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4  作者: RYO YOC
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ブラックマジクテルとアイハラ

アイハラのコンピューターに依頼のメールが届いた。紺色の闇の中で白く光るディスプレイ。

アイハラはベッドから深緑色の絨毯に降り、白い滑らかな壁を伝い、窓へ向かった。艶のある薄く青いカーテンを開く。銀縁の大きな窓の外は星一つ無い闇夜だ。

アイハラはコンピューターに取り込んだ新しい絵の中から光りの部分を削除し闇の部分を強調したものを送信した。


五分後、コンピュータに再びメールが届いた。

 今回も素晴らしいブラックマジクテルが抽出できた。報酬10000ドルはすでに振り込まれた。


 ブラックマジクテルは神に触れる資格のないやつを殺す。1年後には神の石TaKiRoが降り大勢の人が死ぬ。破壊神MaRuSuが目覚めるのが先かもしれない。

どっちにしろ僕は生き残る。生きて描く。それが僕のするべき事だ、アイハラは思った。そして食うためにはブラックマジクテルが抽出されようが絵を提供する。

                    

 コカは友達のミズエとアイスチョコを飲んでいる。最近できた店の人気商品。未知への愉悦のような芳香と理性を溶かす甘味。窓際明るい日差しに照らされたテーブル。コカの部屋。

 ミズエさんの彼って何してる人?

 絵を描いてるわ。私好みの。でなきゃクズカゴに捨ててやるし。

 ミズエは聴いていたCDを止めて、別のCDをセットした。重力に抗って空に登っていくような暴力的な声が流れた。

 なにこれ、すごい歌声ね。

 それ中学の時の同級なの。最近デビューして懐かしくて買っちゃった。

 コカは笑った。


 hA!はaAッ!Ha!ハ!は!

 チェック!ChEcK!cHEぇッく!cHeCk!ちぇっく!

 ログハウスの中のステージ。本番前のノブナガは音合わせをはじめた。久しぶりに見るノブナガは普通にしていると漂白されたような静けさをまとっていたのに、ちぇっくちぇっく、と発声する彼はエネルギーのかたまりだ、とアイハラは思った。ノブナガと再会してから更に3年が経っていた。

ノブナガは喉を解放し、唄った。アイハラの瞳には真っ黒な金属が空に向かい立ち上がっている画が映った。重力から解き放たれようとして動力源の歯車を凶暴に回転させている漆黒の金属。ノブナガの才能だ。アイハラには人々の持つ才能が形として見える。ブラックジェット、とアイハラは名付けた。


 ふざけんなこのヤロウ!20人以下はノーギャラだとぉ!みぞおちにチャランボ喰らわすぞ!

 ノブナガはライブが終わった後でオーナーに怒鳴った。

 たった8人しか入らないんじゃこっちだって赤字。食えないんだよ。

 オーナーは怒鳴ってノブナガを追い出した。

 知るかばかやろう、オレはどうなるんだ。

 ノブナガはよろけて通行人にぶつかった。

 相変わらず激しいね。

 聞き覚えのある声。ノブナガはアイハラと再び再会した。


 元気か?

タバコに火をつけながらノブナガは聞いた。

 うん。連絡できないで悪かった。

2人はログハウスにあるパブにいる。ステンドグラスの窓の模様がテーブルに落ちている。

 いや、いいよ。元気で描いてると思ってたよ。

 音楽。また始めたんだね。

 ああ。プロにもなった。でも食っていけなくてバイトもしてる。クラブのDjだ。今度遊びに来いよ。

 うん。僕は雇われ画家になった。ブラックマジクテルって知ってる?

 ああ。今やドラッグの王様だ。一度経験もした。死ぬところだった。


 アイハラはブルムークスのプールサイドでミズエという女と出会った事を話した。薄闇に包まれたプールサイド、紫色の鋼鉄が波打つような水面の側で。

ミズエは、私のために描いて、と言った。ミズエは夜そのもののような女で彼女が立つ場所には闇が降りているようだった。そこには恐怖や未知が渦巻いていた。彼女がいる場所には常に強い光りが必要だった。

何の力もない普通の人は彼女の闇に飲まれ何も出来なくなった。うざい、を連発するだけの頭の悪い女。過去の高度経済成長時代の自慢をするだけで未来を語れず希望のないジパングのオジサン。健康と長生きだけが趣味の老人。それらは彼女には近づけなかった。とんでもない馬鹿か、とんでもない天才だけが彼女の側にいた。

ブラックオアホワイトの世界にアイハラは惹かれた。彼女は新薬の開発者だった。彼女はアイハラの絵からブラックマジクテルを抽出し、マフィアを使って売りさばいている。


 よせよマフィアなんて。

 関係ないよノブナガ。何処にいたって生きることさ。描ければかまわない僕は。

 ノブナガは黙って煙草を吸っていた。アイハラはノブナガが腹を立てているのを感じていた。まだ話さなくてはならないことがあったが今日は止めておこう、とアイハラは思いその場を離れた。

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