炎の羽
グレイ様の庇護のもと数日が経ちました。
ご主人様の想いのおかげで、私は守られています。
「戦場に出ないでイイ身分だねぇ」
本来は戦場に出るべき存在な私に対する言葉。
「私らだけ人を殺してるのに、高みの見物かい、愛玩動物はいいねぇ」
勇者達が帰還した夜ーー
興奮が慟哭がアチコチで起こる。
生き残った喜びと生き残っている苦しみがこだまします。
「なぜ、オマエは戦場に出ないんだ?」
ご主人様とグレイ様が約束したから…。
「なぜ、オレらだけこんな目に合わないといけない?」
ごめんなさい
「なぜ…死ななきゃならない?」
ごめんなさいっ
「人を殺すのがそんなに嫌なのか?」
…よくわかりません。
人を殺すというコトが怖いのは確かです。
私の初めての殺意はご主人様でした。
でも殺意と思っていたものは、殺したいと思うカタチだけでしたーー私に殺すコトは無理でした、ただ怖かった。
本当に殺そうと思ったのは研究者とグレイ様でしたーーご主人様と生きるために、でも無理でした。
私は人を殺せたことがありませんでした。
実際には殺せてないだけで、私は人を殺すコトができると思います。
訓練もしてきました、勇者の羽もあるからそれなりに『強い』ハズです。
怖いけど可能、それが私。
今はご主人様に守られているという言い訳で、見ない聞かないフリをしています。
揶揄されても嫌がらせを受けても、私はココでも『人形』でした。
皮肉なものです『人形』になれなくて『人形』のフリをしていた私がココでも『人形』のマネだなんて。
『人形』のようにいっそ感情がなければ人を殺せるのでしょうか?
だけど私の感情は拒絶します、人を殺すコトを。
だから今日も何も見え…ませんし、聞こえ…ません。
でも!
私は人を殺しに行かなくてヨイんでしょうか?
だけど!
この約束を守らないとご主人様にもグレイ様にも見放されそうな気がして怖い。
溜まる、流れ込む…一人だけ別枠で、仲間になれないのが嫌。
すがって、思い込んで…見捨てないで、繋がりが切れるのが嫌。
人を殺したら、ここにいる勇者の仲間になれるのかな?
ご主人様は私のコトどう思うかな?
グレイ様は守られていろって仰っていましたけど、王様だし褒めてくれるのかな?
変わるのも今のままでいるのも…どちらを選べば正しいんだろう?
台所に逃げ込みます。
与えられた仕事ーー料理をするコトで気が紛れます。
何も聞かなくて済むし、考えなくて済むんです。
無心で肉を切ります。
「今日の夕食は何を作るの?」
一人だけ料理をしに来る勇者がいました。
今まで何回か強引に手伝っていった方です。
「お肉たっぷりビーフシチューを作っておこうかと」
「いいね、大好きだよ。ジャガイモ沢山入れようよ。」
そう仰りながらジャガイモを剥き始めます。
この方は今まで私に何も仰りませんでした。
ただ料理を一緒にするだけです。
いつも火の生み出す温かい料理を作る音だけがしていました。
でも今日はいつもと違いました。
ポツリポツリとゆったりした口調で彼女が語りはじめます。
「大量に作ると実家の酒場を思い出すかな、育ての親のだけどね。
火事で孤児になった私にね、火を怖がる私に料理を教えるんだよ。火が怖いのに。
ヒドイ親父でしょ?
でも私一生懸命やってたら火のコト怖くなくなったんだ〜。それで終いには極めちゃったの。」
そして手の甲ーー赤い羽根を私に向けて見せます。
「私の火はね、人を殺すためのものじゃないんだよ〜知ってた?」
「え?」
「戦場には出るけど、まだほんとんど人を殺したことないんだ。私は火から人を助けたいのです。」
見詰め合います。
どういう意味でしょう?
「火で絶対防壁作るだけだよ、戦ったりなんてしないし…ここだけの話たまに敵も助けちゃうし〜。グレイさんのおかげで色んな戦い方させてもらってるんだよ」
ああ、なるほど。殺すだけが戦いじゃないってコトですね。
「でも人は死んじゃうの、私の火がウマクいかなくて、とか無理されちゃって。それが戦場に出るってコト…チカラがある限り人を殺しちゃうの」
悲しそうな顔。
この人にとって『火』は怖いケド大事なモノなんだろうな、それを使わないといけないなんて…ツライに違いない。
「人を殺すのなんて嫌だよね?」
「……はい」
おいでおいでと手招きされ、オズオズ近づくとーーキュッと抱きつかれました。
なんでだろう?
なんでこの人はこんなコトを言ってくれるんだろう?
でもわかりました、おかげでわかりました。
私、人を殺したくなんかなかったんだーーよくわからなくなってた迷いが晴れます。
殺すのが嫌で間違ってなかったんだ。
「いいんだよ。ヨシヨシ」
「……何がいいんですか?」
「メイちゃんはメイちゃんのままで」
う〜〜〜ーー涙が止まりません。
もうひとつ気づいたことがありますーーご主人様が授けて下さったこの力で人を殺したくもなかったんだ。
「辛かったよね」
頭を撫でられます。
この人、なんで優しいの?私なんかに。
「皆さんの方がもっとずっと辛いです」
私は戦場から逃げて、守られてばかりなんです。
「そうかなぁ?メイちゃん大変そうだよ、四面楚歌。でも大丈夫!味方もいるから!ね?」
ギュ〜〜ッと抱きしめられますーー痛いです。
「あ、あのでも、あの、私だけ守られてて、みなさん死ぬかもしれないのに、人を殺さないといけないのに!」
「メイちゃんは帰って来た時に『おかえりなさい』って言うだけで十分なんだよ」
「でも…でもそれだけじゃ」
「いいの!勇者は希望なんだから。だから殺さない勇者がいなくちゃいけないんだよ」
「そんなんでいいんですか?」
「私が許すよ。他にももっと許してくれる人はいるよ」
赤い羽根のーー炎の勇者ローザさんとお友達になりました。
私ココにいてもいいんですよね?
慌ててたというのは、言い訳ですね。ごめんなさい。
読み返してみてオカシナ点が多かったので一部以上書き直しました。
内容に変更はありません。
ごめんなさい。




