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20、ジズー族との戦い

 春になった。

 これで工事ももっと進められると喜んでいたのだが、またしてもデーモンが侵攻準備を始めたという。ガーゴイルやキマイラなども含めると前回より数百は上回ると予測している。


 デーモンの動きをこちらも随時確認していたので対策を早く打てる。

 前回と異なることはまだある。


 アロンがジャムヒドゥンや周辺国から多くの人材を連れてきてくれたこと。

 喫緊の懸案だった教師不足は、アロンが連れてきてくれた方達の中の元文官達十名で解消。そして元商人や元武官も居て、その武官の中には、軍を統率できる者が三名居た。三百~五百名規模の隊の統率経験者が三名増えたのは大きい。これらに各部族のリーダーが加われば、戦術単位の隊編成が十分可能になる。


 冬の間、ヴァイスやアロンと共に集団戦闘訓練を積んでくれたおかげで、厳魔とアマソナスを前衛、ゴルゴンとエルフが後方支援、アマソナスとエルザ兄弟による長距離攻撃部隊による組織だった戦闘が可能になった。


 総勢で二千名近く。


 二千名の軍隊に、ヴァイスとアロンの頭脳が加わる。

 敵が一万名規模でもない限り、俺の出番は無い。

 俺も冬の間にエルザークの指導の下、基礎体力はもちろん魔法も龍気も鍛えたから、今の実力を試してみたい気もする。でも、ヴァイスから、それでは隊の実戦訓練になりませんとお叱りを受けたので今回も自重する。


 基本方針は前回とほぼ同じ。

 罠やこちらに有利な場所へ誘い込んでから包囲して一斉攻撃。


 誘導役は厳魔。

 魔法防御力をもともと備えてる彼らにエルフが支援魔法をかけ、その状態で戦ってもらい、徐々に罠のある場所まで誘導する…………

 


 …………その予定だったのだが、デーモンの動きが前回とは違った。


 飛竜に乗って偵察した者から、デーモンはガーゴイルとキマイラを従え、隊を二つに分けて北側と南側に同時に移動しはじめたと報告があった。


 「問題ありません。戦力を分けてくれて感謝したいくらいです」


 ヴァイスは敵の情報を聞いても少しも慌てない。


 「こちらは北側に侵攻してくる敵を先に全戦力で叩きます。その後南側へ移動し、敵の後背から叩けば済むことです。隊を二つに分けてくれたので、各個撃破するだけでいいのです」


 うん、詳しくは判らないけど、要は楽になったってことだな。

 ちなみにアロンが何故か嬉しそうだ。


 「どうしたの? 何か良いことでもあった? 」


 「相手も少しは考えてるのが判って楽しいのです。今回の敵が選んだ手は悪手ですが、でも、何も考えないでただ力押ししてくる敵じゃないと判って嬉しいのです」


 ふむ、知恵比べしたいってことか。

 でもデーモンじゃ相手になりそうにないな。


 「ええ、もう少し歯ごたえがある相手だと私も嬉しいのですが……」


 ヴァイスも同じ気持ちらしい。

 でも貴方と知恵比べできる相手はそうそう居ないと思うんだよな。


 あと今回は敵を追い返すだけではなく、追いかけて敵に大きなダメージを与える予定になってる。前回の戦いで捕虜にしたデーモンからの情報だが、最近デーモンが攻撃的になっているのは、デーモンの王が変わり、新たな王が魔族を支配統率する夢を持ってるからだという。


 それじゃあ自分の力を思い知らせないと何度も同じことを繰り返すだろうと皆の意見が一致したので、今回は敵を徹底的に叩くことにしたのだ。全滅させて殲滅させるところまではやるつもりは無いけど、敵の本拠地近くまでは攻め入るつもり。


 途中で降参してくれると楽だが、捕虜から話しを聞く限りは降参するくらいなら死を選ぶタイプのようだ。


 ヴァイスは、殲滅しなくては戦争を継続させるような相手で、本拠地近くまで攻め入っても交渉にも応じないようであれば、その時はゼギアス様の力を見せつける必要が出てくるかもしれません、その時は宜しくと言われた。


 うーん、どんな風に見せつければいいのだろう?

 まあ、炎の壁で敵を取り囲んじゃうのが、見た目にも判りやすいか。

 

 ちょっと予想外の動きを敵がしてきたけど、うちに対しては有効ではない動きのようだった。アロンの号令で我が方の攻撃が始まる。


 厳魔とアマソナスの前衛部隊を三つに分け、中央から厳魔のリーダー、ラルダ率いる二百名が、エルフ等から対魔法防御の支援魔法を受けて突撃していく。敵がラルダの部隊を取り囲む動きを見せた時、その両側の外から、アマソナスのリーダー、リエッサ率いる右翼部隊四百名と新たに加わったダヤン率いる左翼部隊四百名が敵の両翼を側面から襲う。


 空中に上がろうとする敵は、我が軍が誇る長距離攻撃部隊によって叩き落される。

 アマソナスの中でも弓に秀でた者に、複合素材で威力、命中率をあげたロングボウを渡してある。有効射程二百メートル、アマソナスの鍛え上げられた筋力によって放たれる弓矢の貫通力は脅威だ。


 そして、もうこれは卑怯と言われても甘んじて受け入れるしかない武器をエルザとクルーグには渡している。


 AK-47、アサルトライフル。

 どんな環境でも動作不良を起こさない、構造が簡単でメンテも楽。

 重いのが難点でそれが命中精度を下げていると言われてるが、それは人間での話。亜人のエルザとクルーグが訓練すると人間より高い筋力を有し、4キロ程度の重量などさほど問題にならない。遠視能力に優れたエルザ達に有効射程距離六百メートルのAK-47を持たせると鬼に金棒という表現しか思いつかない。


 地球で複製した一丁をドワーフに預け、冬の間に二丁だけ作って貰ったのだ。

 マガジンの装弾数は八百で、一応スペアも持たせている。


 AKー47を俺から受け取ったエルザとクルーグは、この武器の特徴、性能を知ると目を輝かせ、銃撃訓練後には”この子から離れません”とエルザなど言い出す始末。クルーグも暇さえあれば、薬でもやってるんじゃと心配になるような危ない笑いを浮かべて銃身を磨いている。


 鷹人の弱点かもしれないと暗視装置も用意したのだが、実は夜でも見えるという。え?鳥は暗闇では視力落ちるって実は嘘なの?と聞いたら、そんな話は聞いたことないですねえと言われた。まあ、梟なんか夜行性なわけだし、でも梟は特別で、他の鳥は鳥目だと思ってた。まあ、暗視装置は他の人でも十分利用価値あるから無駄にはならない。


 そんなわけで、空中の近くの敵はアマソナスがロングボウで、離れた敵はエルザとクルーグがAK-47で叩き落としていく。


 

 実戦で見るのは初めてで、その破壊力にビビったのは厳魔。

 自身の身体能力を体内の魔法力を利用して高めてるので、全く魔法を使えないという評価は正確ではないが、敵を攻撃する魔法は使えないし、防御や支援魔法も他者へ使えない。使えるのは自身にだけ。

 攻撃は彼らの身体能力だけなのだが、これがとにかく怖い。

 敵の攻撃など意にも介さず、ひたすら目の前に立った敵を腕や足で破壊する。


 彼らの拳に当たった肉体は、言葉通り破裂する。破裂するとしか表現できない結果が、彼らの拳や蹴りに見舞われた相手には生じる。厳魔の攻撃にはどれほどのパワーとスピードがあるのだろう。


 返り血を浴びた無表情な青い顔でズンズンと進んでいく様子がとても怖い。

 子供が見たら夢に出てきてトイレにいけなくなるのではないだろうか。


 うん、厳魔怖い、今日覚えた。


 アマソナスの戦い方は、厳魔と異なりパワーよりも敏捷性の高さを活かしたものだった。避けて切る。アマソナスは魔法攻撃には弱い。魔法防御力などないに等しい。だが、その弱点をエルフとゴルゴンが支援魔法で補っている。

 デーモンの魔法攻撃がさほど影響がないとなると、アマソナスの動きが良くなるのも当然。相手の攻撃が物理的であれ魔法であれ、まったく当たらない。前回魔法攻撃を怖れて避難優先した種族と同じとは思えない。


 そしてアマソナスは敵を倒すと笑う。

 ニヤリと口の片端をあげて笑う。

 浴びた返り血を舌で舐め目を光らせて笑う。


 厳魔の怖さは体中がゾクリとするような腕で身体を抱えたくなる怖さだが、アマソナスの怖さは背中に冷たいものが走っていくザワザワするような怖さ。


 最近、神殿の森に来た亜人の中にはアマソナスの嫁さんもらおうかなと笑顔で話してた男も居るが……まあ、本人が良ければいいか……彼に幸あれ。


 左翼部隊を率いてるダヤン。

 彼は元来一撃離脱戦法を得意とする。

 そのせいか、敵の隙を突くのがとても上手い。

 攻撃を仕掛ける直前の敵を見つけては倒す。

 そして開いたところへ自軍を突撃させ、多少深く入り込んだところで、再び自身が開けたところへ反転突撃させる。


 要は、敵がまともに攻撃できない状況を作るのがとてもうまいのだ。

 

 ダヤンは人間で魔法防御力は全く無い。だから彼には魔法防御力ある盾と防具を渡している。しかし俺が見る限りは、彼は魔法攻撃されていない。いや、させないのだ。


 敵が攻撃しづらい状況をダヤンが作り、そこへ厳魔とアマソナスで構成する左翼部隊が突撃していく。


 中央と右翼の攻撃力は相当だが、三隊の中でもっとも結果を出してるのは左翼だ。ダヤンに遊撃隊を任せたら大きな戦果をあげてくれるに違いないと戦術素人の俺でも確信する。



 支援魔法部隊は、ゴルゴンのリーダー、スィールが必要に応じて、味方への魔法防御や敵への状態異常魔法を。長距離攻撃部隊は、エルフのマルティナがリーダーを務め、敵の密集してるところと、近づいてきた敵を丁寧に攻撃している。マルティナの指示方法は面白い。攻撃地点を魔法を使った光で行う。弓兵は、その赤や緑などに光った地点をめがけて乱射する。ちなみにエルザとクルーグはその指示を無視することが許されている。攻撃目標と目標までの距離が全然違うしね。


 戦闘開始から三十分後には敵は撤退していく。

 

 うちの部隊は、一旦戦闘を止め休憩と捕虜の確保を行う。

 今回はまだ戦闘する予定なので、捕虜はマルティナが張った結界の中に閉じ込めておくことにした。


 休憩中に、上空で指揮していたアロンが周囲を見て、敵の逃亡先を確認する。

 そして偵察役を乗せた飛竜が、今回のもう一つのターゲット、南下したデーモンの様子を調べに行く。


 俺の背後では、各リーダー達が戦闘で感じたことを教え合い、修正するべき点について話し合っている。

 

 「ガーゴイルは魔法も物理攻撃力もそう高くないけど、動きが速いから、先に狙ったほうがいいかも……」

 「デーモンもまるっきりの馬鹿じゃないね。隊を内部で幾つかに分けて、攻撃が途切れないよう指示していた」

 「状態異常魔法はどれもあまり効果が無かったから、味方の支援に集中したほうがいい。魔法力の消費を抑えておくのも大事よね」


 うん、我が方に油断はない。

 実際、勝ててはいるけど兵数は向こうが上なんだし、こちらはその分、疲労に注意しなきゃいけない。効率的に倒していかなきゃ長期戦になれば不利。

 俺でもそんなことは判るのだから、いくつもの戦闘を経験してきたリーダー達は可能な限りの準備に余念がない。


 「じゃあ、このまま行軍して南側も叩きますか。先程撤退した敵から情報を得てるでしょうが、手は打ってありますので、私達はすべきことをすればいいだけです。では行きましょうか」


 そのアロンの号令で全軍が動き出す。


 

・・・・・・

・・・


 行軍中俺は敵について考えていた。


 南下したデーモンの相手は、同じデーモンの部族。

 デーモンは一枚岩ではないと捕虜からも聞いていたので同種族同士の戦いと聞いても驚きはない。


 部族名はバルバ、リーダーはリアトス、魔法も使うが、弓での攻撃を得意とする部族とのこと。今回の戦いが終わったら、協力関係を結べないものか。


 現在戦ってるデーモンは、リーダーのマルファが率いるジズー族。

 ジズー族はいくつかあるデーモンの部族の中で現在最大の頭数を有する部族で、前リーダーの時代には、各部族をまとめ比較的温和な体制だったらしい。

 現在のリーダーマルファが率いるようになってから、他国へ侵略支配を目論むようになった。


 デーモンって、青黒い肌で、髪の色は赤や、緑など様々だけど、同族の場合、どうやって見分けてるのかな?あ、服装で見分けられるか・・・・・・。


 デーモンの服装は、地球で言えばローマ帝国軍人の平服に似ていてちょっと格好いい。軽装なのに上着に施された刺繍が高級そうな感じでそそる。平服と軍装、うちは今のところバラバラだけど、そろそろ揃えてもいいかもしれん。格好の良いデザイン、募集してみるか。


 

 そろそろ敵が居る地域だ、さて、敵はどう出るかな。

 アロンは既に手を打ってあると言っていたな。

 お手並み拝見するとしよう。


 

・・・・・・

・・・


 戦場に到着して状況を確認すると、膠着状態にあることが判った。

 数に優るジズー族の攻撃をバルバ族は持ちこたえているようだ。

 バルバ族のリーダー、リアトスは優秀なリーダーなのだろう。


 膠着状態にあったところに俺達が到着したので、ジズー族は俺達から見て左側に移動し、隊を密集隊形に再編成している。ジズー族の隊は左右に敵を揃えることを嫌い、隊形を維持しながら後退していく。


 こちら側は、敵に二正面状態で戦わせるのが有利。

 だから、バルバ族とは合流せず、ジズー族の移動に合わせて左へ移動していく。

 うちが攻撃を仕掛けると、敵の背後にバルバ族が襲いかかれるような状況を作ってる。


 「バルバ族の背後に敵の伏兵を確認しました。こちらから動いて、伏兵を誘い出しましょう」


 上空からアロンが伏兵を確認したようだ。

 

 厳魔が動き出す。

 ジズー族の正面から突撃していく。

 俺達の攻撃から撤退した者から情報を手に入れてるのか、厳魔の突撃に合わせて敵は左右に隊を開く。厳魔を左右両側面から挟み撃ちするようだ。


 敵の右側にアマソナス左翼部隊が突っ込み、左側にはダヤンが率いる部隊が……と想定していたのに、ダヤンの部隊は右翼部隊の後方を回って、更に右側へ移動し始めた。


 なるほど、敵の左側は厳魔に任せて、右側を先に叩くのか……。


 うちらの動きに合わせてバルバ族も敵の右側へ攻撃を始めた。

 すると、アロンの予想通り、バルバ族の背後に敵の伏兵が現れた。

 挟撃される体勢のバルバ族の攻撃が弱まる。


 伏兵の横から、ダヤン率いる部隊が突撃する。

 そうか、伏兵の相手させるためにダヤンを迂回させたのか。


 敵の伏兵が慌て、バルバ族への攻撃が緩んだ。

 バルバ族はこの隙に体勢を整え、アマソナスとともに敵に右側へ再度攻撃し始めた。


 うちの長距離攻撃隊は、厳魔の支援に集中している。

 

 状況だけ見ると俺達が優勢に見えるが、敵の数はこちらよりまだまだ多い。

 ここらで敵左側へダメージ与えたいなと思っていたところに、アロンが言ってた”手”が現れる。


 なんとマリオン!

 

 リエンム神聖皇国側の警戒に就いているはずのマリオンが、最近仲間になったグリフォンに乗っている。 


 「ダーーーーリーーーーン!貴方の愛するマリオンが助けに来ましたわぁ~」


 いつも通りテンション高いね。

 

 そのマリオンの後ろには四頭の飛竜が続いてる。

 飛竜の背には、アンヌとエルフ達。

 

 マリオンだけグリフォンに乗ってるって何故なんだ?


 「さぁて、私はダーリンのように優しくはないですのよ~」


 敵の背後からマリオンは火系魔法をぶつける。

 優しくないと言う割には、かなり手加減してる。


 マリオンに続いてアンヌとエルフ達もそれぞれ風系や炎系の魔法を敵にぶつける。


 マリオン達は、敵の反撃を食らわないよう、距離をとって攻撃する。


 ふむ、アロンの目的は敵の集中力を失わせることだな。

 俺はアロンの意図を読んだ・・・・・・気がしてる。

 多少の怪我で済む程度とは言え、背後から魔法をぶつけられては目前の敵に集中できない。


 目の前には厳魔の破壊力ある攻撃が間断なく襲ってくる。

 弓も次々と降ってくる。

 そこにマリオン達の嫌がらせ……。


 アロンはマリオンの性格を判って、この役目を任せたな。


 目の前の戦闘に集中できない敵はその数をみるみると減らしていく。


 アマソナスとバルバ族に挟まれた敵も徐々に勢いを失ってるのが判る。


 ダヤンの相手は伏兵で最初から多くない。

 ダヤンの一撃離脱戦法に振り回され壊滅寸前だ。


 やがて、敵は撤退の指示を出したらしく、逃げるように駆けていった。


 そして再び、リーダー達の情報交換が始まる。


 「キマイラの状態異常ブレスはウザいな。エルフとゴルゴンが状態異常を治す際に出来る少しの間がこちらの攻撃を遅らせてしまう。キマイラを相手にする時は、横列連携して波状攻撃で仕留めるようにしよう」

 「デーモンもこちらには魔法攻撃は通じないと知って、物理的手段で攻撃してくるようになった。それもガーゴイルと連携してるようだ。これはちと面倒だぞ」

 「では長距離攻撃はガーゴイルを集中的に狙うようにします。今回も一応ガーゴイルを先に狙うようにしてたのですが、次からは徹底します」


 うん、大丈夫そうだね。

 

 リーダー達が話し合ってる間に、怪我人の治療や回復魔法による体力回復が行われている。


 みんなやるべきこときちんとやっていて、俺は鼻が高いよ。

 

 「ダーーリーーン。どう? どう? 愛するマリオンが来て嬉しい? 嬉しいわよね? 」


 そりゃあね。嬉しいのは確かなんだが、そのテンション何とかならないかな。二人で居る時や、家の中なら問題ないけど、さすがに人目を気にしないわけにはいかないんだが……。


 「ところで、どうしてマリオンだけグリフォンに乗ってるんだ? 」


 「そんなのフカフカのモフモフだからに決まってるじゃない」


 へぇ……理由はそれだけ?

 飛行速度はグリフォンも飛竜もそう変わらないけど、飛竜の方が防御力高いし、いざとなったら炎ブレスもあるし、安全なんじゃないの?


 マリオンは俺の心配をよそに、身体を擦り付けるように俺の腰に手を回し抱きつく。

 

 「あらん、私の事心配だったのね。優しいんだから、もう~。でも大丈夫よ。この美しい身体に傷なんか付けたらダーリン泣いちゃうものね。あ、そうそう、新しいネグリジェ作ったのよ。ダーリンが愛する妻達全員でよ? それでね、ほら、ダーリンって私の胸に顔を埋めて寝るの好きじゃない? だから胸の切込みはきつめにしたの。あれなら、ネグリジェ着たままでも顔を埋められるわよ。あとね……」


 慌てた俺は、マリオンの顔を胸に埋めるようにしっかりと抱き、これ以上俺の性癖が公にならないよう口を塞いだ。嘘じゃないだけに困る。


 「ちょっ……それ以上は……な?ここでは止めておいてくれると嬉しいな……」


 だって、その手の話にとても敏感で研究熱心な二種族の、”そうか、胸はただ出すだけじゃ足りないのか。見せ方が大事なんだな”……とか、”ネグリジェとは何だ……雄が喜ぶアイテムなのか? ”……とか囁きが聞える。 

 

 男性兵士の中からも”ゼギアス様はおっぱいが大好きなんだな”とか聞えるし、そりゃ大好きだけど、このような場で話すことじゃないだろう。周囲にはデーモンやガーゴイルなどの死体だって転がってるし、血の匂いだってするんだぞ。


 「ダーリンは相変わらず照れ屋さんねぇ。でもいいわぁ。ダーリンに強く抱きしめてもらえたんだもの。ここに来て良かったわぁ」


 抱きついたまま離れず、俺の胸に指を滑らせながら、”できるだけ早く帰ってきてねぇ、家にはお楽しみがいっぱいなんだからぁ”とマリオンが甘えた声で言ってる。


 俺は近くに居たアンヌに


 「すまないが、バルバ族のリーダー、リアトスと会って、後日、俺かヴァイスが挨拶に行くから、都合の良い日時を確認してきて貰えるか? 」


 奥さんに抱きつかれながらじゃ威厳も何もあったものじゃないが、俺もすべきことをしなければならない。アンヌは立礼して駆けていく。


 「アロン、俺をからかいたくてこんな手を? 」

 

 「そのようなことはありません。こういう時、マリオン様が一番上手に遊撃的な仕事をこなしますので、それ以上の意味はありませんよ」


 本当かなあ。

 ヴァイスハイトが言うなら疑わないんだが、アロンは最近他人で遊ぶことを覚えたからなあ。旦那持ちのアマソナスに適当なこと教えて、旦那が半泣きしていたのを見たぞ。後でそのアマソナスから怒られていたようだけど。あれは絶対わざと適当なことを教えたのだと俺は確信している。


 だから油断できないんだ。


 「じゃあ、私はそろそろ帰るわね」


 グリフォンの背に乗って、両手で何度も投げキッスしてくるマリオンに手を振って別れた。


 「さて、今後ですが、我々は急ぐ必要はありません。殲滅するのではなく降伏させるのが目的なので」


 アロンの指示に従って、ゆっくりと敵の本拠地へ向かうことにする。

 一日半もあれば本拠地には到着するだろう。


 俺達は隊列を組み直し、周囲の警戒だけは怠らないようにして行軍を開始した。








◇◇◇◇◇◇




 本拠地に到着するまでの間、二度攻撃されたが、こちらが反撃すると逃げた。

 ゆっくりと休ませず、こちらを疲れさせるのが目的と判る攻撃だった。


 だが、無駄だ。


 こちらには夜でも遠くまで監視できるエルザとクルーグがいる。

 二人の通常任務は夜間哨戒だ。

 リエンム神聖皇国が夜襲をかけようとして城壁から出てきた時点で発見し、こちらから先手を打って奇襲したことなど何度もある。

 夜間、彼らほど早く敵を察知できる者はそうはいないだろう。


 その二人には昼間は飛竜の上で休んでもらい、夜間は合流し交代で哨戒して貰ったのだ。こちらは敵襲に驚くこともなく、十分準備してから反撃できた。


 「アロン、どうする? 」


 「そうですね。周囲を索敵してみましたが、彼らは包囲されることを怖れているようで、包囲されない場所、背後の海と左右にそびえる山を壁にして正面決戦するようです。包囲されなければ兵数の差で勝てると思っているのでしょうね」


 「んー、それだとこちらも策は使いづらいよな」


 「ええ、空中からの攻撃を主体にするなら、飛竜隊を使うべきなのですが、今回は連れてきていませんし……」


 アロンは俺の顔をじっと見て、


 「目的の一つだった、集団連携戦闘の実戦経験を積むことは達成したと思いますから、ゼギアス様が出ていってケリをつけてもヴァイス様は問題にしないでしょう。どうします?見てるより動く方が好きですよね、ゼギアス様」


 「ハッハッハッハッハ、そうだよ。見てるだけってのはどうもストレスが溜まって困る。俺が行ってくるよ。どうせ俺の力見せて降伏させる予定だったんだ」


 「では、ご自由にやって構いませんので、ああ、こういう場合は必ず言ってくれと、サラ様から言われてました……”お兄ちゃんやりすぎちゃダメよ”以上です」


 「おう!了解した」


 アロンが全軍に向けて”あとはゼギアス様が遊んでくるそうです。皆さんは邪魔にならないようあと二百メートルほど下がって見物しましょう。”と指示してる。


 ダヤンと厳魔以外は俺の戦いを見たことがあるせいか”俺達相手の方が敵も気楽だろうに”などと言って心配のかけらも見せずに下がっていく。皆につられてダヤンと厳魔も下がっていくがダヤンは何度もこちらを振り返っている。


 さて行くか。


 俺は味方に背を向けて、敵陣へ歩いて行く。

 相手も様子を見てるのか、それとも罠を怖れてるのか、静かに俺が近づくのを見守ってるようだ。


 敵まであと六百メートルほどのところまで近づいた時、敵はやっと動き始めた。

 魔法による一斉攻撃。

 俺は結界魔法を使えない。

 というより覚えなかった。

 俺は無属性龍気を使ったシールドを張ることができる。

 魔法で敵の魔法を相殺することもできる。

 

 今回は龍気で対応する。

 数種類の魔法で攻撃してきてるが、実際に俺に当たりそうな魔法だけ対応するなら魔法で相殺することも可能だ。

 だが、敵の魔法は俺が脅威を覚えるほどの力はない。

 それははっきりと感じる。


 だったら、敵の魔法がいくら当たろうと気にせずにいられる龍気で対応するほうが忙しくなくていい。


 敵の魔法が降り注ぐ中、俺はゆっくりと敵へ近づいていく。


 あと四百メートルのところまで近づくと、敵も自陣を飛び出し、俺に直接攻撃を仕掛けてきた。味方と交戦するデーモンやガーゴイル、そしてキマイラの様子を観察していた俺は、敵の力量をほぼ正確に把握していた。


 そして出した方針は、厳魔ほどの破壊力はないし、アマソナスの俊敏さもないし、状態異常はもともと俺には効かないから、ただ手当たり次第殴ればいい。


 敵が振るう剣や槍は俺の腕で折られ、ガーゴイルの爪は俺には届かず、俺の拳でただ吹き飛んでいく。キマイラの状態異常ブレスは無視され、飛び込んでくるデーモン達は殴られ蹴られて倒れていく。


 こんな程度の相手は、魔法を使うまでもないのだが、数だけは多いのでいちいち殴るのも面倒になった。


 俺は両手に魔力を溜め、風系魔法を発動させる用意をした。

 俺が用意している間も敵は突っ込んできたが、それらは全て蹴りで対応して退けた。


 準備が終わって、両手を前へ突き出すと同時に魔法を発動させる。


 ただ強風を敵に叩きつけただけ。

 風を刃に変えることもせず、とにかく強風を叩きつけた。


 風でも水でも、少量で勢いがなければ笑って済まされる。

 だが、その都市を覆うほどの莫大な量と木造家屋などゴミのように蹴散らすほどの猛烈な勢いを伴った風は、天災と呼ばれるほどの被害を及ぼす。

 

 デーモンのジズー族と彼らの配下にいたガーゴイルとキマイラは、お互いに、または壁や柱に身体を衝突させ、空中に散らばっていく。


 「マルファは残ってるか? 」


 残った敵のところまで駆け、そして聞いた。


 「俺がマルファだ」


 黒地に金の刺繍が入った上着を着た男が立ち上がって答えた。

 視線は鋭いし、他のデーモンよりは他者への圧力がある。

 逃げずに、俺の目を見返す強い気持ちもある。

 リーダーとしては合格にはいるだろう。


 「そうか、今すぐ降伏しろ。見ての通りお前に戦う力は残っていない。それとも俺とやり合うか? 」


 悔しそうに唇を噛んでる。


 「本来なら、お前とやり合って死ぬまで戦い、デーモンの誇りと俺の意地を見せるべきなのかもしれんし、俺はそうしたい。だが……」


 「……」


 「お前は俺の軍隊を無力化するだけで、殺そうとはしなかった。手加減したのだろう? それは侮辱とも感じるが、同時に、俺達などお前はもともと相手にしていないと感じた。違うか? 」


 「ああ、お前達は俺の敵ではない。敵は別にいるし、できればお前達にも俺に協力して貰いたい」


 「……判った。どのみちお前やお前の軍に俺達は勝てそうもない。敗者は勝者に従う。これはこの地に住むものの決まりだ。俺達はお前に降伏しよう。ただし、代償は俺の首一つで許して欲しい。それが認められないなら、最後の一人になっても俺達は抗う」


 「これ以上、誰の血も要らない。マルファ、お前とお前の部族が俺の仲間になってくれればいい。俺の条件はこれだけだ」


 「それでケジメになるのか? 」


 「そんなもん要らないよ。もちろん裏切ったら容赦するつもりはない。だが、仲間として俺に協力してくれるなら、お前達には楽しいということを教えてやる」


 「……だが、それでは俺の面子がたたない。では、俺はお前に忠誠を誓おう。それくらいは受け入れてくれ。俺がお前に忠誠を誓い、お前の言うことには絶対に従う立場となれば、それが俺のケジメになる」


 「うーん、そういう堅苦しいのは嫌なんだが、お前の面子がかかってるというなら受け入れよう。俺の名はゼギアス、今後俺と仲間たちに協力してくれ」


 俺に髪を一本くれと言うので抜いて渡す。

 すると俺の髪を自分の腕に押し当て、何やら魔法を唱えてる。

 やがて五芒星の焼印のような印が浮かんできた。


 「これで俺はお前の下僕となった。この印は俺が死んでも決して消えない下僕の印だ。俺が裏切るようなことがあれば、この印に刻まれた誓いによって俺は死ぬ」


 重い……重いんですけど……。


 「まあ、さっきも言ったが堅苦しく考えるな。覚悟を見せて貰ったと思うよ。ああ、信用するさ」


 

 デーモンのジズー族は俺達の仲間になった。

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