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27、はじめての奴隷解放

 「・・・・・・・・・・・・以上のように、我が国と隣接している神聖皇国領から奴隷達を連れ出します。今回のターゲットは神聖皇国南部東の中核都市ニカウア。敵戦力は推定六万人。ここを攻め落とします。敵の構成は歩兵二万五千、騎兵二万、弓兵一万五千です。騎兵が少しうるさいですが、今回は飛竜隊も出撃しますので苦労しないでしょう。・・・・・・・・・・・・・・。」


 総司令は俺ゼギアス。だけど単なる最終兵器扱い。

 参謀長はアロン。事実上の総司令。


 我が国が誇る空戦部隊から、


 ・第一空戦部隊 隊長 グリフレッド(鷹人族) 飛竜 百頭 、飛竜による火炎ブレス攻撃部隊。隊長のグリフレッドは、建国後入国してきた者のうちから選抜された。エルザやクルーグと同様に遠視能力が高い。


 ・第二空戦部隊 隊長 リアトス デーモン 百名 、魔法による遊撃部隊 戦況を読む力に長けるリアトスの指揮と相まって敵が嫌がる攻撃を得意とする。


 ・第三空戦部隊 隊長 ハメス マルファの後任ジズー部族長 ガーゴイル 百匹 、唐辛子ガスが込められた催涙爆弾を投下する部隊。唐辛子ガスは一時的な呼吸困難と鼻水、せきが出る程度の濃度に調整してある。敵の弱体化はまぬがれない。


 

 次に地上部隊、逃げる敵は追わないが向かってくる敵には情け容赦の無い恐ろしい部隊。


 ・第一地上部隊 隊長 ラルダ 前線壁役部隊 五百名 、驚異的な突進力と破壊力を持つ厳魔部隊。この部隊の戦闘見学は年齢制限が必要。城壁破壊も彼らに持たせたハンマーで行う。


 ・第二地上部隊 隊長 ヘラ リエッサの後任アマソナス部族長 三百名 、回避能力と武器攻撃力に優れた部隊。この部隊が持つ武器、剣や槍には一時的な麻痺効果がある薬が塗られている。いくら魅力的でもアマソナスには下手に近寄っちゃいけないと教えられる部隊。

 

 ・第三地上部隊 隊長 ダヤン 三百名 、機動力が売りの亜人部隊。亜人でも人狼族や豹人族などの敏捷性と移動力に優れた亜人による部隊。ダヤンお得意の一撃離脱戦術のための部隊。状況によってはユニコーンに搭乗して戦うこともある。


 ・第四地上部隊 隊長 ムーバス スィールの後任ゴルゴン部族長 ゴルゴンを中心とした状態異常魔法使いが百名 、状態異常魔法による支援部隊。石化、麻痺、毒、一時的な失明などの状態異常を敵に与える。白い恐怖の異名を持つ部隊。ちなみにダヤンに”ゴルゴンとはやりづらくて仕方ない”と言わせるほど、敵に回すと嫌な部隊。


 ・第五地上部隊 隊長 マルティナ エルフによる結界、および治癒・回復部隊

 三百名 、前衛には防御系魔法を弓などの長距離攻撃隊の前には結界を張る。負傷者への治癒・回復も行う。この部隊がいれば死傷者ゼロも夢じゃない。




 最後に長距離攻撃部隊。アロンが連れてきた指揮官経験者の訓練によって技量アップした。


 ・第一弓隊 隊長 ホーディン(アロンが連れてきた人間。指揮官経験者) 亜人部隊 二百名 、複合素材を使用した射程二百メートル強の弓を装備した部隊。


 ・第二弓隊 隊長 ゼアリー(アロンが連れてきた人間。指揮官経験者) 亜人部隊 二百名 、第一弓隊同様。


 亜人は戦闘力や防御力がどうしても落ちるので、攻撃の的になりにくい弓隊を結成した。魔族に働きで負けたくないと日々の訓練に余念がない。第一第二ともに成長株の部隊。


 ・長距離狙撃、飛竜搭乗 エルザ、クルーグ、この二名の役割は敵指揮官の狙撃。二人の愛機AK-47はドワーフ等の協力で狙撃距離と命中率がアップされ、物理防御力が余程高い相手でなければ一撃死は必至。この世界の戦争では、卑怯と言われても仕方のない武器を持つ二人。


 

 以上、総数二千名強の部隊。


 敵が六万人だろうと、空戦部隊によってその数ほどの働きができるはずもなく、エルザとクルーグによって指揮官を次々失う敵部隊は烏合の衆と化し、そこへ支援魔法によって物理・魔法防御力がアップした地上部隊が鬼のような攻撃を仕掛ける。


 弓隊の攻撃によって敵がまともな陣形を組めることもなく、地上部隊の餌になるのは必至。


 上空で広範囲の戦況を確認しながらアロンが指示を出す。


 それでも苦戦するようならば、俺が出ていく・・・・・・という算段。



 ”最初から俺が出たほうが?”と言うと、ヴァイスから”それではダメなのです。ゼギアス様が居なくても勝てる軍隊を、自分の国は自分の手で守る気持ちのある軍隊を育てなければならないのです”と言われ、戦況を見守ることになった。


 空戦部隊も含めて行った味方同士の模擬戦闘の結果を知ってるマリオンとリエッサも、”敵が二十万も居て、その上戦闘神官が複数居ない限り負けることはありませんよ”と余裕をもって言っていたから心配はないと思う。


 今回は空戦部隊を実戦投入し、地上との連携でどれほどの戦果をあげるかが焦点だとアロンも言っていた。俺以外は誰も負ける心配などしていない。被害も気にならない程度のように皆は言う。


 ”だが、他の都市から援軍が来ることはないか?”とヴァイスに聞くと、”その為の空戦部隊でもあるのです。当面の敵への攻撃を一通り行い、地上部隊へ攻撃を引き継いだら飛竜隊は戦場の周辺地域哨戒任務に移行し、援軍を見つけ次第その進撃を阻止します。”と返ってきた。


 俺の危惧など計算済みだった。


 それじゃ、開戦前に皆の顔でも見に行くか。



◇◇◇◇◇◇



 俺の目の前には、二千名強の今回戦いに行く兵士達とそれを見守る家族や友人、知人たちなど国民が大勢居る。俺は皆の前で演説しなければならない。俺に合わない仕事だが、皆に言われて覚悟を決めた。


 「ああ、俺は堅苦しい言葉は苦手なんで普段通りの言葉で伝える。」


 皆が一人残らず口も開かず俺を見つめている。


 「敵の数は多い、うちの三十倍だ。だが、俺達は負けない。ただ負けないのではない。ほとんど被害を被らずに勝つんだ。その算段はしっかりとしてあるから安心して欲しい。みんなが訓練してきたことをそのままやれば必ず勝つんだ。まずそれを言いたい。兵士の家族や友達は心配せずに待っていて欲しい。」


 「・・・・・・。」


 「敵と戦うにあたって、俺達は何者なのかを刻んで欲しい。俺達は盗人じゃない。だから戦いに勝っても敵のモノでも盗むな。俺達は侵略者じゃない。だから敵の女を襲うな。まあ・・・・・・日頃、魅力的な女性に誘われてる奴らばかりだろうから、そんな元気のあるヤツは居ないと思うけどな。」


 ”もっと若い人をお願い~。”

 ”元気が余ってるなら戦いが終わったら私のところへおいで~。”


 見守ってるいくつかの種族のお姉さん達が笑いを飛ばしている。

 うん、うちはこれでいい。


 「ハハハ・・・・・・。・・・・・・俺達は殺戮したいわけじゃない。だから向かってくる者には一切の情けもいらんが、逃げる者や攻撃してこない者には手を出すな。では俺達は何者だ。俺達は解放者だ。奴隷のままで良いという変わった奴がいるかもしれないが、多くの奴隷はそのままでいいとは思っていない。どこかから連れ去られ、自分の意思でもないのに奴隷の身分のまま働かされてるんだ。俺達の同胞がだ。」


 「・・・・・・。」


 「身勝手な理由で殺される者も居る。許せるか?」


 「否!」


 皆が否定の言葉をいっせいに叫ぶ。


 「自分の妻が無理やり犯されることもある。許せるか?」


 「否!」


 「親から子供が引き離され、親が知らないうちにどこかへ売られることもある。許せるか?」


 「否!!」


 「そうだ。許さん!!だから俺達は誇りをもって彼らを解放するんだ!」


 「応!!!」


 「忘れるな!俺達は解放のために戦いに行くんだ。無駄な殺しはしない、盗みもしない・・・・・・同胞を解放するために戦う誇りを忘れるな!仲間に対してできないことを敵側の人間だからとやるような奴がいたら、そいつにはこの国から去ってもらう。初めてであろうと許さない。誇りなき者はこの国に居てもらいたくない。これは俺の意思だ。」


 「・・・・・・。」


 「さあ、行くぞ!解放のための戦いをさあ始めようじゃないか。」


 俺が右手を掲げると、歓声があがった。

 ウオォォォオオオオオ!という空気が震える大歓声だった。


 ホッとした俺は、後ろに下がる。

 後はヴァイスとアロンに任せるさ。



◇◇◇◇◇◇


 リエンム神聖皇国領土内に入って二日目。

 ニカウアに到着するまであと三日。

 ここまでいくつもの小さな村や里から奴隷を解放してきた。

 解放した奴隷はエルフによって治癒や回復され、呼ばれたグリフォンによって移送されていった。

 奴隷以外の亜人や魔族も多少居て、それらのうち国境を越える自信がなくその場で生活していた移住希望者も移送した。

 人間でも移住希望者が居れば移送するつもりだったが、これまでのところでは人間の移住希望者は居なかった。まあ、亜人と魔族のための国というイメージが強いのは仕方ない。


 アロンによると、そろそろニカウアから敵軍が出てくる、衝突するとすれば明日だろうから、ここらで休憩し備えるという。その辺はアロンの指示に従っていいと考えてる。偵察は出してるだろうし、休憩も交代でとるだろうからな。


 ここまででぶつかったのは多くてもせいぜい数千人規模の守備隊で、地上部隊が出るまでもなく空戦部隊の攻撃を受けると逃げていく。まあ、歩兵と騎馬隊が主戦力の相手では、空戦部隊を攻撃することもできないだろうから仕方ない。

 うちの被害はゼロ。怪我をした者もいない。


 ただ、今後は弓兵も多くなるだろうし、魔法を使える者も敵に出てくるだろう。

 万が一、戦闘神官クラスの魔法使用者が出てきたら多少苦戦するかもしれないが、その時はその相手を俺がすればいい。


 俺は味方を慰労しつつ、表情を確かめていた。

 皆、いい顔をしている。

 これなら悪さするようなバカは居ないだろう。


 指揮官達は油断なく今後のことをいつも通り話し合っている。

 

 うん、大丈夫。


・・・・・・

・・・


 翌日の朝、アロンと顔を合わせると


 「敵が夜襲仕掛けてきた場合を想定して、前方の林に弓隊とクルーグを待機させていたんですが、無駄になりました。」


 「いいことじゃないか。」


 「そうなんですけど、ここまでの間に戦った守備隊などからうちの情報はある程度知られてるはずなんです。」


 「空戦部隊を怖れて手出しできなかったのでは?」


 「うーん、そうなら楽でいいんですけどね。偵察の話から、前方で・・・・・・あと二時間程度でぶつかる距離なんですが、部隊を展開させてるらしいんです。夜に仕掛けられないのに、昼間に仕掛けられるんでしょうかねえ?」


 「ごめん、俺には理由はわかんないな。」 


 「ええ、多分ですが、敵の指揮官は頭が古いんじゃないかと。正々堂々と名乗りを上げて戦おうと、それが騎士の義務だと考えるタイプなのではないかと思うんです。」


 「何か問題でも?」


 「いえ、もしそうなら今回の戦いは、一方的な戦いになると、つまらない戦いになるんじゃないかと心配してるんです。もちろん手応えのある相手でも味方の被害は抑えるつもりで策は練ってあるのですが、どうやら策を使う必要もなさそうなんで・・・・・・。」


 またも好敵手探しかあ。

 頼りになる男なんだが、面白い戦いを望む傾向があるね。

 俺は味方に被害を出さずに目的が達成できればそれでいいんだが。

 まあ、本音では楽に勝てそうで良かったと思ってるのだろうが。


 「じゃあ、食事が済んだら動きますよ。」


 俺は頷いてアロンを見送る。


・・・・・・

・・・


 アロンの予測通り、動き出して二時間後には敵軍と向かい合うことになった。


 敵は広く左右に軍を展開している。

 敵からうちの軍が見えただろう時、敵軍から二頭の馬が近づいてきた。

 

 「宣戦布告?それとも降伏勧告?」


 俺はここまで来て、敵は何をしようというのか判らない。

 

 「やはり騎士道精神とやらに毒された指揮官のようです。」


 アロンは予想通りで悲しそうだった。

 軍の最前列にいた俺とアロンの前で、敵の軍使は馬上から降伏勧告を読み上げた。もうひとりも馬から降りず、リエンム神聖皇国の旗を持って待機している。


 「私は、ニカウア軍総司令リクゼルド・シュタウゼンの命で遣わされた軍使トール・エムガノン。サロモン王国を称する蛮族共に告げる。ただちに降伏せよ。さすれば絶対神ケレブレアの名のもとに、お前達には裁判を受ける権利が与えられるであろう。ニカウア軍総司令リクゼルド・シュタウゼンが証人となる。返答や如何に。」


 アロンが俺の顔を見て苦笑している。

 答えなんか決まっているものな。

 俺は軍使の前まで近づき


 「トール・エムガノンと言ったか。俺はサロモン王国の王ゼギアス・デュラン。俺達は降伏などする気はないし、その必要も無い。逆にそちらが降伏したらどうだ?俺達は逃げるなら追わない。反抗してこないなら殺さない。都市に入っても、奴隷は解放するが他は何もしない。奴隷を全員解放するならここで立ち去ってもいい。さあどうだ?とそちらの司令に伝えてくれ。三十分は動かずに居よう。三十分過ぎたら攻撃を始める。以上だ。」


 「判った。必ず伝えよう。だが、この戦力差で勝てると思っているのか?」


 うーん、ここで”兵数の差が戦力の決定差ではないことを教えてやる”と言いたいが、それは自重しておこう。仮面もサングラスも持ってないしな。これからは仮面でも持ち歩くか。


 「ああ、戦争は数じゃないことを俺達との戦いで思い知るさ。じゃあな。」


 俺の返事を聞いた軍使は踵を返し、敵軍方面へ駆けていく。

 その表情には”こいつ頭でもおかしいのか?”という怪訝そうな色があった。

 まあ、数だけで言えば向こうはこちらの三十倍だからな。


 俺は味方へ振り返り、ニヤリと笑って


 「さあ、奴らの言う蛮族がどれほどのものか思い知らせてやろうぜ。」


 ここには悪い顔をした俺が居るだろう。


・・・・・・

・・・


 律儀にも三十分後から敵は動き始めた。

 全軍揃って近づいてくる。

 左右を広げて俺達を包囲しようとしてるようだ。


 さあ、俺達も始めようか。

 俺はアロンの顔を見てから、右腕を振り上げた。


 「行こうぜ!野郎ども!!」


 オオォォォォォォ!

 

 俺の合図に鬨の声があがる。


 一度言ってみたかったんだ。

 なんか不良達の親玉になったみたいだ。

 イイね!


 地上部隊はゆっくりと進軍する。

 まず空戦部隊の攻撃が始まる。

 俺達の後方から飛竜達が敵に迫っていく。


 弓も当たらない高さから一気に地上に近づき、敵軍に炎のブレスを吐きつつ敵の上を移動する。炎のブレスが敵の頭上から流れていく様子が見える。うん、熱そうだね。髪焼けちゃって泣く人いるかもね。


 ブレスを避けるように敵が散らばったところへ、空戦部隊第二陣の魔法が襲いかかる。炎や氷の魔法で倒れていく。飛竜のブレスによって移動方向が限られ、誘導されるように空戦部隊第二陣がいる場所へ次々と近づく。


 第二陣からも逃げるように敵がまとまって後退したところへ、空戦部隊第三陣が催涙爆弾を落として去っていく。催涙爆弾は地上で爆発し、ガスを辺りに広げていく。

 ある者は失明し、ある者は止まらない涙や咳で辛そうだ。その様子を見ながらおよそ三分が過ぎると、第四地上部隊のゴルゴン達が、動き出す。風系魔法で戦場に広がったガスを吹き飛ばす者と、味方に防御系魔法で支援する者。ゴルゴン達の支援魔法で強化された第一から第三の地上部隊が突撃を開始する。はっきり言うとこの時点で勝負はついている。

 指揮官クラスが指示を与えている様子を見て、AK-47を持ったエルザとクルーグが指揮官達を狙撃する。指揮官を失った兵たちは組織的な行動ができずに右往左往している。

 そこに地上部隊が突っ込んでくるのだ。

 対応できるはずもない。

 あとは蹴散らすだけ、単純な作業でしかない。


 敵にも魔法を使える者が居るようだが、ゴルゴン達がかけた魔法防御を破れる程の者は居ないようだ。時折、敵側に見える魔法の光がこちらの味方に当っても、弾けていくつかの光を残して消えるだけ。


 「敵軍の総司令らしき者を発見したとエルザから報告がありましたので、捕獲します。」


 アロンから報告があった。

 俺が頷くと第三地上部隊ダヤンへ捕獲して連れてこいと指示していた。


 戦場では、クジラを食い破ってるシャチを見てるかのように、六万の敵が千名程度の我軍に蹂躙されている。


 第一地上軍が通り過ぎた後には誰も残っておらず、第二地上軍の後ろには怪我を押さえて倒れる兵士達。第三地上軍が通ると敵軍が二つに裂けて散り散りにされた敵が必死に後退している。


 それでも何とか持ちこたえようと、軍を再編成しようとする動きがある場所には弓隊からの雨のように振る弓が襲い、組織的な動きを許さない。


 守備隊からの報告があったはずなのに、何故数さえ揃えれば必ず勝てると考えたのか・・・・・・。


 まあ、うちの軍には地球で蓄積された知識で戦略や戦術を組み立てるヴァイスとアロンが居るから、敵の勝ち目が薄いのは判るけどね。その上この時代ではあり得ない空中戦力もあるしなあ。


 通常は上空で指揮するアロンが、今日に限っては少し小高い場所に降りて指揮している。要は、上から観察するまでもないってことなんだろう。


 やがて、派手な軍装のオヤジがうちの兵に掴まれ連れられてきた。


 「ニカウア軍総司令リクゼルド・シュタウゼン・・・・・・かな?」


 推定年齢五十代のがっしりとした体格の男が、身体をロープで縛られ、人狼族の兵に腕を掴まれて立っている。俺の顔を睨んで口を開いた。


 「そうだ。」


 「そうか、それじゃ話が早い。俺はあんたが蛮族と呼んだ国の王ゼギアスだ。降伏したらどうだ。どのみちこれ以上戦ってもそちらの兵だけが倒れるだけだぞ。」


 「空からの攻撃とは卑怯な・・・・・・。」


 顔を近づけたらツバでも吐きかけられそうな顔をして睨んでいる。


 「何が卑怯かは俺達が決める。決めるのはあんたじゃあない。」


 「正々堂々と戦えもしない癖に偉そうなことを。」


 「ほう、じゃああんたは敵の数が百名だったら百名で戦い、その結果で勝敗を決め、受け入れるというのか?」


 「そんな馬鹿なことはせん。」


 「そうさ。あんたは敵よりも有利な状況を用意しようとするはずだ。それでいい。戦争は勝たなきゃ意味がないからな。あんたの言う卑怯ってのはな、自分が対処できないモノで敵が攻めてきて負けたときの負け犬の遠吠えなのさ。」


 「・・・・・・。」


 「まあいい。それでどうするんだ?まだ続けて味方の損害を増やし続けるのか?俺はそれでも構わない。まだ暴れ足りない味方が大勢居る。ストレスの発散は大事だからな。」


 「私をどうする気だ。」


 「そうだな。まず戦闘行為を止めろ。次にニカウアに居る奴隷を解放するよう都市の決定権を持つ奴に伝えろ。その条件を飲むなら解放する。」


 「戦いをやめるのはいいだろう。だが奴隷の解放は約束できん。」


 「そうか、だったら、あんたを連れてニカウアの城壁を壊せばいいか。まあ、とにかく戦闘を止めろ。それであんたの部下達の命は助かる。」


 「私と共に立って、黄色の旗を振れ、それが戦闘停止の合図だ。」


 総司令の言う通りにしてみてくれとアロンに指示した。

 アロンは頷き、近くに居たエルフへ指示する。


 やがて敵の動きが止まる。

 様子を見ていると、我が軍も攻撃を止めている。

 よしよし、いいね。

 無抵抗の敵を襲っていない。


 「それじゃ軍をまとめてニカウアへ行こう。」


 俺の声にアロンが反応し、各部署へ連絡している。


・・・・・・

・・・


 ニカウアの城門前まで到着したので、第一地上部隊のラルダへ指示する。


 「城門だけ壊しちゃって貰えますか?」


 ラルダは頷き、部下を二名連れ、ラルダの身体ほどでかいハンマーを持って城門に近づいていく。

 城壁には窓があり、そこから攻撃しようと敵の弓兵がラルダを狙っている。

 余程の貫通力が無いと、支援魔法など受けなくてもラルダの身体に弓は通らない。とは言え、無駄なリスクを負うのは嫌なので、ゴルゴンにラルダへの支援魔法を指示する。


 青い肌のラルダの肉体に力がはいっているのが見える。

 巨大なハンマーをフンッと力を入れて持ち上げた。

 そして背後へまわし、そこから一気にハンマーを城門に叩きつける。


 ババッガガッという音と共に厚い木製の扉に穴が開く。

 ラルダは開いた穴の周りにハンマーを何度も叩きつけた。


 バシッ・・・・・・

 グギャッ・・・・・・


 音が鳴るたび、穴が広がっていく。


 やがておよそ二メートル四方くらいの穴が開き、ラルダはハンマーを両手に戻ってきた。 


 「ご苦労様。」


 俺が声をかけると、何事も無かったかのような表情で軽く頭をさげラルダは部隊に戻っていった。


 敵の弓兵は結局攻撃してこなかった。

 多分、敵の司令官の姿を俺達の軍の中から見つけたのだろうと思う。


 トール・エムガノン、降伏勧告に来た軍使。

 敵が降伏し敵軍を返したあと、戦場で倒れていたのを見つけた。

 司令官連れながらのんびりとニカウアへ向かってる間に、ニカウアの方針を決めておいて貰おうと、彼に伝言して飛竜でうちの兵士に送らせた。


 ”俺が城内に入ったら、奴隷を解放するのかしないのか、ニカウアの返事を聞かせて欲しい、返事が無ければこちらとの交渉の意思なしとして、勝手に城内を捜索し奴隷を連れ帰る。その際、建物などが壊されることになるだろうけど、それはそちらが希望したものとして対応する。”


 こんな感じの伝言したのだから、俺が城内に入った以上、何らかの動きがあるだろう。素直に奴隷解放するのか、俺達が勝手に城内を捜索するのを認めるのか、まあ、抵抗を再度始めるという手もあるが、それは選ばないんじゃないかと思うよ。


 俺達が壊した扉から入っていくと、トールと共に、ぞろぞろと守備隊らしき兵士を連れた推定年齢六十歳くらいの派手な衣装きた男が近づいてきた。


 「こちらがニカウア領主ヒルハルド・アムゼン様です。」


 トールが俺に横にいる男を紹介した。

 顔や表情だけで判断しちゃいけないんだけど、こいつ嫌い。


 俺は身長高いから、人から見上げられるのは慣れてる。

 多くの人は顔を上に向けて俺を見る。

 だが、こいつのように上目遣いで見て、口端の片側をあげて嫌らしい笑みを浮かべる奴には会ったことがない。

 

 「お前が蛮族の王ゼギアスとやらか。」


 「ああ、そのゼギアスとやらだ。返事を聞きに来た。要求はそこのトールから聞いただろう?」


 「それでだがな。奴隷は解放できない。本音を言え。金か?女か?それとも地位か?中央に言ってやるぞ?その辺の村のいくつかをまとめる領主くらいなら頼んでやる。奴隷なんかより欲しいのはどれだ?」


 うーん、”殺しはしないけど、いくらか痛い目見せてもいいかな?”

 そういう思いを込めて、トールを見た。


 「ですから領主様、奴隷の解放だけしか要求されておりませんので・・・・・・。」


 トールの怯えたような視線の先には俺の仲間がある。

 戦場での彼らを見たトールは、領主が俺を怒らせないか危惧している。


 「そんなはずはなかろう。奴隷なんぞにさほどの価値はない。そんなもののために攻めてきたというのか?考えられん。」


 「俺は話の通じない奴といつまでもウダウダ話すのは嫌いなんだ。奴隷は解放しない。それでいいんだな。」


 「ああ、そうだ。」


 「そうか、それじゃトールに伝えたように、こっちは勝手にやらせてもらう。止めたかったらお好きにどうぞ。だがその場合は命がないからそのつもりで。」


 俺は後ろを見て、右手をあげた。

 家を壊してもいい。だが人は殺すなと言ってある。


 俺の合図で、厳魔が家の扉を壊し、中へ他の部隊が入っていく。

 建物の中から人が放り出されていく。

 

 見つけた奴隷は、俺達の軍の後ろ側へ連れて行く。


 「や、やめろ!何をするんだ。」


 領主が俺達の動きを見て、叫ぶ。

 領主にとっては全く予想外の行動だったのだろう。

 だが、そんなものは知らん。

 俺は有言実行しているだけだ。

 領主の叫びを俺は無視して、仲間に指示していく。


 「誰か、誰か小奴らを止めろ!私の責任になるではないか。」


 なるほど、こいつは雇われ領主か。

 ここの住人に住人の責任がない損害が出ると、住民から請求が出る。その請求の内容は中央の目に止まり、追求されることになるのだろう。


 まあ、いいや。こいつがどうなろうと知ったことじゃない。


 領主の命令に従った兵士が数人俺を捕まえようと近づいてきた。

 俺が動く前に、リエッサの後任でアマソナスの部族長になったヘラが近づいてきた兵を蹴り飛ばす。

 つま先まで一直線に伸びた蹴りのモーションが美しくて、思わず拍手しそうになった。


 「薄汚い輩が、許しもなく我らが王に近づくな!」


 おお、何か嬉しい。

 この戦いが終わったらヘラに何か奢ってやろう。


 おっと喜んでる場合じゃないな。

 ヘラの肩に手を置いて


 「ありがとう。そこらでやめておいてやれ。」


 ヘラに蹴られた兵士は数メートル飛んで地面にへたり込んでいる。

 まあ、死んじゃいないだろう。


 ヘラは俺を振り返り頷いて、俺の後ろへ下がった。

 

 俺は、領主の言葉など無視して作業を続けるように仲間に伝えた。

 

 「誰か、誰か、止められる者はおらんのか!」


 領主は怒鳴り続けているが、軍隊が負けて今の状況なのだ。

 降参した兵士達は自分達の力が通じないと知ってるし、兵士が動きもしない相手に向かってくる奴はさきほどヘラに蹴られた奴くらいのもんだろう。


 十軒ほど捜索が終わった時、


 「わ、判った。こちらでも相談するから少し待ってくれ。」


 「今まで十分時間はあっただろう。俺達がお前の要求に従う必要はない。」


 だいぶ青ざめた顔の領主を見下ろして、俺は作業の中止など指示するつもりはないと伝える。


 「奴隷の解放などという戯言が本気だなどと思わなかったのだ。」


 いい加減腹が立ってきた俺は領主の胸ぐらを掴まえて、そのまま持ち上げる。


 「戯言?ふざけるな。奴隷の解放を戯言だなどと二度と口にできないようにしてやる。」


 俺は領主をそのまま投げ捨てた。

 そして正面にある柱まで近寄り、右手に無属性龍気を溜めて殴った。

 ドゴッという大きな音がなり、柱には俺の拳の形に穴があいた。


 「次に戯言だなどと言う奴の腹にはこれと同じ穴を開けてやる。そのつもりで口を開くんだな。」


 「おやめください!」


 遠くから女性の声が聞える。


 「父には私から言っておきますので、奴隷は解放しますので、これ以上はおやめください。」


 どうやら領主の娘のようだ。

 金髪を揺らしながら領主に駆け寄り、青い瞳を俺に向けている。


 意思の強そうな娘だな。

 まあ、気絶してる領主など無視してこの娘と交渉したほうがいいか・・・・・・。


 「どうやって奴隷を解放する?」


 「これから私が住民へ命令します。」


 「じゃあ、あと少しだけ・・・・・・そうだな二十分待つから指示しろよ。待ってる間に解放した奴隷からも情報を集めるから、隠そうとしても無駄だと住民へ伝えろ。もし隠そうなどとしたら、その家は消すと付け加えておけ。あんたのオヤジさんのせいで俺はそろそろ我慢の限界なんだ。そこのところ覚えておいてくれ。」


 俺は仲間に作業を一旦中断するよう伝えた。

 そして解放した奴隷には、この街で知ってる奴隷を教えるようにと伝えた。


・・・・・・

・・・


 十分後あたりから、奴隷が俺達へ近づいてきた。

 連絡がついた家から奴隷を解放させているのだろう。


 うん、これなら動きが止まるまで待ってもいい。


 仲間にも奴隷たちが解放されている間は待機と伝え、エルフには奴隷で怪我などしてたら治療しておいてくれと伝える。


 


 「全住民へ連絡できたと思うわ。ただ、確認はできていない。でも今できるだけのことはしたつもり。そちらで確認できることはしてもいいわ。でも建物などは壊さないと約束して。」


 「ああ、いいよ。約束しよう。」


 俺は奴隷たちに”ここに居ない奴隷は居ないかを確認してくれ”と伝えた。

 すると五名ほど見当たらないことが判った。


 それで所有者は判るかと聞くと判ると答えた者を連れて、奴隷が居るはずの家へ行く。領主の娘にここの家に奴隷が居るはずだと伝え、家主を呼び出して貰う。


 うちには奴隷など居ないというので、確認させてもらうだけだと言っても抵抗した。

 領主の娘へ、扉だけ壊させてくれと言うと、家主は観念して、家の中から奴隷を連れてきた。


 そんな風に、他の奴隷も全員見つけ、奴隷達に俺達の国へ連れて行くつもりだが、ここに残りたいなら無理にとは言わないと話した。中には、俺の話をどうしても信じられなくて、逃げたら殺されると言い続ける者も居た。

 

 俺は領主の娘を連れてきて、


 「今日解放した奴隷は皆連れて行く。だが、ここに戻りたいというものが居たら、後日ここに帰す。その時、その奴隷が酷い目に遭わないよう約束してくれないか?」


 「ええ、約束するわ。」


 「そうか、あんたと最初から話したかったよ。俺はゼギアス・デュラン。あんたの父親が蛮族の国と呼んだサロモン王国の王をやってる。」


 「私はエーリカ・アムゼン。ゼギアス・デュラン、その名前覚えておくわ。」


 「じゃあ、騒がせて済まなかったな。」


 俺は振り返り、


 「俺達の目的は達成した。さあ、国へ帰るぞ!新しい仲間のためにすることもたくさんある。でも楽しくやっていこう!」


 拳を握った両手を掲げ、勝利宣言を敵前で行う。

 仲間たちは歓声をあげた。

 皆の顔が誇らしげで俺はますます嬉しくなった。


 アロンが各部隊隊長へ指示を出す。

 俺達は隊列を整え、振り返らずに国に向かって歩き出した。


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