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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第3章 力の研鑽

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第019話 訓練の始まり

朝日が王都ティリアスの街路を照らしていた。

ユイは宿を出て、ギルドへ向かう。通りでは商人たちが店を開き始め、朝の空気は澄んでいる。


昨夜、ヴィクトルから訓練の指示を受けた。

明日の朝、ギルドの訓練場に来い――その言葉が、まだ耳に残っている。


ユイは装備を整え、短剣を腰に下げた。

洞窟での戦いが、まだ体に残っている。知識はあっても、動けなかった現実。


ギルドに着くと、建物の裏手に訓練場があった。

広い屋外スペースで、走り込み用のトラックと模擬戦エリアが設けられている。すでに数人の冒険者が朝の鍛錬をしていた。


訓練場の端に、二人の人影が見える。

リオンとエリナだ。


ユイが近づくと、リオンが顔を上げた。黒髪で、無駄のない筋肉質な体つき。立ち姿だけで、剣士だと分かる。


「来たか」


短い言葉。

エリナが微笑んだ。赤い髪の魔法使いで、軽装のローブに杖を携えている。


「おはよう。今日から一緒に訓練するのね」


ユイは頷いた。


「よろしくお願いします」


リオンは訓練場の中央を指差した。


「基礎体力測定から始める」


ユイは従った。

最初は走り込みだ。訓練場のトラックを十周。


走り始めた瞬間、ユイは自覚する。

前世なら、何でもなかった距離だ。だが今の肉体では、五周目で息が上がる。足が重い。


歯を食いしばり、走り続ける。


十周を終えた頃には、足が震えていた。

リオンは腕を組んで見ている。


「悪くない。だが、体ができていない」


次は筋力測定。

木製のダミーに向かい、短剣を振る。


ユイは構えた。前世の記憶が体を動かそうとする。だが、刃が届く前に腕が止まる。速度が足りない。


リオンが首を横に振った。


「頭では分かっているのに、体が動いていない」


ユイは唇を噛んだ。

その通りだった。理解している。だが、実行できない。


エリナが杖を掲げる。


「次は魔力制御のテストよ」


ユイの前に、小さな光の球が浮かんだ。


「この光を、自分の魔力で動かしてみて」


ユイは集中する。

魔力は感じられる。前世でも何度もやった訓練だ。だが、意識と肉体が噛み合わない。光の球は揺れるだけで、思うように動かない。


エリナが小さく溜息をついた。


「魔力制御も不安定ね。意識と肉体がバラバラだわ」


ユイは拳を握り締めた。

分かっている。分かっているのに、できない。


その時、訓練場の入口からヴィクトルが現れた。

黒赤の重装を纏い、腕を組んで立っている。


「続けろ」


短い一言。

ユイは頷いた。


反射神経のテストが始まる。

リオンが木の棒を投げる。ユイは避けようとするが、反応が遅れる。棒が肩をかすめた。


次々と投げられる棒。

軌道は読める。だが、体が追いつかない。何本かは避けられたが、多くが当たった。


テストが終わる頃、ユイは息を切らしていた。

全身が痛い。訓練初日から、失敗続きだ。


ヴィクトルが記録を取っている。

その視線を、ユイは感じていた。観察され、評価されている。


リオンが言った。


「反射神経は悪くない。だが、筋力も持久力も足りない」


エリナが杖を肩に乗せる。


「魔力の量はあるわ。でも制御できていない。意識が先走りすぎているのね」


ユイは地面を見つめた。

前世なら、もっとできた。だが、今の肉体では、これが現実だ。


リオンが訓練場の端を指差す。


「走り込みを、もう五周追加しろ」


ユイは思わず顔を上げた。


「五周ですか」


「体ができていない状態で技術だけ教えても意味がない。まずは基礎からだ」


ユイは頷き、再び走り始めた。

足が重い。息が上がる。それでも、止まるわけにはいかない。


一周、二周、三周。

前世の自分を思い出す。あの頃は、こんな訓練など朝飯前だった。だが今は違う。


四周目で、足がもつれた。

地面に手をつく。


エリナが駆け寄ってきた。


「大丈夫?」


「大丈夫です」


ユイは立ち上がり、最後の一周を走り切った。


訓練場の端で立ち止まり、膝に手をつく。

息が荒く、汗が地面に落ちる。


リオンが近づいてきた。


「今日はここまでだ」


ユイが顔を上げる。


「明日も来い。毎日続ければ、体は変わる」


ユイは頷いた。

前世でも、何年もかけて鍛えた。今度も同じだ。積み重ねるしかない。


エリナが水を差し出してくれた。


「初日だから仕方ないわ。体を慣らしていきましょう」


ユイは水を飲む。

言葉は優しいが、現実は厳しい。


ヴィクトルが近づいてきた。


「君の動きを見た。経験はある。だが、体が追いついていない」


「はい」


「訓練は毎日続ける。討伐隊の出発まで時間はある。その間に、少しでも差を埋めろ」


「分かりました」


ヴィクトルはそう言い、訓練場を後にした。


ユイは立ち上がる。

足は震えているが、歩けないほどではない。


リオンが言った。


「訓練は朝だ。遅れるな」


「はい」


エリナが微笑んだ。


「頑張りましょうね」


ユイは訓練場を出た。

太陽はすでに高く昇っている。体は疲れているが、心はわずかに軽くなっていた。


今度は、一人じゃない。

リオンもエリナも、共に鍛えてくれる。


前世では孤独だった。

だが、今は違う。


宿へ戻る途中、ユイは拳を握り締めた。

次は、もっと動けるようになる。今日できなかったことを、明日はできるようにする。


前世では見なかった敵。

それなら、前世とは違う自分になればいい。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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