鳥籠の恋
彼のことが好きだった。
だから、私から離れないように父上にお願いして、婚約者にした。
彼は男爵子息。
伯爵令嬢の私が願えば、彼は断ることができない。
彼は小さい時から優しかった。
その優しさを誤解したのはいつからだろう。
彼も私が好きだと思っていた。
彼の様子がおかしくなったのは、あの子が入学してきてから。
男爵令嬢の彼女は私より小さくて、華奢だった。
彼は私の婚約者、だから彼はいつも私の傍にいた。
だけど、気が付けば、彼は彼女を見ていた。
とても優しい目で。
彼は私に優しい。
ううん。
彼は誰にでも優しかった。
彼は私の特別じゃなかった。
だけど、それに気が付かない振りをして、婚約した。
彼と彼女が二人っきり会ったことない。
だけど、二人は時折視線を交える。
その時、私は胸が苦しくなる。
お互いを想い合っている視線だからだ。
「……本当に結婚する気なのか?」
「殿下?」
ある日、彼を図書館で待っていると第二王子のアステル殿下に話しかけられた。
「あ、悪かったな。突然」
戸惑って答えられない私に、アステル殿下は苦笑する。
「私の婚約者の席はまだ空いている。考え直さないか?」
それは甘い誘い。
そして彼を解放してあげる唯一の方法。
「ごめんなさい。あなたはやはり私に相応しくないわ」
私は彼との婚約を破棄して、アステル殿下の婚約者になった。
殿下の婚約者を誹謗することは許されない。
だけど、陰では彼に同情する声があがり、私への非難の声もあった。
ずっと、ずっと。
彼を一人占めしてきた。
彼を私の籠に閉じ込めていた。
彼は優しくて、とてもカッコよくて……、私にはもったいない人だったのに。
私は彼を一人占めし続けた。
私に捨てられた形になった彼は自由を手に入れた。
男爵という身分なので、いきなりモテることはなかったけれども、彼は彼の愛する人の手を取ることができた。
「……馬鹿だな」
「ごめんなさい」
許されないこと。
だけど私はアステル殿下の胸を借りて、泣いた。
恋する気持ちを全部涙で洗い流そうと思った。
「私は気が長い。こうして君に触れることができて、それだけで嬉しいからな」
アステル殿下は私の頭を何度も撫でてくれて、その度に私はまた涙を流した。
「ごめんなさい」
彼を手放すために、私はアステル殿下の気持ちを利用した。
甘えすぎている。
そんなのわかっている。
だけど、そうしないと、私は彼を手放すことができなかった。
私は、アステル殿下のおかげで、彼を籠から出すことでできたのだ。




