44、カリネリアとの戦い
カリネリア自治領主マクシム・コウトニクと約束した期限の一ヶ月があと四日で過ぎようとしている。
サロモン王国ではアロンが二十万規模の軍編成し、既にカリネリアへ向かっている。二十万の軍勢はサロモン王国全戦力のおよそ半数であった。カリネリアだけが相手ならかなりの過剰戦力だが、ジャムヒドゥンもしくはコルラード王国がカリネリア支援に参加してくる可能性を考えるとこの程度の軍勢は最低限必要だった。
カリネリアの隣国フラキアはカリネリア同様のエドシルド参加自治体だが、他国を支援するための余剰戦力は無いとカリネリア支援は断っている。だが、サロモン王国のフラキア方面からの侵攻はエドシルド加盟自治体として阻止すると主張した。カリネリアは、フラキア方面以外からの侵攻に注意してくれということだが、エドシルドの他国からの支援も当てにできない以上、カリネリアにとってはフラキアは壁でしかない。
念のためジャムヒドゥンへの警戒のため二十万の軍勢を用意したアロンだが、ジャムヒドゥンが南西の小国を守るために軍を出してくることは無いと読んでいた。相変わらずリエンム神聖皇国との戦争は継続してるし、グラン・ドルダ選出法を巡って士族間の信頼に溝が入ってる中、約定もない他国の事情に構う余裕はないと判断していた。それでも全軍を預かる身としては万が一に備えなければならない。
大軍を動かすとき最も気をつけなければならないことは予定地までの移動だ。その数を生かせない地点や大軍だからこそ不利になる地点を通過しなくてはいけない場合がある。そういう地点を損害を出さずに通過するためには、先行偵察による状況確認はもちろん軍を分けて通過させたりと工夫する必要がある。
ただ、サロモン王国には空中部隊があり、上空からの広域確認が可能だし優れた地上探索部隊もいるのでアロンはこの点はさほど心配はいらないと考えてる。
ゼギアスは最初偵察部隊に双眼鏡でも持たせようかと考えていたが、エルザやクルーグと同じ種族鷹人族を飛竜に乗せたほうがより遠くより広範囲を探索できるとアロンから言われ納得した。鷹人族は人間の八倍の視力を持ち夜目も効くのだから双眼鏡程度は要らない。
また地上は、シャピロと同じ種族人狼族がその特性を活かして広範囲で罠などがあれば報告または撤去していく。人狼族は最高速度こそ兎人族などより劣るが、スタミナがあるので時速三十キロ程度でなら長時間移動できる。更に視覚や嗅覚も優れていて罠の発見が容易。
そして先行偵察部隊は皆意思伝達ネックレスを装備しているから、どんなに離れていてもアロンのもとへ情報は届き、受け取った情報をもとにアロンは軍を素早く指揮する。
サロモン王国軍を相手に奇襲をかけたり、罠を仕掛けるのは非常に困難と言えよう。
カリネリアまであと一日のところでキャンプを張り、カリネリアとコルラード王国の動きを確認するためアロンは空中偵察を出す。
「マルファからの報告では、ヤジール将軍は交戦後ある程度剣を交えたら撤退する様子とのことだが信用できそうか?」
ゼギアスはアロンに確認する。
カリネリアは実際のところ敵ではなく、コルラード軍の実態こそが問題だ。
ヴァイスハイトは、こちらから同盟を申し込みをコルラード王が断った時点でコルラード軍の動きは・・・・・・ヤジール将軍の動きは誘導されると言う。ヤジール将軍が将軍としてのみ動くのであれば、カリネリアを守るためにその力を発揮すべく奮戦するだろう。だが、次期国王のヤジールとしては、サロモン王国と対等の立場を保ちたいと考えるだろうから、マルファが出した手をこっそりと握りつつ、カリネリアへの義務も果たしたと表面上装いたいはずだ。
もちろんコルラード王がサロモン王国との同盟に賛同していれば、大軍を派遣することなくカリネリアを占領しえた。そのほうがサロモン王国としては楽だったが、一方でサロモン王国の軍勢を諸国に見せつける機会を設けられたと考えることもできる。
現時点では、サロモン王国の全貌を知る国は居ない。これには長所もあれば短所もある。長所は、敵がサロモン王国を侮りやすいという面で戦争になった場合は有利に働きやすい。短所は、戦争しなければサロモン王国の実力を理解しないから、脅しに屈してくれない点。
今回はサロモン王国軍の半数近くを派遣し、その力は公になる。だが、やはりサロモン王国の現状は明らかにならない。敵からすれば半数だとは判らないのだから、サロモン王国軍の力を知ったところで、やはり敵には真実は判らない。だが、今回でサロモン王国軍の力を知ることで、小国とは取り引きしやすくなるだろう。
今回はコルラード王国に力を見せることができる。これが目的の一つ。
”フフフ・・・・・・せいぜい脅かしてあげてください”とヴァイスハイトは悪い顔をして笑っていた。
ゼギアスやアロンならまだしも、あの真面目なヴァイスハイトが悪い顔で笑うとはとゼギアスは驚いた。まあ、この世界にはまだ無いあるモノを使ってコルラード軍を脅すことになってるのだが、その案を出したのがヴァイスハイトで結果の報告を楽しみにしてるようだ。
「信用などしてませんよ。ヤジール将軍がまともに当ってくる想定もしてありますし、その際は悲惨な状況が向こうに待ってるだけです。将来を考えると、ここでぶつかってきてくれる方が楽かもしれません。策は用意してありますし、心配せずにいて大丈夫です。」
おおよその話は聞いているから心配はしていないが、できることならこちらにも向こうにも死者は出したくない。ヤジール将軍が早めに撤退してくれることを祈るばかりだ。
「じゃあ、俺はカリネリアに飛んで最後通牒を叩きつけてくる。その後は勝手に動くつもりだが連絡は必ず入れる。こっちは頼んだぞ?」
”了解しました。”と頷くアロンを置いて、俺はカリネリアへ行く前にフラキアの領主宅へ転移した。
◇◇◇◇◇◇
フラキアに来た目的は、明日以降のカリネリア占領について説明すること。
それとエドシルドの動きを領主から確認すること。
俺は、領主宅のノッカーを叩いて門の外で待っている。
数分後には、いつもの様に侍従長が迎えに来て、領主の部屋まで案内される。
事前に伺う旨は思念伝達で領主に伝えておいたので、領主は部屋で待っていてくれた。
「こんにちは。今日は私に時間があまりないので早速用件を始めたいのですが、宜しいですか?」
立ったままで失礼することを謝罪し、領主が頷くのを見て話を続ける。
カリネリア方面の状況報告をさっさと済まし、関心あるエドシルドの動きについて俺は確認する。
「フラキア、カリネリア以外のエドシルド参加自治体は何か動きを見せているでしょうか?」
「エドシルド連邦の盟主国エドシルドを始め、カンドラ、ライアナ、フリナム、レイビスの参加自治体全てが静観を決め込んでます。」
各自治体とカリネリアとの間にフラキアがあることもあり、まだ慌てる状況ではないと考えてるだろうとのこと。
「カリネリアの危機的状況なのにどこも支援しようとしないのですか?」
「それはエドシルドの性格があくまでも対ジャムヒドゥンに偏っていて、更に、カリネリアは自前の軍を持たない自治体であることも影響してると思います。自分達が危機に陥ってもカリネリアからの支援は金銭に限定されますからね。」
援助された金で傭兵を雇えば良いではないかとか、ジャムヒドゥンとの交渉で金を使えばいいのではと思うのだが、貧乏だったフラキアならともかく、自軍に被害が及ぶリスクを犯してまでカリネリアからの支援を必要としてる自治体はないのだそうだ。
「カリネリアが占領された時は、エドシルド連邦として批判声明は出すでしょうが、水面下ではサロモン王国と接触し、対ジャムヒドゥンの駒にしようと動く自治体は出てくるでしょうね。」
「なるほど。わかりました。今後の対エドシルド連邦方針については、カリネリアの件が済んだら話し合いましょう。今日はお忙しいところありがとうございます。私はここで失礼させていただきます。」
当面、エドシルドに動きはないと判ったので、早速カリネリアへ向かう。
ゼギアスは領主へ一礼してその場からカリネリアへ転移していった。
◇◇◇◇◇◇
カリネリアの自治領主宅前に転移したゼギアスは門のノッカーを叩く。
館から出てきた執事はゼギアスの顔を確認すると、門を開けずにそのまま館へ引き返した。数分後に、自治領主マクシム・コウトニクが玄関から出てきた。
その顔は緊張していたが、ありったけの威厳を総動員してゼギアスに尊大に告げる。
「今日は何をしに来た?ゼギアス・デュランよ。」
「期限は明日だが、奴隷を解放する気になったか?」
「いや、奴隷は解放せんよ。カリネリアを維持できなくなるのでな。」
「そうかい。じゃあ、明日また顔を合わせよう。その時には一切の譲歩はなしだ。いいな?」
”そちらこそ情けない顔を見せるでないぞ”とゼギアスの後ろ姿に叫んでいたが、ゼギアスはそれを無視してアロンのところへ転移した。
その様子を二階のカーテン越しに長男のセドリックは見ていた。
コルラード王国と傭兵の準備を整えたセドリックの表情は、期待と不安が同居していた。
「奴を・・・・・・ゼギアスを戦場から離す算段はした。あとはゼギアス抜きのサロモン王国軍に勝てるかだ・・・・・・。」
明日に迫った開戦にセドリックも緊張を隠せないようで、額に流れる汗に気づきもせず、既に去ったゼギアスが居たところを眺めている。
・・・・・・
・・・
・
休憩地に戻り、アロンのテントへ戻る前に兵達の様子をゼギアスは見て回る。
さすがにはしゃいでる者は居ないようだが、表情は固くもなく緊張の様子は見えない。今回が実戦初めての者も多いが、厳しい訓練に耐えてきたせいか自信もやや見られる。
アロンによると、サロモン王国の最後の戦いであったリエンム神聖皇国のバーミアン戦闘神官率いる軍との戦いで、勝つには勝ったが相当苦戦した経験がわが軍の指揮官達から油断を奪っている。だが、その経験のおかげで、この数年の訓練は常時実戦を想定したものになり、指揮官の指示に柔軟に対応する軍に育っているという。
「みんな!いよいよ明日だ。地上部隊の出番はないかもしれないが、それでも油断せずに頼む。怪我一つ負うこと無く国に戻ること!宜しく頼む。」
俺の言葉に軽く腕をあげて大勢が応えてくれた。
そう、明日は空戦部隊によるちょっとした実験を行う予定で、効果があればコルラード王国軍は退却するしかないはず。そうなれば地上部隊の出番はないから、無傷で全軍を国に帰せる。
みんなにも家族や友人が居る。
”ただの長時間散歩だったよ”とみんなが笑い合える結果に落ち着きたいものだ。
皆の様子を一通り確認してからアロンのテントへ戻った。
「おかえりなさい。どうでしたか?」
アロンはアロンで明日の戦地の地図を広げ、自分がたてた戦術の確認をしていたようだ。
「ああ、カリネリア自治領主は奴隷解放しないと言っていた。つまり予定通りさ。」
カリネリアには興味なさげにアロンは言う。
「好きにさせておけばいいんですよ。どのみち解放するしかない・・・・・・というか、明日には自治領主の座から落とされるんですから彼らの返事など形式に過ぎないんです。ゼギアス様もその辺り物好きですよね。」
「そう言うなよ。奴らにだって最後通牒くらい受け取らせてやったっていいじゃないか。」
俺の言葉にフッと笑ってから
「最後通牒って書状で出すものですけどね?まあ、そのズボラなところ嫌いじゃないですよ。」
「あらま、そうか・・・・・・今度から気をつけるよ。・・・・・・しかし、こちらのこと詳しくも知らないのに自信ありげだったな・・・・・・。」
「ヴァイスハイト様も私も態度こそ余裕あるように思われますけど、いつも不安を抱えてますよ。皆の手前不安な顔見せられないですしね。カリネリアもそうかもしれない。」
「なるほどな。俺相手に弱気なところは見せられないってところか。」
不安を消すために戦術の見直ししているアロンの邪魔はできないし、ついでに夕食まで休もうと俺は横になって目をつぶった。
◇◇◇◇◇◇
翌日、俺達はコルラード王国軍との接触予定地点まで着き、予定通りの陣形をとった。先行偵察から、コルラード軍の他に別方向から二万名超の傭兵が近づいているという報告があった。
・・・・・・傭兵を二万名超ね・・・・・・金使いすぎだろう。
大陸中の傭兵かき集めたんじゃないだろうな。
まあ俺の財布じゃないからどうでもいいんだが、これには少し驚いた。
自前の常備軍を持たないから、ここぞという時には大金ばら撒くのも仕方ないんだろうな。
しかし、頭数だけ集めても今回の戦線ではあまり意味ないんだよな。
そもそも二万名の傭兵をどのようにまとめて誰が指揮するのか決めて、その指示に従う体制を作ってるのか疑問だ。確かに、傭兵が戦争を仕事にしてる以上はそこそこ使える者が集まってるのだろうと思うが、指揮命令系統が整備されていないと烏合の衆でしかない。
まあ、いい。
コルラード軍は様子次第で手出ししないので、地上部隊の実戦訓練に利用させてもらおう。傭兵には情けかけなくていいしな。
コルラード軍も陣形を整え終わったところで、白旗を掲げた軍使のような者がこちらに向かってると報告があった。
”はて?まだ戦端も開いていないのに降伏はありえないし、捕虜交換もない。こちらの意気を知ってるヤジール将軍が降伏勧告なんかするわけもないだろう。なんだ?”と訝しんでると、俺への書状を持ってきたらしい。
アロンも”この機になんでしょうかねえ?”と書状の内容に興味深々。
書状は、カリネリア自治領主から俺宛てで、内容を要約すると
”別に人質にしてるわけではないが、奴隷の身が心配ならゼギアス本人が鉱山に向かわれたし”
・・・・・・・・・・・・あの自治領主、何かしやがったのか?
「アロン!ここは全て任せる!コルラード軍の動きに対応するくらい簡単だろ?」
俺は体全体から怒気を発して、アロンに否と言わせない強い口調で命令した。
「造作もないことです。こちらは安心しておまかせを。」
書状の内容を聞いたアロンはいつものゆったりとした表情と異なり真剣な顔で答える。奴隷への非道な行いには俺がもっとも怒りを感じるとアロンはよく判ってる。俺が纏ってるものは、茶化したり冗談など言える空気ではない。
”じゃあ、任せた。状況だけは随時教えてくれ。”とアロンに声をかけ、俺はカリネリアの金鉱山まで転移した。
・・・・・
・・・
・
鉱山に到着すると、違和感をすぐ感じた。
辺りには誰の姿も見えない。
通常は、採鉱した鉱石の運搬したり選別作業する人員の動きが坑道の外にあるはず。サロモン王国の鉱山でも手作業は必須で、その他に多油浮選を用いているがやはり人の手は必要だ。
それがまったく見当たらないのだ。
自治領主の書には”鉱山へ行け”とあった。
もしや坑道内に・・・・・・。
俺は目の前にある坑道へ急ぎ入っていった。
わざわざ俺を呼び出したのだから、坑道内で何も起きていないはずはない。
俺は中で何かやりやがったんだとほぼ確信し、薄暗い坑道の奥へ進んでいった。
途中で三方向に坑道は分かれていた。
とりあえず右端の坑道を選び奥へと突き進む。
やがて壁に突き当たったが、岩盤ではなく崩落事故による土砂の壁だ。
俺は土属性魔法でこれ以上崩落が起きないよう天井を固め、それから壁になってる土砂を砂に変えた。砂に変わった土砂は風属性魔法で坑道の外へ向けて吹き飛ばす。これで有毒ガスが空気中に混じっていても薄まるはず。
目の前の障害と取り除き、そのまま奥へ進むと、作業員が大勢倒れているのを見つけた。
酸欠か!?
それとも有害ガス!?
近くに倒れていた作業員を確かめると、まだ息があった。
助けられるかもしれない。
(サラ!ベアトリーチェとスィール、その他治癒回復魔法を使える者五名と坑道内から人を運び出す要員十名程度を連れてカリネリアの金鉱山まで至急来てくれ!転移魔法使える者をフル動員してくれ!!)
治癒回復役を呼んでから、俺は倒れてる者達を連れて坑道の外へ転移した。
一度にせいぜい四名が限界でもどかしかったが、今はできることをするしかない。
倒れていた者の中には女子供も居た。
・・・・・・何ということを・・・・・・。
この崩落事故は偶然じゃない、人為的な崩落だ。
奴隷達全員を坑道の奥へ閉じ込めておくためにやったんだ。
脳が沸騰するんじゃないかと思えるほどブチ切れていたが、今は救助が優先だ。
・・・・・・・・・・・・あとで、必ず思い知らせてやる。必ずだ!
一つ目の坑道の奥には六十名程が閉じ込められていた。
坑道が分かれていた場所へ戻り、二つ目に入っていく。
・・・・・・・・ここも同じ状況だ。
俺は土砂をどけて、坑道奥に空気が流れ酸素が入る状況を作ることを優先し、二つ目と三つ目の坑道の土砂を先に取り除いた。
分岐点に戻り二つ目の坑道に再び入ろうとしたとき、救援の仲間がやってきた。
五名づつ二組に分け”奥に倒れてる同胞がいるから急いで外へ運び出してくれ”と指示して俺は坑道の奥に突っ込んでいく。
・・・・・・急がなければ。
息さえあればサラ達が助けてくれる。
俺はひたすら転移を繰り返した。
多分、俺の表情は泣きたいのか怒りたいのか判らないものだったと思う。
同胞をこんな目に遭わせた奴らへの怒り。
だが、それは俺がきっかけを作った所為という悲しみ。
・・・・・・ああ、またやってしまった・・・・・・何度同じこと繰り返せば俺は判るのだろう。
周囲からどう思われようと、どれだけ非難されようと、解放すると決めた奴隷は先に救出しなくてはならなかったんだ。
・・・・・・奴らは亜人や魔族の命など何とも思っていないと判っていたはずじゃないか。
ちくしょう!
・・・・・ちくしょう!!
・・・・・・・・・・・ちくしょぅぅぅう!!!
何が化物だ。
俺はどうしようもない馬鹿者だ。
安全に救う手段がありながら、綺麗事に拘って同胞の命を危険に俺は晒した。
怒りと悔恨の奔流が、俺の理性を失わせようと暴れてる。
・・・・・・
・・・
・
「どうだ?サラ、皆助けられそうか?大丈夫か?」
酷い酸欠となると脳細胞が破壊されることもあると知ってる俺は焦っていた。
脳に障害が残ったらどうしよう・・・・・・サラの力で回復するのか?もしそうなら有り難いが、無理だったらどうしよう・・・・・・。
「落ち着いて、お兄ちゃん。治癒と回復が終わった後、障害が残った方は私が必ず治すから・・・・・・、だから落ち着いて!」
俺の目は焦点を失っていたと後にサラは言っていた。
俺の動揺はかなりのものだったらしい。
「・・・・・・サラ・・・・・・頼む・・・・・・サラ・・・・・・みんなを助けてやってくれ・・・・・・俺のせいだ・・・・・・俺のせいなんだ・・・・・・俺が甘かったせいで・・・・・・。」
しゃがみこんだ俺はサラに頼むことしかできなかった。
「お兄ちゃんはここに居ても邪魔よ。後のことは私がベアトリーチェさんとスィールさんとで責任もってやるから、こんなこと仕出かした愚か者に思い知らせてきなさい!それがお兄ちゃんの役目でしょ?」
「あなた!しっかりしなさい!ゼギアス・デュランの怒りをあの自治領主に思い知らせてくるのです。」
「ゼギアス様、もしここを襲おうという輩が来たら私が退治する。心配しないで行ってきてください。」
サラ、ベアトリーチェ、スィールそれぞれが俺を叱咤する。彼女達の目にも怒りがあった。俺と同じく怒ってくれている。
ああ、必ず報いを受けさせてやる。
・・・・・・簡単に殺してもらえると思うなよ。
俺は黙って頷き、領主宅へ転移した。
・・・・・・
・・・
・
領主宅の前に転移した俺は、まず門を蹴り飛ばした。
はちきれんばかりの怒りのせいか、やりきれない悔恨のせいか、俺の身体には力が漲り、館ごと破壊できそうな勢いで鉄の門を蹴り飛ばした。
無言で玄関まで歩いて行き、闇属性龍気を混ぜて火系魔法を撃つ。俺の手から赤い光が膨れ上がり、扉以上の大きさまで膨れたとき、扉に向けて光の塊を撃ち込む。館に火が広がると同時に、火に触れたところは消え去っていく。
フン。
中に居れば楽に死ねるだろうよ。
玄関前で静かに火が燃え移っていく様子を見ながら、館の様子を伺う。
窓から自治領主を抱えた侍従が飛び出てきた。続いて長男も。
侍従の服には火が移っている。
可哀想だが、悪い主人に仕えたと諦めてくれ。
自治領主の関係者には、一遍の情けもかけないと誓ったんだ。
大声をあげながら消えていく侍従から自治領主は離れ、その様子を見ていた長男も腰を地面につけたまま動かない。
「・・・・・た・・・・・・たす・・・・・・助けてくれ・・・・・・金ならいくらでも用意するから・・・・・・。」
「・・・・・・。」
俺は無言で自治領主のそばまで近寄り蹴り飛ばす。
ドンッと言う音と共に長男にぶつかる。
「許してくれ、奴隷は解放する。な?これでいいだろ?」
「・・・・・・。」
石ころを蹴るように再び領主を蹴る。
横に居た長男の足をガンッと踏み潰す。
領主は横たわり蹴られた腰を押さえながら、ガッグハッと呻いている。
ガアァァァァァァァッと潰された足を押さえながら長男は地面を転がっている。
(アロン。そっちの状況はどうだ?)
(空戦部隊の例のアレでコルラード軍は撤退。今、厳魔達がせっかく出向いたのだからと傭兵たちを蹂躙している最中です。あと三十分もすればこの戦争はおしまいです。)
「コルラード軍は撤退、傭兵たちはうちの仲間に蹂躙されてるぞ。」
「なっ!」
潰された足を抱えながら長男セドリックが俺を見た。
大きく見開いた目には驚きと失望が見える。
こいつには予想外の展開のようだが、こちらは想定通りなんだよ。
さて、こいつらの始末だが・・・・・・被害者に決めさせよう。
俺は自治領主と長男を掴んで坑道入口に転移した。
・・・・・・
・・・
・
サラ達のところに着き、二人をゴミのように投げ捨てる。
サラ達の治癒と回復のおかげで、数十人がしゃがんで他の仲間の様子を伺っていた。そばに近寄りたかっただろうが、サラ達の仕事の邪魔になるとでも考えたのだろう。誰も作業の邪魔になるような動きはしていない。
「みんなをこんな目に遭わせたのはこいつらだ。だが、みんなの主人でもある。俺はこいつらをすぐにでも消去したいのだが、みんなの気持ち次第では助けてもいい。こいつらを助けたいものはいるか?」
皆の視線が自治領主と長男に集まる。
だが、誰ひとりとして口を開かない。
「お前達!主人の助命をせんか!!」
自治領主マクシムは、こんな状況でも尊大だ。
命令できる立場だと思ってんのかね。
思ってるからこそ命令口調なのだろうな。
「頼む!命だけは取らないよう頼んでくれ!」
長男セドリックの方は状況が判ってるのだろう。
奴隷達に頭を下げて命令ではなく依頼の口調だ。
だが、誰も口を開かない。
「答えは出たようだな。」
俺が二人に近づきながら言うと
「この件はセドリックが・・・・・・息子のセドリックが仕組んだことだ。あんたを・・・・・・戦線に参加させないようにと・・・・・・あんたは奴隷の命に危険が迫ると放おってはおけないはずと・・・・・・。」
こいつはクズだな。
長男が言い出したことでも、受け入れた時点で同罪なんだよ。
息子に責任転嫁して自分だけ生き残ろうとするその姿勢には反吐が出る。
「関係ない。どうせ二人とも処刑する。」
自治領主にもう口を開かせたくないから、先に報いを受けさせる。
だがこの場には幼い子どもも居る。
処刑の現場は見せたくない。
仲間に頼んで、子どもたちを近くの作業小屋へ連れて行ってもらう。
子どもたちが連れ去られる様子は、自治領主に自分の命に終わりが近づいていると予感させたのだろう。
「頼む。命だけは助けてくれ。」
涙や鼻水たれ流しながら地面に頭をこすりつけて懇願している。
「お前は一度でも、俺の同胞の意見に耳を傾けたことがあるのか?」
俺は自治領主と長男を結界で覆い、ぼっち結界状態にする。
そして自治領主の結界の中から空気を結界外へ出していく。
同胞が味わった酸欠状態をその身で味わってもらうのだ。
自治領主は、吐き気を催したようで、ゲェゲェと吐いている。この状態を維持すればそのうち昏睡し死に至る。俺はこの状態で結界から空気を抜くのをやめ、次の長男に取り掛かる。自治領主の結界よりもゆっくりと空気を抜いていく。
自治領主の様子を見て、次は自分だと悟ったセドリックは”やめろ!やめてくれ!”と叫び、潰れた足を引き釣りながら移動しようとするが、結界に阻まれ進めない。
ちらと自治領主を見ると、昏睡状態に陥っているようだ。このまま放置して置けば勝手に死ぬ。
「お前が俺の同胞にしたことはこれだよ。同胞に与えた恐怖を味わって死んでいけ。」
サラ達は、セドリックに見向きもせずに治療を続けている。
救助された仲間達は、感情に乏しい視線で自治領主とセドリックの様子を無言で見つめている。
(ゼギアス様。こちらは終わりました。この後はどうしましょうか?予定通りにカリネリア占領で構いませんか?)
(ああ、そうしてくれ。俺はもうしばらく鉱山にいるからよろしく頼む。)
アロンからの報告を聞いている間に、セドリックも吐き気を催し始めたようだ。
喉に手を当ててゲェ・・・・・・ハァハァ・・・・・・ゲェェェェと苦しんでいる。
「・・・・・・た・・・・・・助けてくれ・・・・・・ゲェエッ・・・・・・俺が・・・・・・悪かった・・・・・・。」
「お前は幸せだなあ。助けを求める相手が居て。・・・・・・同胞は誰にも頼めなかったんだ。因果応報ってものを覚えて後悔して死んでゆけ。」
しゃがんで自治領主達への処刑を見守ってる者達を見渡した。
恨み言を言うでなく、ただジッと見つめている。
セドリックの口からまともな言葉は出てこなくなった。こいつももうじき昏睡する。
自治領主は既に死んでるので、闇属性龍気を纏わせた火系魔法を自治領主の結界内に放り込む。これで骨も残らずに消えるだろう。
やがてセドリックの身体も動かなくなったので自治領主同様に消す。
「みんな苦しい思いをしただろうし、今までのことを思えば自治領主達が居なくなっても気持ちは晴れないかもしれない。だが、この場はこれで勘弁してくれ。それで・・・・・・できればサロモン王国に来てくれないか?今すぐ決めなくてもいい。いつでもいいから、もしその気になったら言ってくれ。」
サラと奥様二人にこの場を任せ、俺は占領を始めるアロン達のもとへ転移した。




