第零章 プロローグ
透き通った空に止まった鳥たち、無音の世界に私の声が響く。
「グラフィー感知無し、視界良好、異常なし」
この瞬間、世界には私だけがいるような気持ちになる。それも実際、ハズレというわけでもないことに優越感を覚えるのだった。静止した世界。無音の世界。私と彼だけの世界。
「あーかーさーたーなーはーまーらーやーわ......」
首都から北へ下って丸2日、目の前のレールの上を辿りながら目的地まで向かっている途中なのである。理由は1つ、彼に会うために......別に恋しいというわけではない。そもそもそんな理由で堂々と新幹線専用の線路を数日間歩き続けるわけがない。
「3.1415926535......飽きた」
私は線路に寝そべり、空を眺めた......といっても私の視覚と聴覚がほとんど機能していない。そのため、自動処理をしてくれるゴーグル型の機械を頭に装着する必要があるのだ。体温、時間、物体の位置や大きさ、脳では処理出来ない事柄を全てこれがやってくれている。コンピュータの画面のように点と線を繋げだ世界しか私は見たことがないのである。ほぼ無音の状態しか感じない私の聴覚の代わりに視覚でそれを補っている感じだ。この機械が感知した音を全て文字化し、ゴーグルの画面にタイピングされる仕組みが備わっている。
「煌めく黄金色の砂時計、砂時計......砂時計......」
彼を見つけるための重要な手掛かりをいつも私は口走る。前も言ったが、無音の世界に私の声だけ響いている。画面には私の言葉がちゃんと句読点付きでタイピングされる。いつものことだ。
「んっ、よっと。契約は契約、願いは叶う......絶対」
人探しをしている理由、機械を装着している理由、そして私がここにいる理由、全て私が屑政府と結んだ契約の条件だ。低脳の集まりでしかない政府は地位と自らの富しか眼中にない。だからこうして私が生まれた......彼が生まれた。
†
世界が壊れ、秩序が壊れ、平和という言葉すら聞かなくなったここ数十年、日本もまた狂い始めた歯車の中にいた。
児童誘拐、人身売買、強姦など日常茶飯事の世の中。国家権力の象徴たる警察でさえ手に余る事態になっていた。政治家や閣僚など今まで国家のトップにいた者達も収集の手立てを早急にまとめる任務に励んでいたはずだった。
数年が経ったある日、世の乱れを正す打開策として生みだされた存在が彼だ。
彼は乃亜と呼ばれ、触操という人間を超えた能力で彼は使命を全うした。彼の使命は、殺戮による世界の掃除と平和の道標であった。
それを支えた触操は絶大な力を発揮し、殺戮による平和を実現させた。無理もない、彼の触操は"時間"だからだ。時間を止め、彼以外の存在の動きそのものを封じる彼の触操は殺人には最適だった。その空間を乃亜に因んで箱舟とつけたりする政府も屑の極みでしかない。
そして最近になって彼の存在を過大評価する政府の輩は彼の存在の抹消を決めた。
触操で時間を止め続けたことにより歪みが生じ、人間界には存在しない化物を呼び寄せる原因となったからだ。
その化物は人を襲い、頭部のみを捕食して脳を栄養源として生きる化物は歪みの元を旅した者として旅人と呼称され、第一級危険生物に指定された。
それを含めて、私は乃亜抹消と旅人退治の戦士として絶対的力である触操を得たのだった。
影を操る私は宙、人間という位を棄て、絶対遵守之盟約を使命とし、乃亜に対抗しうる力を持った使徒という存在なのである。
初心者ですが、宜しくお願い致します。