶でお祭りは終了し、自宅や宿へ皆は帰る。
混乱がないよう、うちの兵達が人の流れをコントロールしている。
まあ、酔っ払いが大勢居るので、どこかで喧嘩の一つや二つはあるかもしれないが、それはコカトリスの石化魔法で抑えられるだろう。石化解除された時に何故牢に入ってるのか覚えてないかもしれないがね。
シモーナが、”予想以上に儲かりましたよ~”と喜んでる。
まあね。俺も予想以上に他国から客が大勢来て驚いたからね。各自治体の王族はもちろん貴族連中もかなり来ていて、急遽VIP席をたくさん用意する羽目になって、俺も飛び回ったからな。
また宿が取れず宿泊場所に困った客も居たが、移住者用の一時宿泊施設を解放して対応したり、避難場所として用意した場所にテントを設置して対応した。
今回は営利目的ではないから屋台の種類も数も少なかったが、来年からは増やしてもいいかもしれない。シモーナの悪い顔が目に浮かぶ。
ザールートの次期領主エルスとコルラード王国のヤジールが自国でも花火大会を開きたいと言ってきた。”花火の製造と搬送、打ち上げ時の作業などにかかる実費と多少の手数料で請け負う。ただ、モノは渡せないし、花火は高いよ?”と答えておいた。
火薬に関する知識が無い者には預けられないし、武器に利用可能な火薬の知識は友好国とは言え渡すつもりもない。サロモン国内でさえ、限られた者にしか火薬の知識は教えていない。
”それでいいから”とエルスもヤジールも言うので、”必要な量と開催日を一年前には教えててくれ”と言っておいた。花火の製造には一部ドワーフが関わってるので、ドワーフ妻達との約束の手前、準備期間は十分に用意しないといけないのだ。
この花火大会を契機に、サロモン王国では花火の製造と大会開催のための部署が新たにできる。ドワーフの力を極力借りずに済むよう、配属されたメンバーには製造段階から教えていくことになる。
フラキアとカンドラ、ライアナからも花火大会を開きたいという要望が後で来た。まあ、国をあげてのイベントで花火というのはいいと思うし、国民に楽しみがあるというのはいいことだからね。
ゼギアスは花火大会を開いて良かったと、これで新たな仲間達にもゼギアスの気持ちは伝わったのではないかと思っていた。
それはその通りで、亡命して来た者達は、バックスとネクサスも含めて自分達は邪魔者ではなく歓迎されてるのだと感じたようだ。とりあえず与えられた仕事にしても、無茶な要求もなく、食事も十分にそしてとても美味しいモノが提供され、今はまだ一時避難所で暮らしているが、いずれ住居も与えられるというのだから、もっと早くサロモン王国へ移住していたらと後悔した者すら居た。
バックスとネクサスも家族とジラールで暮らすことが許されていて、ジラールを守る意気は相当高くなった。人質のようにサロモン王国へ連れて行かれることもなく、身近に家族と居られるのはゼギアスの自分たちへの信用の証でもあり、その信用に応えるためにも、家族を守るためにもと、ジラールへ赴任後のバックスとネクサスはジラールの安全を守るための訓練に力を入れることになる。ヴァイスとアロンからサロモン王国の軍事関係とその運用について教えられている日々が暫く続くが、その後はジラールへ赴任の予定。
バックスとネクサスの家族は、戦闘神官の家族ということでリエンム神聖皇国でもそこそこの暮らしをさせてもらっていたのでサロモン王国での暮らしには多少心配していた。だが、首都エルで住民の暮らしを見て、リエンム神聖皇国の暮らしよりも快適そうだと判り二人とも安心している。
花火大会の開催で良いことばかりがあったわけではない。
リエンム神聖皇国からの大勢の亡命者を歓迎する大会と大々的に宣伝したために、バックスとネクサスの二人の戦闘神官がサロモン王国に加入したことが、リエンム神聖皇国とジャムヒドゥンにバレた。
ゼギアスとヴァイスハイトも、バレることは想定済みで行ったのだが、まさかリエンム神聖皇国とジャムヒドゥンが手を結ぶとまでは考えて居なかった。特にジャムヒドゥンのテムル族は他の士族を併合するまでは動かないと考えていたのだが、ブレヒドゥンとガイヒドゥンの併合もリエンム神聖皇国と手を組んで行う動きを見せ始めた。
ブレヒドゥンとガイヒドゥンは、サロモン王国と手を組んでその動きに抗おうとする。




