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羽が散る

 ローザさんとアスールさんのおかげで私はようやく『私』になれた気がします。

 改めてグレイさんとヴァイオレッタさんに話したら、それでヨイのだと認めてくださいました。

 誰に何を言われたって、何があったって、私は私の生き方でいきます。

 殺さない、好きでい続けます。


 …振り返ってみれば、以前ご主人様のコトを『後ろ向きがシツコくて覚めた』と思ったことがありましたが…人のコトは言えませんでした。

 ごめんなさい。

 でも、もう大丈夫です、頑張ります。

 あの時のご主人様にごめんなさいです。


 今日も一日が始まります。 

 「珍しく笑ってやがるな、淫乱小娘。グレイにでも抱かれてきたか?」

 無視ーーいちいち気にしてはいけません。

 私でウサを晴らしたい人は多いですーーもっとも私がエコひいきされてるからなんですが。

 特に、村出身の人から見れば私は裏切り者でした。


 「話がある」

 村の女性から呼ばれましたーー私の故郷の人達に従わないわけには参りません。

 しかも同じ暮らしをしてきた間柄です、気安さもありました。

 でも勇者の館の裏にある森に連れられるとさらに3人の村人がいました。

 

 緊張します、流石に今までこんな呼び出され方はありませんでした。

 怖いです。

 耐えよう…何を言われようとも。


 私はワガママを押し通すだけしかできないので針のムシロです。

 みんなから責められます。

 黙って聞くしかありません。

  

 「すました顔してんじゃねーよ」

 ひとしきり言い終わると顔を叩かれました。

 でも我慢です。

 耐えてウンともスンとも言わない私に業を煮やしたのか、次第に彼らは私を叩いたり殴ったりし始めました。

 そろそろ危ないかな?と思った時はもう手遅れでした。 


 「コイツの羽を切り刻もうぜ?罰だ。それにエルトなんかの印は腹が立つ!」

 女性が呼び出しに来たからと油断してました。乱暴はされなくても多少の暴力位ならと考えていたのは間違いでした。

 逃げよう!

 !次の瞬間雷の魔法が私を射抜きます。 

 「羽3枚相手だ、 コレくらいしないとな」

 

 至近距離からまさかの魔法、激痛と痺れで動けません。

 自分の迂闊さをつくづく後悔します。

 嫌だ、逃げないとーーできるだけ這いずります。

 「頑張るねぇ〜楽しませろよ?」

 どんなに叫んでも暴れても、相手を楽しませるだけでしたーー何度も殴られた後、羽のある左肩を外され、地面に押さえつけられました。

 「いやあああああああああ」


 痛みで意識がぼんやりしてきました。

 羽を守らなくちゃーー右手を伸ばしますが踏みにじられます。 

 興奮した顔で女性がナイフを取り出してるのが見えます、けれどもう動けない。

 「いくわよ?」

 

 肉が裂かれる感触がします。

 あ…

 痛みなんてわからなかった。

  

 「オレ達がこんな目にあうのも」「みんなが殺されて」「故郷がメチャクチャにされた」「全てエルトのせいだ」

 一突き一突きごとの怒声が恨みでした。 

 …この人達は最初の私と同じなんだ。

 ご主人様を憎んでた頃の私、間違ってた私ーー八つ当たりできる存在に怒りをぶつける。

 

 「ちくしょう!エルトのせいで」

 泣きながら私の手を刺す女性。

 この人達は悪くない、ご主人様も悪くないんですよ?いつかわかって?

 グチャグチャにされていく私の手ーーご主人様の羽。

 悲しいけど、痛いけど受け入れなくちゃ。 

 …なくなっちゃった、もう羽だったんてわからないね。

 何度も刺される様子をジッと見つめてましたーーいつまで刺されるのかなぁ。

  

 「なにをしている!」

 突然の切り裂くような怒声が、この場を終わらせました。

 シュバルツさんーー村出身の後天勇者で40歳位になるんでしょうか?

 

 「貴様ら!」

 シュバルツさんが距離を詰めてきます、おそらく彼らを一刀のもと切り捨てようとしているのがわかります。

 私はとっさに起き上がり、その剣の道筋に割り込みます。


 「いいんです」

 朦朧としますが、4人を背にシュバルツさんの前に立ちますーーコレ以上喋る気力もなく、ただフラフラ立つだけでした。

 シュバルツさんが剣を収めます。

 4人が何か言い訳を言っていますが、よく聞こえません。  

 

 「メイよ。何を思った?」

 ポツリと語りかけてきた一言は妙に響き、私の中に入り込んできました。

 何を思う?か…痛くて悲しいかなぁ、何も考えたくないよーー私の意思を無視して一言口から出る。

 「誰も悪くない」


 シュバルツさんは黙ったままで、他の人達は驚いた顔をしています。

 そんなにおかしなこと言ったかな?

 休みたい、眠りたいよ、何も考えたくないよ。

 思考を放棄したいのに、また聞かれます。


 「我らが主は囚われたままだ、おまえは主をどう思う?」

 「主ってエルト様ですよね?」

 「そうだ。先代亡き後はエルト様が我らの主だ。」


 どう思う?…好きです、愛してます。

 でもコレを聞かれてる?おじさんに言うのは恥ずかしいし、違うコトよね。

 人となりですよね?ーーぼんやりした頭で考えて言います。

 「エルト様は勇者に相応しい方だと思います。皆さんがどう思ってるかはわかりません、でも!物凄く傷ついて挫折されてましたが立派に立ち直られました。本当です!」


 間、静かな時の流れ。

 あれ?間違っちゃった?

 そう思ってたら、ようやくシュバルツさんが口を開いた。 

 「そうか。お前が主を立ち直らせたのだな。ありがとう」


 無表情のままでしたが、お礼の言葉を頂きました。

 よかった、正解だーーひと安心していると次の言葉がきました。

 「おまえは戦場に出ない、それはかまわん。」


 「ありがとうございます。ごめんなさい、戦わなくて」

 私を認めてくれるんだーー村の人だからこそ嬉しい。

 でも次の一言が私を冷やす。


 「主がそう望むのだからな。」

 違う!この人は私を認めているんじゃない!ご主人様を主として認めているからこそ、なんだ。

 私自身を認めてくれる人はやはりいなかった、悲しい悔しい。

 

 「主のコトを想う気持ちはわかった、だがおまえは何をしてきた?主の何を知らしめる?皆はおまえを哀れな女だと思ったままだ、ゆえにこうなった。おまえも村の者も傷ついていくばかりだ。」

 「私の言った言葉なんか信じるんですか?」

 誰も私のコト信じてはくれないーー怒りに任して大声で反論。 


 「では問おう。何を為す?」 

 為すって?なんですか?

 「答えられないのか?」

 私はご主人様を信じて生きていくの。

 「私はご主人様が望むから殺さない。ご主人様の想いを裏切らない」


 「そうか…」

 シュバルツさんは何秒か目を閉じます。


 「想いとやらで生かされて、ただ耐えて生きるだけなのか?」

 「想い続けて、信じ続けます」

 殺さないでいいって言われました。

 愛してていいって言われました。

 …だけど…


 「想いを知り勇者になったのだろう?背負え!お前の言う想いは綺麗事か?

 言い方を変えよう…想われるだけの愛玩動物で終わるのか?」

 …わからない。

 でもシュバルツさんは私に戦えと言っているのだろうーーご主人様のために。

 できるんですか?無理ですよーー人質が、肝心なご主人様が囚われています。

 それともなにか方法があるんですか? 


 「示せ。おまえと主の想いを」

 シュバルツさんの気が高まりますーー剣を抜く、刺してくる流れが見えます。

 「語るに落ちる美辞麗句か?」

 これは牽制!ーー間合いより後ろに下がり避ける。


 「口先で己にも他人にも偽善欺瞞でゆくのか?」

 右薙ぎの後、振り下ろされる剣ーー伸びてくる剣先を避けます、何もできないから逃げるだけ。

 切っ先がブレるーー鋭い突きが間合いを詰めるように伸び、私を追い立てる。

 どうやら逃してくれる気はなさそうです。


 「存在が罪」

 そうかもしれません、いえそうなんです。

 私は村を見捨てようともしました、未遂ですけども。

 でも死にたくはありません。

 って今死にそうなんですけど、体中が痛くてーー手の甲から血がどんどん流れてる。

 手の甲…私の羽ーーご主人様の証しなくなっちゃったな。

 あ、でも?あれ?可笑しくなってきちゃった。 

 「ふふふ」 


 「何を笑っている?」

 「見て下さい、私の手の甲。もう羽なんて跡形もわからないでしょう?だけど私勇者のチカラで動けるんです!ご主人様の想いと繋がってるから。スゴイでしょう?」

  

 「気が触れたか…ちょうどよい。この者達の罪を明かすわけにはいかん、死ね」

 シュバルツさんの気が高まります。


 あ、死ぬんだ。

 シュバルツさんが本気で殺そうとしてきたらたぶん一撃。

 見える剣の道筋はとても避けきれるものでも逃げきれるものでもありませんでした。

 

いじめはよくないと思う、んですけど

あまりイイお話じゃないです、ごめんなさい。


読んで頂きありがとうございます。

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