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殺したいメイ

 「グレイ君の謀反ですが安心して下さい。メイを私の下に無事にこさせるために、国には話しておりませんから」

 変態の言葉に少し安心する。

 せめてグレイ様達の蜂起が事前に防がれてないなら、まだいいのかな。 


 「ようやく本当に触れることができる」

 いやだ、近づかないで。

 研究者が私の髪を撫でる。

 身動きできない…研究者に動きを封じられたようです。 

 う…ゾワゾワします〜ーー嫌悪感で死にたくなる。


 「ご主人様!助けて!」

 「無理ですよ。エルト君は捕まった時、私を眷属にしていた事に気付いたので思考を封印しました。アノ首輪がそうです」

 ご主人様の首を見るーーアレを破壊すればもしかして?

 

 「死なないと外せないように細工してあります。それに私が死んでも首が跳ぶようにもしてあります」

 「なんてことを…そんな…ご主人様…」

 もうどうしようもない?何もできない、頑張ろうと思ったのにもう終わりなんですか?

 悔しい、せっかく目の前にご主人様がいるのに、触れることすらできない。

    

 「旅に出ましょうメイ。勇者の研究に満足しました、当初の目的とは異なりましたがアナタを手に入れることができた」

 旅?いやです。といいますか私なんかじゃなくて目的とやらを選んで下さい。

 このまま旅に出られたら本当の終わりになりそうーー焦燥感、危機感。

 まだシュバルツさん達が生きているならーーこのまま!今を終わるわけにはいかない。


 「シュバルツさん達がやられたのも、やはり私みたいに操って、動きを封じたんですか?」

 「それは違います。エルト君に片付けてもらいました。それに操れるのはエルト君を介してのメイの二人のみですよ」

 「他の人にも可能なんですか?」

 できるだけ情報を残す。それが今のわたしにできること。


 ニヤリとしながら、素直に話す研究者。

 「かしこいですね、ご褒美にお教えしましょう。いいえ、私だけが可能です、なぜなら私の特殊能力をエルト君に使う事で可能でしたから」

 「特殊能力ですか?」

 「ええ…流石にソレを明かす訳にはいきませんが、だいたいそんなところでしょうか。他には?」


 特殊能力ってズルイと思う…勇者のチカラを持つ私が言うのもなんですけど!

 こういう諜報活動?というのですか、苦手です。

 「旅ってドコに行く気ですか?」

 「ドコがよろしいでしょうかね?まずは私の事を好きになって頂きましょうか?」

 研究者の手がずっと撫でていた髪から下がりはじめる。

 いやだ!ご主人様助けて!


 突然だった。


 「南無!」

 視界に映る

 世界がゆっくり動いて見えた。

 シュバルツさんがご主人様の首を、はねた


 え?

 声聞いてないのに?

 目もちゃんと見てないのに?

 抱きしめてもらってもないのに?

 音を立て倒れていくご主人様…転がる首?

  

 シュバルツさんはそのまま研究者に突きを挿れる。

 研究者の悲鳴。


 シュバルツさんが私と目が合い、顔を背けた。


 え?

 

 私の体は自由を取り戻す、だけど膝をついて崩れた。 

 

 「殺す!」

 研究者にトドメを入れようとするシュバルツさん。

 「あいにくまだ死ぬわけにはいきません」

 殺し合ってる二人。


 四つん這いでご主人様に近づきます。

 目をつむったままの眠ったような顔でした。

 「い、いやだ!嘘ウソうそ、こんなのって」

 息が苦しいーーご主人様の首を抱きしめます。     

 これはなに?これが?ーー指で顔をなぞります。

 

 剣撃、魔法の音が響いています、ホンの数メートル先で。

 意外に研究者が頑張っていますーー戦闘力はないと聞いていましたが、いくら眷属のチカラがあるとはいえ、です。

 シュバルツさんも頑張れーー満身創痍だからかな?


 きっと判断したのでしょう。

 おかげで自由になれたもの…私もご主人様も。

 …だから間違って、ないですよ。正しいんですよ。

 

 ご主人様の手を握る、でももう握り返してくれない。

 羽ーー私達の羽を重ねます。

 勇者になったんですよ。

 あの時私まだ13歳だったんですよ、そんな子にご主人様ってもっとロリでしたね。

 いつものからかいネタですよ?…もう慌てる姿も見れないんですね。

 胸もちょっと育ちましたよ。

 グレイ様にイイ女って言われました。

 あ!浮気じゃないですからね?懐いてもいませんよ?

 ご主人様…

 何か言ってよ!言いたかったよ!

 ありがとうも言えなかった、離れてからも守ってくれたコト、殺さないで欲しいと願ってくれたコト

 

 ずぅっと見たかったご主人様の顔、涙でよくわかりません。

 

 「すまない」

 シュバルツさんの声ーー決着がついたんですね。

 ごめんなさい、顔見れない。

 「主殺しの罪は必ず贖わせて頂きます」

 「しないで!そんなことをしたらダメ!これ以上死なないで!死んじゃ嫌、死なないでよ〜」

 後半はご主人様に向けてになっていたかも。

 自害する気なんでしょうね、させないですから。

 

 「すまない…機会を伺っていた」

 「い、いい判断でしたよ。おかげで助かりました、ご主人様も…だからイイんです」

 ゲッソリとした顔のシュバルツさん

 「あなたもツライはずです。」

 ご主人様の首から目が離せません、実はさっきからシュバルツさんに向けてしゃべっている言葉はどこか遠かった、勝手に口から出てる気分。 

 恨んでなんかいないんですよ?恨むはずがないんですよ?ーー抑えきれない。


 「言ってくれ」

 「いいませんよ、いえませんよ」

 「言うんだ、それでオレは忘れずに無様に生きることができる」

 シュバルツさんが床を殴る何度も、なんども。


 ああ、冷静沈着な人でもそんなことするんですね。

 だから言ってあげます。

 「あ…あなたが殺した!ご主人様を、エルト様を!だけど!恨まないけど忘れない!忘れられません。」


 シュバルツさんがほえます、涙が片方の目からひと雫落ちていきました。

 そしていつものポーカーフェイスに戻ります。

 「ありがとうございます、あなたに無理やり言わせてしまった。申し訳ない」  

 「だから死なないで」

 「あなたとお子に生涯を捧げます」

 美しい決意の一礼だった。


 その後は泣いた、泣きました。誰にももう気を使わなくていいんだもの、ご主人様のために泣かせて。

 求めてやまなかった未来はなく

 思い出す日々はかえらなく

 もう一緒にはいられなく

 ご主人様と別れ、生きなければならない自分になく。

 

 ですが…まだおわりではありませんでした。


 「気をつけろ!」ーー異変が起こる、研究資料を見ていた村人の注意喚起。 

 研究者の死体からクリスタルが浮き上がっていた。

 得体のしれないチカラを感じる。

 ソレが私に向かって飛んできた!ーー咄嗟の事な上に、まだ動けない。

 が、シュバルツさんに突き飛ばされ、私はご主人様の首を抱きしめたまま転がる。

 

 なに?なんなの?

 クリスタルがシュバルツさんの左腕にくっつくーーが即座にシュバルツさんは自分の腕を切り落とし、そのままクリスタルを踏み割ろうとする。

 「なかなかやりますな」

 死んだはずの研究者の声が響く。


 死んでない?死んでなかった?というかクリスタルから声がする、なんなの?

 ふらふらと宙に浮くクリスタルーー不気味です。


 「これが私の本体なんですが…ヒビが入ってしまいましたね。残念です…メイと一つになりたかったのですが代わりに一緒に死んで頂きましょうか?」

 意味はわからなかったが、ゾクリと体が震えた。

 研究者のクリスタルが異様な輝きを放ち始める。

 

 「メイ、私と一緒に死にましょう」

 研究者の気持ち悪い身勝手な言葉に腹が立つ!

 

 クリスタルの輝きが炸裂する寸前ーー私は最速の技を放つ。

 思わず怒りで出た剣だったのか、被害を考えたからなのかは微妙におぼろげだった。

 でも、感じる魔力の大きさから、おそらく大爆発が起こってしまうだろう。

 もしそうなれば多くの人が巻き込まれる、たぶん爆発する前に破壊すれば少しは弱くなる、はず。

 いえ!

 ご主人様の本当のカタキ!私があなたを破壊する!

 たとえ道連れにされようとも、私が先に破壊する!殺されるんじゃなく殺す!


 でもギリギリ間に合わない?クリスタルが先に爆発しそうーー剣先が当たるか当たらないか

 視界が輝きに飲まれ白くなっていく。

 ……

 …

 たぶん届かなかった。


 白い世界の中、目の前にご主人様がいました。

 「よくがんばったね」

 

 私死んじゃったんですかね?他の人はどうなったんでしょう?

 「だいじょうぶ」 

 「よかった」

 

 「お久しぶりです、ご主人様。ようやくお会いできましたね。」

 「オレは全然勇者らしくなかったな、迷惑ばかりかけてしまった」

 相変わらずネガティブ、本物だーーヒドイ判別方法に思わず笑いが出る。


 「いつもありがとうございます」

 ようやく言えた。

 「こちらこそいつもありがとう、ごめんね」 

 謝らないで下さいよ…


 「君を残していくオレを許してくれ、愛してるよメイ。」

 いや!待っt


 ご主人様が消えていきます。 

 ……

 …

 白い世界が晴れていきます、周りは火の海でした。

 シュバルツさんも流石に気を失っています、村の人達に先に脱出してもらいます。


 ご主人様の羽が手の甲から消えていきます。

 「力を貸してくれたんですね」


 喪失感がきた

 「いやだ!いかないで……ああ…消え、愛してるから!愛してますから!」

 羽を手で掴もうとしましたが、無理でしたーー爪痕だけが羽のカタチに残ります。

 ご主人様が逝ってしまいました。 


 聞こえたかな?

 「ご主人様

 ご主人様…

 さ、さようならですっ」

 

 私の鳴き声は、屋敷の燃える音に吸い込まれていきます。

 せめてもっと話したかった。

 抱き合いたかった。 

  

**


 戦いは全体を見れば呆気無いものでした、私達以外のを除けばですが。

 とはいってもグレイ様の戦いはまだ始まったばかりです。


 「そうか、エルトと共に倒せたのか」

 「泣いてもいいんですよ?グレイ王様」

 「オレが泣けるか馬鹿者。それにまだ王ではない。よくがんばったな、ありがとう。こm、メイ」

 「いえ、私がすべきコトでした。最後にご主人様にお会いできましたし。私の方こそありがとうございました。」

 ご主人様が亡くなって1ヶ月が経ち、ようやくグレイ様と会話ができました。


 「アイツの父親の言葉を結局伝えられなかったな。」

 「聞いてもいいですか?」

 「希望を与える人間になれ、だ。こうしてみるとアイツは知らずになれたのだな、父の願う息子に。」

 「確かにいただきました」

 「辛い目ばかりだったな、だが最後にお前と会えてよかったのだろう。犠牲…最後に残るのは希望…というところか。」


 私の中にはご主人様の子がいます、私の希望ですよ。

読んで頂きありがとうございます


メイは結局誰も殺さないまま終わりました。


連投するとバグったコトがあるので、ちょいと間を開けますが最終話を投稿します。

ほぼオマケor蛇足?かもしれない。

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