第018話 次への決意
ユイはヴィクトルを見た。
「いえ、何も知りません」
嘘ではない。前世でも、あの魔物に遭ったことはない。
だが、ヴィクトルの視線は厳しかった。
「君の動き、観察力。新人とは思えない」
ユイは慎重に答える。
「冒険者になる前に、色々と学びました」
「誰に?」
「独学です。本を読んで、街道で魔物を見て」
ヴィクトルは黙って聞いていた。
しばらくして、溜息をつく。
「深くは聞かない。だが、君には何かある」
ユイは何も言わなかった。
「ギルドは本格的な討伐隊を編成する。準備に時間がかかる」
「どれくらいですか?」
「1週間、もしかすると2週間だ」
ヴィクトルは腕を組んだ。
「それまでの間、君には訓練を受けてもらう」
ユイは顔を上げた。
「訓練?」
「ああ。力が足りないのは、分かっているだろう」
ユイは頷いた。その通りだった。
知識だけでは足りない。
「誰に教わるんですか?」
「リオンとエリナだ。2人とも腕は確かだ」
ヴィクトルはユイを見つめる。
「君の動きを見ていた。基礎はできている。だが、体が追いついていない」
「はい」
「訓練で、少しでも差を埋めろ」
「分かりました」
ヴィクトルは立ち上がった。
「明日の朝、ギルドの訓練場に来い」
「はい」
ユイも立ち上がる。
ヴィクトルは扉へ向かったが、途中で振り返った。
「ユイ」
「はい」
「無理はするな。死んだら、意味がない」
ユイは静かに頷いた。
ヴィクトルは部屋を出ていった。
ユイは一人、部屋に残された。
窓の外を見る。夜が近づいている。
力が足りない。
今日、それを痛感した。上級冒険者たちと一緒にいても、何もできなかった。
ユイは拳を握り締めた。
ギルドを出て、宿へ向かう。
通りは人で賑わっている。商人たちが店を片付け、酒場から笑い声が漏れていた。
ユイは歩きながら考える。
訓練。前世でも、何度も受けた。だが、今の体ではどこまでできるか分からない。それでも、やるしかない。
宿に着き、部屋に入る。
ベッドに腰を下ろし、装備を外す。
短剣を見つめた。
前世では、この短剣で多くの魔物を倒した。だが、今日は何もできなかった。
ユイは短剣を置き、窓の外を見る。
北の森の方角。あそこに、あの魔物がいる。
あの魔物は何なのか。
なぜ前世にはいなかったのか。
そして、封印陣が壊れているということは、誰かが意図的に壊したということだ。
誰が。何のために。
疑問が頭の中で渦を巻く。
だが、今は答えが出ない。
ユイは立ち上がり、再び窓の外を見た。
月が昇り始めている。
前世では見なかった敵。
前世では起こらなかった異変。
すべてが、自分が過去に戻ったことで変わったのか。
それとも、前世で見落としていた何かがあったのか。
ユイは拳を握り締めた。
どちらにしても、やることは同じだ。
力をつける。仲間を集める。そして、真実に辿り着く。
前世では、一人で戦った。
孤独で、苦しくて、最後には力尽きた。
だが、今は違う。
カイルがいる。リリアがいる。ナオミがいる。
そして、ヴィクトルも――おそらく味方だ。
今度は、一人じゃない。
ユイは小さく笑った。
前世では見なかった敵。それなら、前世とは違う戦い方をすればいい。
今度は、一人じゃない。
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