秘密基地
1年後ーー
キンコンカンコーン
授業終了のチャイムが鳴り、僕はカバンを乱暴にひったくり、2年5組の教室を出る。金髪の男子高校生が続く。後ろで「翼くーん。待ってくださーい」という言葉が聞こえたが無視。
廊下を走りぬけ、階段を駆け上がっていると隣に金髪が並び、こちらを見る。
「今日の最速王は俺がもらったぜ」
と言って、僕を肘で押し倒した。
「ちょっ、ふざけんーー」
その瞬間、階段を頭からかけ落ちていた。
風をひやりと背中に感じる。
猫のように身体をくるりと回し、転がるようにして受け身を取る。
容赦ねーな。あの野郎。
金髪頭の名前は「小岩井大河」。耳にピアス。爬虫類のような目。それは、まさに現代風の若者といっていいだろう。しかも、可愛い女の子を見たら所構わずナンパする軽い性格。(もちろん振られるが)将来は、ホストになるんではないかと心の中で思っている。
そして、バカである。
大事なことなので二回言おう。バカである。
でも、僕の悪友であることは確かだ。
「まちやがれ、大河。許さーん」
「ふははは〜」
上の階から、奴の笑い声がこだましてくる。
大河に追いつこうと、僕は再び階段を駆け上がる。目指すは学校の最上階4階のさらに一番奥。
はあはあーー
息を整え、扉を開こうとする。そこには、「オカルト新聞部」というなんとも変な名前のA4サイズの紙が貼ってあった。
すでに大河は部室にいるだろう。扉を蹴り上げ、中に入る。
「大河。今日という今日は許さん。血祭りじゃー」
僕は両手を上げ、威嚇ポーズをとるがそこには誰もいない。いつも通りの部活部屋だった。それほど大きくない広さに、長机とソファー、その他各自が持ってきた菓子やらオモチャやらがそこらにある。
「あれ?」
「ふっふっ。甘いぞ、つばさぁぉぁ。こっちだぁぁぁ」
ガタンという音と共に背後の掃除ロッカーが開かれる。そこに大河は隠れていたのだ。バカだ...
そして、どこにあったのかスターウ◯ーズのライト◯ーバーを持ち切りかかってくる。
「うお」
なんとか避ける。第二刀目がくる前に落ちてあったフライパン(なぜ落ちてあったかは不明)を拾う。
「くらえー。鋼鉄斬月」
などという漢字と当て字が全くあっていない厨二発言をして、フルスイング。そして、見事命中。大河は、一瞬空を飛んだ。そのままノックダウン。気絶した。やりすぎたという後悔の感情はない。こいつは、不死身だから。
「ふっ、完全勝利。これで僕は新世界の神になった。なあ、リュー◯。お前にリンゴやるよ」
と夜◯月になりきっていると部室の扉が開き、麗華の大きく綺麗な黒みがちの瞳をさらに大きくして、まさにびっくりしてますよという顔が見える。
「あっ」「へっ」声が重なる。やばい。麗華のこと忘れてた。今のを見られたのはやばい。むちゃくちゃ恥ずかしい。
「あっ。いまのはね、えーと、あれだよ。大河が僕に強要したんだよ。なんか変なことやれって。これってあれだよね。モラハラだよねぇ」
大河のせいにした。すまない、とこれっぽっちも思っていないが気絶している彼に心の中でつぶやいた。
「そうですかー?でも、翼君いつもそんなことしてますよね?」
「いや、全然してないって。ほんと。今日だけだよ。特別仕様、スペシャルデーだからね」
首をぶんぶん横に振る。なぜばれた。麗華、やりおる。要チェックや。
麗華は長机の近くに置いてある椅子に座り、部室の片隅で倒れている大河を見つけーーなかった。そのまま本を読みだす。
すげー。近くで人が倒れているのに全然気づいてないよ。どんだけ天然なんだよ。養殖なんかじゃないよ。本物だ。
僕も大河のことを忘れて、勉強に取り掛かった。
三十分ぐらいたっただろうか。階段を上る音に気がつき、教科書から目を離す。
扉が開く。推定百四十センチのちっちゃな彼女は腕組みをして立っていた。
「いよー、マスター。いつもの」
「はい、いつもの」
カバンから牛乳を取り出し、ミニマムな偉そうに突っ立っている彼女に渡した。
「うえーん。麗華ー。翼がバカにする」
本を読んでいた麗華に抱きついた。そして、推定Fカップ(翼の魔眼調べ)のオッパイに顔を埋めてボインボインする。羨ましくはない、たぶん。
「めっ、愛子ちゃんをいじめるのはやめなさい」
麗華に怒られた。後ろで目を人差し指で広げてあっかんべーをしている愛子ちゃんと呼ばれた小動物には殺意が湧いた。
小動物の名前は「加藤愛子」。身長百四十センチの低身長で、栗色のショートカット髪の毛にクリクリした純真無垢な目。なんだか守ってあげたくなるような保護欲が湧く(大河情報)。しかし、男に対しては病的なまでに偉そうにする。そのため、学校の野郎共が主催した美少女アンケートとムカつく女アンケートで見事ランクイン(大河情報)。
「おう。俺の愛しの愛子ちゃーん」
いつのまにか復活していた大河が笑っている。
「黙れ。その口であたしの名前を呼ぶな。バカが感染する」
「辛辣ー。そんなところも愛してる」
麗華がクスクス笑う。
「愛子ちゃん。大河君に言いすぎですよ。ちょっとMなだけなんですよ」
僕も賛同する。
「そうだよ。大河は頭のネジがズレているんだよ」
「フォローになってねー」
大河はシャウトした。
いつも通りの部活動?だった。
秘密基地ーー
この場所を誰かがそう呼んだ。
この世の悪意から互いに身を守るため、欠けたものを補うように僕らは集まった。
それは一人を作らないための優しい場所。