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24、幕間 サラの旅行(ザールートトラブル編)

 サラは幼い頃から、少し頼りなく女に弱い兄ゼギアスの面倒を見るのは自分の役割だと考えていた。だが、ゼギアスにもしっかりした奥さんができ、サラが口出しするのは良くないと考え、ゼギアスに構う機会を減らしてきた。


 ゼギアスから知識や情報を得て、サラには何なのか判らないモノを龍気を使って生み出した。それが兄やエルフ達、今では多くの仲間達の生活に役立ってる。その仕事もドワーフが自分たちの力で作り出しつつある。ここでもサラの役割は減った。


 実は少し寂しかった。

 そんなことはないと頭では判っていても、兄や皆の力になれなくなってるようで寂しかった。


 だが、サラのところへ同じ年齢、そして頼りない姉を支えようと頑張ってきたライラが来た。お互いに感じてきたこと感じていることを話し、まるで自分自身と話してるかのように感じることすらたびたびあった。


 妹達は判りあったのだ。

 最近、風が吹いているかのように感じていた魂の隙間を埋めあったのだ。


 二人は、何をするのも一緒に楽しむようになった。

 ブリジッタの話を聞いて絵本を作ったり、幼い子供達のおもちゃを作ったり、ライラの体質があるから家の中でするモノばかりだったが、いつも二人で過ごしていた。


 サラはそれでも構わなかった。だが、ライラは自分のせいでサラも外で過ごさなくなったのだと悩んでいた。


 自分だって外で買い物したり、人目を気にせず街中を散歩したりしたいが、意識してフェロモンの発散を抑えても完璧には抑えられないし、抑えた状態で居るとすぐ疲れてしまい結局家に戻ることになる。


 サキュバスなら誰もが持ってるフェロモンを吸い込む白いローブを身に着けていれば大丈夫。だが、かなり厚手なので気温や湿度が高いと用がない限り外に出ようとは思えなくなる。


 そんなある日の夕食後、サラがサエラとライラに


 「はい、これ。外出時に身につけて欲しいの」


 そう言って、サエラには赤い宝石が乗った指輪を、ライラには青い宝石が乗った指輪を差し出してきた。


 「サラちゃん、ありがとう。でも……これは何のプレゼントかしら? 」


 ライラが姉の気持ちも代弁して聞く。


 「それね、サキュバスが発散するフェロモンを吸って無効にする指輪なの」


 「ええ? 」


 「サエラさんもライラちゃんも、自分の体質のこと気にして外に出るの控えてるでしょ? 外に出る時は白いローブ被らないと面倒なことになるかもと思ってたでしょ? それでお兄ちゃんに協力して貰って作ったの。サエラさんには内緒でお兄ちゃんと一緒に居る時、こっそり実験したので効果は確認済み」


 「主様、そんな実験をいつ……? 」


 「昨日、二人で建築現場歩いたでしょ? その時に、少しの時間だけローブを脱いで貰った時があったの覚えてないかな……」


 亜人代表でシャピロ達、人間代表でアロン、魔族代表で現場で働いていた魔族の数人に、ローブを脱いでる間のサエラを見て感じた変化を報告して貰った。

 サエラと繋いでたゼギアスの手にはその赤い指輪がはめられていた。

その指輪は、はめてる人の意思で効果を発揮させたり止められる。

 手を繋いでる間にゼギアスが指輪の機能を使ったり止めたりした。

後で聞いたらしっかりと機能していたらしい。


 どうやって聞いたのかとサラはゼギアスに確認したのだという。


 ゼギアスが言うには……。


 最初サエラを見てムラムラしたか?

 ――はい。

 それはどうなった。

 ――途中からムラムラしなくなりました。


 こんな流れだったという。


 お兄ちゃんの実験に付き合わされた人には後で謝っておこう。

 特にアロンさんはきっと仕返しを考えてると思う。

 まあ、デリカシーに欠けてるお兄ちゃんにはそれはいいんだけど、でも恥ずかしかっただろうからやはり謝っておこう。


 後にサラが皆に謝っていたことをゼギアスは知る。

 ”そのあたりがサラ様だよなあ”と褒められて、喜んでいいやら悪いやらゼギアスは複雑な心境だった。


 「まあ、主様ったら……」

 

 「悪い悪い、でもおかげでサラが作った指輪の性能は確かだと判ったんだ。許して欲しい」


 「「サラちゃん。ありがとう」」 

 

 「ううん、私と違って、サエラさんもライラちゃんもオシャレなんだから、ローブを被らなくても良くなれば、とても素敵だなって思ってたの。ただ……その指輪の機能を使ってると、すぐ近くにいる人にも影響が出てしまうの」


 「どういうことかしら? 」


 「その人達の発するフェロモンも吸い込んじゃうのよ。二メートルも離れると影響されないんだけど……。でも気にすること無いわよ」


 「そうそう、気にすることはないさ。ライラちゃんのそばにはサラがいつも居る。サラはそんなこと気にしない。サエラも同じさ。リーチェとマリオンもそんなの気にしないと言ってたから、問題なし! 」


 ワッハッハッハッハと笑うゼギアスを見るサエラの目が少し潤んでいたが、嬉しい時の涙は綺麗だからいい。サラに抱きついたライラの目も潤んでいたがこちらも問題なし。


 この翌日からフェロモンなど発していなくても、十分魅力的でオシャレな二人の姉妹を首都エルで頻繁に見かけるようになる。その手には他の誰も身につけていない綺麗な指輪がはめられている。衣装の色と多少似合わないことがあっても、二人はその指輪を人前で外すことは無かった。





◇◇◇◇◇◇





 過度なまでの男性からの視線を浴びることがなくなって、ライラは今までやりたかったことに積極的にチャレンジした。


 まず堅いところでは、体術の訓練。

 サラは、魔法力も技術もありマリオンも舌を巻くほどだが、体術でもそれなりに強い。素手でも強いが、短剣を用いたら、マリオンには勝てなくても、大概の兵士相手なら勝てそうなくらい強い。ライラはそんなサラに憧れていたので、体術の訓練に励むようになった。

 

 日常的なところでは、陶芸。

 サロモン王国では陶芸を子供から大人まで楽しむ人が多い。

 そのほとんどは自分の家庭で使うための食器が多かったが、出来の良いモノは”売りに出してみないか? ”と声をかけられ、オルダーンにあるサロモンの直売店で商品として出されることもある。売れればお小遣いにもなるが、それよりも自分の作品が評価される喜びを味わえる。商品レベルを目指して日々頑張ってる者も多い。


 ライラもやってみたいとずっと思っていたが、作業場には必ず大人が、それも男性は必ず居るので足を踏み入れにくかった。

 

 サラも付き合ってくれるので、陶芸に励んでる。


 そしてオシャレ。

 ゼギアス曰く、ライラちゃんのオシャレを見て判ったことがある。肌の露出ってその人の特徴に合わせると破壊的に扇情的だと。


 亜人も魔族も、人間と比べると肌の露出がかなり多い服装を着る。

 サロモンに移住した当初のアマソナスなどは、腰巻き一つで上半身は裸だった。今でも申し訳程度に隠してるだけ。

 そういう環境だからゼギアスは、肌の露出が多い程度では情欲が刺激されることはない。


 ところがライラのように、自分の長所を知った服装だと、露出されてる部分につい視線が行ってしまい、サラと同じ年の女の子なのにものすごく女を感じてしまうのである。そして無意識につい見てしまったと判ったゼギアスは赤面してしまう。

 同じような格好をマリオンが真似しても、エロさが目立ちすぎて魅力的ではあっても逆にそんなに扇情的でもないなと感じる。何というか……遠慮がちに、でもしっかりと主張することがオシャレには大事なんだなとゼギアスなどは思っている。


 そして最後に、これがもっともしたかったことらしい……旅行。


 「サラ様と行くなら、失礼の無いようにね? 」


 サエラはライラ自身のことよりサラに迷惑かけないか心配してる。

 

 「大丈夫ですよ。サエラさん。私達がとても仲良しなのはご存知でしょう? 」


 「ええ、そうなのですが、ライラは口が悪いところもあるので……」


 ライラがキツイ口調を使うのは、姉サエラに対してだけ。それも姉のことを思ってつい出ちゃうのだ。そのことをサエラも知ってるのだけど、サエラは心配してしまう。


 「サラのことお願いするね。俺はサラもライラちゃんのことも心配はしていない。でも思念伝達のネックレスはライラちゃん、いつも身につけていてね。そして何かあったらすぐ呼んでくれ」


 「ゼギアス様。判りました。サラちゃんと二人で楽しんできます」


 サラとライラの二人は、オルダーンの東にあるザールートへ旅行に行く。

 予定では二泊か三泊。

 ザールートへは、ゼギアスが市場調査も兼ねて旅行するつもりだったのだが、サラがたまには私が行ってくるというので、ライラと共に旅行にいくことになった。


 隣のオルダーンにはアンヌとゼルデも居るし、サラの力も知ってるゼギアスは心配はないだろうからと、のんびりしておいでと言って、自分の役割を譲った。


 「二人でザールートの男達を悩殺しておいで」


 マリオンは兄が心配になるようなことを言ったが、サラもライラも”男ならうちの国のほうが良い男揃ってると思うわ”とかわした。


 うん、二人なら大丈夫だ。


 サラは転移魔法を使えるが、今回は二人でグリフォンに乗って行くつもりだという。

 サラもライラも一度乗ってみたかったという。

 フカフカモフモフだからかな?

 まあ、いい。


 俺と奥様達三名に見送られて、サラ達はザールートへ旅立った。





◇◇◇◇◇◇






 ザールートは、オルダーンの東隣りにある都市で、人口十万人。最近は移住者も増えてきたとは言え、まだ人口四百人にも満たないオルダーンとは比較にならない規模の都市だ。


 ザールートも海に面した都市だが、主な産業は農業。

 北側には穀物地帯があり、麦が主な作物だ。


 海に面してるのに、水産業がさほど盛んでないのは、砂場を好んで住む魔物が多数居るためだそうだ。船で沖に出ようとすると船底にぶつかってくるので、船に穴が空くのを怖れて、よほど頑丈な船を持つ者以外漁には出ないらしい。


 サロモンに属し配下になりたいと言って来た中に人魚系魔族マーマンが居て、その砂場を好む魔物について聞いたところ、”ああ、ノルノルですね。めっちゃ刺すんですよ、あいつ”と言っていた。体長は三十センチほどで、姿は小さなエイと表現すると近いみたい。半透明で茶色らしい。


 ”刺されると数日ひかないほど腫れるし多少痛いけど、死に至るほどではないから、刺されることを怖れず槍で頭を突けばいいんです。イチコロですよ、イチコロ”とそのマーマンは言っていた。


 魔族のマーマンには大丈夫な相手でも、亜人や人間にとっては恐ろしい魔物なのかもしれないので油断してはいけない。だが、掃討する必要が出た時は、マーマンに頼めそうだという感触は掴んでいる。ちなみに、食べても美味しくないそうだ。


 ノルノルが居るおかげで海産資源を十分に利用できずに居る。


 サラとライラにとってはあまり関係のないこと。

 一応知識として覚えたって程度の話。


 サラとライラは、ザールートののそばまで飛んでグリフォンから降りる。

 グリフォンには、一旦オルダーンへ戻って貰い、アンヌ達の警備に協力して貰うことになってる。必要になったらアンヌへ思念伝達しこちらへ送って貰えばいい。


 「数ヶ月ぶりにサロモンの外へ出たけど、エルの建物や街並みを見てるからか、なんか平凡と感じちゃうね」


 ザールートへ入ってライラの第一声がこれだった。

 ライラと腕を組んで歩くサラは


 「お兄ちゃんが作るものと比べちゃダメよ。あれはアレだからねえ」


 「ああ、うん、この世界と違う世界から持ってきたものだよね」


 「そうそう」


 「何回聞いても不思議な話。でも、ゼギアス様だからなあ、何でもアリな気がする」


 「私もよ。フフフフフ」


 二人は砂浜のそばの屋台で見かけたパンの間にタレが染み込んだ羊の焼肉を挟んだものを食べる。


 「うん、悪くない」


 「悪くないね。これに合うお野菜を挟んだらもっと美味しくなるね」


 砂浜に座って食べながら雑談している。

 今度作る絵本の内容をどうしようか話している。

 ストーリーや挿絵を考えるのは楽しいらしく、二人でいると最近はこの手の話が多い。あとは上手く作れた陶器のこと。


 「フフ、これじゃ家にいるのと変わらないね」


 「あ、そうね。でも場所がいつもと違うからお話の中身も楽しく考えられるわ」


 「それもそうだわね。そう言われると私もライラと同じ気分だわ」


 背後から、”お嬢さんたち楽しそうだね”という男の声が聞える。

 ライラにとっては以前はよくあったこと。

 サラにとっては初めての出来事。


 「ええ、楽しいもの」


 サラは振り返る。

 見かけは、旅行者か、行商人……でもこの街の人かも?

 年齢はゼギアスより少し上の二十代前半くらいか。

 中肉中背のごく普通の人間に見える。

 そんなタイプの男が三名が笑顔で近づいてくる。


 「何の話をしてたんだい?楽しいことなら俺も知りたいな」


 「絵本のお話よ」


 ライラが答える。


 「絵本だって? そんなもんの何が楽しいの? 」


 男達のうちの一人が少しバカにした様子。


 「子供達が楽しんでくれることを考えるのはとても楽しいわ」


 ライラがちょっとムキになって言い返す。

 

 「ふーん、そうかい。貴族のお子様相手の話か、金になるならそりゃ楽しいだろうなあ」

 「それじゃこいつら金持っていそうだな」

 「ああ、誘って遊ぼうぜ」


 男達は勝手なことを言い出す。

 

 「私達が何であんた達と遊ばなきゃいけないのよ。冗談じゃないわ」


 ライラは怒り出してる。


 「ほっときなさいよ。さ、宿を取りに行きましょ」


 サラはライラの腕を掴んでこの場から立ち去ろうとする。

 一人の男がサラの肩を掴んで


 「待てよ。俺達に逆らわないほうがいいぜ。俺の親父は領主様のところで働いてるんだ。判るだろ? 」


 「は? 何を言ってるのか判りませんよ? 」


 サラは掴んでる男の手を振り払う。


 「だからさ? 俺が親父に言えば、あんた達なんか捕まるんだよ。大人しく言う事聞いたほうがいいぜ? 何も攫ってどこかに売ろうってんじゃないんだ。一晩付き合ってくれればそれでいい。俺達もあんた達も楽しんで、はい、さようならってわけさ? 悪い話じゃないだろ? こいつらがあんた達の金をあてにしたようなこと言ったが、俺はそんな気はないしな。な? 」


 な? じゃないわよ! とサラは言いたかったが、この街に来て初日でトラブルを起こしたくはない。


 「申し訳ありませんが、私達は貴方達と遊ぶつもりはありません。では失礼します」


 サラがそう言って去ろうとすると、再びサラの肩をその男は掴んだ。


 「離してくださいませんか? 」


 サラは男の手を振り払う。

 

 「乱暴なことしたくなかったんだが、あんたがこっちの言うこと聞かないのが悪いんだぜ? 」


 男は他の二人に目配せする。

 一人の男がライラを捕まえようという動きを見せた。

 ライラは平手でその男の顔を打つ。

 パシッと音が鳴り、男は打たれた頬に手を当てた。


 「おいおい、お転婆な女だな。男に力で敵うとでも思ってんのかよ」


 「いい加減ここらで止めないと、貴方達が痛い目に遭いますよ」


 サラは一応忠告する。

 ライラの目はただ怒ってるし表情もそう。だが無表情のサラの目にはまるで汚い虫を見るかのような男達を蔑んだ色がある。ゼギアスがこの場にいてサラの表情を見たら、男達にお前達のためにここは帰った方がいいと言っただろう。


 「てめえ。判らせてやる!! 」

 

 男達はサラに向かって突っ込んできそうに見えた。 

 だが、サラとライラの前には見えない壁があり、男達はそこから先に進めない。

 男達は横や後ろに移動しようとしたが、やはり見えない壁に遮られて移動できない。


 「明日の朝までそこで反省していなさい。一晩食事を抜いたくらいじゃ死にませんし、今日は寒くもありませんもの。ゆっくり反省する時間はありますわ」


 サラが使った魔法はベアトリーチェが得意とする結界による封じ込めだった。

 サラも結界魔法を得意とするから、ベアトリーチェとはしばしば情報交換する。その中で使い勝手のいい魔法として覚えていたのだ。


 サラの言うことは多分本当だろうと信じたのだろう。他の二人が”ここから出せ”と騒ぐのに、領主のところで働く父を持つ男は観念しつつも憎々しげに


 「お前はどこから来た」


 「サロモン王国からですわ。それが何か? 」


 「ケッ、奴隷の国からか。どうりで常識がねえぜ。まあ、明日の昼までこの街に残っていたらその意味を教えてやるよ。怖かったら、さっさとこの街から逃げるんだな」


 「それはどうも」


 男の言うことなど関心ないと明らかに判る態度で、男達を振り向きもせずサラはライラと共にこの場から歩きさる。


 ”あいつらをこのまま帰していいんですか”だの”これじゃ俺達いい恥晒しですよ”と煩い男達を無視して、親の威に頼る男は


 「大丈夫だ。あの女は明日も居る。泣いて謝らせ、その後犯して裸にひん剥いてやる。お前らも楽しみにしてな。奴隷のくせに俺に恥をかかせたんだ。ただで済ませるわけはないだろう? 」


 そう一人呟いていた。下卑た色を帯びた瞳が光ってる。

 明日何をして楽しもうかと舌なめずりしている。

 他の男達もその言葉を聞いて、”ヘヘ楽しみだぜ””前からやってみたかったことがあるんだ”と悪い顔で笑ってる。


 誰を敵に回したのかも判らずに……。


・・・・・・

・・・



 「そう、領主さんは良いお方なのね? 」


 サラはオルダーンに居るアンヌと思念で情報を集めていた。

 どうやらザールートの領主は評判の良い方らしい。

 アンヌも、解呪後の話ではあるが、領主と面識があり、会って話した感じでは領民思いの良い領主であるという。


 「そう。申し訳ないけど、明日の朝、巡回が終わったらこちらで合流できないかしら? 万が一ここの領主と会うようなことがあれば、アンヌさんが居てくれると話が早いと思うの? 」


 アンヌは了解したと返事する。


 「このまま帰った方が良いのでしょうけど、お兄ちゃんはこことはいずれお付き合いするつもりのようですから、きっちりと話をしたいわね。あの馬鹿息子じゃなくその親や領主様とね」


 心配しないでとライラの顔に両手をあてて笑顔をサラは見せる。


 「クスッ……ライラに引っ張たかれた男の顔ったら……ククククク…………アハハハハハハ、思い出したら笑いが……」


 「つい……」


 反省したようにライラはしょげている。


 「いいのよ。ライラが叩かなかったら私が叩いていたわ」


 ベッドの上でサラは笑い転げる。

 その様子を見てライラの顔にも笑いが浮かぶ。


 「今日は早く寝ましょう。明日の昼頃には、あの馬鹿息子の親が大騒ぎで来るんでしょうから」


・・・・・・

・・・



  

 アンヌの到着を待って朝食をとるつもりだったのだが、アンヌだけでなくクラウディオも一緒に来た。どうしても立場の違いがそうさせるのだろうが、アンヌの表情や態度はごく普通。だが、クラウディオはサラに何かあったら大変と心配してるようで、少し落ち着かない。


 サラが”心配しないでください”と言っても、”いえ、オルダーンにとっては大事なことなんです”と言ってクラウディオは緊張を解かない。


 「ゼギアス様に報告しましたが、サラ様の好きにやらせてくれとのことでした。笑ってらっしゃいましたよ」


 アンヌも微笑んで”俺が出ていったら余計なことしないでと怒るだろうし”とも言ってたと言う。

 

 「まあね。これは私が起こしたことなんだもの。そろそろ自分で解決しなくちゃね」


 アンヌがまったく慌てていないことと、サラの表情がいつも通りなのでライラも落ち着いている。この場で焦りが見えるのはクラウディオだけだ。この程度のことで何かあろうとゼギアスが怒るとも思わないし、オルダーンへも影響など無いだろう。でもクラウディオにとっては、オルダーン復興の大きな力であるゼギアスのことを考えると心配になってしまうのだろう。


 四人でこれからのことを打ち合わせし、何かあっても問題になりにくい浜辺へ降りて、馬鹿息子の言った”常識”とやらが起きるのを待った。


 やがて、”あそこに居るあいつらだ。昨日より人数増えてる。”という昨日聞いた声が背後からする。


 「来たようよ。さてとどうするつもりなのかしら? 」


 サラは声のする方へ振り向き、相手が来るのを待った。


 ”全員捕まえろ”と馬鹿息子が連れてきた警備員らしき男の一人が他の者達に命じた。


 「逮捕の理由は? そして逮捕できる証明は? 」


 サラは近づく警備員に向かって、腕を組みながら言う。


 馬鹿息子が”そんな理由なんかどうでもいい”と騒いでいるが、警備員は考えている。真正面から逮捕の理由を聞かれるとは思っていなかったようだ。


 「逮捕の理由も今考えなきゃいけないの? 」


 サラは両手を胸の高さまであげ、開いて、ヤレヤレといった態度。


 「いいからそいつ等を捕まえろ。理由なんかあとで俺がなんとかしてやる」

 

 馬鹿息子は嫌な笑いのまま警備員達をけしかける。


 「貴方達の中に、あの馬鹿息子の親はいるのかしら? 」


 サラは警備員達に近づいて聞く。


 警備員の中に魔法を使える者が居るのだろう。

 サラの周囲に魔法が展開されるのを感じた。


 「これはどういうことかしら? 逮捕の理由も聞かされていないのに、魔法で私を縛ろうと? ザールートの保安ってどうなってるのかしら? 」


 サラはきつい口調で畳み掛ける。

 

 「相手の力量も判らないうちに魔法を使うのは止めておいたほうがいいわ。無駄に魔法力を失うだけよ」


 サラは周囲に展開された魔法を無視して、警備員達の目の前まで歩く。


 「ば……バカな……我らの魔法が通じません。この娘は我らより魔法力が強いとしか考えられません」


 「で、どうするの? 逮捕の理由を言うの? 言わないの? 一応言っておくけど、私は理由も告げられずに大人しく捕まるような育ち方はしてないわよ」


 「ここで大人しくしていろ。もうじき警備長官がいらっしゃる。それまで待て」


 「いいわよ。もちろん待つわ」


 サラはライラ達が待つところまで下がり、座る。


 「なぁんか色々見えちゃったわ。多分、警備長官もあの馬鹿息子がやってること知らないんじゃないかしら。あの部下は理由を聞かれて戸惑った。理由もなしに逮捕することの非道さを理解はしてる。あの馬鹿息子に脅されて嫌々ここに来たんじゃないかしら」



 十分程過ぎて、警備員達に動きが見えた。

 警備長官……あの馬鹿息子の親が到着したのだろう。


 サラは再び立ち上がり、警備員のほうへ歩きだす。


 「私はここザールートの治安を任されてるベイリン・メルタルと申します。あなた方には不審者の容疑がかかってます。いくつか質問させて頂きますが宜しいですか? 」


 「はい、どうぞ」


 名前や出身地、ザールートへの訪問目的など聞かれた質問に一通りサラは答える。


 「あのこちらかもお聞きして宜しいですか? 」


 「どうぞ」


 昨日、馬鹿息子達が仕出かしたことを話した。


 「で、こうなってるわけですけど、ザールートでは男性からの誘いを断ると逮捕されるのでしょうか? 」


 サラの話を聞いているうちに、ベイリンの顔色が悪くなっていく。

 ベイリンには心当たりがありそうだ。

 過去にも昨日のようなことをあの馬鹿息子が仕出かしたことがあるのだろう。


 「すみません。少々お待ちいただけますか? 」


 サラに立礼し、馬鹿息子のところへベイリンは急ぎ向かった。

 馬鹿息子がベイリンへ身振り手振りで説明しているようだが、どうせ嘘だろう。


 その様子を見守りながら、溜息を一つつく。

 もう馬鹿らしいと思いつつ、後ろを振り返る。

 ライラとアンヌはにこやかに座ってる。サラの様子を見て、もう大丈夫だと確信してるのだろう。クラウディオも先程までより落ち着いている。


 やがてベイリンが戻ってきて、


 「あなた方が暴行を働いたというですが……」


 「ベイリンさん。暴行を働いたというなら怪我をしているはずでしょう。治療したというなら治療跡が、魔法で治療したというなら治療魔法を使用した人がいるはずですよね? この街ではそういった当たり前のことも確認しないのですか? 」


 「あ……いえ……通常はそうなのですが……」


 サラはベイリンの馬鹿親加減に呆れてしまった。

 このままじゃ埒が明かない。

 後ろを振り向き、砂浜に座っていた三人を呼んだ。


 「こちらはご存知でしょうか? オルダーンのクラウディオ様とアンヌ様です」


 ベイリンは、二人に見覚えがある。

 二人と領主との会合を警備していたのだから。


 このサラという娘はオルダーンの関係者なのか?

 そうでなければ次期国王のクラウディオとその姉アンヌが、わざわざこの娘と一緒に居るはずがない。ならば、賓客として遇するべき相手のはず。


 だが、そのような立場の者ならば、警備員が駆けつけた時に立場を明かせばいいはずだ。だがそうしないということは……うーん、判らない。警備の仕事以外ではベイリンに判断する権限がない。これは領主様に相談して対応を決めるしかないだろう。


 「はい、存じ上げております。つきましては、我が領主、カレイズ・ガルージャとお会い頂きたい。ご案内いたしますので、皆様にはご同行をお願いしても宜しいでしょうか? 」


 「行きましょう。すみませんね。アンヌさん、クラウディオさん」


 ライラもアンヌとクラウディオもサラに向かって承諾したと頭を下げた。

 サラの言葉をベイリンは聞き逃さなかった。

 オルダーンの二人の様子も見逃さなかった。


 この娘は、オルダーンの二人と対等の立場。

 これは確実だ。


 マズイ、うちの馬鹿息子はとても困ったことを仕出かした。

 ザールートは今、オルダーンと友好関係を結んでいる。更にオルダーンの特産品やサロモン王国からの商品をザールートにも卸して貰おうという話も出ていると聞いてる。


 馬鹿息子がベイリンに向かって何か言おうとする様子に、ベイリンは目に怒りを浮かべて黙らせた。


 (私の首が飛ぶくらいでおさまればいいのかもな……)



・・・・・・

・・・


 領主の館で謁見の間のような場所へ四人は通された。

 しばらくすると、領主と次期領主の息子がベイリンと共に入ってきた。

 ベイリンが事情を説明すると、領主はクラウディオと話し始める。


 「……それで、こちらがサロモン王国王ゼギアス・デュラン様の妹殿下サラ様、お隣がゼギアス様の第三王妃サエラ様の妹君ライラ様です」


 サラとライラが椅子から立って領主に礼をする。

 ベイリンの顔は青ざめた。

 サラやライラのような立場の人が、もし馬鹿息子の言うように乱暴を働いたというのなら、それなりの理由があるのだろう。いや、理由もなく乱暴を働いたのだとしても、証拠もなしに捕まえることなどできない。


 何より、ベイリンと会ってからここまでサラの言い分には淀みもなく、当たり前のことしか含まれていない。


 馬鹿息子は昔仕出かしたように、綺麗な女の子に手を出して、言うことを聞かないからと暴力を振るおうとしたのではないか。

 もし……もしそうだったなら……。


 「領主様、はじめまして。私、ゼギアス・デュランの妹サラと申します。昨日ザールートへ旅行へ来て、この街を楽しもうとしておりました。古いけれど整った街並み、のどかな農園風景、美しい砂浜。ここには素晴らしいものがたくさん御座いました」


 ”ここに居るライラも同じく楽しんだでしょう”と、ライラに微笑む。


 「しかし、二つ不満が御座います。一つは治安です。もう一つは我が国への差別意識です。昨日お会いしました方のことはそこにいらっしゃるベイリン警備長官に説明いたしましたので、治安についてはここで触れません。それよりも差別意識なのですが、昨日お会いした方は我が国のことを奴隷の国と呼んでいました。この件は治安などよりも大きな問題と個人的には考えております。もちろん兄にも報告しないわけにはいきません。領主様はいかがお考えでしょうか? 」


 ”奴隷の国”という言葉を聞いて、領主とその息子よりアンヌの顔色が変わった。クラウディオの顔色は更に変わり、身体も震えている。


 「それは聞きづてなりませんね。我が国に大恩あるゼギアス様とゼギアス様が治める国を奴隷の国と呼ぶ習慣がここにはあるのですね? カレイズ様、この件はっきりしていただかない限り、我が国との間で進んでいたお話をこれ以上進めることはできません」


 サラとクラウディオから問われた領主カレイズは


 「申し訳ありません。現在、そのようなことを言う者がまだ残っていることは事実です。ですが、我が領民には考えを改めるよう申し付け、徐々にではありますが、減っておるのも事実です。その辺をどうか考慮してお怒りを納めてはいただけませんか? 」


 サラとクラウディオに頭を下げて領主は謝罪する。


 「ベイリン、そのような発言した者に心当たりはあるのか? 」


 馬鹿息子との先程の会話の中で、サラ達を”奴隷”と呼び、”奴隷の国から来た奴のことを俺より信用するのか”と言っていた。


 うちの馬鹿息子で間違いない。


 「……はい。ハロルド・メルタル……息子です。」


 「……」


 サラ達は無言のまま状況を見守る。


 「ベイリン。この始末、お前はどうしたら良いと考える? 」


 「ハッ、法に則りハロルドを拘束し裁判を受けさせることになります」


 「それで良いのか? 」


 「私も辞表を……」


 「貴方は親馬鹿の上に、無責任な人なのですね」


 サラはベイリンに向かって言う。

 

 「貴方が辞めて何の意味があるのですか? 貴方の自己満足しか残りませんよ。この件で辛い思いをした貴方だからこそ果たすべき責任があるのではないのですか? 」


 ベイリンから領主の方へ顔を向け、


 「領主様が差別意識を取り除こうと努力中であること、それが判った以上、大事にするつもりはありませんし、兄に報告はしますが、別段この件で何かをする必要はないと伝えます。ですから、ベイリン警備長官をこれ以上罰しないでいただければとお願い致します」


 笑顔に戻ったサラは最後に


 「そもそも、警備を呼ばれるようなことが無ければ、私はこの件でどうこうするつもりは無かったのです。私用の旅行中のことですからね。警備が呼ばれた以上は、私も立場上ケジメをつけないわけにはいかなかったのです」


 言い終えたサラは座った。


 「サラ様が問題にしないのでしたら、ゼギアス様が問題にするはずがありません。そこは信用して大丈夫ですよ」


 ライラも気が済んだのか明るく付け加えた。


 「私も先程はカッとして強く言い過ぎました。今動いている話はこれまで同様に進めていきましょう」


 サラが不問にするというなら、クラウディオもこれ以上問題にするつもりはない。オルダーンの意思と姿勢は伝えたのだし、いい機会になったのかもしれない。


 「カレイズ領主、そしてエルス様、一度サロモン王国の首都エルをご覧になってはいかがですか? 私がご案内いたしますよ。あの街を見れば、特に、次期領主になられるであろうエルス様には勉強になることが多いと思います。また奴隷の国などと蔑んでいてはいけないと強く感じることでしょう」


 アンヌは実際を見せたほうがいいと感じていた。

 新しい技術、新しい統治、いろいろな新たなことに挑戦しているところを見れば、馬鹿にしている者のほうが愚かなのだと判るだろう。あそこを見ても判らないような相手とは人でも国でも付き合う価値がないのだ。





 サラ達は領主の館から出た。

 警備員に捕まり、ベイリン本人に連れられていく馬鹿息子とその仲間二人が、サラに罵声を浴びせている。だが、もうどうでもいい。せっかくの旅行一日半をつまらなく過ごしてしまった。


 残りあと二日をできるだけ楽しもう。

 ライラと二人でのんびり過ごそう。


 「クラウディオさん、アンヌさん、ご迷惑をおかけしました。あと二日ここに居ます。もうこれ以上お二人にご迷惑かけないようしますね」


 迷惑などとんでもないと言うクラウディオと、二日後にまたと挨拶するアンヌ、二人と別れ、サラとライラは


 「今日はこの街で美味しいものがないか探しましょう」


二人は腕を組んで街へと歩きだす。


 

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