夏
彼女宛の手紙を何度も書き直し、気付けばその枚数も10枚に到達していた。
学校も夏休みに入り、咲き誇っていた桜も面影が無いくらい青々としていて、たまに吹く強い風がざっと音をたて葉を揺らしている。
そんな中、相変わらず桜の木の下に居る彼女は今日も読書に耽っている。
たまに見せる眠たそうな顔、黒髪を整える仕草、時に口元がほころび、とがらせ、少し肩を落とす。
話した事も無いのに、見ているだけで少し楽しくなってくる。
遠巻きで見ていたら彼女の真っ白なワンピースが、上昇気流に乗ってふわりと遊ぶ。
その姿はとても綺麗で、美しかった。
まだ話しかけるまでの勇気が持てなかった僕は、たまにだけれど自習室で勉強をする事が日課になっていた。
知的な彼女にも合う話題を見つけるために。って言う不純な理由だけれど。
その帰り道、鬱陶しい程に伸びた癖っ毛をこの際ばっさりと切る決心をした。
彼女の隣に居て、不格好にならないように。まだ話した事も無いのに、なに言ってんだろう僕。
僕は初めて、自分を変えようと思いました。
季節は、そんな小さな決意を無視して移り変わり、僕を追い越していく。
その季節が醸し出す薫りは徐々に広がる。追い越して行った季節が起こしたその風に乗って。
もうすぐ秋が来る。