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灰色の叫び

 メイドとしてまた生きています、グレイ様のご領地にある勇者の館で。

 甘やかされて守られて。


 この館に住む方々は戦いを強いられています。

 脅され、意思を蹂躙され…国に縛られて。


 私だけが戦わない勇者でした。

 

 戦いを強いられた者の嫌味、やっかみーー苦しむ姿を見ると辛いです。

 ご主人様の約束にすがって守られている私。


 戦いは多いらしいです...私の知らない戦争の事情。

 また私を庇ってくれているのでしょうか?

 今も隣の部屋ーーグレイ様のお部屋から大声が聞こえます。 


 「小娘までアテにする程、オレは頼りにならんか?」

 「グレイ様そう仰られましても我軍は各地の反乱軍の鎮圧に人手が足りないのです。他国や魔界も憂慮せねばならないのです」

 中央ーー司令部から派遣された男の嫌味な声…。


 「まぁ、座れ?オレを見降ろすのは楽しい、か?」

 「め、めっそうもございません」

 「勇者を使う・・か、国際法じゃ国内での使用までは禁じていなかったからな」

 「でしたらおわかりn「できんな」

 「グレイ様!」

 「うせろ、ドコかで戦死扱いになりたいか?」

 グレイ様の怒声の後、逃げるような足音が聞こえた。

 申し訳ありません、私のせいで。


 「あ〜あ王様ご機嫌だよ」

 「王様?王子様じゃなくてですか?というかご機嫌て、アハハ」

 ヴァイオレッタさんはニヤニヤおっしゃいますが、乾いた笑いしか出ません。

 つくづくお荷物ですよね私、ご迷惑をお掛けしている。

 

 「グレイはね、第3王子といっても形だけの王位継承者ってヤツでね。

 勇者になった時からアイツは戦争のコマに成り下がったんだよ。

 だからせめてアイツのコトをさ、『戦場の王様』ってカラカッてやろうと思ってんのアタシ」


 やはり勇者は戦争の道具に過ぎないんですね、王様や国にとっては。

 おとぎ話の勇者はみんなに祝福されて、王様にも讃えられていたと思います。

 なんて違うんだろう。

 

 「そんな顔しなさんなって。アタクシだって公爵様の長女ですのことよん?」

 「え?……嘘ですよね?」

 「失礼なー!こぉんなに気品溢れてるのにぃ?」

 ヴァイオレッタさんはスレンダーな体で、ウッフンとポーズをとります。

 

 「ご、ごめんなさい」

 「いいのよん、嘘だから」

 をい!

 「本当は長女じゃなくて次女なんだよね」

 「え!」


 「おい、お茶!」

 グレイ様が扉を開け顔を出します。


 「はい!ただいま」

 いいタイミングですグレイ様。

 ヴァイオレッタさんから逃げてお茶の準備をします。


 「戦場じゃオマエの煎れるこの安っぽいお茶が一番美味いな」  

 口は悪いですが、褒めて下さってるようです。

 

 「メイちゃんさすがだね。メイドのメイちゃん」

 横目でチラッチラッと見ますが…貴族のお嬢様らしからぬ飲みっぷり、です。


 「ん〜?あー!グレイちょっと聞いてー。アタシ公爵令嬢だよね?」

 「?なに言ってるんだ?」

 「メイちゃんが信じてくれなくてさー」

 「ぶっはは。確かになぁ、今のオマエの頭、口調、仕草、他にもあるが信じられないよな」

 爆笑するグレイ様ーー机の中からなにか取り出し私に渡します。


 美少女の肖像画ですね?

 え?まさか…

 思わずヴァイオレッタさんに振り返ると、ニヤニヤしていた。

 「それ、アタシ!」


 「勇者に目覚める前はおしとやかだったぞ、もう遠い幻だがな」

 グレイ様もニヤニヤしている。

 時の流れって残酷ですね。

 肖像画の少女の髪の毛を指で隠すと、確かに目の前の短髪女性と顔が同じでした。

 キレイな顔立ちとは思ってましたが…美人だったんですね。 

 パッと見美少年で男装の麗人ですよ今。

 中身的にはオカマ?

 だんだん失礼なコトを考えてしまいます。


 「さて、気が晴れたところで…ヴァイオレッタ!」

 グレイ様の真面目な声に我に返ります。


 「虐殺と暗殺どちらがマシだ?」

 お二人が見つめ合っています。


 「弱気を助け、強気をくじく。それが勇者ってヤツでしょ?」

 ヴァイオレッタさんが凄まじい笑みを浮かべて応えています。

 ドキドキするーーその艷やかな仕草は、私の初めて見るヴァイオレッタさんでした。


 「でもアタシには仕える王がいる。決めてくれ」

 強い意思、迷いのない顔ーー素敵です。

 この方々は強い…私は……。


 「どうした小娘?」

 「メイちゃん泣かないの〜お姉さんならちゃんと帰ってくるわよ〜?」

 お二人が私を心配しますーー涙が流れているコト気づいていませんでした。

 違うんです…私…


 「私戦わなくてイイんでしょうか?」 

 「人を殺したこともない。猫に爪が生えた程度の奴が戦場で役に立つか?何もできんうちに死ぬのがオチだ」

 「でも!」

 グレイ様が手で制します。


 静かな声ーーだけど怒りに満ちた声でした。

 「エルトは…親友だった、オレが勇者になったのを唯一知らせに行った友。 

 数年ぶりに会ったアイツは衰え囚われていた。

 叫びたかった、助けたかった!…だが立場がソレを許さない。

 アイツの父の言葉さえ伝えるコトはできなかった。

 だからせめてアイツのメイドを助けようと思った。」


 グレイ様が私の頭を撫でます。

 「オマエはオレのために守られていろ、それでよいのだ。」 


 「勇者だからって戦わなければならないものではないのよ。今がおかしいの」

 ヴァイオレッタさんもそうおっしゃる。

 

 「でも・・・」

 「さて!今から仕事だ。ヴァイオレッタ行くぞ!小娘は留守を頼む」

 私の言葉を遮るようにグレイ様が出ていきます。

 ヴァイオレッタさんも私をひと撫でし出てゆきます。


 みなさまの優しさが辛いです。

 ご主人様、グレイ様、ヴァイオレッタさん。 


読んで頂きありがとうございます。

なんとなくサブタイトルが色+叫びシリーズになっています。

王子達の話はメインじゃないのでーー彼らの話は彼ら自身の話だから、できるだけ短めに抑えたいです。

次は微妙に変えてみようかな

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