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4  作者: RYO YOC
2/30

ブラックマジクテル

2

 ノブナガは仲良くなった女の子とラブホテルに入った。いつものようにアルコールの霧の中で笑っていて、途中で手が疲れて眠りこんだ。


 アイハラはオーストラリスを旅していた。ブルムークスで月に1度あらわれるという月の階段を観るためだ。

アイハラの車はブルムークスへたどり着く前にガス欠になった。夕暮れの荒野で前の街でガソリンを入れなかった事やガソリンの予備を持ってなかったことを悔やんだ。


いざとなったら車の中で寝るつもりで、通りすぎる車に手を振って助けを求めることにした。あっさり最初の車が止まった。殺される可能性もあるので警戒しながら車に近づいた。

エイ、ぶらざぶらざぶらざ。

止まってくれたのは先住民達だった。アイハラは警戒を解かずにガス欠したことを伝えた。彼らは、あっさり自分たちのガソリンを少し分けてくれた。

アイハラはお礼に絵をあげた。先住民達はわらいながら受け取り、絵をみた瞬間から笑うのをやめた。

オレ達は限度を持たない。だから遊びすぎるし、飲み過ぎし、愛しすぎるし、憎みすぎる。あるやつは絵を描きすぎて扉を開くこともある。あちら側へ行くやつもある。この絵は同じ感じがする。先住民達はそう言うとまた笑いながら去って行った。


アイハラは再びブルムークスに向かいながら先住民の言ったことが頭で回った。そして最近はエンピツを握るたびナイフを握っているように感じること、線を引くたびにナイフで空間を裂き違う世界を覗いている気分になることを思った。月の階段を見に行くのも、もしかしたらその階段を上って別の世界を観られるのではないかと思っていたからだ。


 ノブナガはオレンジ色の激しい渦を観た。オレンジ色の線が勢いよく円を描いている。前にも観たことがある、と思った。好きな女の子の唇に近づいた時だ。ものすごいエネルギーに乗っかる感じ。オレンジ色の渦はほんの鼻先で回転している。


ノブナガは迷わずに飛び込んだ。いつしかノブナガは庭を見つけた。そこは懐かしい場所だ。庭に降り立ったとき自分はいまラブホテルで眠っていたんだ、ということを思い出した。そして庭がじぶんの場所だということを思い出した。たくさんの曲をそこで作ったことを。


隣の彼女を観た。彼女はこの世界にはいなかった。遠くアイハラの丘が見えた。アイハラが何処にいるか知らないけれどこちら側の世界は感覚の世界で距離は関係ないんだということがなんとなく解った。


アイハラの丘へ行ってみた。アイハラは膝を抱えて座り遠くを見ていた。突然ものすごい唄が聞こえた。大勢の人間がヒトの知り得ない感覚で唄ってる。太古の昔から今に向けて唄っている。大勢の人間の声はもしかしたら人ではない女の声かも知れないと思った。あまりにも美しすぎるのでノブナガは恐くなった。


 痛い!と声がして突き飛ばされノブナガはベッドの下に落ちた。

 勝手に一人で寝たり、非道く抱きしめたり、馬鹿じゃないの。女は言った。


 アイハラは海を眺めていた。ずっと暗かった海面が真っ赤に焼けた時、唄を聴いた気がした。ずっと太古から唄う誰かの唄。アイハラはヒトが知り得ない絵を見た気がして嬉しくなった。


ふと、ノブナガが側でびびっているような気がした。徐々に赤は強くなり黄色になった。月が海面から盛り上がり、月の上昇と共に光りの階段が現れた。何段目かは踊る少女達。別の段は古代魚達。アイハラは奇跡のような光景を眺めながら、あちら側の世界もこちら側の世界も無いような気がした。


すべての奇跡はすでにこの現実の中に紛れ込んでいる。   


 そんなことよりまだ覚えなきゃあいけないことが沢山あるだろう。

 ノブナガが真剣な顔してメールを打っているとノブナガのアルバイト先の先輩が言った。ノブナガは無視した。世界はややこしいことが多い。原子力や戦争やテロや平和や経済や自然。もちろんアルバイト先のルールも。それよりも大事なのはあの渦だ、ノブナガはそう感じている。

ノブナガは昨夜の女の子にもう一度会わなければいけない、と必死にメールの文句を考えていた。昨夜のオレンジ色の渦の夢がずっと気に掛かっている。もしかしてもう一度あの女と寝るとあの夢を見られるんじゃないか、と思い込んでいる。


 アイハラは先住民美術館へ行った。自分が使いこなせていない感覚で描いている、と思った。例えば見上げた空を、その深さを、形を変える雲までも、彼らは表現出来るだろう、と思った。太古の脳よ、目覚めよ、魚類やは虫類や昆虫の目で、観なくては、と思った。

 

 信じられない。

 ノブナガは再び昨夜の女と会うことが出来た。チーズたっぷりのハンバーガーを食べながらビールを飲んでいるとまた酔っぱらった。ノブナガは店内の悪質なポップスを耳の中に流されて不快な気分だ。ハンバーガーを頬張った。

 君と寝たい訳じゃない。オレの求めているのは夢なんだ。

 気が付くとノブナガは繰り返し言っていた。

 信じられない。


 ノブナガは赤や紫や黄色に光る石を眺めていた。おかしそうにコトリが鳴いている。ノブナガは顔を上げた。黒髪に挟まれた白い顔が自分の思考を読みとって笑った。ノブナガは恐くなってうつむき、再び赤や黄色の石に目を奪われた。


 何い、足ばっかりみちゃって、私の指がそんな好き?

 ワタシノユビガ ソンナスキ スキィイ。ノブナガの頭の中で猫の女の泣き声がねっとりと渦を巻いた。赤や黄色や紫に熱っぽく輝くのは女の足の爪だ、と思った。

顔を上げると白い顔が病的なラインを作って笑んでいる。ノブナガは何か薬を飲まされてしまった、と思った。頭に来たが抗う元気が無かった。


ノブナガは女の奇妙なラインの唇から漏れる猫のような声がものすごく恐くなった。

コトリが鳴いている。びびったオレの顔をみて笑ってる女の声だ。

赤、紫、黄色、ものすごく綺麗な石を見つけた。綺麗に並んでる。コトリが鳴いてる。


 ワタシノ指がそおおおおおおおおおんな スキ。 

猫の女の泣き声が脳に貼り付く。黒い髪の狭間から白い顔がオレの思考を読みとってる。

ノブナガは女の声を恐いと感じるな、と自分に言い聞かせながらキスをした。唇の向こうの世界にぺろんと落ちそうな程体中が女の暖かい唾液に包まれた気がした。ノブナガは暴力的に勃起した。


ノブナガは唇で女の口を塞ぎ両手で女の腕を押さえつけ固くなったペニスで殺意を抱いて突いた。

女は、あああ、と声を出した。負けた、という風に、待ってた、という風に、どちらの感情も楽しんでいるように。

ノブナガは太古の昔から聞こえてくるような唄を思い出し、似てる、と思った。ノブナガは恐怖に襲われそうになったが、ここでびびると自分は発狂するだろうと感じ、意識や感覚をセックスに集中することだけに使った。


 どう?ブラックマジクテル。今にも発狂しそうで楽しかったぁ。

 女は鏡を見て口紅を引きながら言った。ノブナガは体に力が入らず横たわっている。自分の体を波の側で転がる砂のように感じていた。

 みえたかしら同じ夢は。

 女はそう言いながらドアから出て行った。ブラックマジクテルか、とノブナガは思った。


世界的に有名なデジタル技術のエリート藤沢は電子の海の中に古代の情報を発見した。紙に書かれたものや壁画に描かれた古代の情報は今までにも発見されてきたがデジタル化された古代の情報が発見されたのは初めてだった。


藤沢が発見した古代デジタル都市の遺跡のなかからハッカー達は麻薬の王様のヘロインを越えるブラックマジクテルという麻薬の精製方法を入手し裏世界に売った。


多くのジャンキーがブラックマジクテルに手を出したがその殆どは一度の使用で発狂しながら死んだ。それによりジャンキーの殆どがこの世から居なくなった。


世界には合法ドラッグのビッグスリーがある。酒、煙草、コーヒー。だが国によってはこのビッグスリーの方を違法として麻薬を酒などの嗜好品のかわりに合法としてる所もある。そういった国の人々はこのブラックマジクテルによって壊滅的なダメージを受けた。


ブラックマジクテルの外観や効果は闇から闇へ流れるばかりでほとんどデータが無かった。


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