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49、フォモール族滅亡

 

 「どこにも居ないぞ?」


 獣面の巨人フォモール、今では牛・豚・馬・山羊の四部族しか残っていないが、総数は十万名ほど生き残っている。ヴァンレギオスの民を食せば低下した出生率が戻るかもとたびたび戦争をしかけてきた。


 ヴァンレギオスの民がサロモン王国へ移住してから・・・・・・もちろんフォモールはそのことを知らない・・・・・・半年後に再び侵攻したら、抵抗もなくヴァンレギオス全土へ侵攻できた。だが、そこには一人の民も見当たらない。


 獣を食べるだけなら、フォモールに居ても間に合う。数十万のフォモール族が食べていけるだけの土地がフォモールにはあり、森の恵みも十分なのだから。ヴァンレギオスに侵攻し続けてきたのは、ヴァンレギオスの民を食べるためで土地が欲しいわけではない。


 「テタル、王に報告するしかあるまい。」


 馬面の巨人が豚頭の巨人テタルに苛立たしそうに言う。

 灰色の巨体で腰布をまとい、その太い手で棍棒を振り回しながらテタルから視線を逸らし、身体を翻して来た方向へ戻っていく。


 「ああ、これでは今まで攻めてきたことが無駄だ。」


 テタルは悔しそうに言い、その灰色の身体をクルリと向きを変えて自国へ戻る。

 

・・・・・・

・・・


 「・・・・・・なんだと?一人も残っていないというのか・・・・・・。」


 報告を聞いた牛頭の巨人、フォモール族族長フェアラーは歯噛みしながら俯いた。がっくりと肩を落として、つぶやいている。

 

 「この二十年・・・・・・雌は三万居ると言うのに、生まれた子供はゼロだ。百年遡っても十名も生まれてない。我々の寿命が百五十年だとしても、そう遠くない将来に滅んでしまう。」


 洞窟の灯りがフェアラーの身体にユラユラとした影を映す。憂鬱そうな表情にフォモール族の苦悩が表れてる。


 「族長、居ないものを当てにしていても仕方がないではないか?この際、ヴァンレギオスの奴らじゃなくてもいいから他種族を食っていくしかあるまいよ。」


 山羊頭の巨人がフェアラーに顔を向け、拳を握って力説する。


 「そうだ。ルビエの言う通りだ。南側には大勢の人間も住んでる。奴らを食ってみればいいのだ。」


 馬頭の巨人がルビエに同意する。


 「ジリーノもそう思うか。あとはテタル、どうだ?お前も同じ意見か。」


 フェアラーは豚頭の巨人テタルに意見を問う。テタルも同意すれば、フォモール族の三部族が賛成することになり、牛頭族のフェアラーも族長だからといっても反対できなくなる。


 「ああ、俺も賛成だ。どうせこのままじゃジリ貧だ。やれることは何でもやってみればいい。」


 「そうか、では牛頭族も賛成しよう。これで四部族全部が南下に賛成したことになる。では早速明日から南へ向かうぞ?いいな。」


 各部族長は黙って頷き、その視線の先にはエドシルド第二の国ライアナを映している。


 ”たかが人間、喰らい尽くしてやるわ”


 フォモール族の思いは一つになっている。

 




◇◇◇◇◇◇


 サラはカンドラに来ている。ゼギアスがラウィーアを連れて国内視察に回ってるため、代りにカンドラの様子を見に来ているのだ。


 サラはカンドラの農業および土壌の質を調べるため、マルティナの部下で農地研究を専門にしてるヴィアベルと、ゴルゴンのメール、現アマソナスのリーダーのヘラが護衛で同行している。サラに護衛など要らないのだが、ゼギアスが連れて行けと煩いのだ。


 サラは三名を連れてカンドラへ転移し、のんびりとカンドラの各地を見回っていた。

 

 (サラ様、急ぎお願いしたいことが発生しました。)


 カリネリア総督リアトスから思念が飛んできた。


 (実は、カンドラの隣国ライアナへどうやらフォモール族が侵攻し、ライアナの貴族に嫁いでいるフラキアの三女カエラ様の身が危ないようなのです。そこでサラ様にカエラ様を救助していただけないかと。)


 ”判ったわ”と返事し、カエラのおおよその居場所を伝えてもらい、サラはヴィアベルだけを残してライアナへ転移した。


・・・・・・

・・・


 カエラが居るはずの地区に転移したサラは思念を飛ばした。


 (カエラさん、サロモン王国のサラです。今、どちらにいらっしゃいますか?)


 カエラから居場所を聞いたサラは再び転移する。


 カエラの屋敷の周囲は、巨人の襲撃から逃げ惑う人々で大騒ぎになっていた。

 サラ達は人混みを避けながら屋敷のドアを叩く。

 扉が開くと、カエラが見知らぬ男性と並んで待っていた。

 多分、カエラの旦那だろう。

 

 「カエラさん、さあ、急いで脱出しましょう。」


 サラがカエラの手を取ろうとすると、


 「誰だ、お前は。」


 およそ三十歳くらいの貴族風の格好をした男が、サラとカエラの間に入ってくる。


 「ああ、失礼いたしました。私はサロモン王国国王ゼギアス・デュランの妹サラと言います。カエラさんのお父様から救出を頼まれまして参りました。」


 微笑んで丁寧にサラは自己紹介した。


 「サロモン王国だと?なんだ亜人や魔族の奴隷の国の者か。そのような者に妻を触らせるわけにはいかん。」


 カエラの旦那は、サロモン王国と聞いてサラ達を見下し、カエラと共に屋敷の中へ戻ろうとする。


 「せっかくですが、私は貴方には用はありません。カエラさんは連れていきます。ここに居たら巨人の餌にされてしまいますので。」


 サラはそう言って、カエラの旦那に魔法をかけて動けなくし、カエラを連れて外へ出ようとする。


 「巨人だと?我が国の軍が退治するわ。奴隷の手など借りずともカエラの身は安全だ。」


 「そう。ではご自分の目で見てご覧なさないな。貴方の自慢の軍が食われてる様を。」


 そう言ってカエラの旦那の魔法を解き、玄関の外へ来るよう伝えた。

 サラはカエラとメール、ヘラと共に外へ出て、様子を伺っている。


 カエラは口を押さえ目を見開いて驚きつつも様子を見ていた。

 旦那が外へ出て振り返ると、建物の上に巨人が兵士を捕まえては口に放り込む様子が見えた。旦那が誇っていた軍は巨人に為す術もなくただ捕食されていたのである。


 「メール。目の前の巨人に状態異常魔法が効くか試せるかしら?」


 メールはサラの言葉に頷き、巨人に向けて両手を伸ばす。

 淡い赤い光がメールの手に浮かんだかと思うと、巨人へその光がスッと伸びていく。


 すると、巨人は苦しそうに自分の目を押さえ、次の瞬間に全身が石化して動きを止めた。

 

 「どうやら状態異常魔法は効くようね。ラウィーアさんから属性魔法は効きづらいと聞いていたから、状態魔法はどうかしらと思っていたのだけど、これは大きな収穫があったわ。さあ、カエラさん、参りましょう。」


 メールの状態異常魔法が効いたことを確認し満足した顔でサラは転移の準備する。


 「・・・・・・ま・・・・・・待て、他の巨人も倒さんか!」


 「ご自分で奴隷の力など借りないと仰ったではありませんか。それに私は姉妹のカエラさんさえ無事なら良いのです。貴方方を助ける義理はありませんわ。あなたも早くお逃げにならないと食べられてしまいますわよ。」


 サラの視線はきつく鋭い。

 どうしてこう貴族という類の生き物は他人を思い通りに動かせると勘違いしてるのかしらと貴族を見る目には蔑みがあった。


 「・・・・・・金なら出す。だから助けろ。」


 「馬鹿にして貰っちゃ困ります。お金なんか要りませんわ。とにかく失礼致します。」


 旦那を置いて、サラは三名を連れて転移しようとした。


 「サラ様!こんな男ですが、やはり夫なのです。一緒に連れて行っては貰えませんか?」


 頭を下げてカエラが申し訳なさそうに依頼する。

 カエラから頭を下げられてはサラも無碍にはできない。

 ”仕方ないですね”と呟いて、サラは旦那の袖も掴んで転移した。


・・・・・・

・・・


 カンドラに戻ったサラ達は、これからの予定を話し合う。


 サラはカエラ夫婦をフラキアへ連れていき、その後メール達と合流する。

 メール達はカンドラの確認作業を続けていく。

 ヘラはサラと共にどうしても行くと言うので、ヘラもサラに同行することになった。

 万が一巨人がカンドラにも現れたら、その時はメールが石化して防ぐことも確認した。


 サラはまだギャアギャアと煩い、カエラの旦那に催眠魔法をかけ眠らせる。

 その後、カエラ夫婦とヘラを連れてフラキア領主宅へ転移した。


 (リアトスさん、カエラさんは無事救出したわ。それとライアナに侵攻した巨人には状態異常魔法が有効だから周知させておいてね。)


 サラからの報告を受けたリアトスは了解の旨を伝えて思念を切った。

 リアトスへの報告を終えたサラは、カエラ夫婦・・・・・・旦那はヘラに担がれている・・・・・・と共にフラキア領主宅へ入る。


 カエラの無事を確認したファアルドは喜び、アリアはカエラを抱擁し、その後サラに感謝している。ヘラに担がれた旦那・・・・・・ドリアヌスというらしいが・・・・・・を近くのソファに横たえさせ、サラは魔法を解除する。


 目を覚ましたドリアヌスは再び騒ぎ始めた。


 ”この奴隷達は私の命令に従わなかった。”

 ”奴隷が親戚にいるとは知らなかった。”

 ”自分を無理やりここまで連れてきた。”

 ”こいつらと縁を切らないならカエラとは離婚だ。”


 「ヘラ、動いてはダメよ。」


 サラから言われてなければ、ドリアヌスの命はヘラによって奪われていただろう状況が目の前で続いている。


 ドリアヌスの罵声にカエラは申し訳なさそうに小さくなっている。

 

 パンッ!


 日頃は大人しいファアルドがドリアヌスの頬に平手打ちした。

 サラは拍手したい気分で目に笑みを浮かべた。


 「何をする!ちょっと景気が良くなったからとその態度は何だ。もういい!フラキアと我が家は絶縁だ!!」


 頬を打たれて、多少は勢いが落ちたが、ドリアヌスの怒りはまだ続いていた。


 「こちらこそ、大人しく聞いていれば、我が領地の恩人に向かって奴隷奴隷と失礼な。私どもと絶縁?こちらこそ望むところ。ええ、喜んでカエラも戻します。お帰りください!!」


 ”あとで泣きついてきても、びた一文貸さないからな”と捨て台詞を残し、ダンッと扉を開いてドリアヌスは外へ出ていった。


 「サラ様、申し訳ありませんでした。不快な思いされたことでしょう。」

 

 ファアルド夫婦はサラに深々と頭を下げた。


 「ファアルド様が謝られることではありませんわ。・・・・・・それに、直に泣きついてくるのは向こうです。」


 サラはファアルド夫婦に余裕の笑みを見せ、”状態異常魔法を使える魔術師などそう多くはありませんもの”と先の展開が見えてると自信の表情。


 「ライアナは必ずサロモン王国へ泣きついてきます。その際に接点はフラキアしかない。カンドラはまだ我が国と友好関係にあるとは言えませんからね。あとドリアヌスのことは、こちらから言いふらして置きますわ。カエラさんに酷い態度をとったあの男にはせいぜい泣いて貰いましょう。」


 治癒・回復魔法が聖属性に属する魔法なら、状態異常魔法は魔属性に属する。

 魔法の性質上人間や亜人で状態異常魔法を使える者は少ない。魔法が得意な種族が多い魔族でもヴァンレギオスに居るような種族だと使えないのが状態異常魔法。デュラン族でも聖属性の魔法や龍気を使える者は少ないし、魔属性の魔法や闇属性の龍気を使える者となると更に少ない。


 リエンム神聖皇国だろうとジャムヒドゥンやエドシルドだろうと、あの巨人に対して有効な状態異常魔法を使える者は少ない。そしてその少なく限られた使用可能者をフルに運用すれば、魔法力か体力が尽きて使用できなくなる。


 ゴルゴンやデーモンのように状態異常魔法を効率的に使える者を多く抱えるサロモン王国には、あの巨人に対してアドバンテージがあり、もし、サロモン王国やその友好国へ巨人が攻めてこようとも恐れることは全く無い。


 他国はあの巨人に対して有効な手段を多く持ち合わせていないため、サロモン王国に頼らざるをえないはず。別に頭を下げてこいなどとは言わない。ただ、当たり前のことを当たり前に対応できる知性と良識を持ち合わせていない相手を助けるつもりは無い。


 あのドリアヌスのような輩にはせいぜい痛い目に遭ってもらえばいい。

 サラは冷たい視線をドリアヌスが去った扉へ向けていた。


・・・・・・

・・・


 ゼギアスはサラから状況の報告を受け取り、フォモール族の動きを監視するよう伝えた。飛竜かグリフォンによる巡回を行い、必要な際にはサロモン軍を動かすつもりでいた。


 カエラ救出の数日後、ライアナは再びフォモール族に襲われる。

 前回はフォモール族の兵数を確認できなかったが、今回は二千程度だと判った。

 

 ライアナ軍は前回同様に為す術を持たず、住民を避難させるだけで精一杯だった。

 避難民はカンドラを目指し、カンドラには避難民用のテントが所狭しと並んでいる。

 カンドラは、エドシルド加盟自治体へ救援物資を頼み、各自治体はその要請に応じたが当面必要な物資が足りない。


 このままでは飢えで苦しみ暴徒化する者も出る可能性が出てきていた。


 「フラキアの名前で食料を送ってあげてください。」


 サラはサロモン王国から食料を転送させ、フラキア経由でカンドラへ送るように手配した。その際、一部の特権階級の者に多く渡らないよう、カンドラへ強く要求するよう依頼した。”もしそのような事実が確認されたなら、フラキアからの支援は打ち切る”とファアルドから伝えさせた。


 カンドラ領主フリーゼンは、この指示はサロモン王国のものだと理解していた。フラキアは食料を豊富に生産している領地ではない。送られてくる物資は全てサロモン王国からの物と察していた。本来自国の問題ではないことでサロモン王国の機嫌を損なうのは馬鹿らしいとフリーゼンは、物資の公平な配給を徹底させた。不正が見つかったらきつく罰すると部下に伝えて。


 その結果、ライアナの特権階級の者達から多くの不満が出たが、フリーゼンは無視し、逆に、”では貴方方の言うことを聞く方たちから食料を集めてきてはどうですか?”と言い返した。フリーゼンにすると、暴徒化されて領地が荒れることも、サロモン王国から敬遠されることも絶対に避けたかったのだ。他国の貴族がいくら騒ごうといっこうに気にならない、そういう気持ちでいた。


 ライアナには今だに数十万人の住民が残っていて、三十万以上の軍隊も残っていたから、カンドラへ避難してきたライアナの貴族はこの時点ではまだ強気だった。


 だが、三度目の巨人侵攻でその強気な態度も変わる。

 三度目は二万近い数の巨人が攻めてきて、ライアナ軍は二十万の兵を失ったのだ。


 ライアナ国王オレジノは頭を抱え、何か対抗策はないか配下に調べさせた。そして、一体の巨人が石化したままでいることを知り、その手段なら対抗できるのではないかと巨人を石化した者を探す。


 ライアナの有力貴族であったドリアヌスは、国王へ”サロモン王国の者が・・・・・・”と報告した。だが、ドリアヌスが元妻の縁者と喧嘩別れした噂はライアナ国王や貴族たちの耳にも入っていた。サラが指示してその噂を流させていた。


 国王オレジノはドリアヌスに”早急にフラキアへ行き、謝罪してサロモン王国の助力を得よ。できなければそなたの資産と爵位は没収だ!”と命令される。


・・・・・・

・・・


 「何をしにいらしたのですか?主からは貴方には取り次ぐなと申しつかっておりますのでお引き取りください。」


 ファアルドどころか、侍従長にしかドリアヌスは会わせてもらえない。

 

 「・・・・・・そこを・・・・・・そこを何とか・・・・・・。」


 疲労で目を窪ませて侍従長に縋り付くが、侍従長は数名の使用人を呼んでドリアヌスを門の外へ連れ出し門を閉じさせた。侍従長はサロモン王国への恩も強く感じていたが、幼い頃から可愛がっていた三女カエラを罵ったドリアヌスをとても許せなかった。


 ドリアヌスが毎日何度足を運ぼうと、門が開かれることはなかった。

 他の来客に合わせて門から中に入っても玄関前で門の外へ連れ出される。


 王から言われた期日の前日になって、ドリアヌスはライアナへ戻る。


 「それで、そなたはこれからどうするのだ?」


 国王オレジノは跪くドリアヌスを見下ろして冷たい声で聞く。

 

 「・・・・・・私にはどうにも・・・・・・。」


 「お前は奴隷の力は借りんと言ったそうではないか?自力で巨人を倒してはどうだ?」


 「・・・・・・。」


 「どうやらお前が我が国にいる限り、サロモン王国の助力は得られそうもない。つまりライアナはお前の道連れにならねばならんのか?」


 「・・・・・・そ・・・・・・それは・・・・・・。」


 冷や汗を汚れたハンカチで拭きながら、何とか許しを得ようと言葉を探すがドリアヌスには見つからない。

 

 「もう良い。顔も見たくない。どこぞへなりと行くがいい。但しライアナで見かけた時は覚えておれよ。」


 去れというように手を振ってドリアヌスを下がらせ、オレジノは自身でフラキアへ行き嘆願すると決めた。

 

 この翌日、ライアナへ四度目の巨人侵攻があり、残っていた兵も全滅に近い結果となり、国民のほとんどと国王自身もカンドラへ避難した。ライアナは廃墟となり果てていた。


 オレジノは、従者数人を連れてフラキアへ急ぎ向かった。



・・・・・・

・・・


 

 「うちのドリアヌスが大変失礼なことを仕出かした。その件は深く詫びるゆえ、どうかファアルド領主に会わせては貰えぬか?」

 

 侍従長はオレジノをファアルドの部屋へ案内する。

 そこにはファアルド夫婦と見知らぬ若い女性が居た。サラである。


 オレジノが部屋に入ってもファアルドはサラをそのまま部屋に置いておくようなので、”彼の者がサロモン王国の関係者かもしれぬ”とサラにも礼をしてファアルドへ口を開く。


 「頼む。ライアナを救ってくれ。もう他に頼める場所はないのだ。ドリアヌスの件は深く詫びる。あの者からは資産も爵位も没収し、ライアナからも追放した。まだ気が済まぬというなら他にも手を考えよう。サロモン王国の目指す奴隷解放にも助力しよう。だから頼む。ファアルド領主。私に力を貸してくれ。」


 深々と頭を下げ、涙を流しながらオレジノはファアルドに頼んだ。


 その様子を見て、ファアルドはサラに”何とかなりませんか”と視線を送る。


 「私はサロモン王国国王ゼギアス・デュランの妹サラと申します。オレジノ国王、初めまして。」


 オレジノは顔をあげサラの顔を見る。

 美しい顔をした若い娘だが、その視線は厳しく年齢に似合わない力を感じた。


 「一つだけ気に入らないことがありますので、最初に申し上げておきます。何故最初から国王自らこちらへいらっしゃらないんですの?ドリアヌスなど何の権限もないただの貴族の一人ではありませんか。国王自身が、サロモン王国などドリアヌスさえ謝罪すれば動くと軽く見てらっしゃったんではなくて?」


 ・・・・・・そうかもしれない。

 ドリアヌスが不始末を仕出かさなければ・・・・・・、フラキアから依頼すればサロモン王国など簡単に動くと思っていたかもしれない。


 オレジノは汗を拭きながら反省していた。

 この若い娘ですらこのように鋭いならばサロモン王国は侮って良い相手ではない。


 実際はサラが鋭いのであって、ゼギアスはそうでもないのだが、オレジノはゼギアスを怖れた。


 「・・・・・・・・・・・・申し訳ない・・・・・・言われてみるとそう考えていたかもしれん。」


 「まあ、いいでしょう。今後気をつけてくださいね。それで、ライアナからあの巨人を追い払えばいいのですか?」


 オレジノの反省してる様子を見て、サラの視線から冷たさが消えた。


 「できることならば、そうしていただけると・・・・・・。この御恩は決して忘れない。頼めるだろうか?」


 「フォモールを滅ぼさない限り、いずれまた襲ってくるでしょうけど、そこまでは望まない?」


 ラウィーアからフォモールの事情を聞いてるサラは、フォモール族が居る限り何度でも侵攻してくると確信していた。


 「そんなことが可能なのだろうか?」


 「ええ、できますわよ。但し、フォモールを滅ぼすまではライアナを拠点にして戦うことになるでしょうから、協力していただかないと困ります。」



 サラにはフォモール族を全滅させる自信があった。ゼギアスからも許可は出てる。

 何せ、ゼギアスとサラにとって同族のデュラン族を滅亡寸前にまで追い込んだのがフォモールだ。この際、根絶やしにすると決めていたのだ。


 「できることは何でもする!」


 「判りました。早速動きましょう。」


 サラはニッコリと笑って返事をした。

 オレジノは感謝の言葉を述べ、立礼した。





◇◇◇◇◇◇



 フォモールの五度目の侵攻の際、フォモール族は完全に舐めていた。

 ・・・・・・人間など食べ放題だと。


 ところが今回は今までと違った。

 

 鷹人族が乗った飛竜が空からトウガラシ爆弾を落とし、巻き上がったトウガラシガスが巨人達の目と鼻を奪う。目も見えず、鼻も効かない状態で、口から涎を撒き散らしながら手足を振り回すだけのところへ石化魔法でフォモール族は次々と石化させられていく。

 石化された仲間は地上の兵に斧や槌で粉々に壊されていく。

 三万居たフォモール族は何もできず、ライアナへの侵入もできないまま全員石にされて砕かれてしまう。ゴルゴンとコカトリス、そして厳魔は大活躍である。


 全軍指揮は初めてのリアトスであったが、あまりに一方的な戦いになってしまい、アロン同様に”つまらんな”と呟いてる。フォモール族の弱点を突いてると判ってはいてもリアトスには手応えがなさ過ぎるのだ。勝ちが見えた単純な作業に過ぎないから仕方ない。


 サロモン軍はフォモール方面へ徐々に戦線を押し上げていった。

 リアトスは慎重で、これだけ一方的な戦いでも油断はまったくしない。

 サロモン軍の死角からフォモール族が攻めて来ないか常時グリフォンが上空を巡回して警戒した。


 ライアナからは国王の長男ケネスが参軍し戦いを見守っていたが、サロモン軍の一方的な戦いに、ライアナ軍が弱すぎたのか、サロモン軍が強すぎるのかと悩んでいた。いずれにしてもサロモン軍と敵対するのは自殺行為だと感じた。


 そして、フォモール族最後の日がやってきた。この日はゼギアスもサラもラウィーアも参軍していた。デュラン族の敵フォモール族の最後を記憶にとどめておくためだ。


 フォモール最後の一人となった族長フェアラーにはゼギアス自身が向かう。

 ヴァンレギオスにあるラウィーアが居た宮殿の前の広場である。

 中央の噴水は壊されていて、周囲には既に人気のない住居が建ち並んでいた。


 フェアラーは倒れた味方を踏み越えてゼギアスの前に棍棒を持って立つ。

 牛頭の口から涎を垂らし、息も荒く目を血走らせている。

 足場を踏みならし、ゼギアスに今にも襲いかかろうとしていた。


 フェアラーを前にしたゼギアスは不敵な笑みを浮かべ、聖属性の龍気を全身に漲らせ、ゼギアスの身体が光り輝いている。

 ナザレスとの、そしてエルザークとの訓練を通じて、ゼギアスの化物度は数年前と比較にならないほどになっていた。余裕があるという表現では生ぬるい・・・・・・少なくとも敵の前にいるという雰囲気ではないのだ。


 ゼギアスを見守るサロモン軍のメンバーにも、ゼギアスが負けるなどと感じてる表情はなく、どのように勝利するかだけに絞られた興味・・・・・・それだけが浮かんでいた。


 フェアラーがゼギアスに駆け寄り、振りかぶって打ち下ろされた握った棍棒を平手でバシィッと砕き、棍棒を失い向かってくる拳に拳を当てるとフェアラーの拳がグシャァっと砕け去る。フェアラーの攻撃がそのまま数倍の攻撃となって返され、フェアラーは片手を失う。そのまま両手を潰され、そして両足も折られ、腹から胸にかけてゼギアスの拳を矢継ぎ早に受けると、口から涎と泡を出しながら、グガガ・・・・・・ウガグガ・・・・・・ウガと声とは言えない音を出して息を引き取った。

 

 「・・・・・・お兄ちゃんはもうこの世の者じゃないね。」


 戦いの様子を見ていたサラが呆れた声で言うと、ラウィーアは


 「さすがはデュラン族の神!私の愛しの旦那さま!!」

 

 と手を叩いてはしゃいでいる。


 戦いですらなかった。一方的な虐殺だったのだが、フォモール族が犯した過去から今に至るまでの所業を思えば、ゼギアスもサラも心は痛まなかった。


 フェアラーが倒れ、フォモール族の全滅が確かとなったことを知ったサロモン軍は歓声をあげ、勝利の喜びを叫んだ。


 「ラウィーア、これでヴァンレギオスは取り戻した。どうする?」


 フェアラーの血で汚れたゼギアスの身体をタオルで拭くラウィーアに聞く。

 魔法で汚れを落とすこともできるのだが、ラウィーアがゼギアスの勝利を祝うように拭いてるものだから止められない。


 「ここはレーティヒとマドリュアス達に治めさせようかと考えています。望むなら他の仲間にも協力してもらえば・・・・・・。」


 「ラウィーアは戻らなくていいのかい?」


 「私の居るべき場所はゼギアス様、あなたの居る所です。デュラン族の願いをあなたが叶えるところを私は見たいのです。」


 ”そうか”とゼギアスは答え、ラウィーアの意見に従い、フォモールの領地も合わせたヴァンレギオスはレーティヒ等に治めさせると決めた。ラウィーアから伝えられたレーティヒは”これからも私達はラウィーア様、ゼギアス様の配下です。必要な時はいつでもお呼びください。”と付け加えて、ヴァンレギオスを引き受けてくれた。


 そして一旦サロモン王国へ移住したヴァンレギオスの住民のおよそ半数が、新しいヴァンレギオスの復興に協力すると申し出る。およそ千名のマドリュアスは木の精霊で基本的に食事の心配はない。空気と水と大地、そして陽の光さえあればいいのだ。そして戻ると決めたのは獣魔系の猿人でその数五百名ほどで、マドリュアスと合わせても千五百名。


 サロモン王国はヴァンレギオスの開発にまで当分人手が回らないから、しばらくはのんびり暮らして貰えればと考えている。フォモールから襲われることは無くなったのだから安心して暮らせるだろうし、必要に応じて徐々に改善していく予定。他の地での仕事が終えれば、ここの開発にも本格的に着手できるだろうしね。


 ゼギアス達は一旦ライアナに戻り、ライアナの今後について話し合うこととなった。

 

 ライアナに戻ると、国王オレジノを始めとする大勢がサロモン軍を歓迎した。ゼギアスがサラと共に報告しようと国王の前に出ると、


 「この度の件で我が国が貴国から受けた助力に深く感謝致します。」


 今後はサロモン王国とも友好関係を結びたい。だから奴隷を使役せずに国を運営できる方法を教えていただきたい・・・・・・などなどと言ってきた。どうやらカンドラからいろいろ聞いたようだ。

 それはいいのだが、ジャムヒドゥンと隣接してるライアナの軍が壊滅してしまった以上、ある程度の軍を整備しなくてはならない。まずはそれをどうするかだ。ただ、新兵から鍛えるとなると最低でも一年や二年はかかる。サロモン王国としても、ここに常駐しておける軍は今は無い。


 「当面は、国民皆兵でしのぎます。ジャムヒドゥンもリエンム神聖皇国との戦いで痛手を負ったと聞きますから、当分、我らにまで手は回らないでしょう。」


 ほう、何でも他人に縋ろうとしないのは偉いな。

 ライアナの国王はサラからキッツーイ一言貰ったようだけど、まともなところがあるね。


 まあ、確かにそれはいいかもな。

 万が一のときは俺が転移して時間稼ぎすればいいか。

 同時にカリネリアからも兵を出せば、ジャムヒドゥンへの敵対意思がないライアナに構っていられなくなるだろう。


 フォモール族滅亡で、とりあえずヴァンレギオスとライアナの安全は確保された。

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