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ロード オブ フロンティア ―― 次元最強の転生者  作者: 湯煙
第一部 グランダノン大陸編 第一章 序章
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4、亜人狩り

 オーガの襲撃を退けた翌日、ゼギアスとサラは家に帰る準備をしていた。

 

 お兄ちゃんの力を知った以上、エルフはお兄ちゃんを味方にしたいと考えるはず。

 ベアトリーチェさんやマルティナさんをお兄ちゃんの嫁もしくは嫁候補にしたいと伝えてくる可能性は高い。そして泉の森に留まらせておこうと考えるかもしれない。


 お兄ちゃんがお嫁さんを貰うのはいい。

 でももう少しベアトリーチェさん達を見極めたいところだわ。


 今のところは友達くらいがちょうどいい。


 サラはそう考えていたので、ベアトリーチェ達が友好を深める目的でサラ達の家のそばに引っ越してくるという提案にはまったく異論がなかった。


 想定外の問題でも起きなければ、お兄ちゃんはベアトリーチェさん達を気に入るはず。私だって気にいるはずだわ。



 一方のゼギアスはというと、ベアトリーチェ達が家のそばに引っ越してくると聞いて大喜びしていた。もちろん下心はある。でもそれ以上に、サラの友達にもきっとなってくれると喜んでいた。


 サラは俺のことを構いすぎて友達が少ない。

 一人でも多くの友達を持ってもらいたい。


 友人が多ければ多いほどサラにとっての幸せもきっと多いだろう。

 それは、いつか自分と離れて暮らすことになったときに現れるに違いない。


 ベアトリーチェ達の引っ越しは、兄弟揃って相手のためにいいことと考えていたのだ。





◇◇◇◇◇◇




 ベアトリーチェ達の家が建ち、引っ越してきたのは冬が始まってすぐのことだった。

 雪は降り始めていたが、まだたくさん積もるほどではなく、ゼギアスも手伝ったため引っ越しは比較的楽に終わった。


 「山を越えると魔獣をまったく見かけなくなりますね」


 マルティナがサラと話している。

 このあたりの情報を早めに知っておきたいと言うので、サラが教えている最中。


 ちなみに、ベアトリーチェたちの家は俺達の家のすぐ隣。

 風呂小屋を是非使いたいと言うので、快く使えるよう家も隣がいいねということになり、隣接して建ててもらったのだ。

 ついでに我が家の傷んでいたところも修繕して貰った。

 だいぶ古くあちこち傷んでいたので、とても有難い。



 うちの近所の魔獣はほぼ俺が仕掛けた罠に捕らえられた、もしくは俺に直接捕まったし、フォレストパンサーのような多少は賢い肉食獣は近寄らない。うちの近所は草食獣の楽園状態だ。


 おかげで比較的安全な地域なのだが、魔獣の毛皮や牙が必要な時は山で探す必要があり少し面倒になった。まあ、山をうろつく機会が増えたことで良いこともあるんだが……。



 「燃料は薪じゃないんですか? 」


 マルティナが驚いている。

 薪以外の燃料があることすら知らないようだった。


 大陸北東部の大国ジャムヒドゥンでは、遊牧民が家畜の糞を燃料にすることもあると聞いたこともある。だが、この辺りでは薪以外の燃料は使われてないようで、マルティナが知らなくても仕方ないか。それに石炭だしな。この世界ではまだ利用されていないし。


 薪をまったく使わないわけじゃないが、うちの燃料の主力は石炭だ。

 山をうろついているときに、石炭が表層に出てる地層を見つけたのだ。

 その地層から石炭を掘り出して、サラに燃える所を初めて見せたときは結構驚いたものだ。


 だから我が家には石炭ストーブがある。

 形状を教えて鍛冶屋に頼んで作ってもらった我が家自慢の暖房器具だ。


 更に、石炭からコークスを作ってるのだが、コークスを作る過程で出るガスを利用してゴミを燃やしているし、同じくコールタールが出て来るのでそれを利用して床下の木材などに塗って防腐剤として利用している。ベアトリーチェの家の床下にもコールタールを塗った木材を詰めて家の断熱性を高めている。できたコークスは里の鍛冶師に売ると喜ばれるんだ。


 フフフ、前世で覚えたことを可能な限り活かしている俺って偉い。

 自分で褒めてるのがキモイってサラには言われそうだから黙っているが。





 

◇◇◇◇◇◇



 



 冬が本格的になり、俺も天候の良い日にだけ薬草取りに出かけるようになった。

 では天候が悪い日には何をしているかというと、トレーニングである。

 基礎体力を高める訓練と集中力を高め魔法や龍気の機能や強さを自在に操る訓練である。これが結構しんどい。でもいざという時のために日々訓練する。冬は薬草取りや魔獣の捕獲などの仕事が減るから、訓練には最適な季節。


 と言っても、一日中訓練しているわけではない。

 ほぼ午前中いっぱいでおしまいである。


 あ、そうだ。

 サラの体術の訓練に付き合うこともあるのを忘れていた。

 サラは自分の身は自分で守りたいと言ってサロモンが生きていた時から訓練している。実際、大抵の相手には負けるとは思えない技量を持ってる。


 ホントまだ十五歳かよと俺でも思う。


 もう一つ、ベアトリーチェさんとマルティナさんの訓練、と言ってもサラとは違って魔法の訓練に付き合う機会が増えた。二人共結界を利用した魔法が得意なので、そっち方面は苦手な俺には教えることは何も無い。では何を手伝ってるのかと言うと、彼女達が張った結界にプレッシャーをかけている。


 具体的に言うと、彼女たちが結界を張った岩や木を俺が攻撃するんだ。ただし、どの系統の魔法で攻撃してもいいけど、攻撃力を徐々に強めていき、結界が壊れそうな状態で攻撃力のアップを止める。その状態のまま彼女たちは結界を維持する。


 これかなり疲れるらしいが、結界の硬度や強度を高めるには良い訓練なのだそうだ。エルフの間で彼女達の結界を壊れそうなほどの魔法を使える魔法力の強い人は少ないそうで、この訓練したいと思ってもなかなかできないんだそうだ。


 確かに始めた時からひと月ごとに彼女たちの結界の強度や持続力はあがってる。


 ラニエロはというと、ひたすら基礎体力向上に努めていた。

 彼は攻撃魔法のうち火と土の属性を得意としている。

 他にも特殊な魔法も使えるらしいが。

 


 

 あとは雑談したり、サロモンが残してくれた本を読んだりして過ごしてる。


 平穏な日々だった。








◇◇◇◇◇◇





 

 冬ももうじき終わる時期になり、俺とサラはベアトリーチェ、マルティナ、そしてラニエロを加えた五名で旅の準備を始めていた。里やリエンム神聖皇国に出向いては、旅に必要なモノを買い揃えたり、俺達が留守にしている間、俺達とベアトリーチェの家を荒らされないようにエルフに住んでもらっても大丈夫なように、彼らが知らないであろう設備やその使い方などを教えていた。具体的には石炭の採掘場所を教えたり、風呂小屋や石炭ストーブの掃除の仕方を教えたり……などなどだ。


 

 そんなある日、里から知人が息を切らせて家に飛び込んできた。


 「亜人狩りだ。今回はかなり大々的にやってる。あんたらも逃げたほうがいいぞ。俺は他の里にも伝えてくる。気をつけろよ! 」


 亜人狩りとは、リエンム神聖皇国や騎馬民族国家ジャムヒドゥンが国内で働く奴隷の確保を目的として亜人を捕獲し連れていくこと。


 この辺りまでジャムヒドゥンが亜人狩りに来ることはないから、リエンム神聖皇国の貴族のうちの誰かが始めたのだろう。


 「ラニエロ、ベアトリーチェとマルティナ、そしてサラを連れて泉の森まで逃げろ。俺は里のみんなが逃げる手助けをする。なに、俺は大丈夫さ。魔法を使わず体術だけでも負けないし、捕まらない」


 ジャムヒドゥンは敵には苛烈な態度で接するが、自国民には比較的穏当な政治を行う。奴隷の扱いもリエンム神聖皇国よりはマシだ。あくまでマシというだけだが。


 リエンム神聖皇国の奴隷は、家畜以下の存在だ。人としての尊厳なんて一切考慮されない。働かせるだけ働かせて、大怪我したり重い病にかかった奴隷は殺される。逃げようとしたら即首を切る。


 女奴隷は更に悲惨だ。 

 重労働に就かされるだけでなく性欲の解消道具としても扱われ、妊娠したら強制的に堕ろされる。

 

 日頃仲良くしている里の人達をそんな目に遭わせないとゼギアスが怒ったのも当然だった。


 「お兄ちゃん、ダメよ。里の人を助けるということは、捕まえにきた兵を倒すだけで終わらないもの。怪我した人は? 逃がす人は? お年寄りや子供は? そんなの一人でこなせるわけないじゃない。私も行くわ」


 なるほど、兵士を倒した後のことを考えると確かに一人じゃ無理か。

  

 「私共も行きます。マルティナの治癒や回復魔法も必要になるでしょう。私は助けた人を誘導します。ラニエロはゼギアスさんのサポートができるでしょう」


 ベアトリーチェも引かない。


 仕方ない。皆の言うことはその通りだ。


 「じゃあ、俺一人が先に転移して兵士を倒しにいく。今回は容赦しては里の人が危なから命を奪っていくことになるだろう。そして後のことを考えると遺体も残さない。あと里の人はとりあえずここに避難してもらう」


 転移は確かに体力を使う。が、俺一人で転移する分には、その後の戦いに影響ないだろう。この冬みっちり鍛えた基礎体力には自信がある。


 「お兄ちゃん。闇属性使うつもりなのね」


 その通り、龍気の属性”闇”を利用した攻撃を使うつもりでいる。

 これは魔の属性を持たない者や特殊な防御法を持たない者には恐ろしい攻撃だ。

 

 4大属性の龍気なら魔法とほとんど変わらない。

 魔力を持たず、龍気だけしか持たないデュラン族がいたとしても、4大属性の魔法を使えるのと変わらない。

 

 ところが”聖”と”闇”の龍気は特殊な性格を持つ。

 魔法と同じと考えてはいけない。

 単体では魔法のような使い方はできないと考えたほうがいい。


 聖属性を纏わせた龍気で打撃攻撃しても、相手が魔属性を持っていなければ打撃の威力以上のダメージを与えられない。だが、治癒や回復魔法に聖の属性の龍気を纏わせるとその能力が劇的にあがる。治癒魔法だけでは部位欠損は治せないが、聖の龍気を纏わせた場合は部位欠損も治せてしまう。失った部位が生えてくる。

 但し相手が魔の属性の持ち主だった場合は、治癒魔法や回復魔法でできること以上のことはできない。


 魔属性の持ち主の部位欠損を治すためには治癒や回復魔法に闇属性を纏わせる。もともとは無属性の治癒や回復魔法に聖や闇の属性を付与することでその能力や性格を変える。それが聖属性と闇属性の龍気。


 ”闇”の龍気で攻撃魔法に闇属性を纏わせると相手が聖属性の持ち主でなくとも恐ろしい事が起きる。例えば火系魔法に闇属性を纏わせると、火がついたところから闇に食われていく。魔法耐性を持たない、もしくは耐性の低い者がこの攻撃に晒された場合骨も残らない。相手が魔法にレジストできるなら、闇属性を纏わせたところで特に効果はない。龍気を使った分だけこちらの体力消耗が増えるだけだ。


 ”聖”と”闇”の龍気には他にも使い方があるのだが、通常は使用する魔法の性格を変える、効果を増やすことに使用される。


 亜人狩りは下級兵士の仕事だから、今回の相手の中に魔術師が居るとはゼギアスは考えていなかった。もし居ても、二度手間になるけど、倒してから遺体を燃やし尽くせばいい。そう考えていた。


 「ああ、サラの考えてる通りだ。闇を使う」


 サラとゼギアスの会話が何を意味しているかをベアトリーチェ達には理解できない。だが、今はどうでもいい。里で理解できるだろう。


 「心配はいらないと思うけど、疲労したら私かマルティナさんのところへ来るのよ? 」

 

 龍気を纏わせた魔法の使用は、魔法だけ使用するより疲れる。だから本来は特殊な相手にしか使わない。下級兵士相手に使うことなどない。


 だが今回は兵士の遺体を残さずに事を済ませなければならないから使う。


 「判った。じゃあ、回復魔法が得意なサラかマルティナさん……そうだな、今回はマルティナさんには俺と同行してもらいたい。一緒に転移しよう。里の人の避難はサラにベアトリーチェさんとラニエロが居れば問題ないだろ。兵士達を片付けたら俺も合流するし」


 サラじゃなくマルティナを同行者に選んだ理由は、攻撃力の差。

 サラはゼギアスの次の攻撃力を持つ。

 見た目だけで言えばこの中で一番幼いが、その能力はベアトリーチェ達から見て化物クラス。

 マルティナはゼギアスが守るし、サラが居ればベアトリーチェ達も安全だろうとゼギアスは考えた。

 

 「じゃあ急ぎましょう」


 ベアトリーチェの言葉に皆頷く。

 外に出たゼギアスはマルティナの手を握り転移した。







◇◇◇◇◇◇







 里の南側に転移したゼギアスはマルティナと共に北側へ移動していった。

 人の気配がする家は中を確認した。兵士が居ないなら後続のサラ達に任せると決め、避難しろと声をかけるだけにとどめた。


 やがて兵士を見つけたゼギアスが闇属性を纏わせて 火系魔法を放った。

 ゼギアスは魔法を放ったあと、チラッとだけ様子を確認するものの、魔法がレジストされてないとわかると関心を失ったように先に進む。


 マルティナは闇属性を使うと言った意味を目の前の兵士が火に食われていく様子で理解した。火で燃やされてるのではない。火に食われているとしか表現できない様子なのだ。


 確かに恐ろしい。

 ゼギアスが使用した火系魔法は威力の弱いモノだ。

 それはマルティナにも判る。最弱とは言わないが、そんなに威力のある魔法ではない。魔法耐性がある、もしくは対魔法障壁を張れる者ならほぼレジストできる程度の魔法だろう。


 魔法耐性がなくても、対魔法障壁を張れなくても、あの魔法では火傷をそこそこ負うくらいで滅多なことでは死に繋がらない。


 だが、闇属性を纏わせたあの火系魔法は、レジストできなければ確実に死に繋がる。火がついたところから食われているように身体が消えていくのだ。ゼギアスから事前に闇属性を纏わせた攻撃魔法について説明されていなければ、何が起きてるのか判らなかっただろう。


 (ゼギアス様達を決して敵に回してはいけないというベアトリーチェ様と私の考えはやはり正しい。ゼギアス様がその気なら、国を起こすことも難しくない。あの力を見て反抗する者など居るだろうか……)


 グランダノン大陸南部には亜人や魔物、魔族が多く住み、種族や部族ごとの集団で生活している。その集団はせいぜい原始共同体に毛が生えた程度のものが圧倒的に多く、エルフのように部族単位の共同体は比較的大きな共同体だ。


 食料生産に携わる集団は少なく、そのことが弱肉強食傾向から離れられずにいる地域だ。昨年倒したオーガなどは強者に従う傾向が強いから、ゼギアスが従えようと考えたなら簡単に従えられるだろう。



・・・・・・

・・・



 里のほとんどを確認し、あとは北側の一部に残る兵士を倒せば里の制圧は終わるだろう。


 まだまだ問題なく戦えるが、敵に支援部隊がもし来た場合、規模に拠っては不安を感じたので、ゼギアスは一旦マルティナに回復魔法をかけてもらうことにした。


 「ありがとう。この先には既に捕まった里の人が居るだろう。それを守る兵士も数人は居るだろう。マルティナは少し離れたところで待機していて。鎮圧したら合図するからさ」


 マルティナの治癒・回復魔法は相当なものだが、攻撃力には不安が残る。


 これまでのようにいけばいい。でも得てしてこういった最終局面では、中ボスクラスが出て来るものなんだよと前世で遊んだゲームの感覚をゼギアスは口にする。

 

 ”中ボスって何だろう? でもそれは後で聞けばいい”とマルティナはゼギアスの指示に素直に従うことにした。


 それじゃ先に行くねと笑ってゼギアスは神聖皇国側の道を目指して駆けていく。

 マルティナは家の陰に隠れるように後を追った。


 ゼギアスの予感は当たってしまった。里の人を捕らえて檻へ入れ、その周りには五名の兵士がいる。その中には隊長も居て、兵士達に指示していた。


 「まだ四名しか捕らえていないぞ! 残りはまだ来ないのか! 」


 隊長は苛立って怒鳴っている。

 

 檻の中には確かに四人居る。

 その中には猫人のお姉さんの姿もあった。


 「あ、ゼギちゃん! 助けて、助けてよ~~~」


 ゼギアスを見つけ檻にすがって叫んでる。

 弟ちゃんも中に見つけた。


 お姉さんの声で俺に気づいた他の人も助けてと叫んでる。

 

 この場面でゼギちゃんって呼ばれるとはとゼギアスは苦笑した。

 もちろん助けるさ。

 

 「じゃあ、ゼギちゃん、イッキマース! 」


 前世で有名だったセリフを真似て、ゼギアスは敵に突っ込んでいく。


 ゼギアスの口調の軽さと裏腹に、ゼギアスの火系魔法をレジストできなかった者の末路は悲惨だ。助けてと叫んでいた檻の中から見ている里の人達も無言になる。


 それはそうだよね。

 火に食われて消えていく様子なんて恐怖の対象でしかない。


 ヒィ……ヒィィィィィィィィ……


 目の前で兵士三名が火に食われていく様子に恐れる声をあげ、隊長と兵士二名が逃げていく。追って殺すか?と考えたが、見るからに兵士とは違う格好をした女が一人残っている。黒い厚手のローブを纏い、その手には短剣が握られている


 「あんたは逃げないのかい? それともあいつらとは別口かい? 」


 ゼギアスはその女に何か違和感を感じて、逃げた兵士を負うことを止める。


 「あの方達とは同じ国の人間以上の関係は無いわね。でも。私は強い殿方が好きなの。戦ってみたくなるの。さっき面白いことしてたわね? あなたを見てると子宮がキュンキュンするわ。組み伏せて私のオトコにしたくなるのよ」


 赤い唇を舌なめずりしながら近寄ってくる。

 

 妖しい雰囲気を持つ美人で、ローブが翻るたびに見えるスタイルもけっこう良さそうだけど、Sっ気のある女性はちょっと苦手かもしれないなあ。

 

 その速度が少しづつあがっていく。


 来る。


 ゼギアスは右手に無属性の龍気を纏わせ、その女が振り下ろした短剣を頭上で受け止める。

 

 「へぇ、気功使い。魔法だけじゃなく気功まで使うならら、モンクか何かかしら? でもやはりやるわね。私の短剣はそこらのナマクラじゃないのに。ま、本気で切りかかったわけじゃないですけど」


 ゼギアスから下がって距離をとり、短剣を腰にしまった。

 

 「じゃあ、これはどう? 」


 赤い瞳を光らせて、ゼギアスが使っていたのとは比較にならないほど威力のある火系魔法を放とうと詠唱している。目前の女は魔術師か?


 頭上にあげた女の両手に燃え盛る火炎の塊がドンドン大きくなる。

 ゼギアスは黙ってその様子を見守っている。


 「ほう、逃げないのね。受け止める自信がある? それとも当たらない自信? まあどっちでもいいわ」


 火炎の塊は今や家一軒分ほどにもなっている。

 

 ゼギアスも左手に魔力を貯めている。

 あの程度なら受け止めることも難しくはないけど、檻の中に被害が出ては困る。

 ゼギアスは魔法が放たれたらすぐに相殺しようと考えていた。


 頭上からゼギアスに向けて両手を向け魔法を放ってきた。

 ゼギアスは左手をその火炎に向けて水系魔法を放つ。

 火炎はゼギアスの放った水系魔法に包まれる。


 水の塊の中で炎がドンドン消えていく。


 「無詠唱で私の火炎を相殺? あなた何者なの? 」


 女の顔から笑みが消えた。


 「あんたも亜人狩りに来たのか? 」


 ゼギアスはゆっくりとその女に近寄っていく。


 「いえ、私は帰省のついでにこの辺りの状況を調べろと言われたの。亜人狩りでここに来る人が居たから一緒に来ただけ」


 ゼギアスが近寄る距離と同じほど後ろに下がっていく。

 

 「じゃあ、もういいだろ。あんたが逃げるなら追わなくてもいいんだ」


 「そうはいかないわ。あなたも本気を出してないでしょうけど、私も出してないわ。それは判るでしょ? 」


 「ああ」


 「さっきも言ったけど、私は強い殿方が好きなの。私を屈服させられるような殿方に夜ごと抱かれたいのよ。あなたが私より強いなら私を好きにしていいの。どう? この体が欲しくはない? 」


 ローブを開き、薄手の布で包まれた肢体をゼギアスに晒す。


 「魅力的な話だけど、今はいいかな? 」


 「へえ、私よりもいい女が居るってことかしら。妬けるわね。それより、あなたが勝つ前提のようだけど、そんなに自信があるの? 」


 「ああ、あんたには負けそうもない」


 「そう。じゃあ、次で最後にしてあげるわよ」


 女はゼギアスから更に距離をとった。

 両腕を自分の身体にまわし、目をつぶり何やら詠唱していた。

 先程までとは違う。

 体外に炎を作り、それを敵にぶつけてダメージを与えるような種類の魔法じゃないようだ。体内に魔力を貯め、魔法で増幅させてるそんな感じに見える。


 ゼギアスが観察してると詠唱が終わったのか、ゼギアスに話しかけてきた。

 

 「私の名はマリオン。艶爆のマリオンとも呼ばれてるんだけど聞いたことはないかしら? 」


 「いや初めて聞いた。山の中で暮らしてるんで、すまないね」


 「別にいいわよ。で、あなたの名は? 名前くらい教えてくれてもいいでしょ? 」


 「ゼギアス。今日からゼギちゃんと呼ばれるようになるかも」


 「余裕あるのね。さあ、死なないでよ? あなたは絶対私のモノにする。大丈夫よ、火傷くらいならすぐ治してあげる。こう見えても私は神官なの。治癒や回復は得意なの」


 「そうだな。ついでに髪が燃えないよう気をつけてくれると嬉しいな」


 「フッ、そんな余裕は私にはないわよ!! 」


 マリオンはゼギアスに突っ込んできた。

 今までで一番早く移動している。


 ゼギアスが避けようと思えば避けられない速度じゃない。


 だが、ゼギアスは受け止めてやるとニヤリと笑った。

 バトルジャンキーではないから、避けることに嫌悪など感じないけど、受け止めなければマリオンは納得しないだろうからな。


 マリオンはゼギアスの腕に手を当てると体内で増幅した魔力を使って、ゼギアスを包み込むように炎……今までで最大火力の炎を展開した。


 ほう、これは確かに面白い技だな。

 一瞬でゼギアスを包み全方位から超高熱の炎で焼き尽くそうとしてくる。


 ふむ、コークス作りに役立つかもしれない。

 原理は判ったから帰って試してみよう。 



 これに対抗するには全身を対魔法障壁で包み込むか、相殺しうる魔法を全方位に放出するか。この技をサラレベルの魔力の持ち主が使ったならゼギアスも火傷の一つや二つはしただろうな。


 「技は面白い。でも俺を倒すには魔力が全然足りない」


 そう言ってから、身体に気合を込め包んでいた炎を吹き飛ばす。

 ゼギアスはマリオンの攻撃を受ける直前に、自分の身体に無属性の龍気を薄く張り巡らした。マリオンは火系に特化した魔法使いだろうから水属性で龍気を張ることも考えた。だが、水属性で張った場合、相手の技がどの程度なのか見極めるのが難しい。触れるそばから相殺してしまうのだから・・・・・・。


 「嘘……。まだケレブレアの祝福の儀式は通過していないけど、私の魔法力は戦闘神官候補の中では一番だったのに……」


 先程までの、ゼギアスの身体を品定めをするような嫌らしい視線がマリオンから消えている。

  

 「もう判っただろ。あんたの攻撃は俺には通用しない。体術でも無理。さあ、帰ってくれ」


 呆然としていたマリオンがスクッと立ち、ゼギアスの胸に両腕を広げて飛び込んできた。ゼギアスを見上げるマリオンは潤んだ瞳、少し赤くなった表情、ど、どうしたんだ。


 「好き! 」


 「はぁ? 」


 「惚れたわ。私の身体は好きにしていいし、贅沢だって好きなだけさせてあげるわ。だから私のオトコになってちょうだい! お願いよ! 」


 「はぁぁぁぁぁぁ? 」


 「ねえねえ、お願いよ~~。何でもするわ。もうダメ、あなたが欲しいの。欲しくてたまらないわ」


 美人に好かれるのは嬉しい。

 本当に嬉しい。

 でも、マリオンの今にもゼギアスをこの場で押し倒しそうな勢いにはゼギアスも引く。


 「ちょ、ちょっと落ち着け! 俺は里の人を檻から解放しなきゃならないし、他にもやることがあるんだ。後で話は聞くから、とにかく落ち着いてくれ」


 こんなところをサラに見られたら、また俺の評価が下がるじゃないか。

 一年かけて少しは上昇したはずの俺の評価。


 いくら引き剥がそうとしても、顔をすり付け抱きついて離れないマリオンを見ながら溜息をつく。

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