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53、エドシルド訪問から一年後


 俺達がグランダノン大陸北東部で動いていた間、リエンム神聖皇国とジャムヒドゥンの戦争は膠着状態になっていた。キュクロプスを戦線に投入したリエンム神聖皇国は国内治安に力を入れて、ジャムヒドゥンへの侵攻はしていない。ジャムヒドゥン側もキュクロプスによる敗退の痛手から立ち直っておらず、やはり戦端を開こうとはせずにいた。


 ジャムヒドゥン四士族のうち、現グランドルダ、ガウェインのウルス族とホルサがドルダのダギ族のダメージが深く、対サロモン王国のためにリエンム神聖皇国との戦争から離れていたテムル族だけが無傷だった。


 そのために、グランドルダ選考方法の変更をテムル族のドルダ、ヨセフスが再び主張し始めた。それも現時点での変更を強く求めたのだ。

 ”まともに戦えないとは言わぬが、中心戦力を担えない士族の族長が四士族をまとめられるはずがない”と、ヨセフスはガウェインにグランドルダの地位を譲れと要求した。

 いくら戦力を多く失ったとは言え、ウルス族がそれを受け入れるはずもなく、現状の体制を変える必要を認めないダギ族とアザン族もテムル族の姿勢に反発した。


 だが、テムル族のヨセフスは実力行使し、ガウェインからグランドルダの証・・・・・・エリムの弓・・・・・・を奪い取り、他の士族からの承認もなしにグランドルダを名乗る。


 エリムの弓とは、ジャムヒドゥン創始者ケレムの妻、予言者エリムが持っていたとされる弓で、予言者が次代のグランドルダを指名する際、正統なグランドルダの証として手渡してきたものだ。


 ヨセフスの暴挙にテムル族の他の士族は怒り、ここにおいて四士族で長年維持してきたジャムヒドゥンはついに分裂した。


 

 ウルス族とダギ族は、二士族で国を作り、ウルス族ガウェインを国王とした国ブレヒドゥンを建国し、テムル族はジャムヒドゥンを継承、そしてアザン族はガイヒドゥンを建国した。


 ブレヒドゥンとジャムヒドゥンの国力は拮抗していたが、ガイヒドゥンだけはやや劣り、最大版図復活を目論むジャムヒドゥンはガイヒドゥン併合を当初の目標として動いていた。


 このようにジャムヒドゥンの分裂で優位に立ったはずのリエンム神聖皇国であったが、こちらにも分裂の危機が生じていた。キュクロプスを使ってジャムヒドゥン側へ侵攻を目論むどころではなくなっていたのである。


 奴隷制度自体は維持したまま亜人や魔族を解放、そしてサロモン王国へ移住させたため、同じ人間種内で奴隷と奴隷以外の間で対立が生まれた。


 破綻した農家などの税を収められなかった者が奴隷に落ち、一旦奴隷となると以前の亜人や魔族同様の悲惨な状況で暮らさねばならなくなり、奴隷の地位から一般的な国民の地位には事実上戻れない。奴隷に落ちた者の中には地方の貴族だった者もいて、領地経営に失敗し税を一度でも納められないと奴隷に落ちるという状況は彼らを恐怖させた。


 ここで奴隷制維持派と奴隷制反対派に分かれ、反対派は独立を望み、神聖皇国内の至る所で反乱を起こしている。地域の図式としては首都とその近郊が奴隷制維持派で、それ以外が奴隷制反対派である。


 ケレブレアを頂点に頂く維持派には戦闘神官達とキュクロプスが居て、軍事力の面では負ける心配は無い。だが、地方から食料や富を吸い上げて体制を維持していたため、経済生活面での問題は深刻だった。


 軍によって反乱地域を制圧しても、再び反乱を起こさないよう監視と治安維持のために人員をこれまでの倍は配置させなければならず、他の地域への制圧軍編成も徐々に苦しくなっていった。また、どのみち奴隷として働くしか無いならというモチベーションの低下で生産性が下がり、せっかく制圧しても維持派が必要とするほどには食料も富も得られずに居た。


 奴隷制をやめれば事態は改善するだろうが、別の大きな問題が生じリエンム神聖皇国の維持に危機が生じるので奴隷制を廃止できない。


 ケレブレア教の教義である。


 ケレブレア教の教義とは、一言で言ってしまえば、特権階級に属する者達の既得権を維持するための・・・・・・教義という名を借りた絶対不可侵の強制であった。

 ケレブレア教体制はケレブレアの教えを伝え守らせる側と守らせられる側の二つに分かれる。そして守れない者は奴隷となり労働の提供によってその罪を贖わせるという教義が中心にある。


 奴隷制の廃止とはケレブレア教の教義は間違っていたことを意味してしまう。

 それは特権を享受してる者達の地位と権力の正当性を崩すことに繋がる。


 そもそもケレブレア教の教義は唯一絶対の神ケレブレアの教えという形になっており、過ちなどあるはずがないことになっているから変更や削除などできない。つまりケレブレア教の教えを国体の根幹に置き奴隷制を必要としている以上奴隷制の廃止もありえない。


 現在の教皇メルティヌスと枢機卿達は、今になって亜人と魔族の解放を後悔していた。だが、それはジャムヒドゥンへケレブレア教による支配を広め、権力の拡大を望んだことがそもそもの原因である。ジャムヒドゥンへの侵攻を始めなければ、建国当初のサロモン王国には全力で対処しただろうし勝ち得ただろう。また戦力の集中が可能だったため、亜人や魔族を解放してサロモン王国との戦争を回避しようとなど考えもしなかっただろう。


 現在の苦境を生んだのは、教皇を中心とする既得権者達の欲と驕りによるものだ。


 現状のままでも、教義を変更削除しても、リエンム神聖皇国は現体制の維持が困難になりつつある。


 しかし龍王の打倒が目前にあると考え、それに集中してるケレブレアにとっては既にリエンム神聖皇国自体の価値は軽い。教皇等のジタバタしてる様子も嘲笑の対象でしかない。カリウスという人材を手に入れた以上、リエンム神聖皇国はやはり対龍王への人間の壁以上の価値はなく、ここに至っては人間の壁は国の形をとっていなくても構わないし、その数も多くなくていいのだ。



 ジャムヒドゥンとリエンム神聖皇国は長い期間維持してきた体制を崩し始めていた。



◇◇◇◇◇◇


 

 今やグランダノン大陸で最大最強国と呼んで差し支えない国となったサロモン王国は、他国がドタバタしてる間に着々と充実させていった。


 軍事力の強化や住環境の充実など、ひと月ごとに前向きな変化が生じている。


 二十一世紀の地球の先進国日本での生活を知っているゼギアスにとってはまだまだ多くの不満がある状況なのだが、今までの生活やリエンム神聖皇国とジャムヒドゥンの生活を知る国民や友好国にとって、サロモン王国の体制は楽園であり天国であった。


 衣食住の心配がない。

 命の危険が少ない。

  

 この二つだけでもほとんどの者にとって夢のような環境なのに、子孫の繁栄にも国が協力し、食や労働にも楽しみがある環境は既に幸せオーバーフロー状態だった。


 まあ、ゼギアス自身も、魅力的な奥さん達とのハーレム状態をしばしば堪能できて嬉しい日々を送れているし、子供たちも元気に育っているので、欲を言わなければ十分幸せだった。


 ミズラの出産後、サエラ、スィール、リエッサも二人目の子供に恵まれた。我が家には一歳から八歳までの子が十一人も居る。

 ちなみにサエラとスィールの子は今回は女の子で、やはりサキュバスやゴルゴンの種族特性よりもデュラン族の特性を持ち外見や性質は人間のようだったが、性別が女の子のせいか、サキュバスやゴルゴンの特性も一人目よりは引き継いでいるように見える。


 俺もだけど、サエラもスィールもそんなことはどうでもよく、とにかく子供ができたというだけで喜んでいる。リエッサの子はまた女の子でリエッサは大喜び。アマソナス現族長のヘラは二人目も自分が鍛える!と気合を入れていた。できれば程々にして欲しいけれども、喜んでくれてるので陰からそう祈るだけである。


 俺は子供たちと龍気戦隊デュラン族なる戦隊ごっこを子供たちと遊び、その中で敵の総大将を演じている。俺が倒されるときの”我を倒しても第二第三の●●が・・・・”という台詞が子供たちの間で流行ってるのはサラには内緒だ。


 サラに知られたら、”お兄ちゃんみたいなのが二人も居たら私は家出する”などと言われかねないからね。もしかすると既に知っているかもしれないが、きっと温かい目で見てくれているのだろう。


 俺視点で見ると子供は十一人も居ることだしもう十分なのだが、奥様視点で見ると多くても二人で、この時代多ければ十人、少なくても六人程度出産するのが普通だからまだまだ産みますよ~という感じ。


 特にもともと出産率が低い種族の奥様、ベアトリーチェ、サエラ、スィール、リエッサは”ゼギアス様ならまだまだ孕ませてくれそう”と言って、今後はもっとイチャイチャするんだと力が入ってる。なんだろう・・・・・・喜んでくれるのは嬉しいし、イチャつくのは大歓迎なのだが、奥様達の間で俺の種馬色が強まってる気がしてどうも腑に落ちない。


 でも、最年長二十八歳のミズラは当然だが、女の子の色が薄まり女性らしさが強調されてる奥様達の色気の戦闘力は凄まじく、まあ、毎晩のように奥様達に籠絡されてるのである。嬉しい敗北だね。俺も二十六で、元気いっぱいイチャつき盛りだし、仕方ないよね。だって、俺が寝室に居ると誰かしらがベッドに潜り込んでくるし、多い日だと三名も来るし、触れる肌の柔らかさ、甘い体臭が香ってくるだけでたまらなくなるよね。


 いや、男ならたまらなくなって当然だ!

 ならなければならない!!


 こんな感じだから、俺としちゃできるだけ家でベッドに入りたいのだ。

 奥様達とイチャついた日々だけを送りたいのだ。


 ・・・・・・・・・・・・だが、世の中そうは甘くない。


 頻繁に訪れなくても、ほぼ自力で領地運営を順調に進められるようになったオルダーン、ザールート、そしてフラキアを除くとまだまだ頻繁に確認しないといけない領地がある。ジラールとカリネリアは安心して任せられるところまでは行っていないし、コルラード王国、カンドラ、ライアナはやっとスタート地点に立ったばかり。


 ジラールは、対ジャムヒドゥン方面軍事拠点としての整備は済み、紡績・紡織の街へと変わるよう日々努力中。綿・毛・絹全て生産には成功しているし、蒸気機関を利用した工業化で大量の織物の製造も可能になった。本来なら大成功していておかしくないはずなのだが・・・・・・・・・・・・俺が失敗して、ちょっと足踏み状態を起こしてしまったのだ。


 織物のデザインというか、模様というか・・・・・・この時代の感性からあまりにもかけ離れたものを俺が指示して作らせ・・・・・・大量に売れ残ったのだ。意地になって商品製造可能になった最初の一年は俺の指示に拘らせたのだが・・・・・・全滅みたいなもん。


 やっぱね。デザインって時代を先取りしすぎちゃダメなんだよね。

 ・・・・・・ええ、よ~く判りましたよ。

 まあ、こんな偉そうなこと言ってるが、単に地球で流行ってたデザインを模倣しただけなんだけども。



 ・・・・・・ということで、二年目は、我が家でデザインセンスのあるサエラを筆頭に奥様達の意見も取り入れてみました・・・・・・というよりおまかせしました。地球で複製してきたファッション雑誌から奥様達が良さそうなデザインを選び、それをこっちの世界風にアレンジしていましたよ。


 うん、売れてる売れてる。


 一年目の損失はどうやら挽回できそうだし、今後も見込めそうだ。


 申し訳なさそうな俺を、ジラールの代理領主のフベルトと長女のオードリィが慰めてくれましたよ。


 「こういうこともありますよ。今年の売上は順調に伸びてるんですから気にしなくても・・・・・・。」

 「斬新なデザインで、私は嫌いじゃなかったですよ?でも衣装にはちょっと使いづらいかもしれない。・・・・・・あ、でも嫌いじゃないんですよ?」


 いいさ、俺が評価されなくても、うちの奥様達が評価されたんだからさ。


 「俺のことを嫌いになってもサロモン王国製品は嫌いにならないでください。」

 

 そう言おう。

 いや、言わない方がいいかな?

 けっこう批判された台詞だしな・・・・・・。

 まあ、中核になる産業が順調に育ってるのは確かだから良かった。


 人口も元の五万人に近づいてるし、近いうちに五万人は越えるだろう。

 ジャムヒドゥンとの交易は現在止まってるようなものだけど、ジラールが東西交易の重要な中継地点であることは変わらない。また、カリネリアからジラール、ジラールからザールートまでの間に作られたスカイウォークがとても便利で、コルラードに用事が無い場合はジラールを必ず利用する商人が大多数だ。


 砂や岩を積み上げて石化し、周囲をコンクリートで補強し、それを道路の状態まで整形したスカイウォークは、砂漠でも道に迷うこともなく、途中に宿や飲食物を補給する休憩地点もあり、更に、スカイウォーク周辺なら砂漠の怪物も出てこない。


 スカイウォークをラミアやゴルゴン連れてトテトテ散歩するバルトロが、デザートスネークは当然としてサソリ型や蟻型の化物など怪物達と遊んでしまうので近づかなくなったのだ。怪物が出てこなくても、スカイウォークで出会う商人たちとの会話や各地の食べ物を食べられてバルトロはご機嫌だ。バルトロの趣味とサロモン王国の実益を兼ねたお散歩によってスカイウォークの安全は確保されている。


 これもスカイウォーク利用者にとっても魅力だ。


 おかげでジラールは、利用者も移住者も毎日のように増えている。

 

 ジラールの周辺、砂漠地帯の土壌改良も徐々に進み、ヤシやブドウなどを栽培し始めている。ヤシはなんとかなりそうだが、ワイン向きの味には遠いブドウは試行錯誤が必要だろう。だが、可能性が見えているので今後にだいぶ期待している。


 目下の悩みは、ジラールの守備隊長を誰にするか。

 うちの軍はもともと攻めるに強く守りに弱点がある。

 それは兵数の問題が大きかったのだけれど、兵数の問題が解決しつつある現在、守備が得意な将が足りないのでどうしようか悩んでいる。

 今のところは俺がやることになっているが、できれば早めにジラールの守備を誰かに任せたい。

 




 カリネリアのカカオは今のところ順調で、新作のケーキやお菓子の原料としてリエラからも”もっと安く手に入れられるようになりたいですね”との要望が来ている。

 だが、今植えているカカオから実を収穫できるのは四年後だから、現在自生しているモノから収穫できる範囲で利用するしかない。ただ、年に二回収穫できることと、一つの樹から多ければ三百個くらいは収穫できるので、サロモン王国限定の製品として使う分にはそう高価なものにはならないのではないかと思ってはいる。


 またジラール同様ヤシを栽培しているが、こちらはカカオよりも順調で、金鉱山に頼らなくてもカリネリアの領地を潤せる日は近いだろう。何せ超高価な石鹸の売れ行きが良いのだから、もう少し安価な製品を作れば更に収入は安定すると思うのだ。


 リアトスも総督の仕事に慣れてきて占領後の不安定な時期が終わりつつある。またホーディンも治安維持と対外警戒に余念がないようで、コルラード軍と協力して軍事演習もしてるらしい。コルラード王国のヤジールとの意思疎通も良いようだし、カリネリア方面は安心していられそうだ。


 

 コルラード王国は反国王派を政治の場から弾いた後は安定している。香辛料やハーブの栽培はまだ量は生産できていないが、ライオネルが成果を出しているので、近いうちにそれなりの生産量を安定させてくれると期待している。手伝っているエルフからも手応えがあると報告来ているし、これからは、ヴァンレギオスのマドリュアスの助力も得られそうだから栽培面での問題解決は進むだろう。


 マドリュアスは木の精霊で、土の状態はともかく木の状態については把握してくれる。日光や水が足りない、栄養が足りない、気温や湿度の問題、病にかかっているなどの状況をライオネル達に教えてくれる。なので、問題のありかを絞って調査できるので作業効率がアップしてる。


 カンドラはインフラ整備もだいぶ進み、そろそろ都市の再整備に入る段階。衛生面も向上して住みやすい国になりつつある。米の生産も実験的に始めている。今のところは野菜の収穫で利益をあげているが、いずれは米の生産国にしたい。


 ライアナは先にトウモロコシの栽培を軌道に乗せる予定だ。もともと人口がカンドラの倍あった国で建物も多く、立ち退きや移動に費用も時間もかかってインフラ再整備が難しい。だからトウモロコシで利益をあげ、それをもとに一部ずつ改善していくことでライアナ国王オレジノと話はついている。


 この一年ほどで変わったことや現状はこんな感じだ。


 いろいろと問題はまだあるものの、前向きな問題だからいいかなと思ってる。




◇◇◇◇◇◇ 



 ペストの被害拡大をゼギアス達の協力で防いだエドシルドは、ゼギアス達が行ったように領地内でネズミの駆除を頻繁に行うようになった。だが、アンダールは妻と息子、そして腹違いとはいえ妹を失いかけたので、ゼギアスが言った”伝染病の発生をできるだけ抑える方法”を知りたいと考えていた。


 だが、サロモン王国のエドシルドへの影響を強めたくないと考える国王ケラヴノスは、アンダールの意見に耳を貸さない。あの時、サロモン王国から経済面での協力を得られなかったことも気に入らなかったらしく、カンドラやライアナが順調に国内経済を建て直しつつある状況を知っても無視していた。


 確かにエドシルドは食料自給率も高く、軍備に必要な鉄なども国内で産出していて、他国との取り引きが多くなくても簡単には困らない。だが、先日の伝染病への対応ではっきりしたように医療関係はまったくダメだ。


 聞くところによると、ゼギアスは十一人の子供を授かり、産褥死した妻もいないし、亡くなった子供もまだいないとのこと。国王ケラヴノスには正妻の他に三名の側室が居るが、過去にはもっと大勢の側室がいたのだが産褥死しているし、生まれた子も成人する前に亡くなっている。今も生きているのは、アンダールの他には次男のスオノと長女のモニカだけだ。


 アンダールにしても正妻ラスタは生きているが、側室は二人とも亡くなり、ラスタが生んだ子も長男パティスの他二名は病で亡くなっている。


 なのに、ゼギアスのところは・・・・・・と考えると、アンダールは居ても立ってもいられない気持ちになる。軍事、経済だけでなく医療面でもサロモン王国は進んでいるに違いない。それを取り入れるなり、取り入れられないにしても、いざという時に支援して貰える関係を結んでおけば、アンダールの家族だけでなく国民も安心できるというものだ。


 だが、父ケラヴノスはサロモン王国との関係強化には後ろ向きだ。

 この一年何度も訴えたが聞く耳を持たない。


 カンドラやライアナはサロモン王国との関係を強化してる。

 フラキアで起きているようなことが両国でも起きたら、エドシルド連邦加盟国で遅れている国にエドシルドは落ちるかもしれない。そうなった時に盟主国だからと言っても、他国がエドシルドの要請に応じるだろうか・・・・・・。

 アンダールは悲観的な予想しかできない。


 父の考えはもう古く・・・・・・これからのグランダノン大陸では通用しない。

 早めに国王の座を譲って貰い、アンダールがこの国をもっと発展させてみせる。

 ・・・・・・だが、父は応じることはないだろう。

 ・・・・・・・・・・・どうすればいい。


 下手なことをすれば国を割ってしまう。

 それでは国力は低下するから意味がない。


 「お兄様、またサロモン王国のこと考えてるのでしょう?」


 自室で机に肘をついて考え事をしていたアンダールの顔を覗き込むようにして妹のモニカが聞いてきた。いつの間に来たのか気づかないほど集中していたらしい。


 「まあな。それより父上だ。何故あそこまで頑なにサロモン王国との関係を強化したくないのだろうとな。」


 モニカは側室ケイラの娘。

 国王ケラヴノスや正室のアマリアとも仲が良い。

 

 「お父様は、サロモン王国よりも下だと認めたくないのよ。」


 それは判る。だが現実を見て認めなければならないはずだ。

 それができなければ他国との力関係の把握もできないだけで、万が一の時には対応を誤る。そのくらいのこと判らない父ではないはずだ。


 「それは判るが、国王であるのだから、認めるべきは認めないといけないだろう?」


 モニカは壁際にあった椅子をアンダールの横まで持ってきて座り、真剣な表情で話し出す。


 「フラキアに行ったとき、フラキアですらエドシルドより豊かな国だと感じちゃったのよ。既に認めちゃったんだわ。でもエドシルドにできないことをされてしまったのが嫌なのよ。」


 なるほどな。

 敵わないと認めてしまったから、近づきたくないのか。

 近くなれば、彼の国との差を思い知らされ、父の誇りが傷ついてしまうのだろう。

 その気持ちは判らないでもないが、やはり国王としては問題ある反応だ。

 

 「モニカはどうしたらいいと思う?」


 「・・・・・・政治のことは判らないわ。でもこの国より安全で楽しい国があると私は知ってしまったし、これから私と同じように知る人は増えるでしょう。その人達がこの国にずっと残るか考えるとね・・・・・・。」


 「モニカもか?」

 

 モニカの本音を探るようなアンダールの目を静かに見てモニカは口を開く。


 「私は女ですもの誰かに嫁ぐことになる。その時、お相手がサロモン王国の友好国の人だったら嬉しいわね。」


 父が変わらなければ、サロモン王国友好国へモニカを送ることなど無い。

 モニカもそれは判ってる。つまり今の父の要望に沿った相手のところには嫁ぎたくないということか。


 「・・・・・・そうか・・・・・・。」


 モニカから視線をそらし、再びアンダールは考えに集中した。

 その様子を見て、モニカは壁際に椅子を戻し、部屋から去っていった。




・・・・・・

・・・


 エドシルド国内のいくつかの貴族のもとへ国王ケラヴノスが兵を派遣したという。 

 名目は納税額が約定より少なかったから兵を派遣して足りない分を徴収するというのだが、兵を派遣した貴族の名を聞くと親サロモン王国の者ばかりで国王の意図は明らかだった。


 親サロモン王国の貴族は、カンドラに人を派遣してサロモン王国のやりようを学び、領地に取り入れようとしている者達だ。つまりサロモン王国のやり方を学ぶことは許さんというわけだ。


 国王は結果が出る前に潰しに来た。

 サロモン王国のやり方を真似て良い結果が出たら他の貴族も続く。だから結果が出る前に・・・・・・新たなことにチャレンジするための予算を奪い、真似出来ないようにした。 


 ・・・・・・何ということをするのだ。

 サロモン王国の指導や協力で、フラキアはもちろんカンドラやライアナも以前より良くなってきてるというのに・・・・・・そのことを国王は知っているのにその道を塞ぐというのか。


 エドシルド独自で別の道を模索するというのならまだいい。

 だが国王の選んだ手段は単なる守旧だ。

 それは進歩の無い道だ。

 これではいけない。

 

 アンダールはそう考えて国王に直訴した。

 

 「エドシルドの盟主は我々でなければならない。サロモン王国であってはならないのだ。」


 頑なに考えを変えず、国王ケラヴノスはアンダールを宮殿の牢へ幽閉した。


・・・・・・

・・・


 「お兄様、ここから出て下さい。」


 牢の板張りのベッドで横になっていたアンダールの耳にモニカの声がした。

 格子の向こう側にモニカが居て、鍵を開けようとしている。


 「どうしたんだ。こんなことをすればモニカも無事ではいられないぞ?」


 「お兄様、父上はお兄様から継承権を剥奪し、スオノお兄様へ継承権を渡しました。」


 「・・・・・・なんだと?」


 「お兄様をここから出すつもりは父上にはありません。」


 鍵を開けて牢の扉をモニカは開いた。

 影になっていてモニカの表情は判らないが、その声は焦っているようだ。


 「さあ、早くお出になって下さい。ラスタ様とパティスは宮殿の外へ連れ出しました。」


 アンダールの妻子を宮殿の外へ連れ出したということは出奔しろということか。

 

 「モニカ、お前はどうする?」


 「もちろん一緒に参りますわ。さあ、早く!」


 翌日、見張りの交代の時間に、交代兵が空な牢を発見した。

 本来居るはずの見張りもおらず、見張りが罪人を逃亡させたと考えられた。

 

 アンダールとその家族はエドシルドからの脱走犯として、エドシルド連邦加盟国へ見つけ次第引き渡すよう通達が送られた。モニカはアンダールに連れ去られたと考えられていて、一人だけ”保護”という言い回しが通達にはあった。

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