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22、ゼギアス後悔する

 グランダノン大陸南部は広大だ。

 地球で言えばアフリカ大陸ほどもある。

 自然は豊かで、この世界ではまだ注目されていないけど資源も豊富。


 だが、そこに住む亜人や魔族は、過去しばしば争いあい、その数が増えることはなかった。幸か不幸かそのおかげで食料の調達に困る種族は少ないはずだった。


 だが現実は違った。


 龍やその他の怪物が住む地域も多く、亜人や魔物はそれらの影響を受けない地域での生活を余儀なくされている。


 亜人や魔物が入り込まなかった地域の一つ、通称神殿の森。神殿には龍が住み、その配下の飛竜達がその地を守っていると言われていた。

 この森はグランダノン大陸南部で最大の森林山岳地帯でグランダノン大陸南部のおよそ五分の一ほどの広さを持つ。太古の時代には、ここに国があったという伝承もあるが定かではない。


 そこに今一つの新たな国が生まれようとしている。



 ゼギアス・デュラン。


 後世、神にもっとも近づいた王と呼ばれ、新天地の王とも呼ばれることになるこの男が今、育ての父サロモンから名を借りたサロモン王国を神殿の森に建国し、初代の王となる。




◇◇◇◇◇◇




 サロモン王国建国の噂は、グランダノン大陸全土に衝撃を与えた。

 

 「我が国民、我が同胞たる亜人や魔族を奴隷とすることは決して認めない」


 この宣言は、奴隷が社会資本の一部であり、重要な労働力であったリエンム神聖皇国とジャムヒドゥンにとって見過ごせないものだった。


 今までは、奴隷など亜人狩りでいくらでも調達できるものと考えていた両国は、今後手に入れにくくなる事態を重くみていた。

 ただ、リエンム神聖皇国とジャムヒドゥンでは事情が多少違う。

 リエンム神聖皇国の奴隷は全て亜人、魔族、もしくは亜人や魔族の血が混じった者に限られていたのに対し、ジャムヒドゥンでは亜人達だけでなく、人間の一部……占領された際に捕らえられた者や経済的困窮などで奴隷に身をやつした者も多く居たため、サロモン王国の誕生が生む影響への危機感が違うのだ。


 これはサロモン王国の宰相となったヴァイスハイトの進言によって、現時点では奴隷制度の撤廃は時期尚早とし、人間の奴隷については触れないことに決めた。


 目的は、二つ。


 当面、リエンム神聖皇国とは戦い、ジャムヒドゥンとは、現時点では完全な敵対はしない。両大国と同時に戦う機会を減らす必要がある。


 そもそもリエンム神聖皇国とジャムヒドゥンとは現在も交戦中で、両者が手を結ぶ可能性は高くない。もし、サロモン王国の誕生により、圧倒的な不利益を被るリエンム神聖皇国とそこそこ不利益を被るジャムヒドゥンとの間でサロモン王国への共同した戦争を起こすための休戦協定を結ぶような事態が生じたなら、ジャムヒドゥンに有利な条件が求められるだろう。

 ジャムヒドゥンは、条件にいくつかの村落を求め、ジャムヒドゥンで足りない奴隷を補おうとするだろう。そうなった場合、サロモン王国へ共同で戦争を仕掛けたとしても、ジャムヒドゥン側は戦うフリだけで本気では向かってこない。何故なら、リエンム神聖皇国とサロモン王国の戦力が削がれたなら、漁夫の利を得られる可能性が高くなるからだ。


 二大国間に溝を入れるのが目的の一つ。


 また亜人や魔族の奴隷を確保しにくくなったとしても、奴隷制度ありきで成り立っている社会を既得権を持つ者達が変えることなどない。するとリエンム神聖皇国でも人間を奴隷とする状況が生まれるだろう。そうなれば、人間だから奴隷にはならないと考えて生活している多くの人達に恐怖や不満がたまる。それは国内に不安定な状況を生む。反乱なども状況次第で起きる。それは国力の低下に繋がり、リエンム神聖皇国の弱体化を生むだろう。


 リエンム神聖皇国の弱体化を狙うのが目的の二つ目。


 そのために、奴隷制度そのものより、奴隷にされてる種族を問題視する姿勢を見せたのだ。ゼギアスとしては本来気に入らないのだが、ヴァイスだけでなくその他の者達からも何度も説得されて渋々納得した。




◇◇◇◇◇◇


 

 サロモン王国は、神殿のあった場所を中心とする”グローリー オブ エルザーク”を首都とした。”グローリー オブ エルザーク”では長いから、皆略して”首都エル”と呼ぶ。ゼギアスもだ。各地に散らばっていた里の人達をここに集め、仲間となった各種族からの移住希望者も多数で、現在は人口二十万人ほど。


 だが、日増しに増えてるので、嬉しいのだが住居等の準備が追いつかず、経済担当してもらってるラニエロはいつも顔を青くしている。アロンが連れてきてくれた人材からも数人補充したのだが、事務処理は増える一方。都市政策担当を誰かに専任させたいのだが今のところ適材は見つからずにいる。早く見つけないと、ラニエロが泣き出しそうで心配だ。


 そして、エルフの各部族、ドワーフ、厳魔、アマソナス、デーモン各部族、更に続々とサロモン王国に参加希望する種族達の生活圏を領土とし大きく広がった。グランダノン大陸南部のおよそ半分がサロモン王国領土である。


 但しその領土内には、オーガやトロールなどの未だ非友好的種族の生活圏もある。また、龍が怖れられていたように同じく怖れられている怪物の生活圏もある。これらは領土内の安全を確保するためにも対応が急がれている。建国にあたって軍務を統括することとなったアロンが担当し、現在検討中である。


 現在、グランダノン大陸南部にある未接触の亜人や魔族等のところへは、今後使者を送り、協力関係を可能な限り結んでいく予定。これはジズー族元族長マルファに臨時の外交官役を務めてもらい、ヴァイスの指示のもと順次交渉してもらう。外交は宰相のヴァイスに兼務して貰っている。ここに人材が足りないのが最も頭が痛い。


 財務関係はシモーナに任せている。当初はもっと忙しく大変な部署だと考えていたのだが、食料も資材資源も自給自足で調達可能なうえ、最大の問題になると考えていた人件費がさほど増えなかった。理由は、住居と食料さえあればその他は要らないと考える者が国民のほとんどだったから。亜人や魔族すげえ。


 俺は、”今のところはとても助かる。だが数年後には必ず皆が自由に使える給与を渡すから”と言ってる。だが、元の生活と比べると、敵に襲われる心配はないし、決まった時間以外は働かされることもない。住居や食料は安く提供されているし、お金が多くあっても使うモノも思いつかない。だから気にしなくていいと返答がくるのだ。


 うーん、今までは生きるだけで精一杯だったからそう言ってくれるのだと思う。だが、俺としては皆に生きることを少しでも楽しんで貰いたい。ガラス工芸でも陶芸でもその他のどんなことでもいい。自分が働いて得た給料でもっと楽しんで生きて欲しいと思うんだ。


 まあ、あと数年は皆の気持ちに甘えるだろうけれど、数年後にはガンガン働いてガンガン生活を楽しむようになって貰えるよう、俺は頑張るつもりだ。


 

 相変わらず人材不足で困ってはいるが教育も何とか進められているし、諜報関係もアロンが連れてきてくれた中のモルドラという人間が中心となって整備しているようだし、国も徐々に整っていくだろう。



 港町オルダーンにも触れておこう。


 あくまでも辺境の一都市に過ぎなかった港町オルダーンだが、俺達は国として接することに決めた。国として認める必要があったのかといえば、オルダーンには無く、サロモン王国にはあった。うちと共同研究している様々なモノがあるオルダーンには、法令なども整備して貰う必要があったし、他国との交渉の際、オルダーンに間に入ってもらう必要が出た時、単なる一辺境都市のままでは都合が悪かったのである。

 現領主のコリン・ソルディーノと相談し、コリンを国王とする小国オルダーンが誕生することとなった。

 

 同盟国となったオルダーンには、うちの農業製品、工業製品をうる店舗が置かれ、またサロモン王国への公式的入出国可能な管理所を置かせて貰っている。その為、大陸中から移住希望者や旅行希望者がオルダーンに訪れている。


 また以前はサバトルゴイまで出かけて売っていた商品も、オルダーンでのみ売るようにした。我が国の商品を求める者達がオルダーンへ集い、お金を落とすようになるのに、そう時間はかからなかった。


 様々な国から様々な種族、様々な職業や階級の人が集まると、治安が悪くなったり、トラブルが起きやすいのだが、アンヌとゼルデが責任者となり取り締まっている。問題を起こした者には入国禁止だけでなく罰金や投獄もある。


 だが、俺は甘かった。

 

 奴隷を欲しがる者にとって、オルダーンは効率よく亜人を攫える最後の場所になっていたのだ。そのことに気づくのが遅かったために、俺は心底後悔するハメになる。



 

◇◇◇◇◇◇


 

 マリオンとサエラ、そしてスィールを連れて、俺はオルダーンに来ていた。

 二十棟の温室建設が終わり、借りる約束の一棟で育てる果物、栽培方法の説明のため作業に就いてくれる方達と会いにきたのだ。


 この世界には甘味が少ない。

 だから前回、栽培しやすいけれども普通に育てただけでは甘味の少ないトマトをフルーツトマトとして栽培し易い土地を選び、その試みは成功した。

 

 今回は、果物を栽培する予定。

 穀物類だと薄利多売になりがちで、作付面積も広くなければならないし、保管や輸送も大変になる。そこで果物。甘味が少ないこの世界では、果物は高価な商品になるだろう。穀物ほど作付け面積は必要ないし、更に、温泉を利用した温室栽培が可能なこの地にうってつけだと考えた。


 今回選んだのはマンゴーとメロン。

 この二種を選んだのは、生育温度がほぼ一緒なことと、水やりがあまり必要でないこと。手伝ってくれる方の作業量が少しでも少ないものをと選んだ。


 メロンは今年中に、マンゴーは数年先の収穫を狙っている。

 本当は、ベリー類やバナナも栽培したいのだけど、多くのことに手を出せるほど人員が居ないので今年は諦めた。

 

 栽培法、特に交配や病害虫についての説明を半日かけて行い、俺は同行していきた三名と共にオルダーン料理を楽しむことにした。

 次期領主クラウディオとその姉アンヌと一緒に彼らが勧めるレストランへ入る。

 フルーツトマトの反響をクラウディオは熱く語り、アンヌを含めた俺達はその様子を微笑ましく見て聞いていた。今日来たレストランでもフルーツトマトの冷製パスタやサラダにデザートが出てきた。


 今はまだ生産量が少ないから地元に卸してるだけだが、新たに建てた温室で大量に栽培できたら、近隣とも良い商売になりそうだとのこと。


 またもともと特産だったナマズを使った料理も美味しく、これで養殖が成功したら安く提供できるようになるし、不漁を恐れることも無くなるとナマズについてもクラウディオは嬉しそうに語っていた。


 うん、アンヌもとても嬉しそうだし良かった。


 だが、いい話ばかりではなかった。

 ここのところ、オルダーンを訪れる人が攫われるという噂が広がってるのだという。


 「この国の周囲は私とゼルデが指揮して見回りを強化してるのですが、人手がまだ足りず、オルダーンの隣町ザールートとの間の街道と近隣は監視が行き届いていないのです」


 この辺りの巡回に、飛竜やグリフォンを利用してはという話はあったのだ。

 だが、龍や魔獣は人間にとって恐怖の対象。

 現在、グリフォンを利用してオルダーンとサロモンの各地の輸送を行う計画が進んでるが、それはあくまでもゼギアスを信用してる地域だから可能なこと。

 ゼギアスと馴染みのないオルダーンの北や東側でグリフォンを利用するのはまだ時期尚早ということで、取りやめになっている。グリフォンよりも怖れられる龍など居ては、怖れて近づく人は大きく減るだろう。


 そういうことで今のところ、空中を利用した巡回が出来ずにいる。

 可能になれば人手もそう多く必要としないので良いのだが。


 まあ、できないことを考えても仕方ない。

 

 とはいえ、オルダーンに近づくと攫われるなどという悪評は絶対に防がなければならない。一つの悪評から離れつつあるのに、新たな悪評で邪魔されるのは困る。この問題はオルダーンだけでなく、サロモンへの入国をオルダーン経由に限定しているサロモンとしても困る話なのだ。

 

 だが、リエンム神聖皇国との戦いがいつ始まるかと緊張状態にあるから、リエンム神聖皇国側の人員は回せない。同じ理由で、俺もここに長く滞在できない。


 戻ったら早急にヴァイスとアロンに相談し、こちらにもできるだけ人員を回すからということで、この場でのその話は終わった。


・・・・・・

・・・



 「ダーリン、先程の話はやはり気になりますわ。私達の国で暮らそうと旅してきた亜人や魔族を捕まえて売り飛ばそうと考えてる輩に違いないです。私達の国が現れたから奴隷の値段を釣り上げるのも楽な状況ですしね」


 アンヌ達と別れて、宿に戻った俺達四人はマリオンの言葉に納得する。


 そうだな。


 一度は売られそうになったサエラも同じ意見のようだ。

 スィールは自分が残って怪しい奴を片っ端からしびれさせて尋問しましょうかと言い出した。

 建国時にスィールはアマソナスのリエッサと共に部族長の地位から離れ、軍の支援部隊に状態異常魔法を教える役目に就いている。ゴルゴンはデーモンとの戦争でその数を大きく減らしたから、スィールに前線から離れられるのは好ましくないのだが、軍としては状態異常魔法の使い手を増やしたいのでスィールに頼んでいる。


 魔法はその理と術式さえ理解してしまえば、魔法力と訓練次第で使えるようになる。スィールは、”私が二~三日居ないと判れば、各自自習しているでしょう”と気楽に言う。


 うーん、だがスィールが居る方がやはり良い。

 実戦投入可能な人員を早く増やしたいのだ。

 オルダーンに回す人員だって、実は数だけなら居ないわけじゃない。

 問題は質なのだ。

 しっかりと訓練し、実戦で使えるよう見込みがたってから配置したい。


 考えていても仕方ない。とりあえず、オルダーンに滞在する予定の今夜だけでも巡回するという話で落ち着いた。


 俺とサエラ、マリオンとスィールの攻撃役と支援役のペアを作り、街道を見回ることにした。


・・・・・・

・・・


 俺とサエラはザールート側に転移し、マリオンとスィールはオルダーン側から始めた。俺達は全員思念伝達可能な状態。俺は不要だが、他の三名には思念伝達ネックレスを持たせてある。これで何かあってもお互いに連絡は可能。


 ザールートからオルダーンまでは徒歩で十時間程度。

 街道の両側から調べれば、五時間程度で終わる。


 俺はサエラと腕を組みながら、一応旅行者風に雑談しつつ歩いた。

 そしておよそ二時間後、マリオンから連絡がある。


 「ダーリン、見つけましたわ。これから追いかけます」


 連絡を受け取った俺は、サエラの手を繋いでマリオンの思念がある場所へと転移した。


 マリオン達は街道から山へ入っていったようだ。


 「俺もそばまで来た。状況はどうだ」


 マリオンの思念が悔しそうだ。

 

 「敵は四人。人質をとってるのです。子供二人を連れた三名。多分、母親ですわね。子供達二人を捕まえて首にナイフを当ててるんですの……」

 

 「判った。手出しはしなくていい。見失わないように注意してくれ」


 俺は子供達と母親に怪我をさせないよう、どうすればいいか考えつつ、マリオンの待つ場所まで走った。サエラをお姫様抱っこしながら……。


 マリオンの姿はすぐ見つかった。横にはいつでも魔法をかけられるよう準備しているスィールの姿もあった。


 「ダーリン、どうするつもり? 」


 敵から目を離さずにマリオンが言う。

 敵はマリオンから離れるようジリジリと動いていた。


 「チッ……仲間が来やがった。母親は勿体無いが置いて逃げるぞ」


 敵の一人は片腕を抱いている。

 マリオンの攻撃で怪我したのだろう。

 

 その男が先に動き出す。

 だがこいつは放っといていい。

 今は子供達と母親を助けるのが優先だ。

 

 俺は敵の表情を観察していた。

 必ず俺達から目を離し、逃亡しようと考えてるはずだからだ。


 この辺りからはザールートまではまだかなり距離がある。

 隠れ家か、逃亡できる別の算段があるだろう。

 そうでなければ俺達を襲い、倒してからザールートへ戻ろうとするはずだ。

 

 マリオンの実力は多分判ってるはず。

 だが、人質を離さず逃げようとしている。

 対抗手段があるというのか?

 今は無くても誰かが持ってくる。

 いや仲間が来るのを待ってるのかもしれない。

 

 母親と子供達さえ助けられれば、敵が何人に増えようとそんなもの問題にならない。俺が手出しなどしなくても、マリオンとスィール、いやスィールだけでも駆逐できる。


 この時、俺は母親と子供達だけしか居ない理由を考えるべきだったのだ。

 だが考えなかったせいで後に後悔する。


 俺が到着して五分ほど過ぎた時、子供を抱えた男達が背後をチラッと確認した。


 (今だ! )


 俺は水系魔法に闇属性を混ぜた極めて弱い氷魔法をその男達のナイフを持つ手に、手首に向けて続けて放った。


 俺の手から、細く白い光が男達に届く。


 ポンッとナイフが落ちる。

 今まであったはずの男達の手首が消えている。


 俺の手から魔法が放たれたことを察知していたスィールとマリオンが動く。


 マリオンは子供達を救うため。

 スィールは男達を麻痺させるため。


 スィールの状態異常魔法をレジストできなかった男達はその場で座り込む。レジストできた者は居ない。残っていた三名全員が座り込んだ……身体を痙攣させて……。


 マリオンは男達の手から離れた子供達に近づき、子供達のそばに居た男二人を蹴り飛ばす。ガシィィという男達の防具に当たったマリオンの蹴りの音が響く。


 手加減はまったくしていない。

 まあ、マリオンに蹴られて運が良かったと言うべきか。


 俺は抹消するつもりでいたからな。

 こういう卑怯な輩にかける情けを俺はまったく持ってない。


 「これで明日の昼まで動けないでしょう。何なら石化しますか? 」


 石化は解除できるし、命にも別状無く治癒できる。

 だが、必ず誰かが解除しなくてはいけないという点と、解除できることを知らない者からすると石化は恐ろしい状態なので、必要の無いときの石化は認めていない。


 だからスィールは俺に確認したのだが、麻痺して動けないのだから、後はアンヌ達に任せることにした。尋問する必要もあるだろうしな。時間があれば俺がこの手で地獄を見せてやりたいのだが明日は戻らなければならない。


 「マリオンさん!! 」


 俺達の背後からサエラの叫ぶ声がする。

 何事かとサエラの居るところまで戻ると、そこには男が倒れていた。

 俺達の後を追って母親と子供達が近寄ってきて、倒れている男に覆いかぶさる。


 「あなた! 」「「お父さん!! 」」

 

 治癒魔法を使えるマリオンが近づき確認する。

 やがて首を横に振って


 「もう十五分、いえ、十分前でしたら、助けられたのに……」


 そうつぶやいた。


 そうか、敵を追うことと人質を解放することばかり考えて、こんな深夜に子供達二人連れた女がいることを不思議に思わなかった。

 

 父の死を知った子供達が


 「お父さん! もう少しで楽園に着くって、もうお腹が空くことを心配しなくていいって……ウワアァァァァァァアアン! 」

 「お父さん……お父さん…………お父さあああああぁぁぁぁん! 」


 号泣し始めた。

 母親も子供達を両手で抱きしめながら、肩を大きく震わせて嗚咽を漏らしている。



 ……そうか……俺達の国を楽園だと子供達に伝えてくれてたのか……

 危険はあると判っていても、深夜に移動しなければならない理由もあったんだろう……


 ああ、俺はやはり馬鹿だ。

 何度も転生し、多くの経験を積んでるはずなのに馬鹿が治らない。

 ……ちくしょう……。

 もっと注意すべきだった。

 

 そう、彼らは辛い生活を送ってるんだ。

 毎日、毎日、何年も、何年も……。

 そこに希望が生まれたら飛びこんでくるんだ。

 飛び込まずにはいられないんだ。


 一日も早く少しでも楽な生活をと望む人達の気持ちをちっとも考えていなかった。

 希望を持った人達がどう動こうとするか考えてなかった。


 俺は辛い目に遭ってる亜人や魔族を守ると誓ったのに……。


 子供達に近づき、俺は謝った。

 

 「……すまない。俺が馬鹿なせいで、俺が君たちのこともっと考えられなかったせいで……お父さんの命が奪われることになって……俺が無力なせいで……ゴメン。本当にゴメン」


 「ダーリン、気持ちは判らないわけじゃないけど、自己憐憫に浸って自分を慰めるような真似はダメよ」


 今にも泣きそうな俺の後ろからマリオンが声をかける。


 ああ、そうだな。

 泣きたいのは母親と子供達で、俺は泣いちゃいけない。

 悲しみに浸る誘惑に負けちゃいけない。


 俺にはそんなことは許されないんだ。


 ――――だって王になったのだから。

 

 父親の亡骸を俺は抱きかかえ、山を下っていく。

 母親の横には母親の腰に手を当てながら慰めるサエラが、子供達の手をマリオンとスィールが繋いで俺の後ろをついてくる。




・・・・・・

・・・


 

 オルダーンに戻り、父親の亡骸の埋葬と親子三人のこと、山に置いてきた人攫い共のことをアンヌに任せ、俺達は飛竜に乗ってエルに戻った。


 「ヴァイス! 意思表明をしたい。サロモンとオルダーンの近辺で奴隷商人やそれに類する輩を見つけたら、問答無用で殺すと」

 

 ヴァイスは既に事情を聞いていたのか、表情を全く変えずに


 「サロモンとオルダーンの近辺だけで宜しいのですか? 」


 「え? 」


 「この際、地域など限定せず、どこであろうととすべきです」


 どこであろうと奴隷商人とそれに類する輩を殺すと言っても、現実には他国の領土内では基本的に不可能。リエンム神聖皇国もジャムヒドゥンもそのことは判るし、両国への直接的な表明ではないから無視するだろう。

 しかし、奴隷商人達は無視できない。

 何故なら、今回の結果を触れ回るから。


 「了承を得る前に動いて申し訳ありませんが、アンヌに”彼の者達を残酷に殺されたように見せるよう”と指示してあります。実際は残酷に殺すようなことはしませんが、死体には細工させていただきます」


 「うん」


 「事実かどうかなど瑣末な話で、相手が事実と信じる状況を用意すればいいのです。奴隷商人達の動きは小さくならざるを得ません。まったく動かないとはいかないでしょうが……」


 その辺は任せていい。

 俺よりもヴァイスはうまく対応するだろう。


 「ああ、判った。それでいこう」


 「あと、逃げた人攫い達の捜索もアンヌとゼルデに指示しました。この件は他のことを全て止めてでも優先して対処すべきです。そうしないと我が国への入国を希望してオルダーンへ向かう者の気持ちに影響するでしょうから」


 「了解した」


 「あ、もう一つ。今回助けた母親と子供達は今日にも入国させます。彼女達を利用して心苦しいのですが、彼女達へは手厚く接し、そのことを宣伝に使わせていただきたいのです。そうすれば亜人や魔族も万が一の際にもその後の心配はないと感じてくれるでしょう。国内でも国外でもですね」


 「うーん、彼女達に手厚くするのはいいんだけど、宣伝に利用するのはなあ……」


 「ゼギアス様。敵には苛烈に、味方には手厚く温情を。これが我が国だと知らしめる必要があるのです。敵は降参しやすくなりますし、人も集まってくるでしょう。今だ人員不足の我が国は多少好ましくないこともしなければなりません」


 感情的にはまったく嫌だ。

 受け入れたくない。

 可哀想な親子を俺達の利のために利用するなんて考えるだけでも嫌だ。


 だが、ヴァイスの言うことも最もなんだよなあ。

 俺の美意識に沿った方策のほうが良いという理由も確信もないしな。

  

 「ゼギアス様。歴史を見ると、ロマンチストが国を栄えさせた例はないのです。リアリストが国を栄えさせるのです。もちろん理想を持つのも語ることも必要です。理想のない現実主義もまた危険です。ですが、必要な時に適切な手段を感情に左右されずに使えないと国を栄えさせることができないばかりでなく滅ぼすこともあるのです……」


 「判った。判ったよ。了解した。だが、彼女達の了承を得てからにしてくれよ? 」


 「はい、必ず! 」





・・・・・・

・・・




 「あなたのお気持ちは私達がよく判ってますよ」

 「ダーリン。私が慰めてあげる。いっぱい甘えていいのよ~」

 「主様、彼女達の生活、私も必ず助けますから、ご安心を」


 家に帰ってグッタリしてると、皆、それぞれの言葉で俺の心情を気遣ってくれた。


 サラとライラも慰めてくれた。


 「そうそう、お兄ちゃんは外ではいっぱい叩かれて、家では甘やかされていればいいのよ」

 「お兄様、私とお姉ちゃんも幸せになりました。きっとその人達も幸せになれますよ。みんなでそのために頑張ってるんですもの」


 サラの言うことには苦笑しちゃった。

 確かに、うちの奥さん達は俺を甘やかしてくれるから異論はないが。

 そう言えばサエラとライラも親を殺されたんだったな。

 でも今は笑顔で暮らしてる。


 そうだな。

 二人のように多くの人が笑顔で暮らせるよう頑張らなきゃな。


 しかし、皆と旅行したいな。

 難しいこと考えず、いろんな人と会ってみたい。


 今はまだできそうにないけど、人手が足りるようになったら、必ず行こう。

 問題があったらすぐ転移で戻れるんだ。

 連絡だっていつでもどこでもつけられるんだし。


 そういや、こんなこと何度考えたかな。


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