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16、軍師とゴルゴン、ゲットだぜ

 俺はサラとベアトリーチェの三人でグランダノン大陸南部の南側を旅している。


 移動は飛竜に乗って移動するから多くの場所を回れそうだ。旅行は、移り変わる移動中の景色を楽しむことも良いというのは判ってるが、そういったのんびりした旅行はまた別の機会にする。それに、ここグランダノン大陸南部はその多くが未開発の森林地帯と山岳ばかり。同じような景色をずっと眺めて歩くなんてすぐ飽きてしまう。


 大陸南端までには、オーガたちの生息域がありエルフの生活圏と接している。俺が撃退して以来、オーガがエルフの生活圏へ侵攻してきたことはないが、警戒は常時している。今回の旅行の目的の一つに、上空からオーガ達の様子を確認することがある。エルフの生活圏近くに集合してるようなら、今度はこちらから攻めて蹴散らすことも考えていた。


 だが上空から見る限り、オーガの集落はまばらで侵攻してきそうな様子はない。


 いずれオーガとも話し合いが必要だろうが、今のところオーガの力を活かせる場所がないので、相互不干渉でいられればそれでいい。


 オーガの生息域を越えると、魔族のいくつかの種族の生息域がある。


 大きく分けると魔族は巌魔族と妖魔族の二つに分かれ、分かれる基準は、魔法を使えるか使えないかである。


 巌魔族は魔法を使えない、妖魔族は魔法を使える。


 だが、だからといって巌魔族の戦闘力が低いかというと、そうではない。

 物理攻撃にも魔法攻撃にもかなり強い耐性を持ち、身体能力が妖魔族より高いのである。厳魔族は更に二つの系統に分かれる。獣の属性を強く引き継いだ獣魔と人型の属性を引き継いだ人魔である。


 妖魔族は、魔法を使える魔族だが、厳魔族より多くの系統に分かれてる。

 妖魔や夢魔、空魔や妖精など数多い。

 アンヌの出身地を襲ったのは妖魔族の妖魔の一部族で、空魔も妖魔族の一つだと知った時には、アンヌに平謝りした。アンヌは、何れにせよオルダーンを襲った部族ではないし、考えてみると、自分達も襲ってきた妖魔を殲滅したのだから文句を言える筋合いではない、だから気にしないでくださいと言ってくれて胸を撫で下ろしたものだ。

 

 今回の最大の目的は、協調できる魔族を探し、種族の特徴を活かして手伝って貰いたいという交渉だ。


 向かってる先には、厳魔族の人魔のうち二部族が生活してるとのこと。

 一つは、厳魔で男性魔族しかいないらしい。もう一つは女性魔族しか居ないらしく厳魔ではなくアマソナスと名乗ってるとのこと。双方とも狩猟を得意とするらしい。


 厳魔は、性格は温厚、でも怒らせるととても怖いんですよとベアトリーチェは教えてくれた。オーガは厳魔を怖れて近寄ってこないらしい。


 アマソナスについて聞くと、魔法を使わない肉体派のマリオンさんですと言う。

 あなたはきっと好かれますよと言ったベアトリーチェの目は怖いほど真剣だった。


 うん、嫌な予感しかしないよアマソナス。


 話しを聞く限り、技術的なことでは得られそうなものは無い。

 だが、食料さえ提供できれば協力関係は結べると思えた。

 建設や土木関係の仕事が目白押しなので、労働力を提供して貰えるとかなり助かる。


 神殿の森は、龍を怖れて誰も踏み入らなかったせいで鳥や草食獣は豊富だし、肉食獣や魔獣も多い。食肉に関しては十分提供できるだろう。二千や三千増えたところで、問題は無い。それに試してる農業も経過は順調で、来年に向けて作付面積をバンバン増やしている最中だ。

 来年以降の食料生産量はシモーナが計算したところ、現在の三倍は固いということだ。天候次第ではそれ以上を見込めるとも胸を叩いて言っていた。


 天候不順だったら?と聞いたら、水に関しては足りない時は魔法で対応可能なので問題なく、多すぎる場合も土属性の魔法で水はけ良くすればいいのだという。

 気温は?と聞くと、現在作付けする場所は長年安定してる場所を土地の人々から聞いて選んでいるから問題ないだろうとのこと。


 他部族との争い、土地の奪いが多発してきた地域でそれが無くなったのだから、後は土地が痩せないよう注意すれば問題はないだろうし、これから様々な土地を開墾していくからリスクは減るだろうともシモーナは言っていた。


 俺は食料の心配はなくなりそうということさえ判ればいい。

 万が一、シモーナの予想通りに行かなくても、足りない分は他国から買えば何とでもなる。ま、俺はシモーナを信じてるけどね。


・・・・・・

・・・


 俺達は厳魔の集落にやってきた。

 見慣れない者が来たと警戒しているようだ。

 それも無理はない。

 近くに居た、狩りから戻って獲物をこれから捌こうとしていた者に、敵意はない厳魔族と取引きに来たのでリーダーと話したいと伝えると、ここで待てと言われたので、三人で待つことにした。


 亜人もだいたい同じだが、家は木造で、道もせいぜい砂利を敷く程度。

 エルフは木造の家でも、台所や寝室などの区画された部屋があるし、内装もそれなりに装飾されてる。他の種族はさほど拘りがないようで、壁はあればいいし、窓も採光さえ多少できればいいのだろうと小さな天窓程度しかない。


 厳魔も同様だった。


 家の壁にはいくつも魚が干してあるし、血抜き中の獣の姿もある。

 狩猟民族の集落でよく見かける風景。


 周囲を見て時間を潰していると、やがて数人の厳魔が歩いてきた。

 その中の一人が、リーダーのラルダはこっちだ、ついて来いというので、彼らの後を付いていく。


 並ぶ家々の間を歩き、海岸近くの一軒の家へ案内された。


 灯りがいくつも灯されてる部屋は、油の材料に獣の脂を使ったと判る匂いがする。

 正直、けっこう臭い。

 俺はこういう匂いはあまり得意ではないので、家の外で話したい気分になっていた。

 

 だが、ここで嫌な顔などできないので、何食わぬ顔をして、部屋の奥に立つ男の前まで歩いた。


 「俺はゼギアス。貴方達と争いに来たわけじゃない。俺達とできれば取引できないか交渉にきたんだ。用事が済めば帰るからあまり警戒しないで欲しい」


 無理だろうけどね。

 でも、初対面の相手には思いを口にするのは大事な事なんだ。


 信頼はちょっとしたことの積み重ねで築かれる。


 何もしないと言ったら何もしない。

 用が済んだらすぐ帰ると言ったらすぐ帰る。


 こういったことの積み重ねで、信頼関係のとっかかりはできる。

 その後、付き合いを続けていけば、信頼関係も深くなる。


 「俺の名はラルダ。厳魔のリーダーを任されてる。交渉といったな。俺達厳魔と何を取引したいんだ」


 ラルダ、リーダーを任されてるだけあって堂々とした態度。

 俺の目を見て、内心はどうあれ、威圧するでなく、警戒するでなく、平然としている。格好いいな、ラルダ。


 厳魔は金髪、青い肌、緋色の瞳を持つ。

 そして皆、首も腕も胸の厚さも太もももふくら脛も、厚く太い。


 ラルダは更に厚く太い。

 他の者より一回りは太い。


 だが、いわゆる筋肉だけのマッチョではない。

 そう……ラグビー選手のような鍛えられた肉体をしている。


 彼らの肉体はパワーとスピードを兼ね備えてると見ただけで判る。

 俺はこの手の男は前世で憧れてたので、既に気に入っている。


 更に、更に……、気に入ったのは、いわゆるキレイ系のイケメンではない点。

 格好良いのだが、男らしいイケメンとでも言おうか……。


 俺はイケメンには敵意をすぐ感じてしまうモテナイ男メンタルの持ち主だが、この手の男は認めてしまう。


 とにかく俺は気に入ったのだ。


 男も好きということは断じてない。

 誤解しないで欲しい。


 「俺達は街作りしているんだが、力仕事に向いた人員が足りない。そこで俺達は貴方方の食料調達を手伝うから、貴方達の力を貸して欲しいんだ」


 「それは悪くないが、場所と何人必要なんだ」


 「これから冬が来るまでの間、とりあえず十名でどうだ。そして冬にはここに必ず全員帰す。その者達の話しを聞いて、条件に不満が無ければ、冬明けから再びお願いしたい。当然、手伝ってくれる者が住む家と食事はこちらが用意する。さらに冬の間も多少は食料援助する。作業して貰う場所は、龍の神殿がある森だ。そこで木の伐採と住居など建物の建築作業をしてもらいたい」


 「龍の森だと?あそこには龍が居て仕事などできないはずだが? 」


 ラルダは初めて不審な表情を浮かべた。


 「それは大丈夫だ。龍の神殿の主から許しを貰ってる」


 「神殿の主だと? 」


 「ああ、神殿には神龍が居たんだ。その神龍から許しは貰っている。あの辺りは大昔人が住んでたらしいぞ。それに今は一緒に暮らしているからな。信じられないなら連れてくるけど、どうする? 」


 そして、サラへ”これでいいか?他に何かあったら伝えるけど……”と話していると、俺に近づく一人の厳魔が居る。


 そして


 「これでいいか?これでいいか? ……」


 俺が話した言葉を真似ているかのように、俺の顔をまっすぐ見て話してくる。


 「そいつは俺達の言葉は真似られなかったのに、お前の真似はできるようだな。あんたを傷つけるようなやつじゃない」


 この男は”呼ばれし者”に違いない。

 ドワーフに転生した刀工と一緒だ。


 「リーチェ、思念回析の指輪持っていたよな。それをその厳魔に渡してくれないか? 」


 ベアトリーチェには、こういうこともあるかもとネックレスや指輪をいくつか持って貰っている。肩から下げたバッグから指輪を一つ取り出し、ベアトリーチェはその男に手渡し、自分が身につけてる指輪を見せ、指にはめるよう身振りで伝えた。


 その男が指輪を手にはめたのを見て


 「話してみろ、相手にも伝わるぞ」


 その男の顔を笑顔で見ながら言う。


 「あの、これはどういうことなんでしょうか? 」


 うん、指輪は機能してる。とりあえずはこれでいい。だが、今はこの男と話してる余裕は無いことを説明し、後できちんと説明するからと伝えてラルダに向き直した。


 「ほう、あいつは会話こそできないが、いろいろ知っていてな。使える奴なんだ。それに良い奴だ」


 ラルダに呼ばれし者のことを説明すると


 「なるほどな。だから俺達と会話もできず、いろいろと知っていたのか」


 「ああ、そうだ。それでな。もしあいつが俺達と一緒に行くことを了承したら、連れていきたいんだ。いいか? 」


 ”呼ばれし者”を見つけたのは大きい。

 俺は絶対連れていくと決めていた。

 俺が特に必要としてる人材の可能性が、ここらで探すより高いからな。

 求めてる人材でなくても、地球での経験を生かす場面はいくらでもある。


 「あいつがお前達と行くというなら俺が止めることはない。あいつと話して結果だけ教えてくれればいい」


 よし、あとは俺があいつを説得するだけだ。誠心誠意気持ちを伝えよう。


 「じゃあ、話しを戻すが、神龍に会いたいなら会えるぞ。今日すぐというわけには行かないけどな」


 「いや、それはいい。それよりもあんたが出した取引の話しだが、こちらからも一つ条件がある。ひと月に一度、俺か俺の代理が作業現場を見に行く。その時の感想次第では、こちらへの食料の量について相談する機会を設けてもらいたい」


 うん、納得できる。

 作業量と報酬が見合わないんじゃトラブルになる。

 お互いに長く付き合うとするなら、必要な話しだ。


 「ああ、その条件はもっともだと思う。いいよ」


 「じゃあ、交渉成立だ。で、いつから始める? 」


 今日は飛竜一頭しか連れてきていない。

 移動に無駄な時間は使いたくないから、来週にでも飛竜を連れてくるからそれからでという話しで落ち着いた。


 俺はラルダと握手して、先程の男と話すため家を出た。


 彼は、諸葛亮孔明が転生した呼ばれし者だった。

 俺の仕事を手伝ってくれることになったが、これから俺はまだ行くところがあるから、数日後また来るので、その時一緒に行こうという話になった。


 収穫が多い訪問になり、俺達は喜び、アマソナスのところでもうまくいくといいと願った。


 その日は、野宿することにした。

 だって、俺だけじゃなくサラもベアトリーチェも、獣脂の匂いがきつくて彼らの家に泊まって眠れそうもなかったんだ。






 

◇◇◇◇◇◇




 昨夜は、諸葛亮孔明の呼ばれし者の話を寝るまで熱く語ってしまった。

 どれほど凄い人物だったか、彼の話を書いた小説に夢中になった話など、多分目を輝かせて話しただろう。


 サラは刀の件でそういう状態の俺を知っていたから驚きはしなかったが、ベアトリーチェは俺のそんな様子に驚きつつ口に手を当てて大きな声を出して笑っていた。


 寝て起きた今でもまだ語り足りない気がするが、これ以上話すとサラから怒られそうな気がしたので自重した。


 起きて、近くの森から果実をとってきて朝食にし、今日会う予定のアマソナスについて予習した。ベアトリーチェが言うには、狩猟民族でも戦闘的で強さこそ全てを決める基準と口にして憚らない部族とのこと。女性のみの部族で、生んだ子供も女子しか育てない。今は殺したりはしないが、昔は男子が生まれたら殺したらしい。今は、子供の父の部族へ送る。男性はあくまでも子種を得るための生き物としか見ていないが、部族長より強い男には服従したこともあり、ゼギアスは十分注意してほしいと言われた。


 部族長に勝ったりなどしたら、部族全員の夫状態になるのは間違いないとベアトリーチェは声に険がある空気を交えて話した。 

 

 判った。

 勝負は絶対にしないで逃げる。


 アマソナスと協力関係築けなくてもいいやと思い始めていた。


 俺は女性といちゃつくのは大好きだが、それでも種馬としてしか見ない相手とはちょっと遠慮したい。俺にとっては、お金目当てで身体を重ねる娼婦を相手にするほうがマシな気がする。他の男がどう思うかは知らんが、俺はそうだな。


 予習を終えて俺達はアマソナスの集落へ向かうことにした。

 

 厳魔の集落で場所はだいたい聞いていたので、飛竜で1時間ほど飛んだら、アマソナスの集落を見つけた。


 俺が集落の中へ入っていくと、周囲から身体にまとわりつくような視線をたくさん感じた。値踏みするような女たちの視線。


 ああ、これがベアトリーチェが言ってたことなのかと判った。

 俺との間にはどんな子が生まれそうかしか興味の無い視線。

 やはり娼婦のほうがマシだなと思っていた。


 そんな居心地の悪さを感じている俺をよそに、サラがアマソナスの一人に声をかけた。交渉したいのでリーダーと会いたいと。俺が厳魔との間でしたやり取りがサラとの間で行われていた。


 「お兄ちゃん。ここは私が話したほうがいいわね。お兄ちゃんとだと別の話になりそうだから」


 うん、俺もそう思う。

 サラすまないがそうしてくれと頼むと


 「私も前に出ます。あなたは大人しくしていてください」


 ベアトリーチェも少し怒った口ぶりで俺には見ていてくれと伝えてきた。

 ああ、任せます。任せますとも。


 厳魔には工事関係の手伝いを頼んだが、アマソナスにはリエンム神聖皇国側国境そばの前線警備を依頼するつもりでいた。サラが一通り説明している間、アマソナスのリーダーは俺を、というより俺の身体をずっと見ていた。


 リーダーがこれじゃ、他のアマソナスの視線があんな感じでも仕方ないよな。


 しかし、厳魔もそうだったが、アマソナスも腰巻きしか着けていない。

 つまり、上半身裸なわけで、女性のアマソナスはおっぱい丸出しなんだ。

 女性のおっぱいが好きな俺だ。このような情景は歓迎するはずなんだが、相手がアマソナスだと歓迎する気持ちにならない。その理由は、虫捕り草が出す虫をおびき寄せる匂いの役割にしか、アマソナスのおっぱいに感じないからだ。


 皆スタイルは悪くない。

 日頃から訓練している身体だ。

 

 だが、二の腕と太ももの太さが物語る凶暴さが、俺の心を萎えさせる。

 これであの俺を舐め回すような視線が無ければ違うのかもしれないが、俺は今の状況を猛獣の檻に入ってるような気分にさせられ、色っぽい感覚などまったく感じないのだ。


 「お前の言うことは判った。だが、食料の代わりにその男を寄越せ。そしたらお前の取引に乗ってやろう」


 こうなったか、なんかこうなる気がしたんだ。

 まあ、いい。予習の段階でアマソナスとは相互不干渉で居られればそれでいいと思っていたしな。


 「その要求は飲めません。申し訳ありませんが、これで失礼致します」


 サラが予想通りの返事をする。

 俺達が礼をして帰ろうとすると、


 「大人しく取引に乗ったほうがいいぞ。さもなくば力づくでその男を奪い取る」


 アマソナスのリーダー、リエッサはそう言って、部下に扉を固めさせた。

 

 女相手に戦うのは嫌だが仕方ない、さてどかすかと俺が動こうとした矢先


 「リエッサ、あなたは私に勝てるとでも思ってるのかしら? 」


 サラが挑戦的な言葉を返す。

 うん、サラが相手では戦闘力があるアマソナスでも勝ち目は無いな。

 腕力では勝てないかもしれないが、魔法か龍気のどちらかを使えば、アマソナスがどのような攻撃を仕掛けてきても触ることもできないだろう。


 俺が見守ってると、


 「サラさん。この女の相手は私に任せてください。夫の身体を下卑た目で見続ける神経。私は我慢できそうもありません」


 ベアトリーチェがサラの前に出てきっぱりと言った。

 その目には怒りがあり、引きそうもない。


 しかし、俺はサラならともかくベアトリーチェには荷が重いのではと心配になった。


 「リーチェ。俺がやるよ」


 「いえ、これは妻の意地なのです。あなたは安心して見ていてください」


 サラとベアトリーチェのやり取りを見ていたリエッサは


 「面白い。私なら二人同時に相手してもいいんだぞ。じゃあ、表でやろう」


 そう言って俺達を置いて先に家を出ていった。

 

 「ゼギアスの身体を求めるにしても、そこに愛情がないと判ると、マリオンさんへのように寛大な気持ちにはなれないものですね。私は我慢の限界です。サラさん、私にやらせてください。大丈夫ですから」


 じっとベアトリーチェを見ていたサラは、おまかせしますと言った。

 おいおい、ベアトリーチェで大丈夫なのか?と言い出そうとしたら


 「お兄ちゃん。たまには相手を信じて待つことも大事ですよ。ベアトリーチェさんを信じてあげてください」


 うーん、そう言われちゃ信じて待つしかないじゃないか。

 でも危なくなったらすぐ俺が替わると決めて俺も家を出た。



・・・・・・

・・・



 ベアトリーチェは苦戦すると思ってました。

 勝てるとしても、それは相手が疲れてのことだと思っていました。


 しかし、戦いが始まってからそろそろ三十分経つが、目の前ではベアトリーチェの危なげない戦いが続いてる。

 

 リエッサが、様々な方向から近づいて攻め込もうとしても、ベアトリーチェの結界に阻まれて近づけない。そして結界の一部を小さな壁にしてその壁をリエッサにぶつけてるのだ。


 この方法は疲れるはずなんだ。

 

 結界はある地点で固定する性格の魔法で、その原理からして動かすようにはできていない。だから結界の大きさを随時変更するとか、結界を移動させるという行為を行うと魔法力の使用量は見えるものから想像するよりも大きいものになる。


 結界魔法に使用する魔法量をいくら少なくしても、目前で行われているように頻繁に移動させたらとても疲れるはずなんだ。だが、モチベーションのせいか、俺の知らないところで体力を鍛えたのか、それとも俺の知らない技をベアトリーチェが身につけてるのかは判らないが、ベアトリーチェに疲れが見えない。


 「リエッサ。降参しなさい。降参しないなら、私が本当はあなたを殺さずに済む手段で戦っていたことを、手加減して戦っていたことを思い知らせることになります」


 しかしリエッサはボロボロになりながらも突破口を見つけ出そうとしている。

 戦いを止めるつもりはないと無言で語っていた。


 「判りました。では自分の無力を思い知りなさい」

 

 ベアトリーチェは両手を前に出した。

 するとリエッサはその場から動けなくなり、見えない壁に押しつぶされているようにしゃがみこんだ。次の瞬間、喉に手を当て息ができずに苦しんでいる。


 三十秒ほど経つと、呼吸できるようになったかのように、肩で大きく息をしている。


 こ……これは……マリオンに使ったぼっち結界の刑。

 その上結界内の空気を希薄にしたのか。


 ベアトリーチェを怒らせてはいけません。

 ベアトリーチェの結界を解除できるほど魔法力がない敵は死あるのみだな。

 

 結界のサイズをもう少し大きくしても使えそうだから、同時に四~五人だったらこの手段は使える。


 「これで判りましたか? 私が途中で止めなければ貴女は死んでいるのです。降参しなさい」


 リエッサは大きく見開いていた目を閉じそして諦めたように頷いた。


 ベアトリーチェは無傷で勝利した。

 俺の方を恥ずかしそうに見て、少し笑った。


 「リーチェ、お疲れ様。凄かったね。最後のは俺にも判ったけど、結界をぶつけながらもまったく疲れないのにはびっくりした。あんな使い方したら相当つかれるはずなのに……」


 「フフフ、あなたとサラさんが魔法と龍気の同時使用してるのを見て、魔法を二つ同時に使用できないかと考えてマルティナと練習したのです。結界魔法使いながら自分に回復魔法を使うと、結界魔法を使える時間がかなり長くなったのです」


 回復魔法はさほど魔法力を使わない。だから回復魔法で体力回復して、魔法力使用時にしょうひする体力を補ったってことか。でもそれだと結界魔法を二種類使用するよりはだいぶ楽だけど、それでも魔法力はかなり使うはず。そのことを聞くと、それはその通りで結界魔法単独で使用可能な時間よりはだいぶ少なくなる。だけど、二時間くらいなら同時使用できるから、尽きる前に最後で使った攻撃に切り替えてリエッサを降参に追い込むつもりだったらしい。


 最初から、最後に使った攻撃で戦えば楽勝だったのに、何故と聞くと、照れたように”少し自分を大きくみせてやりたかったんです。私は子供ですね”と答えた。


 まったく問題なし!!


 「さあ、帰ろうか?サラもお疲れ様」


 「ベアトリーチェさん、お見事な戦いでした。終始余裕があって見ていて安心できました。ええ、お兄ちゃん帰りましょう」


 俺達がベアトリーチェの戦いを褒め、そして帰ろうとしたとき


 「リーダー! ゴルゴンが攻めてきた! 」


 アマソナスの一人が叫びながら駆けてくる。

 その表情はかなり焦っていて、まったく余裕が見られない。

 その叫びを聞いたリエッサはヨロヨロと立ち上がり


 「全員、避難せよ! 急ぎ避難するんだ! 」


 逃げるよう指示している。

 戦う素振りも見せない。


 俺はベアトリーチェに、アマソナスはこういうとき戦うより逃亡を選ぶ部族なのかと聞いた。


 「多分、相性が悪いんです。ゴルゴンは体力ではアマソナスには勝てませんが、ゴルゴンが使う石化はアマソナスの持つ魔法への抵抗力を超えてるのでしょう」


 ゴルゴンは魔法をいくつか使えるらしいが、その中でも石化魔法が得意で、無詠唱で視線を合わせただけで石化魔法を発動させられるという。


 「サラ、ゴルゴンの集落侵入を防ぐ結界を張ってくれ。俺はゴルゴンをちょっと躾けてくる」


 エルザークの真似をして躾けてくると言った意味をサラは判ってくれたようだ。

 俺はゴルゴンを殺すつもりはないと。


 ベアトリーチェにはアマソナス達に慌てて逃げる必要はないと説明してもらえるよう頼んだ。俺とサラがゴルゴンの侵攻を止めてくることも伝えてもらう。


 集落の外に出る直前で、


 「ここに結界を。サラ、頼んだよ」


 サラは微笑んで頷いた。


 俺はゴルゴンに近づいていき


 「俺の名はゼギアス。アマソナスとはちょっと付き合いがあるんで、お前らが攻めるのを黙って見てるわけにはいかないんだ。このまま黙って引き返すなら、お前達は痛い思いをしないで済む。俺の言うことを聞いてくれると俺も楽で助かる。どうだ? 」


 ゴルゴンも女性だけの種族。

 アマソナスからは男子も女子も生まれるがゴルゴンからは女子しか生まれない。

 だからゴルゴンも子作りには他の種族の力を必要とする。

 戦闘的な部族なのかそうでないのかも知らない。

 この時点ではこの程度しかゴルゴンのことを知らない。


 だが、女性だけのアマソナスを襲っても子作りの役にはたたない。

 食料の問題なのか、それとも別の理由によるものか判らない。

 

 まあ、理由など今はどうでもいい。

 アマソナスに恩を売れればいい。


 俺の声を聞いてもゴルゴンの動きは止まらない。

 そうだよね。どこのどいつかも判らない俺の言うことを信じる理由がない。

  

 こっちも戦うつもりだからいいんだけどね。

 嫁さんに格好いいところ見せられちゃやる気を出さないわけにはいかない。

 

 ざっと見て、ゴルゴンの数は百名ってところか。


 俺は両足を軽く開き、腰を落として拳に無属性の龍気を溜め、フンッと気合を込めて打ち出した。


 ゴォォォォという音とともに風が起き、強い風と共に見えない何かにゴルゴンは吹き飛ばされていく。龍気でできた球体、多分半径二メートルちょっとはある球体をぶつけたのだ。


 ゴルゴンの隊列の中央がポッカリとあく。

 左右のゴルゴン達が中央に開いた穴を防ぐように集まり、俺に突撃してきた。


 俺はひたすら平手打ちでゴルゴンの頬を叩いていく。


 バシバシバシバシ・・・・・・


 平手打ちされたゴルゴンは倒れ、また立ち上がり、俺に頬を打たれて倒れていく。


 俺に近づいたゴルゴンは多分石化魔法も使っただろう。

 何度も目が合ったしね。

 だが俺には効かない。 

 俺に異常系魔法を効かせたいなら俺の魔法力を上回らないといけない。

 だが、ゴルゴンからは俺に興味を抱かせるほどの強い魔法力は感じない。

 

 でもまあ、こいつらもなかなかいい根性してるよ。

 何度俺に倒されても立ち向かってくるんだもの。


 でも俺も止めるつもりはない。

 一人、二十回づつは頬を叩かれたんじゃないか。

 時間にして一時間近く。


 一人を残して、皆寝転がっている。


 残った一人が俺の前まで歩いてきて平伏した。


 「お前にはまったく歯が立たない。私達の負けだ。好きにしろ」


 「だからここから引いてくれるなら何もしないよ」


 「私達には戻る場所はない。デーモン達に襲われて生き残ったのはここに居る者だけだ」


 ふむ、住む場所を求めてアマソナスの集落を襲ったのか。

 相性の良い相手と戦って居住地を得ようとしたんだな。

 生存競争の激しいグランダノン大陸南部ではよくあることと聞いている。


 「じゃあ、俺の仲間にならないか? 俺は人手不足で困ってるんだ。食べ物と住居は保証するし、待遇も働き次第で考えるぞ? 」


 「私達を殺さないというのか? 」


 「ああ、殺しはあまりやりたくない」


 「お前は変わってるな」


 「どうやらそうらしい。で、どうする? 」


 「私達は負けた。忠誠を誓えというなら誓う。働けと言うのなら働く。勝者のお前が決めろ」


 「忠誠なんて堅苦しいことは言わない。じゃあこうしよう、俺と約束しろ。俺達とともに頑張ると。お前達も含めた俺の仲間たち全員が幸せになれるよう頑張ると約束しろ」


 「約束しよう」


 「よし! ゴルゴン達は俺の仲間だ。俺はお前達の仲間だ。そのことをそこで倒れてるお前の仲間たちに伝えてこい」


 俺はゴルゴンの手をとって立ち上がらせる。

 近くでみると意外と綺麗な顔立ちしている。

 白い肌に銀色の髪そして赤い瞳。

 アマソナスとは違って腰巻きだけではなく、ワンピースのような上下一体の服を着ている。目のやり場に困らなくていい。

 

 「それじゃ仲間たちを一箇所に集めて待っていてくれ。俺も仲間たちにゴルゴンは俺の仲間になったことを伝えてくる」


 俺はサラのところへ戻ろうと振り向いた。

 サラが張った結界にはアマソナス達がへばり付いていた。

 あらま、どうしたんだと思いながらサラのところへ近づいていく。


 サラは結界を解除したのだろう。

 俺の方へ歩いてくる。

 ベアトリーチェもサラの後ろから俺の方へ歩いてくる。


 「サラ、ベアトリーチェ、ゴルゴンを俺達の仲間にした。あいつらの集落、デーモン達に襲われて失い、残ったのはそこで倒れてる奴らだけなんだってさ」


 「では一度戻らなければなりませんね」


 「そうだな。ごめんよ、でもあいつら可哀想でさ」


 「いいですよ。協力者を増やす目的はある程度達成できたんですし、次の機会もありますし」


 「お兄ちゃん。ものは考えようです。これでお風呂に早く入れると考えましょう」


 「ああ、そうだな。それで、サラとベアトリーチェは飛竜を使って戻り、あいつらの寝床を準備するようラニエロとマルティナにお願いしてくれないか。その後飛竜を四〇頭連れて戻って来て欲しい。俺はゴルゴン達を連れて移動するからすぐ見つかると思う。一応、厳魔の集落経由になる。呼ばれし者も連れて戻らなきゃいけないからさ」


 

 何が起きてるのか判ってるのかそれとも判らないのか、リエッサの表情には疲労と驚きと何か他の感情も含まれている。俺はまだ昼前だから、これから移動すれば今日中には厳魔の集落まで戻れそうと考え、また来るからとリエッサに声をかけた。


 サラとベアトリーチェが乗った飛竜を見送り、アマソナスの集落をゴルゴン達と共にのんびりと厳魔の集落へ俺は向かった。

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