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ロード オブ フロンティア ―― 次元最強の転生者  作者: 湯煙
第一部 グランダノン大陸編 第一章 序章
5/99

5、マリオン、そしてベアトリーチェ

 

 「さあ、お兄ちゃん説明してください。この女性は何なんですか? 」


 俺がマリオンの対応に困ってる間に、ベアトリーチェ達は里の人達を別の集落に誘導した。全て終わったのは翌日のお昼だった。


 昨夜、俺はとても疲れていたのに安らかに眠ることもできなかった。

 だって俺の部屋の扉をドンドンと叩きながら”ダーリーン、添い寝させて!”と、マリオンは疲れて眠るまで続けた。俺が眠りについたのは朝日が上ってから。そして俺には水汲みという朝のお務めがあるから、すぐ起きなくてはならなかった。

 

 俺とマリオンの様子を見るサラの視線は冷たかった。

 里の人の誘導も俺はまったく手伝えなかった。

 ずっとマリオンから逃げていただけ。


 サラだけでなくベアトリーチェとマルティナの視線もサラほどあからさまではないけど冷ややかだった。


 俺は冷や汗をかきながらサラの前で正座している。


 「えっと、神聖皇国の神官さんらしいよ。亜人狩りには無関係みたいだったから別に倒さなくてもいいかなと……」


 「それは本当ですか? 」


 「はい。嘘などついてません」


 ゼギアスはサラと目を合わせられないでいる。

 やましい事など何もないのだが、妹の視線が怖い。

 

 「で、この女性がお兄ちゃんをダーリンと呼ぶのは何故? 」


 「な、なな……何でも、強い男が好きらしくて、俺に負けたら……そ……それ以降こんな感じなんです」


 うん、嘘など言ってない。

 正直、マリオンのような迫られ方をゼギアスは前世も含めてされたことがない。

 だからどういった対応すれば、マリオンも傷つけずに済み、サラを納得させられるのか判らない。


 マリオンの現状はベアトリーチェが張った結界に閉じ込められている。

 自由にさせておくと、ゼギアスから離れない上に”私の男になってよ~お願い~”と五月蝿くて、ゼギアスから事情を確認しようとしてもできないのだ。


 居間の片隅で結界に閉じ込められたマリオンは、どうやら結界を解除することもできず、最初は何か叫んでジタバタしていたのだが、今は胸をはだけさせてゼギアスを誘ってる。めげない女である。


 「で、お兄ちゃんはあの人をどうしたいの? 」


 「いや、どうしたらいいものかと……」


 サラの表情を見る限り、少なくとも俺への疑いはだいぶ晴れているようだ。

 だが、どうしたいの?と言われてもな……。


 「帰そうとしたんだけど付いて来るんだよ。俺こそどうしたらいいのか聞きたい」


 まったく面倒なことになったわと溜息をついてから


 「結界はこのままであの人と会話できるようにできますか? 」


 ベアトリーチェにサラは聞く。

 ベアトリーチェは頷き、結界に向けて片手を向けた。


 「だ~か~ら~~、ダーリーン……尽くすからお願いよ~~」


 マリオンの声が聞こえる。

 

 「マリオンさん。ちょっといいですか? 」


 「あら? ダーリンの妹サラちゃんね。将来ものすごい美人になるわね。その上とっても賢いんですってね? ダーリン、貴女の話をする時とってもいい顔ですごく嬉しそうだったから少しヤキモチ焼いちゃったわ。私もダーリンにあんな顔で褒められたいわ~」


 「いくつか質問してもいいですか? 」


 「もちろんよ~ダーリンの妹に失礼なことはできないし、隠し事もしないわ~」


 「マリオンさんは神聖皇国の神官だったそうですね」


 「そうよ」


 「うちのお兄ちゃんは神聖皇国の兵士を殺しました。貴女方の敵ということですが? 」


 「私はもう神聖皇国とは関係ないわ。逃げた兵士が戻らない私を死んだだろうと報告しているわよ。ダーリンの攻撃、下級兵士にしたら恐怖でしかないもの」


 「それでいいんですか? 」


 「当たり前じゃない。私はダーリンとの愛と情欲にまみれた生活しか欲しくないんだもの。親兄弟だって、私が居ないほうがいいと思ってるわ。私は優秀だったけど問題児だったからね」


 うーん、愛と情欲にまみれた生活ってどんなんだろう……。少し……いや、けっこう興味あるな。でも関心があるような態度をとったらサラさんチェックが入って、評価がまた下がる。ここは真面目な顔の能面状態を維持一択だ。


 チラッとサラの方を見ると、サラはマリオンの方を見ている。

 よし油断は禁物だけど、今のところは大丈夫だろう。


 「問題児だったんですか? 」


 俺の近くに問題ある女性を置きたくないサラの目がキッと鋭く光っていることだろう。


 「ええ、そうよ。奴隷制度って嫌いなの。弱い者虐めにしか見えないんだもの。で、私はそれを公言していたの。子供の頃からずっとね。だから世間からの評判は悪かったわね。気にしなかったけど」


 「へぇ……。他にはありますか?」


 「そうね。私は強い男が好きだって話したでしょ? だから強そうな男には勝負を挑んでばかりいたの。せめて私より強くなくちゃ話にならないもの。でも、皇都に行くまで、私より強い人は居なかったわ。女の私にまったく勝てなくて、地元の男どもはメンツ丸つぶれだったみたい。そんなの知ったことじゃないけど。ただ、私にメンツを潰されたと思った男どもが、私じゃなく私の家を攻撃し始めたのよ。いろんな嫌がらせね。もちろん相手は再度潰してやったわ。でも、世間って女が前に出るのを嫌うのよね。だから私に近づく人は居なくなったし、家でも私には触らないのが一番みたいな対応されてたわ」


 マリオンの話を聞いてると、サラが問題にするような問題児には思えないな。それに愛情にとても飢えてるような……そう考えると俺への異常なプッシュもなんとなく判る気がする。


 「皇都では貴女より強い方が居たんでしょ? その方のことは好きにならなかったんですか? 」


 「それがね。負けたには負けたんだけど、なんて言えばいいのかな~……そう、経験の差で負けた……そんな感じね。もちろん強かったわ。でも、私が好きな”力で捻じ伏せるような強さ”じゃなくて、気になる男ってところ止まりだったわ」


 マリオンが負けた相手は戦闘神官候補を選ぶ試験官で、戦闘神官の中では下の方らしい。何でも戦闘神官の上位四名は神聖皇国の守り神のようなもので、俺と同じくらい強いんじゃないかとマリオンは言う。マリオンは戦ったことも会ったこともないから実際のところは判らないらしい。


 「マッチョ好きなんですね」


 「そうかもしれない。でもそこらのマッチョって見た目だけでしょ?せいぜいちょっと腕力が強い程度でね。ダーリンのような……そう、私が何をしても正面から跳ね返すような強さじゃないでしょ?だからそういうのは眼中になかったわね」


 「お兄ちゃんの力は判ったでしょ? 」


 「ううん、全然判らなかったわ。私が出会った中で圧倒的に強いってことしか判らない。もうね。それが判ったとき、この人しか居ないって思ったわ。ダーリンなら私がどんな悪さしても、笑って何事もない顔して止めてくれるって思ったわ。もちろんダーリンを困らせるようなことはするつもりはないわよ? 」


 「お兄ちゃんの力を利用して何かしたいこととかあるんですか? 」


 サラの声に更に厳しさが加わったようだ。

 

 「ないわよ。下手なことをやってダーリン怒らせたら、私なんてその場で消されちゃうわ。そのくらいダーリンは凄い力を持ってるもの」


 そんな馬鹿なこと考えるわけないじゃない。消されちゃったらダーリンと愛と情欲にまみれた生活できなくなるものとマリオンは付け加えた。


 「お兄ちゃんがこのまま貴女を受け入れなかったらどうします? 」


 「ずっと追いかけるだけね。しつこいって嫌われるかもしれない。でも離れてるのは我慢できない。抱かれることがなくても、そばに居られれば幸せよ。もちろんいつかはダーリンと情欲の限りを尽くすつもりだけどね」


 マリオンはもっと聞いてと言わんばかりに、両手をサラの方に出して、クイックイッとカモーンというように手のひらを曲げる。


 「貴女がお兄ちゃんのそばに居たいという思いはよく判りました。どうやら目くじら立てて距離置くほどの人ではないようです。でも、今のように常時お兄ちゃんにベタベタして誘惑するのはやめてもらいます。他にも私が注意することには従うと約束してくれるならマリオンさんが私達と一緒に行動することを許しますがどうしますか? 」


 「んー、ダーリンとイチャつけないのは寂しいけれど……判ったわ。一日中こんな結界に閉じ込められるくらいならね。サラちゃんの言うことはきちんと聞くわ。約束する」


 「約束を破ったら、ぼっち結界の刑半日ですよ? 判りましたか? 」


 「ええ、判ったわ」


 サラはベアトリーチェに結界を解除するよう頼んだ。

 結界から出たマリオンは俺の横に座る。でも少し距離をあけて、俺にくっつかないように気をつけてるようで、サラは笑っていた。


 「さて、これで落ち着いて相談できる環境がようやく整いました」


 サラが皆を見渡す。

 その表情はかなり真剣だ。


 俺の顔を凝視する。

 

 「お兄ちゃん。今回のことで神聖皇国から問題視されるのは確実です。お兄ちゃんはこれからどうしたい? 」


 うーん、どうしたいかと言われても、亜人狩りは許さないことくらいしか考えてなかったな。


 「亜人狩りは許さない」


 「でも神聖皇国だけじゃなく、ジャムヒドゥンだって奴隷を必要としてる。亜人狩りを止めるためにはジャムヒドゥンとも争うことになるわよ? 」


 「それでも許さない」


 「いずれお兄ちゃんを殺そうと軍隊を出してくるわよ? 」


 ジッと俺の顔に視線を止めたまま


 「お兄ちゃんは強い。私もできるだけお兄ちゃんに協力する。でも、二人だけではどんなに頑張ってもいずれ力尽きちゃう。私達が居なくなったら、また亜人狩りが繰り返されるわ? どうする? 」


 「嫌だ。サラは俺にどうしろと言いたいんだい? 神聖皇国とジャムヒドゥンを倒せと言ってる? 」


 「んー、はっきり言うと、亜人を守る組織が必要になるってことよ」


 「国でも作れってことかい? 俺にそんなことできるわけないじゃないか」


 「ううん、できます。ゼギアス様さえその気なら国は作れます」


 俺とサラの話に、マルティナが入ってきた。


 「え? どうやって? 」


 俺はマルティナに聞いてみる。

 マルティナは軽々しく大きなことを言う女性ではない。

 言うからには何かしら根拠があるはずだ。


 「ええ、私もできると思います」


 ラニエロもマルティナに賛同する。

 その横でベアトリーチェも頷いている。

 二人共過大に評価している気がするな。


 「ダーリンなら大丈夫よ。時間はかかるだろうけど、私のダーリンですもの」


 マリオンにはきっと根拠なんかないように感じる。


 俺を評価してくれるのは嬉しいけど、国を作るってそう簡単なことじゃない。

 転生を繰り返し経験を積んだ俺にすると、強さだけで国をまとめるのは難しい。俺の力だけに依存した国は、俺が居なくなったら壊れる。それじゃ意味はない。


 グランダノン大陸南部は生存競争の厳しい弱肉強食の色が強い地域だ。だから俺が敵グループのリーダーを倒せば、そのグループを取り込むことはできる。それを繰り返せば国を作るのは可能だろう。

 でも国ができ領地を持つようになれば、領地を育て守ることが必要になる。国が大きくなればそれだけ守らなきゃならないことが増える。それを全部数人でこなすのは無理だ。


 「俺とサラだけでは到底無理だよ」


 「そうね。お兄ちゃんと私だけでは無理ね。ベアトリーチェさん達やマリオンさんが手伝ってくれてもまだ足りない。だから人材を探しましょう」


 「でもさ? 亜人と魔族が食料を奪い合ってるこの土地にそんな人材居るのかな? 」


 「大丈夫……とは言えないわね。でも居ないとも言えない。泉の森のエルフは協力してくれるかもしれないし、その他のエルフもね。そして皆から情報を集めて少しづつ増やして行きましょう」


 「ダーリン。神聖皇国にはダーリンの顔もバレてる。今のところは誰もが知ってるほどではないけど、それでも神聖皇国では動きづらい。でもジャムヒドゥンならどう? あそこに行って探してみるのよ? 私は多少なら地理も判るわよ? 」


 「なるほど。それはいいかもしれませんね」


 ベアトリーチェもマリオンの意見に同意する。


 「でもお兄ちゃんを連れて行くことはできませんよ? マリオンさん」


 「あら、どうして? ……ってそうね。まだこの辺りを守るためにダーリンを外には連れ出せないってことね。仕方ないわ。私一人で行ってくるわ」


 「そうしてくださいと言いたいところですが、それもダメです。理由は二つあります。一つは、マリオンさん、貴女を一人で自由にするほど信用する関係にないこと。二つ目は、この大陸南部に小さくても拠点を作るまではマリオンさんにも手伝って貰いたいのです」


 「まあ、もっともな言い分だわ。昨日あったばかりで全面的に信用しろってのは無理よね。判ったわ。じゃあ信用できたら私をジャムヒドゥンへ出してね」


 では拠点をどこにするかという話になり、とりあえず泉の森へ行こうということになった。この場に居る者達だけじゃ知らないこともアルフォンソ等なら知ってるかもしれないし。それにここは神聖皇国に近すぎる。組織だった動きを続ければ目立つだろう。

 早速これから泉の森へ向かおうとした時ベアトリーチェが言いたいことがあるようなので聞くことにした。


 「あのぉ、この際一つ言いたいことがあるのですが……」


 そうベアトリーチェは切り出した。


 「ゼギアスさん、特にサラさんに聞いてもらいたいんですけど、私……私とゼギアスさんが結婚しちゃダメですか? 」


 俺は自分の耳を疑った。ひと冬一緒に過ごして、仲良くなったしお互いの信頼関係もつくれたと思うけど、ベアトリーチェさんからプロポーズされるほどの仲になれたとは思っていなかった。そりゃあベアトリーチェさんは美人だし、賢いし、優しいし、しっかりしてるし、サラともとても仲良しで、俺も好きな人だし……。


 「ベアトリーチェさんなら喜んで賛成しますけど、お兄ちゃんはどうなの? 」


 え? いいの?


 「私より先にダーリンを捕まえようだなんて、それも私の目の前で……いい度胸してるわね。でもまあ、ダーリンなら妻の一人や二人居てもおかしくないし、私は妻じゃなくて愛人でもいいし……正妻の目を盗んで情事……あら、萌えるシチュエーションだわ……そりゃ二番目の妻の座も狙うけど……」


 マリオンがよく判らないこと言ってるが、要は邪魔はしないということらしい。

 

 「ゼギアス様ならベアトリーチェ様の旦那様に相応しいと思います」


 マルティナとラニエロも賛成してくれてる。


 この場の全員が視線を俺に集め返事を待っている。


 「とても嬉しい。でも、さっき話したように俺達は、いや俺は神聖皇国とジャムヒドゥンとも喧嘩することになる。俺の奥さんになると、俺同様に命を狙われるだろうし、苦労も相当するだろう。ベアトリーチェさんの申し出は本当に嬉しいんだ。でもそのことを考えると……」


 逆に美味しい立場ですわとマリオンが呟いてるけど無視した。


 「ええ、だからですわ。ゼギアス様はこれからとても大変な立場になります。ですから、今しかないんです。忙しくて、自分のことを考える暇が無くなる前に、考えていただくしかない。苦労なんかどう生きてもするものですわ。そんなこと気にしてたら何もできません。是非私をゼギアス様の妻にしていただきたいのです」


 ベアトリーチェは必死だった。ゼギアスとひと冬過ごして、人の良すぎるところもあって、また妹のサラに頭が上がらないところもあって、確かに女好きの面もあることは判った。だがそういった欠点も含めてゼギアスのことが好きになった。ゼギアスとなら楽しく生きられるだろう、ゼギアスを心から愛しく思えるだろう。


 だから今皆の前で言ってることに嘘は全く無い。苦労すらも楽しめると思える。


 しかし、ゼギアスが国造りに動き出すと決まった今、ベアトリーチェは早くゼギアスの妻になる必要が出たと思った。これはベアトリーチェの責任であり義務でもあると必死だった。


 グランダノン大陸南部でのエルフは戦闘力のある種族ではない。

 どちらかと言えば、支援が得意な種族だ。


 国で評価されやすいのは、国を守る力がある者だ。敵を滅ぼす力を持つ者だ。

 最大最高戦力になるだろうゼギアスはそう考えないかもしれない。

 でも他の種族は力がある種族を評価するだろう。これは間違いない。

 ゼギアスが作る国で、戦闘力がそれほど高くないエルフが、他の種族と対等に生きるためにはゼギアスに使ってもらえる立場になければならない。国造りを最初から手伝えば、自ずからエルフは評価されるし、国の中でエルフに似合った仕事にも就けるだろう。


 泉の森のエルフはゼギアスに協力するだろう。ゼギアスには恩があるし、彼の力を知ってるから逆らうことなど絶対に考えない。だが他の部族はどう動くだろう。

 説得する者が必ず必要になる。

 その役目を私がするのだ。その際、私は今の立場のままではダメだ。アルフォンソの下の娘というだけでは弱い。ゼギアスの妻になり、泉の森のエルフはゼギアスと絶対協調するとはっきり判る立場でなければならない。


 「今晩、泉の森につくまで返答は待ってもらいたい。もう少し気持ちを整理したいんだ」


 ベアトリーチェはそれで構いませんと答えた。


 俺を見るサラの目が”やせ我慢して格好つけちゃって、困ったお兄ちゃんね”と言ってる気がする。いや、絶対そう思ってる。


 だって俺が本当に思ってることはだいたいサラにバレるんだもの。






◇◇◇◇◇◇






 泉の森に到着したときは、夜もかなり遅い時間だった。

 ラニエロが先行して俺達の到着を知らせてくれたから、俺達が着いた時には食事も用意されていて、ちょっと申し訳ない気がした。


 詳しい話は明日にして今夜は休んでくださいと言われたので、その言葉に甘えて今夜はのんびりすることとした。ここ二日ほど忙しかったから、体力には問題がなかったけど、気持ちが疲れていた。


 用意してもらったテントに戻ると、そこにはベアトリーチェとベアトリーチェのお母さんリーゼさんが居た。ああ、俺の答えを待ってるんだ。


 俺がリーゼさんとその横に座るベアトリーチェの前に座ると、リーゼさんが口を開いた。


 「いつもベアトリーチェと仲良くしてくださって、またあちらではいろいろとお世話になってるようで、ありがとうございます。本来は私達がゼギアス様のお宅まで伺ってお礼を申し上げるべきなのですが……」


 リーゼさんの恐縮したような態度。

 俺はそういうの苦手だ。もっと気楽に付き合いたい。


 「ああ、そういうの気にしないでください。それにこれからは家族になるのですから」


 俺の言葉を聞いたベアトリーチェは嬉しそう。


 「では私を……」


 「うん。サラも言ってたけど、ベアトリーチェさんなら喜んで奥さんになってもらいたいもの。いろいろ考えたけど、俺はベアトリーチェさんのこと大好きだしねって、お母さんの前で言うことじゃないか……」


 俺の照れた様子にリーゼさんがクスクスと笑う。

 ベアトリーチェも照れて俯いている。


 「おめでたいことですわ。アルフォンソも喜ぶでしょう」


 「それでその……俺はエルフのしきたりとか知らないんで、結婚するために必要なことを知りたいんです」


 前世でエルフと付き合ったことなんかないしな。


 「エルフ同士での結婚なら、それなりに儀式も必要ですが、他の種族との結婚ではそういうものはございません。せいぜい相手の親の前で夫婦の契を宣言するくらいですわね」


 ああ、チャペルウエディングで神父や牧師の前で誓う、見てる方がこっぱずかしいアレみたいなものかな。やってる本人同士や家族はいいんだろうけど、俺のような奴は冷やかしたくなるか、白けちゃうんだよなあ。


 「参考までに教えていただきたいのですが、エルフ同士の結婚で必要な儀式ってどういうものですか? 」


 「儀式と言っても難しいものじゃありません。新郎新婦が協力してかまどを造り、そのかまどで儀式で決められている料理を結婚式十日前から式当日まで毎日祭壇に捧げるのです。その料理で使う食材は麦のみですが捧げる料理は毎日変わります。パンやスープ、パイやケーキなどですね。作る料理はほぼ毎日のように私達が食しているものです。ただし必ず新郎新婦が二人で協力して作らなければならないのです」


 「へえ、面白いですね。アルフォンソさんもその儀式を? 」


 「ええ、ただ、あの人は意外と不器用でしたので、手伝って貰えることがほとんどなかったんです。申し訳なさそうなあの人の顔は今でも思い出します。良い思い出ですね」


 まあ、俺も器用なほうじゃないから、儀式を通過しなくていいのは良かった。

 ベアトリーチェは笑って許してくれるだろうけど、サラに知られたら説教始めそうだし。


 「あと、ご両親への挨拶はいつでもいいでしょうか? この日はダメとか避けたほうが良い日とかそういう日があれば知っておきたいんです」


 「我々は祖先を大切にしていますので、祖先を祀る日が家ごとにあります。その日は祖先を祀る以外のことは避けます。その日だけでしょうね」


 「うちは今年もう済んでるわよね」


 「え? その日にベアトリーチェやマルティナ達をこちらに帰さなくて良かったんでしょうか? 」


 「ここに居るのに、祖先を祀らないのは宜しくないと皆にも思われますが、外で暮らしているなら、戻ってきたときに祖先の祭壇の前で祈ることになります。だから大丈夫ですよ」


 「ええ、私も戻ってすぐ祭壇へ行ってきましたし、マルティナ達も同じでしょう。ゼギアス様が心配なさるようなことはないですわ」


 「あともう一つお聞きしたいことがあります。ここには銀の指輪や金属の装飾品を作る細工師のような方はいるでしょうか? 」


 「ええ、腕のいい職人がおりますよ。何かご用ですか? 」


 「はい、その方を是非紹介していただきたいのです」


 「ベアトリーチェも知っていますから……ベアトリーチェ、ゼギアス様と一緒に行きなさい」


 「はい、ビアッジョさんのところですね」


 「ええ、私やアルフォンソの名を出していいですから、ゼギアス様のご要望に可能な限り対応するよう伝えてください」


 「ありがとうございます。では俺とベアトリーチェさんの件についてのお母様達へ挨拶はしばらくお待ち下さい。俺なりのケジメが必要なんです」


 「それはビアッジョを紹介することに関係するのですね? 」


 「はい、大いに関係あります」


 「判りました。ゼギアス様にとって必要なケジメということですから、私共はお待ちします」


 「ありがとうございます。では明日アルフォンソさんと今後の話が済み次第、ベアトリーチェさん、ビアッジョさんのところへ連れて行ってください」


 俺の話を聞き終えたリーゼさんとベアトリーチェはテントから去った。


 俺はテントの出入り口で見送り、二人の姿が見えなくなったあとベッドに飛び込んだ。やはり疲れてたようで、横になった途端意識を失った。



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