episode1-1
ピピピピピピッ、ピピピピピピッ、ピピピピピピッ
朝、昨日セットしておいた目覚まし時計が男の意識を起こそうと音を鳴らしている。彼、暁紫音は徐に伸ばした手でアラーム音を鳴らす目覚まし時計を探している。ガチャッというボタンを押す音と一緒に先ほどまで鳴っていた音が止み、部屋に静寂が訪れる。紫音はあくびをしながら眠たげな目をこすりながら、身支度をすませる。彼の部屋がある二階から一階へ降りると、テーブルの上にはすでに朝食が並べられており、父親が椅子に座って新聞を読んでいた。
「おはよう」
「おお、おはよう」
と、軽い挨拶をしながら自分も椅子に座る。すると、キッチンの方から母がやってきた。
「あら、おはよう」
「おはよう」
「あんたは目覚めはホントにいいわねー。お父さんなんか起こすの大変なんだから」
「ま、母さんから受け継いだんでしょうな」
「そうでしょうねー。私は起きられる人だから。そこはお父さんに似てくれなくて助かったわ」
そんな話をしていると父が咳払いをしてきた。どうやらやめてほしいみたいだ。
「さあ、それじゃご飯をたべましょうか」
母が話を変えてきたため、話を止めてご飯を食べることにした。ご飯を食べている途中にニュース番組の音声がふと耳に入ってきた。
『昨夜未明、22歳のアパレル業界で働いていた女性が何者かに刺されるという事件が発生しました。警察は例の通り魔と見て調査を進めています。では次のニュースです・・・』
「また、例の通り魔ですって・・・。最近何かと物騒よねー。」
「全くだ。いったい犯人はどんな奴で何を考えてるんだか・・・」
最近この近辺の町で殺人事件が多発していた。被害を受けた人たちに何ら関係がないことから無差別の通り魔として騒がれていた。
「あんたも気を付けなさいよ。何が起こるか分からないんだから」
「分かってるよ。気を付けますって。でも、俺みたいな人間狙う奴なんていないでしょ」
「確かに、あんたを狙ってくるなんて相当の物好きよねー・・・」
「おい、親でしょあんた!。フォローしてくれよ!」
などと会話していると、リビングの置時計が提示のお知らせの音を鳴らしたいた。
「あら、こんな時間!急がないと間に合わないわよ!」
そう言われ、残りのご飯をささっと平らげると、鞄を持って学校へと走っていた。
「うーー、何とか間に合った・・・。」
朝ダッシュにより、何とか遅刻は免れることは出来たが、走ったせいもあって今はぐったりしており机に突っ伏している。
「よう、お前が遅刻しそうになるなんて珍しいじゃん。何かあったのか?」
話しかけてきた男の名前は水上光。小学校・中学校も一緒で気付けば高校も一緒だったといういわゆる腐れ縁というやつだ。そのため、親同士の交流もある。
「親とテレビ見ながら話していたら、時間に気付いてなくてこの様だよ」
「やっぱお前んとこは仲がいいよなー。うちなんて何かあったらすぐ喧嘩になっちまうぜ」
「知らねぇよそんなの・・・。」
「まあ、そうですよねー」
光の気のない返事をもらうと、丁度授業の開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。光やクラスの皆が席に座り始めると先生が来て授業が始まった。紫音は寝たり、遊んだり、喋ったり、怒られたりして授業が終り、放課後になった。帰り支度の準備をしていると、後ろから声をかけられたので、振り返ると光が経っていた。
「よっ、これから暇か?暇なら他の奴らとどっかいかないか?」
「悪い、今日は病院に行くから行けないわ」
「あ、そっか・・・。悪いな」
「気にしてねえよ。お前も来ないか?」
「行きたいけど、もう他の奴らと約束しちまってるか・・・。あいつによろしく言っといてくれ」
そういうと光は数人の男と一緒に教室を出ていった。そして紫音は病院へと向かった。
この町にある一番大きい病院の前に紫音は来ていた。病院に入り、慣れた手つきで手続きを済ませると405号室の明智紗枝≪あけちさえ≫の部屋を訪れた。部屋にはベットで一人窓の外を眺めている女の子がいた。彼女はこちらに気付くと笑顔を見せてくれた。
「あっ、紫音おはよー。来てくれてありがと!」
「気にするなって、俺が来たくて来てんだから。体調はどう?」
「うん、平気だよ」
彼女は、幼馴染の明智紗枝。小さいころから一緒で、それこそ昔は何をするにしても一緒だった程だった。学校も同じで仲良くしていたが、高校生に進学するちょっと前に紗枝が発作を起こして倒れてしまい、今も入院している。よく調べているらしいが、病気の原因がはっきりと特定できず、時間が経つにつれて紗枝も少しずつ弱ってしまっている。紫音は幼馴染として、親友として会える日はこうして会いに来ている。紗枝と学校で起こったこととか、周りの人たちの話とかをした。取り留めのない話をしていると、面会時間の終りが近ずいていた。
「もう今日の時間が終わるね・・・。もっと長かったらいいのに・・・」
「そうだな・・・。そうだ、紗枝は花が好きだったよな?」
「うん、好きだよ。どうしたの?」
「今日はもう無理だけど、明日また来るから、その時に花を買ってくるよ。少しでも寂しくないように」
「ほんと!!ありがとう!!」
といって、満面の笑みを浮かべていた。紗枝を喜ばせようとした提案だったが、あそこまで喜ばれてしまうとハードルがすごく高くなってしまうなと嬉しさ交じりにそんなことを思っていた。
病院を出ると、割と雨が降っていた。傘は残念ながら持っていないため、駆け足で近くのバス停まで行くことにした。駆け足でバス停を目指していくと、途中で人とぶつかってしまった。その人は自分と同じように傘をささずにいた。
「あ、すいません。大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、全然」
と言い、こっちの顔を見るとピクッと反応し、しばらくじーっと見てきた。
「あのー、どうかしましたか?顔に何かついてます?」
「いやぁ、ずいぶんと幸せそうな顔をしていらっしゃったので、つい」
何か変な人だと思いながら、自分がそんなに顔に出ていたかと思うと恥ずかしくなる。
「そ、そんな嬉しそうでした?」
「ええ、他の人はみんな雨で暗い顔ですが、あなたは違いました。その表情を見れてよかった・・・」
どういう事か分からず聞こうとしたが、その前に異変を感じた。
ドシュッッという音と共に自分の下腹部から尋常じゃない痛みと熱を感じた。見るとそこには自分の腹にナイフが刺さっている光景だった。服は自分の血で染まっていき、零れて地面にたまった雨に溶けていく。自分の口の中からも、血と思われる鉄の味が広がっていた。
「ぐっ・・・・、がはぁ・・・!!!」
あまりの痛みにその場に倒れこんでしまった。意識が少しずつ霞んでいくような感覚があった。見上げると、先ほどの男がパーカーのフードを外してこちらを見ていた。白髪の20歳くらいで、その顔立ちは整ったものだが、紫音の苦痛表情をみて、不気味な笑みを作っていた。
「いやぁ、いい表情するねぇ!!やっぱり人をやる時は幸せに満ちてますみたいなツラを苦痛に染め上げるってのが最高だと思うんだよ!!今日中にやりてぇと思ってたが、まさかこんな奴がぶつかって来てくれてラッキだなー、俺って」
アハハハハハ!!と笑い声をあげて楽しんでいるようだ。そんな奴をただ見上げることしか出来ないことに、この理不尽さに、この男に怒りがこみ上げるが、痛みと出血のせいか、意識がはっきりしない。
「あーあ、まあ最後に挨拶だけでもしとくかな。この出会いに感謝ってことで。オレは終真だ。じゃあ、また来世でお会いしましょう」
そういうと、フードを被りどこかへ行った。紫音はその場に倒れこんだまま、動けなかった。もうあまり思考も回らなかった。薄れていく意識のなか彼は思う。
「(紗枝・・・・。ごめん・・・・・・・・・)」
そうして彼は意識を手放した。