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彼女とfirstcontact 2

小さい時に尊敬している人に言われた。

世界は悪で満ちている。

誰も信じるな。俺も含めて。

僕は、好きな人を信じてはいけないと知り、恐怖でこの世の中から目をつぶった。



僕は高層ビルが隣接する大都市の大通りの、人が忙しくまるで何かに取り憑かれているように歩く人たちの合間をなんとか避けて理沙さんから言われた目的の場所に向かう。


ここら辺の地形は、昨日頭に入れておいたため、道に迷わずには済んだ。しかし、人が物凄く多い。しかも、何もかもが大きい。都会というところに初めて来たので、とても輝いて見える。上を見て、キョロキョロ歩いていたら視線の端に違和感を見つける。


大通りをずれた裏通りの道で、少女が男二人がかりで、黒いバンに押し込まれようとしていた。


「やっ、やめてください。離して」

少女が叫んでいる。しかし、周りの人間は見て見ぬ振りをしている。

誰も信じるな。ふと、昔の言葉が思い出される。自分にも関係のないことだ、立ち去ろうと思った時、少女の顔が脳内で理沙さんからもらった資料と結びついた。


伊集院麗華いじゅういんれいか」。

伊集院家の長女。17歳。護衛対象。


なるほど、あの子が...

しかし、運が悪いというかなんというか、都合がいい気がしないわけでもない。

などとと思いながら、とにかく対象が危機に瀕している。助けなければ..


そう思ったら、すでに全速力で走っていた。

人の群れを押しのけ、工事現場に落ちていたちょうどいい長さのアルミパイプを拾う。


近づくと男二人の顔が見えた。

一人は痩せ型で、もう一人は肥満体型。

共通しているのは、黒い服に黒いグラサンをかけていることだ。完全にあやしい...


僕は笑顔の仮面を被り、話しかける。


「おじさんたち、女の子に何しているの?」


痩せ型がこっちを見る。


「あん?痛いことされたくなかったらさっさとどっか行きな」


「それは、こっちのセリフだよ」


「はぁ?何言ってーー」


思いっきり鉄パイプを痩せ型の顔に振り上げる。躊躇してはいけない。それは、命のやり取りの中では弱点にしかならない。


ドガーー


鈍い音と共に鮮血が飛び散る。痩せ型は、頭から血を出しながら、その場に倒れる。


肥満体型は、少女から手を離し、僕に殴りかかってくる。


「何なんだ。てめーは」


左、右、右。のろまなパンチを避けながら、相手の股間を蹴り上げる。うずくまったところで、相手の顔を壁に叩きつける。何度も。それは、相手を完全に倒されなければ殺されるという恐怖からくるものだ。


「ふぅ」


一息つく。少女を見ると、すでに気絶していた。祖母が外人だったため、その遺伝を受け継いだ夕焼けのような淡い赤色、暁の髪の毛。横顔からもわかる鼻筋の整った綺麗な顔。

この子に間違えがない。護衛対象だ。


少年は、麗華を肩に軽々と担ぎ、どうしたものかと青色のスマートフォンから理沙に電話しようとする。


パチパチーー


拍手の音が聞こえた。まだ、敵がいたのかと意識を戦闘モードに切り替える。

理沙さんと一人の男が近づいてきた。

敵ではないと悟り、ふと身体の緊張を緩める。


「容赦がないな。気に入ったよ」


男が笑顔で僕の頭を撫でる。なんだか慣れなれしい奴だ。その手を振り払い、理沙さんに尋ねる。


「誰ですか?この人?」


「クライアントさんよ。挨拶」


この人が、伊集院平蔵か。なるほど、左腕につけている高級時計に高級スーツ。社長っぽい...


「大空翼です。娘さんを精一杯守ります。よろしくお願いします。」


ぺこりと頭を下げる。


「ほっほっほっ、娘をこちらこそよろしくお願いします。最近、何かと物騒だからね。いまのはテストさせてもらったんだよ。君、合格」


頭を上げると平蔵は子供のような笑みを浮かべながら、手でオッケーマークを作っている。テストといっても、娘を危険なめにあわせるなんて、教育熱心な良い親ですねという皮肉は胸の中にそっとしまった。


スーツ姿の女が平蔵に向かってシャカシャカと歩いてきて、耳打ちをする。平蔵は大きくうなずいた。


「次に仕事があるから、もう私は出かけなければいけない。すまないね。」


と言って、さっきの秘書らしき女とそこに停めてあった高級車に乗り込む前にこちらを振り向く。


「おっと、大事なことを忘れていた。翼君、君にもう一つ頼みたいことがある。」


「なんですか?」


「その子、麗華と友達になってくれないか」


「友達...ですか?」


うんと平蔵は頷く。おそらく僕はいま、とても驚いた表情をしているだろう。


「うむ、麗華には今まで友達がいないんだ。それが、親からしたら不憫でね」


そう言い残して、車は走り去っていった。


友達か。戦友はいても、一般の友人をもったことがない僕には難しいことだと思った。しかし、依頼は必ずやり遂げなければいけない。プロだからね。


「理沙さん」


相変わらず白衣姿の理沙さんはタバコを吸いながらさっき倒した男二人の顔を指でぷにぷに触っている。

ツッコミは....しない。


「どうした?」


僕は肩の上で伸びきっている彼女をちらっと見る。


「どうやって、友達って作るんですか」


理沙さんはクツクツと笑う。


「ほう、さすがの死神さんでも友達の作り方はわからないか」


なんだかむかつく言い方をされる。

理沙さんは吐いたタバコの煙を見つめながら言った。


「あなたの隣人をあなた自身を愛するように愛しなさい」







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