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第八話 魔女の試験 1

次話で戦闘に入ります。

 日もすっかり暮れた頃に俺は宿へと戻ってきた。

 あの後の事は余り記憶に残っていない。それほどアレは衝撃的だった。

 水色の斬線。初めて身近に感じた直接的な死。

 ぼうっとする頭をなんとか働かせて部屋に入った俺の目に入ってきたのは、机の上にいる緑色の何かだった。

 掌大の光るボールの形をしているが、それには羽が生えている。なんだこれ……。

 そいつは俺を誘導するようにふらふらと飛ぶ。わけがわからなかったが、次第に状況が理解出来た。

 そう、確かリーゼは精霊魔法が使えるという話だった。コイツはリーゼの使いなのでは?


「お前はリーゼのとこの精霊か?」


 精霊の飛ぶ速度が速くなる。イエスという意味だろうか……。

 俺のモットーはとりあえず動いてみる、だ。

 立ち止まって悩むより、足を動かしながら悩んだほうがいい。

 間違えればその時だ。修正出来るなら修正して、出来なければ捩じ曲げる。

 俺は、その精霊らしき物がリーゼの使いだと信じて外へ出た。




「ほー……でっか!」


 俺の目の前にあるのはベシュランテの端にある総合練兵場。コロッセオのような外観を持つ建物だ。

 街の中を散策した際に立ち寄ったこともある。

 周囲には光源と呼べるものが殆ど無く、月明かりを頼りにしているのみだ。

 昼間は閉じられていた門が開放されていた。

 精霊がふよふよと練兵場の中へと入っていく。とりあえず俺もついて行くことにした。

 コツコツ、と石畳が冷たい音を反響させる。中はすり鉢場に出来た闘技場のようだった。整備が行き届いているのか、どこも荒れた様子は無い。


「グラン! リーゼ! あー……違ったのかな?」


 俺の呼び声は虚空へと掻き消えていく。

 だが、一拍の間を置いて響いた音は予想を完全に裏切る音だった。

 ゴゴゴ、と唸りを上げて唯一の扉が閉まる。

 次いで金属と金属を打ち鳴らしたような音が響き、練兵場をまるごと包みこむ白いドームのようなものが出来上がった。


「おいおい……なんだよ、こりゃ」


 俺は理解不能な展開に独りごちた――つもりだった。


「無知ですね、リン……簡易結界ですよ。外部に音や衝撃を漏らさないための魔法です」

「…………セリア」


 ドームが発する白い光に照らされて明るくなった練兵場の中央に立っていたのは水色の少女。あの斬線を操る美少女毒舌家だった。


「私の招待は気に入ってもらえましたか? リーゼの魔力に似せるのは骨が折れましたけど……こうして来てくれたということは成功したと言ってもいいでしょうね」


 魔力を……似せる? いや、そもそも魔力を感じ取れないのですけどね。

 ……って待てよ。つまり俺は偽の呼び出しでおびき出されたってわけか? ……一体なんのために。

 リーゼを知っていて、なおかつ俺を呼び出すということは――いや、まさかね。


「へぇ、セリアって魔法使いだったのな」


 まぁローブっぽい服着てる時点で予想は付いていたが……。美少女毒舌魔女っ子……ピンポイントすぎる。少なくとも俺のストライクゾーンでは無い。


「本当はもっと見極めてからが良かったのですけど残念ながら時間が足りなくなってしまいまして」

「あー……もうちっとお兄さんにも分かるよう――――ッ!?」


 俺の言葉の途中でセリアは右腕を一閃。その瞬間、俺の目に映ったのは超高速で飛来する水色の何か。正確無比に俺の目を狙ったそれを首を捻って避ける。


「お見事。今のを避ける者はなかなかいませんよ。良いですね、リン」

「……なんのつもりだ? セリア!!」


 淡々と賛辞を述べるセリアに向かって吠える。

 コイツはマズい。相手にするなと頭が警鐘を鳴らす。昼間の時と同じような無表情のくせに、与える印象は全く違う。それはその目の色のせいだ。

 狂気と殺意の色。

 内側に詰まっているそれすらも、機械的に制御している雰囲気。


「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね」

「……知りたくないからさ、どっか行ってくれねぇ?」


 昼間と同じやりとり。だが、嫌な予感しかしない――むしろ確信すらでてきた。

 俺の内心を知ってか知らずか、セリアは無慈悲に名乗りを上げた。


「グルニケ帝国軍第一魔導師団団長セリア・フォンセット――貴方を聖人として貰い受けに来ました」


 迂闊だった。俺はまだ心の何処かで思っていたのだ。


 こんな理不尽な事が起こり得るはずがないと――


「昼間会ったのも……はなっから俺のことを品定めするためかよ」

「あれは偶然――いえ、もしかしたら必然かもしれませんね。まぁ……どちらでも構わないでしょう? どうせ、貴方が戦場に立つのは決まっていることですし」

「兵器扱いってのが気に食わねぇんだよ……」

「同じです。報酬があろうが、待遇が変わろうが、聖人が戦場の生き死にを左右する重要な要因であることに変わりはありません」


 コイツ……戦のことしか頭にねぇのか?

 セリアは淡々と言葉をつむぐ。


「実は先日、第一魔導師団が保有する聖人が1人戦死してしまって厄介な事になっているんです。そのせいでセルヴァとの戦には敗北が続き、早急に代役が欲しいのですが数が足りていないのです」

「じゃあ、さ……俺がグランの専属傭兵になった後にしてくれねぇ?」


 何でもいい。とりあえずここを切り抜けろ。

 だが、俺の言葉をセリアは一刀両断する。


「無理ですね」

「なんでだよ!?」

「グランでは貴方を聖人として覚醒させるのは無理だからですよ。あの子はまだ聖人という物を理解していない」


 覚醒……? あれか卍解とか色々あったりするやつ?

 ……バカな事を考えるな。冗談を言ってる暇はない。


「今のままグランに任せておけば貴重な聖人を無駄死させるだけです。ですから――」


 空気が凍る。路地裏のケンカなんざ目じゃないほどの張り詰めた空気。

 殺る気だ。水色の瞳がそれを物語っている。コイツは俺を一寸の躊躇なく殺すことが出来る。


「私が教えてあげます――聖人は血を啜る闘争の中でこそ生きれることを。そして覚悟してください。これで目覚めないようなら――死が待っていることを」


 これは『試験』だと嘯いて、水色の魔女は牙を剥いた。

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