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第一話 鉄の塊に迫られて

華燐かりん。今日から貴女は女の子です」

「はい、おばあさま」


 おれはおんなのこ。


「華燐! なんですかその格好は? 貴女はスカートを履きなさい」

「はい、お祖母様」


 俺は女の子。


「華燐。もっと淑女らしくなさい。貴女は天都あまつ家の次期当主なのですよ」

「はい……お祖母様」


 俺は……女。


「華燐――――」「……華燐!」「華燐!?」


 ――――――るさい。


「華燐! 貴女、今の今まで一体何処をほっつき歩いて――」

「うるせぇよババア! もう知らん。やってられるか!!」


 俺は男だ!


***************************************************


「んだよ、5000円ぽっちか。しけてんなぁ、えぇ?」

「ごご、っご、ごめんなさい……」

「ごめんなさいだぁ!? 誠意見せろよ誠意!」


 澱が酷く溜まっていそうな路地裏。俺たち5人は塾帰りらしき男子高校生を捕まえてカツアゲ中だ。

 別に金が欲しいわけじゃない。ただ今日はカツアゲな気分だっただけ。

 あはは! 完全にびびってる。ていうか誠意って……くくっ。


「おい、てめぇん家近いのか?」

「……ち、近くないです」

「あぁ!? 本当かぁ!?」

「まぁまぁ、本人がそう言ってるんだし? 信じようよ、うん」


 俺が間に入ってやるとあからさまにほっとした表情になる男子高校生。

 それもそうか。俺の見た目は誰がどう見ても清楚系の女子学生にしか見えないのだから。


「カリンちゃんやさしー!」


 後ろでバカが甲高い声を上げる。ポリープ5個くらい発生しろ。


「カリンって呼ぶな、リンって呼べ! ――なぁ、本当に何も無いのか?」


 見た目と裏腹な言葉遣いに、一瞬だけ安心していた少年の顔に再び怯えが走る。

 人を見かけで判断すると痛い目を見る。今日は社会勉強の日だね。


「そ、そそ、それで全部、です」

「へぇ……小銭も無い?」

「……は、はい」

「じゃあさ、ジャンプしてみ」

「……へ? い、いえ。やりますやります!」


 その場で弱々しくはねる少年。古典的カツアゲ法に後ろでゲラゲラと嘲笑う声があがる。


「……もっと激しく」

「はいっ……」


 がくがくと振るえる足で少年ははねる。渾身の力ではねた瞬間に、予想通りの音が聞こえた。


 チャリッ


 少年自身にも聞こえたのか青かった顔色から更に血の気が失せる。

 少年は慌てた様子でポケットに手を突っ込んで何かを取り出した。銀色に光るそれは何かの鍵。


「い、いまのっ、これ――」


 ゴッ、と空気を引き裂く音が唸る。俺はまったく聞く耳を持たず、蹴りを繰り出した。

 何の小細工も無い。全力を込めた、ただのサッカーボールキック。狙いは下腹部に位置する男の急所。

 ぐしゃり、と何かが潰れる音が響き渡る。オーゥ、などというふざけたうめき声は後ろから聞こえてきた。男子高校生は既に失神している。


「うへぇ……リンってば超鬼畜。完璧に再起不能の音でしたよ?」

「ははっ。あーっすっきりした! さてと、ゲーセン行こうゲーセン!」


 全員でぞろぞろと歩き出す。足元の男子高校生ゴミクズは無視。


「弱者は罪!」

「リンさんマジパネェっす!」


 ぎゃはは、と下品な笑い声をあげながら俺たちは道を行く。


 俺たちはいわゆる不良だ。といっても別にカラーギャングとかじゃない。コンビニの前でたむろしているようなフツーの不良。ケンカにカツアゲにゲーム……圧倒的にケンカばっかりな気がするけど。


「俺さ、あれやるあれ! リフレク!」

「やめろよ。お前絶対に北斗神拳とかいって壊すから!」


 落ちこぼれ。社会の底辺。ゴミクズのほうが黙ってるだけマシ。

 そんな不良の俺ははっきり言って社会を――人生をナメてた。

 こうやってバカやってるのも今のうちだけ。目が覚めたあとは「申し訳有りませんでした、お祖母様。二度と逆らいません」なーんて言って社会復帰。天都の女当主・・・として仕事して。ガキつくって。隠居して。死ぬ。ハッ……ちょろいね、人生。そしてつまらん。


 だから――俺はあんな目に会うなんて思ってもいなかった。


 赤信号。足を止めている間に内ポケットからタバコを取り出して火をつける。

 青信号。天に唾するかのように紫煙を吐き出す。ぼんやりと思考しながら俺は足を踏み出した。

 一歩。ゲーセン行ったら何で遊ぼうか。

 二歩。やっぱ格ゲーかな。音ゲーもなかなか面白いが、やっぱり勝ち負けが明確な方が俺は好きだ。

 三歩。あれ、どうしてこんなに静かなんだ?


 振り返ってあいつらの顔見たときは思わず吹いたね。だってめちゃくちゃ必至な顔なんだもん。

 次いで違和感を覚えた。音が無い。あいつらはパクパクと口を開閉しているが、俺の耳は音を拾わない。

 段々と周囲の動きがスローモーションになり色褪せていく。

 ゾクリと背筋を鷲掴みにされるような感覚に苛まれ、その方向へと目を向ける。

 そこに迫っていたのは――鋼鉄の塊、10トントラック。

 口からタバコが零れ落ちる。不味い。


「おい……赤信号だろうが」


 その呟きは俺意外の誰にも拾われる事も無く、俺の意識と共に闇へと霧散した。

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