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ヒビの入るメイド

 悲しい・・ご主人様は虚ろな眼差しで私を貪った。

 最初の内は抵抗なさっていたようでした、いつもと違って・・。


 そんな姿見たくなかった・・聞きたくなかった。

 「ごめん」なんて、涙なんて。


 嫌悪感どころじゃなくて、何が悲しいのかわからなくなって私は泣きながらご主人様を受け入れた。

 涙が止まらない。

 繁殖のための滑稽な私達。


 涙が降ってきます。

 頭を撫でる、ギュッと抱きしめる。

 そうしているとご主人様は安心したように食べ始めた。


 でも、私は癒せる言葉を口にはできなかった。

 ただ体で応えるしかなかった。   


**


 オレを許してくれ、情けない・・勇者なんてどの口が言える

 

 オレの下で耐えているメイド

 たまに漏れる息遣い、苦しさを我慢させている。


 涙が溢れる。

 ごめん。顔にかかったな、わかってはいるが止まらない。


 「ごめん」


 メイドの目が見開いた、見つめ合う。


 彼女も泣き出した、号泣し始めた。


 泣きながらの行為・・傍から見ると滑稽過ぎる。

 オレに付き合わされてごめん。


 オレも号泣した。

 でも体は止まらない、死にたい。


 急にメイドが抱きついてきた。

 優しい目だ・・頭を撫でられた。 


 ああ、君の優しさに・・甘えていいのか?

 自分の弱さにヘドが出る。

 許されたいから、許されたと思いたいから、撫でられ抱きしめられたコトを理由にする。


**


 暗闇の中、目が覚める。

 気怠い・・

 

 メイドは全裸のまま枕をギュッと抱きしめ寝ている。

 綺麗だな

 女の裸をそう思うのは久しぶりだ。

 このまま見ていたがったが、毛布をかける。


 天井はうっすら暗闇の中

 ボーッとするのには丁度ヨイ視界

 この子、オレを抱きしめ撫でてくれたよな

 先程の行為を反芻する。

 『人形』はこういうコトできるか?


 泣いていた、泣かしたのかもしれないけど・・彼女は泣いた。

 どんな気持ちで、何に泣いたのか・・もしかしたら少しはオレのためにも涙を分けてくれたのかもしれない。

 『人形』は泣かないハズだ。


 ごめんな

 メイドの頭を撫でる・・起こさない程度に、もっと撫でたかったけど我慢。


 これからどうすべきか・・

 まずは聞いてみよう。

 もしかしたらこの閉塞された日々を壊すかもしれない・・壊したい、怖くはある。

 最初の一歩・・で済まないかもしれない、どうなるかわからない不安。

 決意は変わらない、しかし・・。

 小さな体・・巻き込んでヨイものか?


 薄い体・・幼さ。

 オレ、ロリコンじゃないつもりだったのになぁ


**


 泣き過ぎで頭が痛い・・

 たぶん寝過ごしてしまってる。

 

 ご主人様はまだ寝ていらっしゃるようだ。

 今のうちに・・

 散らかったメイド服を集めながら着ます。


 なんでしょう?この格好・・

 上半身だけメイド服・・頭隠して尻隠さずどころじゃないです。

 せめて下着だけでも・・

 布団の中を探ります・・ありました。

 コソコソと履いていると、視線を感じます。

 振り返るとご主人様が私を見ていました。

 尻隠れてない・・です・・

 

 朝から最悪の気分になりました。


**


 朝ごはんの準備を整えます。

 鈴を手に取ろうとしたら・・ご主人様が私を見詰めてきます。

 なんでしょうか?

 何かを問いかけるような、期待するような眼差しに戸惑います。


 「いただきます」

 ご主人様は食べ始めました。 

 鈴はいらないようです・・たぶんもういらない。

 ・・・・


 「村はどうなっている?オレ達のせいで申し訳ないことをしてしまった、ごめん」

 ご主人様は食べ進む手を休め、私を見て、ゆっくりとした口調でおっしゃりました。

 いきなりなんなんですか?

 簡単に謝らないで下さい。

 あなた方のせいで・・みんな・・

 息ができません。

 答える訳にもいきません。

 無視です。


 「知りたいんだ、何がどうなっているのか」

 初めて聞く強い声色

 ・・・・

 ・・

 罵りたい

 殺され、壊され、もうほとんど残っていない・・んです、と。


 色々なモノに耐え切れなくて無言で廊下に向かいます。 

 ご主人様が追いかけてきました


 「謝りたいんだ」

 土下座されました。


 謝って済むの?もう誰も戻らないんだよ、死んだんですよ!狂ったんですよ!

 あなた方家族のせいでっ

 一瞥し自室にこもります。


 ベッドに潜り込んでも、隠しきれない泣き声が・・きっと伝わっていくコトでしょう。 

 なんで泣いてるのか、どうして怒るのかわからない・・自分になのか他人になのか、自分のためなのか他人のためなのかわからない慟哭。


 「今日はメイドの仕事をしなくてかまわない、休んでてくれ」

 足音が遠ざかっていきます。


 優しくしないでよ偽善者

 

**

 

 『人形』か確信はできてない。

 怒ってるんだろうな。

 何様だと思ってるんだろうな。

 泣かせたな。

 憎んでるだろうなオレのコト。 

 

 生き続ける罪が彼女を苦しめるなら受け入れよう。

 せっかく生きると決めたケド・・もう何もできなくてもヨイか、彼女のためになるのなら


 一人で朝食を食べるコトがこんなに寂しかったなんて初めて気付いたよ。

 かつてココで家族3人で食事をした日々、マイと食事をした頃・・オレはこんなに感謝して飯食べてたかな?

 最後の晩餐だな・・朝だけど。

 メイドには感謝している、きっとアノ子のおかげでオレは蘇ったんだろう・・根拠が特にある訳じゃないケドそんな気がする。

 まぁ、どうでもいいか。とにかく最後は正気でいられる。

 

**


 泣き疲れて目が覚めると夕暮れでした。

 こんなに昼寝したのは久しぶりです。

 

 ・・バレたかな

 正気があるコト・・『人形』じゃないコト


 ・・殺すしかないのかな

 当初の目的


 回らない頭、冷える体・・靴から釘を取り出しチェックします。

 台所に行き包丁を選びます。

 もう今更です、使える物は使いましょう。


 台所から出るとご主人様がいました。

 「オレを殺す?」

 

 何も考え・・られません、たくありません。

 「よく切れますよ」


 ご主人様はニコッと笑い、手を広げました。

 「『人形』じゃないよね?」

 「・・そうですよ」

 「ごめんね、抱いてしまって」

 「謝らないで下さい」

 

 「殺してくれていいよ、ずっと死にたかったんだ」

 夕日がご主人様の顔にあたっています、眩しくないかなぁ?とボンヤリ思います。


**


 夕焼けは豪華な終焉だとか父がカッコつけて言ってたな。

 陽光が一面を染めている、お互いの姿だけを残すように他は眩しくて見えない。

 

 お互いわかったもんな『人形』じゃないって

 ハッキリわかったケド、ハッキリわからなくてもよかったかもしれない。

 お互い正気だったなんて・・


 メイドがオレを殺そうとしてるのは恨みかな?何か理由があるのかな?

 オレにわかるのは、自分を穢した男だから殺したい程憎んでいるということ。

  

 終わるべきなんだ、生き長らえ過ぎた。

 

 あと少しの時間・・長く感じるのか、本当に長いのか?

 眩しさに耐えメイドを見詰める。

 眩しさは陰りメイドが見えてくる。

 眩しさは潜みメイドとオレだけがまた闇に浮かぶ。


**

 

 勇者が許してくれたのなら私でも殺せるのでしょう。

 殺すコトができるのかという困難の壁が無くなりました。

 殺すべき理由が沢山転がっています。

 だけど知ってしまいました。

 殺すコトができるのかという気持ちがもうダメです。

 

 私を待つご主人様、正気を取り戻している勇者様。

 狂気の中に見え隠れする滑稽さ・・悲しさに。

 苦しむ姿を見るのはかまわなかった・・嫌になった。

 時折見せるケダモノ・・優しさに変わっていってた。

 貴男の本当の罪でもないのに、壊れ壊され、でも一人で立ち直った本物の勇者。

 強い人・・。 


 私はご主人様を見ないで知らないで、殺そうとしていた。 

 一方的に・・他の人を理由に、私自身の理由でなく憎んでただけ。

 だって憎しみと恨みのシンボルだった・・だから殺してもかまわないと思った。

 どんな人か知らないで、どういう過去を背負っているのか知らずに一方的に憎んでるだけでした。


 人間を殺すのは怖いです、きっとシンボル・・形骸化されたモノだったら殺せるでしょう。

 でも生身です、それぞれ過去があって今がある存在です。

 相手を知れば殺してイイ人間なんてめったにいないんじゃないかと思います。


 やはりシンボルにしていたご主人様にも同じコトが言えました。

 シンボルの中・・ご主人様の苦しみを、負わされた罪を知って、私はもう殺してイイなんて言えなくなっていました。

 いえ・・

 そもそも憎めるわけがなかった、だってお互い囚われていたんですもの。

 そんな私に『知ってしまったご主人様』はもう殺せません。

 

 夕焼けが落ちます。

 グルグル考え過ぎていた視線を、ご主人様の顔に戻す。

 目を開けたまま私のことを見ています。

 

 「オレの存在が罪なんだ」

 ご主人様が近寄ってきて、私の右手を取ると、自身の胸にあてます。

 なすがままでしたが、包丁の先端が軽く刺さっています。

 

 ちょ、ちょっと死に急がないで下さい。

 死にたいのも本音でしょうケド。

 存在が罪って・・ご自分には罪はないのに。

 細かく言えばメイド達が犠牲になっているので罪でしょうか。

 自身に罪がないのにここまで追い詰められてかわいそうになってきました。

 

 「オレは足掻こうにも足掻く未来がない。何もしなかった過去が罪だ。そして君にはオレを殺す権利がある」

 確かに私の純血等は殺す権利ですね。

 未来に希望も持てず、何もしなかった罪ですか・・何かすればいいのに。

 カッコつけてるけど何もしてないですよね?

 イライラしてきました。

 

 殺してヨイという許可を貰い、一人死にたがっているご主人様を見ていたら・・気が軽くなりました。

 私は現金になります、だって殺せないから・・。

 私は自分の中に違う道があるコトに気づきました、気づけました。


 さて・・いかがいたしましょう?

 覚悟のままのご主人様、結構時間が経ってます。顔も外も暗いですよ。

 「決めました・・目をおつむり下さい」

 

 素直なご主人様。

 私は手をプラプラさせると・・

 「貧乳で悪かったですね!!!」

 渾身の一撃をほっぺた目掛けて放つ。

 

 キョトンとした顔で目を見開くご主人様、にもう・・連発。

 手がジンジンします、叩く度に涙が出ます。

 「怖かったんです、怖かったんだから・・!」

 「ごめん」

 「こわかった・・・ずっと苦しかったんだから」

 「ごめん」

 「憎かった、気持ち悪かった」

 「ごめん」

 「変態!」

 「ごめん」

 「ロリコン!」

 「すいません」

 

 手が痛い〜頭突きです!

 「ゴフッ」

 「でも、許します」 

サブタイトルの「日々」が「メイド」に入りました・・これからパターン変わります。

読んで頂けて嬉しいです、ありがとうございます。

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