第022話 連携の訓練
翌日の朝、ユイは訓練場へ向かった。
いつもと同じ場所。だが、今日は様子が違う。リオンとエリナの他に、数人の冒険者が訓練場にいた。
リオンがユイを見た。
「今日から連携訓練を始める」
ユイは頷いた。連携訓練。前世でも何度も経験した。だが、前世では一人で戦うことが多かった。パーティを組んでも、長くは続かなかった。
リオンが他の冒険者たちを指差す。
「今日の相手だ」
三人の冒険者が立っている。いずれもCランクかDランクだろう。装備から判断すると、実戦経験がある。
エリナが説明を始めた。
「模擬戦形式で行うわ。こちらはユイ、リオン、私の三人。相手は彼ら三人」
エリナが杖を掲げる。
「ルールは簡単。相手を全員無力化したら勝ち。武器は木剣と模擬魔法。致命傷は禁止」
ユイは短剣を腰から外し、訓練用の木製短剣を受け取った。軽い。だが、扱いやすい。
リオンが言った。
「開始」
相手の三人が散開する。一人が前衛、二人が側面に回る。動きが速い。
ユイは前に出ようとした。だが、リオンが腕を掴んだ。
「待て」
ユイは立ち止まる。リオンが前に出た。相手の前衛と剣を交える。木剣が激しくぶつかり合う。
エリナが後方から光の弾を放つ。相手の側面にいた冒険者が避ける。
ユイは動こうとした。だが、どこに入ればいいのか分からない。前世なら、即座に判断できた。だが、今は三人での連携だ。自分の動きが、他の二人にどう影響するのか。
その間に、相手の側面の一人がユイに向かってきた。木剣を振るう。ユイは短剣で受け止める。衝撃。腕が痺れる。
相手が押してくる。ユイは後退した。前世の経験で動きは読める。だが、体が追いつかない。
リオンが叫んだ。
「ユイ、下がれ!」
ユイは後ろに跳ぶ。その瞬間、エリナの光の弾が相手の冒険者を直撃した。相手が倒れる。
だが、もう一人の側面が回り込んできた。エリナに向かっている。
ユイは駆け出した。エリナを守らなければ。だが、リオンが先に動いた。剣で相手を押し返す。
ユイは立ち尽くしていた。何もできなかった。
模擬戦が終わる。結果は、ユイたちの勝利だ。だが、ユイは何の役にも立たなかった。
リオンが近づいてきた。
「お前は一人で動きすぎる」
リオンの声は冷たい。
「パーティ戦は、個人戦じゃない。役割がある」
ユイは頷いた。その通りだ。
エリナが言った。
「魔法の援護タイミングを読んで。私が光の弾を放つ前に、前に出ないで」
ユイは反省した。前世では、一人で戦うことが多かった。仲間がいても、信頼できなかった。だから、自分で全てをやろうとした。
だが、今は違う。リオンもエリナも、信頼できる。なのに、体が勝手に動いてしまう。
リオンが言った。
「休憩する」
ユイは訓練場の端に座った。水を飲みながら、自分の動きを振り返る。前に出すぎた。エリナの魔法を邪魔した。リオンの動きを読めなかった。
その時、訓練場の入口から、カイルが現れた。見学に来たようだ。
「ユイさん」
カイルが手を振った。ユイは手を振り返す。カイルが近づいてきた。
「連携訓練、大変そうですね」
「ええ。まだ慣れていません」
カイルが笑った。
「俺もです。パーティ戦、難しいですよね」
ユイは頷いた。
「でも、頑張ってますね。ユイさん、動きが良くなってる」
「そうですか?」
「ええ。最初に会った時より、ずっと」
カイルの言葉に、ユイは少しだけ救われた。進んでいる。少しずつだが、確かに進んでいる。
「カイルさんも、頑張ってください」
「はい。お互い、次の討伐隊で活躍しましょう」
カイルは別の訓練場へ向かった。ユイは再び水を飲む。休憩時間は、もうすぐ終わる。
午後、再び模擬戦が始まった。今度は、相手が変わった。別のCランク冒険者たちだ。
リオンが言った。
「ユイ、お前は側面を守れ。エリナの後方だ」
「分かりました」
ユイは位置についた。エリナの少し後ろ、側面。リオンが前に出る。
模擬戦が始まる。相手の前衛がリオンと交戦する。側面から二人が回り込んでくる。一人はエリナへ、もう一人はユイへ。
ユイは短剣を構えた。相手が木剣を振るう。ユイは受け止める。前世の経験で、次の動きが読める。相手が踏み込んでくる。ユイは横に避ける。
その瞬間、エリナの光の弾が相手を掠めた。相手が怯む。ユイは踏み込み、短剣で相手の脇腹を突いた。
「一人、無力化」
エリナが叫ぶ。ユイは頷いた。できた。
だが、もう一人の側面がエリナに迫っている。ユイは駆け出した。だが、間に合わない。
その時、リオンが飛び込んできた。剣で相手を押し返す。ユイは立ち止まる。
リオンが叫んだ。
「ユイ、前に出るな。位置を守れ」
ユイは後退した。そうだ。自分の役割は、側面を守ることだ。前に出ることじゃない。
模擬戦が続く。ユイは位置を守った。側面から来る敵を押し返す。エリナの魔法が、前衛の敵を削っていく。リオンが、最後の一人を倒した。
模擬戦が終わる。今度は、少しだけ連携が取れた。
リオンが近づいてきた。
「悪くない。続けろ」
リオンの言葉は短いが、認められた気がした。
エリナが微笑む。
「今度は、ちゃんと位置を守ってたわね」
ユイは頷いた。まだ完璧ではない。だが、少しずつ分かってきた。パーティ戦の感覚が、体に染み込んでいく。
訓練が終わると、日が傾き始めていた。ユイは全身が疲れていた。だが、今日は昨日よりも進んだ。
訓練場を出ようとした時、ヴィクトルが現れた。腕を組んで、訓練場の端に立っている。
「少しずつ形になってきたな」




