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メイドの迷い

 勇者を殺さないといけない理由を思い出す。

 嘘臭い約束と脅しでした。

 相手は・・身の毛もよだつ・・勇者を研究する者、私の村を支配している者でもあります。

 

 あの『人形』の儀式の日

 再び目覚めた私を、研究者は見つめていました、

 グッタリしている私に、研究者は語り出しました。


 「オマエの意識が消えない原因はわからないが・・いいかげん繰り返すのも飽きた、時間もな。

 メイド受け渡しの期限が明日でなければ多少の研究もしたいところだが・・まれにうまくいかないらしいし、たいして意味もないだろう。


 そこで考えた。

 オマエ・・勇者を殺してくれないか?

 個人的な都合なんだが、これ以上研究対象が減るのは困るんだ。


 オマエにとっても悪い話ではないと思うのだが?

 オマエの妹を次の『人形』にしたいか?」

 

 一方的に次々語られる内容は、耳を通っても私の中をすり抜けていくようでした・・

 でも、続く『人形』という言葉が聞こえた途端に発作のようなモノが起きました。

 

 胸の筋肉が締め付けられ、絞られるような吐き気。

 熱いのか冷たいのかもわからない体液がブワッと出て震えが止まらない。   

 「ああああ、あー〜・・あ・・いや・・やめて・・う〜〜〜、うう、はぁ〜〜〜・・」 

 拒絶が垂れ流れます、エネルギー切れの肉体がロクに動かないのに、ビクビクとハネます。


 『人形』

 私の中に得体のしれない『液体』が侵入し、私の中が『液体』で満たされ・・『私』が体中からこぼれ、かき消されていく感覚。

 苦痛、蕩ける、数多の刺激・・これまで知らなかった知る機会もなかった未知の感覚・・肉体ばかりではなく精神に繰り返され、あらゆる手段で私を消そうとした『液体』。

 二度と味わいたくない。

 

 返事の出ない私にトドメの言葉が刺さってきました。

 「オマエが死んだ時・・

 勇者が生きていれば、残った子供全員・・いや村人全てを『人形』にする。」


 蘇ったばかりの私の意識は、研究者の言葉に心が折れます、返事をさせられました。


 そして考えはじめます。

 勇者を殺すことでみんなを『人形』にしなくて済むこと。

 流石にみんなを『人形』にする手間からすると怪しくも考えられましたが・・

 少なくとも・・次のメイドという犠牲で『人形』を作ることは阻止できそう。

 

 さらにポジティブに考えます。

 私の生き死にが、みんな・・特に妹の死に方をマシにするかもしれないのです。

 同じ運命(慰み物)を辿るなら・・『人形』なんて知らない方がマシでしょう。他の人達もです。

 どうせ死ぬなら少しでもマシにしたい。

 マシマシです。

 

 そして勇者(ご主人様)のお屋敷に連れて行かれました。


 使者や私の挨拶すら反応もなく。

 ソファーにだらしなく沈み、虚ろな眼差し、ピクリともしないお姿。


 ご飯といえばそう動かします。

 村でお世話をしていた赤ちゃん達を思い出すようでした。

 大きい大人のその姿は・・滑稽で怖くもあり、悲しくなりました。

 しかも渡された『食事用の鈴』に操られてで、です。

 この鈴は『人形』の技術が応用されているらしく、食事すら摂らなくなったご主人様が、自ら食べるようにしている制約だそうです。

 『人形』になれなかった私に、研究者が教えてくれました。

 ついでに脅しても頂きました。「この飼い方は便利だろ?単調な動きしかない今の日常と同じように制約ができる、村人全員を『人形』にしてもね。」

 ・・・・

 ・・

 おっと脱線してしまいました。


 お風呂も同様です。

 服を脱がせることからはじまります、この作業は結構な重労働です。

 190位の大人の男性を、160強の私が脱がすのですから。

 関節がよく曲がりません、骨に張り付いた皮膚・・こんなに不健康な相手は初めてです。

 服さえ脱げれば・・精神的に悪いモノが見えるのは困りますが、誘導すると湯船に入り、上がるだけ楽。


 髪を洗います、なんとなく顔が緩んだように見えます。 

 気持ちいいのはわかるんでしょうか?ちょっといい気分になります。

 頭からお湯をかけると、ご主人様は頭を振ります、茶色の髪が揺れます。

 小さい頃飼っていた犬を思い出す・・なんかカワイイ。

 

 次に体を洗います。

 ・・・・

 ・・

 やっぱりココも洗わないといけないのかなぁ。

 覚悟を決めて、見ないように、できるだけ簡単に済ませようとします。

 スポンジでポンポンと軽く叩き洗い。

 目が回りそうです。

 メイド服を来たままの私は汗だくなのですが、熱くて逃げたいです。

 小さい声を漏らすご主人様。

 痛かったかな?と恐る恐る作業を締めくくります。

 多少顔をシカメておいでのようでしたが、特に反応はありませんでした。 


 手を引いて脱衣所に向かいます。

 服を着せます・・!・・

 いやだ〜アレが・・

 ペットのお世話気分が抜け、ハッと気づきます、思い出します。

 このまま襲われるんじゃ?

 

 でもご主人様は特にナニする風でもなく、ボーッと立ったままでした。

 ビクビクしながら覚悟と戦っていた私は拍子抜けしました。

 ・・そういえば暴れると聞いていましたが、こんな抜け殻みたいな状態で、どう暴れるんだろう? 

 種馬・・性欲魔獣という先行イメージからすれば・・。

 再び気を引き締めます。


 言われたままに動くご主人様。おこがましいでしょうがアワレに思いました。 

 思わず頭を撫でてしまうくらいに。

 かわいそうな私達・・どうせなら一緒に死にましょう。

 そんなコトも殺す理由にしました。


 夕飯も『食事の鐘』の呪いで滞り済みます、村の介護していた女性達と比べ、楽です・・。

 大時計の鐘が鳴りました。

 そして初日は無事に済みそうだと思った矢先。

 噂程もないおとなしいご主人様に私は油断してしまいました。

 ご主人様は奇声をあげるとものすごい汗をかきはじめ、ギラギラした目になりました。

 ・・・・

 ・・

 そしてご主人様と自分の立場を知りました・・・・種馬と子供を生む道具。

 殺したくなりました。

 とにかく殺したい。

 個人的な理由も生まれました。

 

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