朽ちた日々
オレは幽閉されていた。
許された自由は衣食住・・生きるのに必要なこと。
与えられ場所は寝室と応接間の2部屋のみ。
自殺禁止。
幽閉の原因は2つあった。
1つ目は、突如王家に謀反を起こした父に・・。
2つ目は、勇者である姉が魔界に寝返ったため。
父の死に何があったのか?
私兵を用い、各地の戦いを沈めてきたというが・・
英雄扱いされていたはずなのに・・
最後に会った時からは理由がわからなかった。
ただ父が悪事を働くとは思えなかった。
だから父の死後の、姉の裏切りは仕方ないことなのかもしれない。
・・でも
『オレを置いていった』コトが信じられなかった。
姉は元々戦うことを非常に嫌っていた。
そんな姉が戦争の道具になり多くを殺した。
あの頃は心配するだけだったが、今思い返せば壊れかけていたのがわかる。
・・でも
たった二人の家族であるオレを置いていくとは・・思いたくなかった。
荒れたよ。
ソファーに沈み、煙をくゆらす。
いつもより胸の奥が重い。
妙に頭が冴えているせいか、ハラワタにたまったクサイイキを余計に感じる。
煙と一緒に出ていかねーかなー
オレを抑える、もといやる気のなさのカタマリであるヨドミ
絶望・・溜まって腐っちまった感情、なにもできねー腐臭。
肺いっぱいに吸った煙の方が逆にまだキレイだよ
もう5年か・・
久しぶりに見たカレンダーのおかげで幽閉されてから5年も過ぎていることがわかった。
急に蘇ったオレの意識。
自分が絶望し腑抜けになり、ヤケになっていたのはわかる。
ヒドイコトをして気を紛らせたのも今なら・・
・・・・
・・
謝りたい・・何人かのメイドの顔を思い出す。
最初のメイドは父の領民で、同じ年の子だった。
初めて愛した女性でもあった。
いつも笑っていた。
美人なんだろうけど愛嬌ばかりが目立つ顔。
最初のメイド=マイ・・。
5年前を思い返す。
世間の批判の声はオレのもとにあまり届くことはなかった。
しかし自由もなく何も起こらない日々が、オレを蝕んでいった。
父への疑問、姉の裏切り、王国への恨み、勇者である呪い・・
時間だけはあったしやることもなかったから同じことをグルグルと思い返していた。
怒り、嘆き、許し、恨み
・・怒り、嘆き、許し
・・怒り、嘆き・・
・・怒り・・
考えるのをやめ、行き場のない怒りだけが残っていた。
手の甲の翼をナイフで何度も刺した。
その度マイはオレを抱きしめてくれた。
壊れそうなオレを、マイだけが支えようとしてくれた。
発作的に怒りがこみ上げる以外オレは穏やかな日々を過ごせた。
そんなある日マイの手の甲に『眷属の羽』が現れた。
『眷属の羽』とは、勇者が信頼した者に、チカラを与えたことを表す印。
勇者の羽が、マイを勇者の仲間にしたのだ。
そしてマイは連れて行かれた。
戦争の道具にするためにっ。
次の日からオレの周りには羽の残り枚数分である2人のメイドが付いた。
戦争の道具なんか生み出したくなかった。
拒絶するオレに、メイド2人はなんとか信頼を得ようとした。
色々尽くしてくれ、心は傷んだ。だが気は許せない。
演技なんだ、これは。
マイと羽を通じ、声を聞くコトだけが支えだった。
すまない、ごめん、辛くはないか?謝罪の言葉しか伝えられない日々が続く。
笑い声は段々減っていた。
そのうち会話のない意識だけのつながりになっていた。
そのことが更にオレを苦しめた。
いつのまにかオレは酒と薬に溺れていた。
メイド達はさらに尽くし、時には抱かれ、頑張っていた。
段々意識のなくなってきたある日マイが屋敷に現れた。
その姿をボーッと見ていると、胸ぐらを掴まれた。
「しっかり加護を与えてよ!おかげで死にかけたじゃない」
マイとの信頼が弱くなり羽のチカラが衰えていたようだ、そのせいで死にかけたそうだ。
眷属の羽は相手との信頼がないと成り立たないものだった。
全身から悲壮感、久しく嗅がない血の匂い・・遠くの世界の景色だ。
血走った眼差し、頬はこけていた・・そこに昔の笑顔はなかった。
ああ・・
あ、あ〜
・・・・
・・
「ごめん」
ああ、なんだかマイが遠い。
辛うじて残っていた意識を強めてマイを思う。
しかし数日後の夜、頭に響くキーーンという感覚で目が冷めた。
誰もいない暗がり、オレの寝るベッドの上に、マイが浮かんでいた。
血だらけ、片腕を失い、上半身がずり落ちそうな・・
その死に顔に、彼女らしい面影はなく、なく・・
耐え切れなかった。
その時オレは壊れてしまった。
ようやく幽閉の話に・・