一歩目
壊れかけの木製の机の上に、『新条タクマ様宛て』という手紙が無造作に置かれている。俺はそれを持ってある場所へと足を運んだ ー。差出人である極東専門アビリティー学園へと…
『 唐突ではあるが超能力というものを信じているだろうか?サイコキネシスやテレキネシスなどなど超能力に関する言葉はご存じだろうが実際に体験したことや経験したことは、ほんの一握りの人間しかないだろう…。しかし!あなたはその一握りに選ばれた存在だ!そして、あなたが持っているその能力を向上させ、社会に生かすことが在るべき姿だと我々は考えている。あなたには当校に入学してもらい、力を能力を伸ばして欲しい ー。ようこそ我が極東専門アビリティー学園へ!』
という感じに手紙には記されていた。途中から、テレビ販売のようなノリで書かれていた気がしないでもないがそこは気にしないでおこう。
現在、この国には人口の約一割の半分が普通の人間にはない能力を持っている。それは生まれつき決まるものであるため、選ばれた存在として世間的には認識されている。つまり簡単に言ってしまえば、超越者ということである。そのため国はこの超越者たちを優遇し、良き人になってもらおうと専門学校を設置したり、いろんな施設を建設したりしてかなりの予算をつぎこんでいる。しかし実際は、隔離するためだとか軍事保持のためだとかいうやつもいる。
まあ、それはおいといて、俺はその学園に入学することになったため手続きをするために極東専門アビリティー学園、通称 ・アビリティー学園の保有する地下鉄に乗っている。この地下鉄は能力を持っている者しか乗車出来ないため、とても空いている。というか俺しか乗っていない…。
『ハアー』
俺は今日何度目か分からない溜息をついた。それというのもすべてはあいつのせい…
『あなたが新条タクマ君?』
『‼︎』
いきなり名前を呼ばれてバッと前を見ると、そこには眼鏡をかけた見知らぬ美人がいた。いかにも仕事ができそうな雰囲気で脚を組んで座っていた。
『……』
俺はこんな女知らないのと、当然姿を現したことに不審感を抱き、なにも答えずにじっと前を睨んだ。
『もう一度だけ聞くけど、あなたが新条タクマ?』
『!!』
今度は耳元でそう囁かれて驚いた。『なんなんだ、この女は?急にどこにでも現れたり ー、移動能力か?しかし移動能力は超能力という枠組みを超えている』と思考を巡らせると同時に俺は頷いた。一筋の汗が垂れる。
『良かった、次シカトされたら殺しちゃうところだった(笑)』
『…(笑)ではないですよね…首筋にナイフを添えておいて…』
彼女の手には銀色のナイフが握られており、そのナイフは俺の首筋に押し当てられていた。
『(笑)冗談よ(笑)』
『そんな棒読みで言われても説得力の欠片もないですよ…あと(笑)の使い方間違ってますよ、なんでも(笑)つければいいと思わないでください』
『……あなた立場が分かっていないようね、グイッ』
より一層ナイフを押し付けられる…。俺は仕方がなく黙りを決め込んだ。
数秒の間 ー
『もういいわ、ユリが話した通りの面白くもない男のようね。話を続けるわ、あなたも何かしらの能力を持っていたようだからこのアビリティー学園への入学の許可が下りたの。精々頑張って生き残るように ー』
彼女はクイッと眼鏡を中指で持ち上げて、いかにも教師らしいことを言った。
『そうそう!名前を名のっていなかったわね、私はあなたの担任の音無シズカよ。よろしくね』
音無シズカ…俺は脳内のデータベースにアクセスし、この名前に該当する人物がいないか探ってみたが今のところはないらしい。
『あんたは…』
質問を投げかけようとしたとき、ちょうど電車がトンネルを抜けて一瞬周りが光で埋め尽くされたと理解したとき、彼女はもう目の前にはいなかった…。
俺は腕に巻いてある時計に目を落とした。